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7-2:厄災の生まれた日・後編

 頼みの綱と思われる新たに召喚された勇者三名――はっきり言うとライムの敵ではない。というか力の差がありすぎて、恐らく誰も自分達の置かれた状況を把握できていないように思える。

 その証拠というわけではないのだが、顔を真赤にしたロレンシア王こと髭王が、三人の内の一人を無力化された状態であるにもかかわらず、まだ自分達が優勢であると勘違いをしている。それとも他に何か切り札があるというのだろうか?

「ああ、そうだった。貴様には教えてやらねばならぬことがあったのだ。すぐに殺してしまっては我が娘の無念も晴れぬ。お前も知りたいだろう? あの女の最期を」

 一瞬誰のことかと思ったが、葵のことだろうと推測する。正直、死んだのは残念だが別にそこまで気に留める相手ではないので、どうやって死んだかとかどのように拷問したかなど興味はない。だが教えてくれるというのであれば聞くのも吝かではない。きっと今後の参考くらいにはなるだろう。

「まずはその自慢の両目を取り出してやった。これであの女は無力となった。悲鳴を上げ、命乞いをする様は見ていて実に気分が晴れたぞ。余に逆えばどうなるかを身を以て知ることができただろう。次に手足を切り刻んだ。悲鳴を上げ許しを請う姿をお前にも見せてやりたかったぞ? 実に無様で哀れだった。勿論自害などできぬよう気を配ってやった。慈悲深すぎるというのも考えものであったが、アレも一応役には立ったのだ。それくらいの慈悲をかけてやるのも王の務めよ。何をしたか知りたいだろう? なに、歯を全て抜いてやっただけだ。最後はもう余も興味を失っていてな。どうせ死ぬならばと囚人共にくれてやった。簡単には死なぬように治療を続けてやったのに一月も持たなんだわ」

 俺が黙っていてやると、ちゃんと最後まで喋ることができた。だが、一ヶ月も持たないとかやる気があるのだろうか?

 自慢気に話すから俺でもドン引きするようなことをしたのかと思ったのだが、予想以上に普通だったので欠伸を堪えていたほどだ。

「どうだ? お前の同朋が無残に殺された気分は? 安心しろ、お前には終わることのない生き地獄が待っている。あの女のように簡単には殺しはしない。儂自ら貴様の手足を切り刻み、セリスの無念を晴らしてくれるわ!」

 途中から興味を失い聞き流していたところ話が終わったのか玉座の間に沈黙が漂う。

「あ、終わり?」

 内容が余りにどうでも良かったので思わず聞いてしまったのだが、俺の言葉の意味でも考えているのか髭は黙ったままである。

「いや、幾ら葵が同郷だからって殺されたこと自体にはどうも思わんよ。俺は必要だったスキルが消えたからお前らにその代償を払わせるだけで、拷問されてあの女が死んでも『あ、そう』としか言えんよ。大体、俺も騙された人間の一人だし? お前が何もしなくても俺が何かやってただろうから、遅いか早いかの違いしかないな」

 俺の言葉を聞いて固まる髭。おっと、折角長い時間をかけて考え抜いた言葉に対し、これだけで終わらせてやるのは流石に可哀想だ。せめて長文を評価するくらいのことはしてやろう。

「ああ、でも安心して良いぞ。さっきの発言で少しはお前にムカついた。だってそうだろう? 何の力もない無能が、俺に本気で勝てると思い上がっているんだ。これほど不快なことがあるか?」

 結局こいつは俺のことを何も理解していなかった。だからあんな無意味なことしかできなかったのだ。髭が何か叫んでいるが、もう話すこともないので茶番は終わりにしよう。使用するカードは決めていたので後は何処に打ち込むか、だが――位置的に若い美人かオバサンのどちらかを巻き込むかもしれない。なら答えは簡単だ。

 俺は「ファイアバースト」を5枚同時に使用して、伸ばした右手から5mほど先に地獄を作ってやった。荒れ狂う炎は石畳すら溶かし、標的となった街は業火に飲み込まれた。城の壁は液状と化して流れ落ち、効果範囲の中にいた住民の生死など言わずもがな。あらゆる建造物は原型を留めていなかった。

「おー。燃えとる燃えとる」

 一体どれだけの人形が壊れただろうか?

 大穴が空いた城から見下ろす街は燃えていた。カードの効果が切れても、それによって発生した火災までは消えない。俺が手を突き出した瞬間後ろに大きく飛んだ女は、自ら効果範囲に入ったおかげで燃え尽きていた。

「ここまで暑いな。使うカード間違えたわ」

 笑いながらライムに話しかけるが、その表情は真剣そのもの。それもそのはずだ。何せ、いつの間にか何もない筈の空間に、真っ黒なひび割れのようなものができており、その中からおびただしい数の目がこちらを見ていた。「殺しすぎれば現れる」と言われていたが、本当に出てきてくれた。

「ひっ!」

 バナナの皮ですっ転んだ女がその不気味さに声を上げて距離を取る。俺に顔を踏まれている少年は助けを求めるがそれに応える者は誰もいない。「世界」の生み出した存在である人形は、まるで時間が止まったように微動だにしていない。恐らくは本当に停止しているのだろう。

(さ、もう後戻りはできない。賭けの時間だ)

 俺は予定通りにそれを「交換」すると、鞄から真っ黒い玉を取り出し、それぞれの手に持つと願いを言った。

「今この場に存在するこの玉の中身と同じものを全て支配し、俺のものにする」

 玉の中身は「目」だとライムは言った。そして「目」は「領域」である。そのまま「目」を支配しようとしたならば、それは成功しただろうか?

