6-14:残された時間
(´・ω・`)投稿忘れよ―。あと前回の告知が実施中よー。詳細はヒーロー文庫のHPへどうぞ。
「ライム、質問だ。『監視下に置かれている』と言ったな? それはどのように監視されている?」
「簡単に申し上げますと『領域』の動きを監視されています」
「つまり?」
「それを使用すると『世界』の目が現れます」
その結果は知りたくなかったが、知らなくてはならない。そして俺が聞きたかったのは微妙に違う。もうちょっとわかるように話して欲しいのだが、ライムは俺が「イデアを手に入れる」という目標を掲げたことで、それに対してある程度の理解や知識があると思っている。
当然ながらそんなものは俺にはない。感覚的には「何かめちゃくちゃ凄そうだから欲しい」と思っての発言だが、その実「世界」がどういうものなのかはよく理解できていない。「世界を改変すらできるシステム」というのはわかっているが、それが「どのように行う」かは勿論、どうやって存在しているかもわかっていない。
要するに何も知らないも同然。だから何か知っているライムにはもっと詳しく説明して欲しかった。でもこうなると聞きにくい。何故ならば、現状の俺は最も重要な戦闘能力をライムに依存しており、ガチャの封印により、現在その復活の見通しも立っていない。
現状はライムに見捨てられた時点で俺は終わりである。「そんなことはない」と言い切りたいのだが、今のライムは「魔王」なのである。イデアと直接的な関係がある以上、どうしても「絶対はない」と考えてしまう。故に聞くことができない。
状況は拙い。何よりガチャが使えない以上、食料や水に不安しかない。「交換」の使用は問題ないが、一日五回では解決には程遠い。早急にどうにかしなくてはならない。
「ライム。その監視を誤魔化すことは可能か?」
その返答は「NO」だった。首を横に振ったライムが申し訳なさそうな顔をする。「裏切る」などとは考えられない。いや、考えたくはない。だが「失望される」ことは十分にあり得る。その結果、見放された場合、俺は間違いなく詰む。
「計画を急ごう。目的はロレンシア。『神眼』のスキルを持つ同国人に会いに行く」
神を冠する名を持つスキルの共通点――「世界」への接続権限とやらに活路を期待し、当初の計画通りに葵との接触を急ぐことにする。
(最悪はディバルかサフィヨスに頼ることになる)
だがそうなると「魔王」となったライムの存在をどうやって隠すかが問題になる。イデアの監視下に置かれた現状を説明する場合、どうやっても「領域」の話は避けられない。そして「領域」が何たるかを理解できていない俺では、誤魔化すことができる気がしない。
俺はライムに捕まるとその足が大地から離れた。二度目とは言え、このジェットコースターのような移動はどうにかならないものかとライムに打診。俺から離れる気が微塵もないライムはやり方を変えるつもりがなく、魔法でどうにかしてもらおうとしたところ――「それをやると危険です」と一蹴された。
どうやら俺の魔力ゼロが問題のようだ。その後もライムに運ばれることで情けない姿を晒しまくったが、相変わらずライムは俺にベッタリである。
(もしかしたら考えすぎなのかもしれない)
そう思わなくもないが、やはり怖いものは怖いのだ。
(いっそ全部ライムに任せてしまうのも……いや、ダメだ。少しヤンデレっぽい属性を持っている。もしかしたら一生監禁とか普通にありそうだ。というか今のライムならそれくらい余裕で可能に思える)
監禁は「あり」か「なし」で言うなら「あり」だが、される方は勘弁して欲しい。そんな訳で移動は何度も休憩を挟みながらのものとなる。結果、魔族領土と思われる森を抜けたのはそれから二日後のことだった。
問題が発生した。水や食料に関しては「交換」も視野に入れ、節約することで在庫にはまだ少しだけ余裕があった。だが、方角の確認のために「千里眼」のカードを使用した俺の目に映ったものが問題だ。
「こんなところで戦争なんてしてんじゃねぇよ……」
そう、ロレンシアとローレンタリアが戦争をしており、その軍隊が進行方向の先で戦闘中だった。これを迂回するか、ライムに殲滅させて真っ直ぐ進むかが今の問題である。何故殲滅させることを戸惑うのかと言えば――ロレンシアと思われる軍勢の中に、あの緑の馬鹿がいたからだ。
名前はもう覚えていないが、権威に弱そうな空気の読めない「勇者」という言葉に踊らされた阿呆である。俺に対して明確な敵意を向けてきた相手なのだが、そんな馬鹿でも異世界人。こいつを殺すことに何かデメリットがありそうな気がして悩んでいる。
「『世界』とは『完全な人間』を作り出すことを目的としており、そのために異世界人を取り込んでいる」
俺は呟き、異世界人を死なせることにデメリットがあるかどうかを考える。
「その通りです、お父様」
そう言ってライムが後ろからベッタリ。不安を紛らわせるように濃厚なスキンシップを取ったりもしたが、俺がライムを溺れさせるという目論見はあっさりと崩れ、どうやっても「俺が溺れる未来」しか見えなかった。
「うん、それでな。ここから結構先の方にいる異世界人が死んだ場合、悪影響があるかないかを考えていた」
俺の言葉にライムが「流石です、お父様」と讃えてくれる。何処に称賛する要素があったのか不明だが、取り敢えずそれっぽく見せるために考える素振りを続ける。ここで名案が閃いた。
「ライムの意見を聞きたい」
そう、答えを聞くのではなく意見を求めればよかったのだ。何でこんな簡単なことに気が付かなかったのかと、猛省せざるを得ない。どうやら俺は「ガチャの封印」が相当堪えていたようだ。俺の言葉にライムは黙って考え込む。
「特にないと思います」
背後から聞こえてきた言葉に、俺は「そうだよな」と同意する。
(いや、待てよ。大量に殺しすぎても異変と思われると言ったのは誰だったか?)