 確証はないが無理だっただろう。俺は一度願いのオーブを使って「元の世界への帰還」を願ったが、その願いは叶わなかった。つまり、馬鹿正直に「世界」の目的に反する、または敵対をするような願いは叶えることができないと判断した。だから「踏み台」を用意した。何故ならばディバルはこう俺に言っていた。

「君が直接『世界』に触れたのであれば少々厄介なことになるな」

 それに続いた「そうか、何か踏み台があったのだな?」という言葉。つまりワンクッション置けば、俺の願いが通る可能性はあるのではないか?

 このガチャ玉の中身は「世界」の「目」である。だからこの中身を欲するならば、直接「世界」を脅かす願いと判断されない可能性に俺は賭けた。その結果は――無数の目の一つが消えた。同時に俺の中に何か異物が埋め込まれたかのような不快感が生まれる。

 そして頭の中におぞましいという表現すら優しい不気味なざわめきが発生する。直感的にそれが「声」だと判断したのは、事前の情報で「世界」が大量の異世界人を取り込んでいると聞いていたからだろう。この声がそうであるとは限らないが、様々な感情が入り混じった気持ち悪さが、まるで俺を侵食するかのように蠢いている。

「ライム! 手伝え!」

 そう叫ぶと同時にライムが俺を後ろから抱きしめる。劇的に緩和される不快感。だがそれでも脳が破裂しそうなほどに悲鳴を上げている。俺の目の前では亀裂から着実に目が消えていっている。だが、残り僅かと言ったところで、目玉の瞳の部分から赤子のような手が一斉に俺を目掛けて伸びてきた。

「邪魔」

 ライムはそう呟くと見えない何かで伸びた手を破壊する。爆散した手は溶けるように消え、亀裂の中の目が全てなくなった。

「……はぁー」

 俺は大きく息を吐いた。だがまだ終わりではない。俺にはここからやらなくてはならないことがある。問題はその手段だが――

「そうだな。俺も作り変えるとしよう」

 前例となった二人に倣うことにする。これならば失敗することはないだろうという判断だ。そして俺は自分の中にあるそれを意識する。これが「世界の領域」というものなのだろう。意識を向ければそれは俺が最もわかりやすいであろう形を取る。一言で言えばキーボードとディスプレイ――他の誰にも見ることができない俺のコンソールだ。

 変化する――それも自分の思い通りに変えていく。必要なものは何か?

 不要なものはあるか?

 再構築。機能の追加。制限の解除。容量との兼ね合いもある。限界まで使うわけにはいかない。今後を考えるのであれば、半分は残しておきたい。ならば――

「うん、こんなもんだろう」

 時間は有限である。さっさと確定しなければ邪魔が入ってしまう。領域を奪い取ったことでイデアは今すぐには動けない。だがそう長くは保たないだろう。何せ「世界を改変するシステム」だ。量子コンピューターとかそういったレベルの代物と考えれば、不測の事態で稼げる時間もそう長くはない。だから俺は作り、自分の領域を保護してしまう。

「命名――『仮想世界』」

 スキルの編集が完了した。これで「世界」は俺のスキルに介入できなくなった。

「おめでとうございます。お父様」

 そう言って自分のことのように喜んでくれるライムの頬を撫でてやる。その温もりで俺はようやく賭けに勝つことができたと実感する。

「ふっ、くくくくっ……」

 笑いがこみ上げてくる。乗り切った――いや、乗り越えた。同じ手は二度と通用しないだろうが、この一歩は大きい。

「貴様、何が可笑しい!」

 気づけば髭が再起動していた。向こうからすれば時間が飛んで「いきなり俺が笑っていた」という状況だろうか?

 どうやら「目」が消えれば人形は再び動き出すようだ。予想通りではあるが、正直こいつらにはもう何の価値も見出だせない。無視して宝物庫にでも寄らせてもらおうかと思ったが、良いことを思い付いた。

「そうだ! お前達に面白いものを見せてやろう!」

 そう言って何が起こったのか理解できないであろう連中に、今の俺の能力を一つ見せてやることにする。俺は何の警戒もせずに前に出る。当然俺を近づけまいと前に出た兵士から攻撃魔法が飛んでくるが――魔法は全て不発に終わり、術者全員が叩きつけられたかのように床に伏せる。

「何をした、貴様!?」

 髭の横にいた大臣がそう言うと、近くにいた兵士から槍を奪い取り、無警戒に歩く俺にそれを突き出した。直後、大臣が消え失せると槍が床に落ちて音を立てて転がる。


 ID:CFF6-M367784812を24ポイントに変換しました。


「ははは、はははははっ! 24……たったの24ポイント! そんなに安上がりなのか!」

 狂ったように笑い転げる俺を見て、異世界人である3人はどう思っただろうか?

 だが他人の目など気にする必要は最早ない。俺がポイントに変えた大臣など「最初からいなかった」ように振る舞う髭が、トドメとばかりに俺の腹筋を壊しにかかる。俺は笑う。声を上げ、腹を抱えて本気で笑う。

「ああ、こんなにも笑ったのは何時ぶりか?」と髭を無視して笑う。三人の異世界人は言葉も出ないのだろう。若干一名、俺の危険度を察しているのか距離を取っているが、こいつくらいなら生かしておいても構わないだろう。ここにはもう用はない。後始末を終えたら次に向かおう。

(ポイントは幾らあっても足りないからな)

 笑い終えた俺は不敵な笑みを浮かべると、足元に少年がいたことを思い出した。「そうだ、こいつを使ってもう少しだけ遊ぼう」と名案を思い付いたとばかりに手を叩いた。


(´・ω・`)能力紹介は次回よー

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[気になる点] かわいそうなのは抜けない
[一言] (´・ω・`)そんなー
[一言] >(´・ω・`)能力紹介は次回よー (´・ω・`)そんなー
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