思わず殲滅してまっすぐ進もうと言い出しそうになったところを踏み留まり、これを逆に利用できないかとライムに意見を求める。
「それは流石に無理です。『領域』に関わるならばまだしも、ただの餌に押し付けるのは事実上不可能です」
「はっはっは、ただの『餌』かー。『領域』を持つ者には異世界人はそう映るのかー」
俺は心底楽しそうに笑う。俺が咄嗟に思い付いた言葉で先程の不可能な意見を上書きする。つまり、ライムが異世界人をどのように捉えているかを知るために、敢えて馬鹿な質問をしたかのように持っていったのだ。
「ご不満でしょうか?」
「いんや、それで良い。誰かさんのように『同じ異世界人』だからという無駄な思考を持ってないようで何よりだ。知っての通り、俺も異世界人だが気を使わせる気はないからな。利用できるなら別だが」
言った後で後悔する。余計なこと言ったかもしれないと――やはりガチャが使えないことが俺を焦らせている。結局、軍勢を無視して迂回することになり、再びジェットコースターの始まりである。王都の位置などわからないので、取り敢えず一番大きい都市を目指して走っているのだが結構距離がある。
俺がロレンシアの王都「ロレスティア」に辿り着いたのは三日後。その間もガチャを一日一回回しているが、出てくるのは全て黒。中身は何かと思っていたが、ライム曰く「恐らく目です」とのこと。開けなくて良かったと心から思う。道中、ある程度王都に近づいたところで「検索」のカードを使い「篠瀬」で検索する。やはりというか王都に反応があった。
ちなみにロレンシアとローレンタリアの戦争だが、ロレンシア側が不利のようだ。勇者(笑)がいても数的不利を覆すことは叶わないようだ。兵科に関してはどちらもほぼ民兵――というより徴兵されたばかりの兵のようにも見える。
俺を召喚しやがったローレンタリアは中々に容赦がないので「恐怖で動かされる市民」対「士気の低い武器を持っただけの市民」では前者に軍配が上がるのも仕方ないと言ったところだろう。
さて、王都が見えるところまで近づいたのでここからは隠密。ライムが目立つのは勿論、俺は俺で指名手配でもされていることはまず間違いない。あれだけ煽り倒された能無しの国王が俺を感情だけで殺そうとするのは間違いない。
なのでここからは影の移動も必要になってくると思ったのだが、ライムがこれを拒否。「離れるくらいなら全部壊しましょう」とか言い出した。目的を忘れてしまっているのだろうか?
ともあれ、離れるのが嫌だと言うのでここは長らく出番のなかった「透明化」のカードに頑張ってもらう。そう言えば初めて使用したのも、ここロレスティアだったような気がする。
(あの時は日本人と思しき葵を見つけて、それで情報交換を行おうと会いに行くときに使ったんだよな)
随分と前の出来事のように思えるが、まだ一年どころか半年も経っていない。それだけ濃厚な日々だったんだな、と少し物思いに耽る。透明化したライムと一緒に門を潜り、そのまま歩いて王城へと向かう。
(未だにここに足止めされている理由はやはり新しい召喚者なのかね?)
少なくとも緑の馬鹿をお払い箱にするくらいなのだから、多分アタリを引いたものと思われる。そんなことを考えながら中央付近に到着。人が行き交う大きな十字路の真ん中に看板があり、その前には台に乗せられた何かがあった。
特に気にする必要もないだろうと「検索」のカードを使用。場所を特定してさっさと会おうとしたところ、城の方には反応がない。となると今は街にいるのかと見回したところですぐに反応に気が付いた。看板の前だ。
俺は首を傾げて広場の看板に近づくと、台の上にあるものが何かわかった。首だ――それもかなり腐敗が進んでおり、長い黒髪がまばらに散らばっている。両目は既になく、溶けたかのようにグズグズになった肉からは白い骨が見えており、大量に湧いた蛆が至るところを這いずっている。
もう一度検索を使い確認する。確かにあの生首に反応がある。なので今度は鑑定を使う。一枚使った結果は「腐った生首」と出た。仕方がないので二枚使う。
「篠瀬葵の腐った生首」
表示を見て再び首を傾げる。状況が飲み込めないのではなく、理解できないわけでもない。葵が死んだ。つまり「神眼」の所持者はこの世からいなくなった。
「何で死んでんのよ、お前」
俺は仕方ないと言わんばかりに「蘇生」のカードを使おうとして――止められた。
「死んだ以上、もう『神眼』はありません。無駄です」
そう言えばそうだったな、と自分でも驚くほど冷静にカードの使用を断念した。彼女については思うところがなかったわけではない。同じ日本人として「助けられるならば助ける」程度には考えていた。だが、いざ死亡が確認されても特に篠瀬葵本人についてよりも、その能力――「神眼」が喪失したことの方が大きい。
これで二人の厄災の望みがまた断たれたこととなる。同時に、俺の望みも遠ざかる。それが認識できたことでようやく感情が追いついてきた。この落とし前は、どのようにしてつけさせるべきだろうか?
それは国王か?
この国か?
それとも、ここにいる全ての人形にだろうか?
というわけで6章終了。7章で多分最後になります。




