6-13:死してなお
(´・ω・`)告知よー
ヒーロー文庫 電子書籍一部無料公開のお知らせ。
昨日、緊急事態宣言が全国に発令されたのを受け、ヒーロー文庫作品約70作品を、
来週(日時未定)から5月6日までの期間中、無料公開させて頂きます。
現在、各電子書籍ストアにご調整をお願いしていますので、準備ができ次第、随時お知らせ致します。
詳細は来週改めて、ヒーロー文庫公式ツイッター、公式ホームページ等にてお知らせさせて頂きます。
とのことです。気になる作品のある方はチェックしませう。
「どうしてこうなった……」
いや、本当にどうしてこうなったんだろうね?
そう言ってやりたくなるくらいには、目の前の光景は悲惨だった。恐らく――というよりほぼ確実に、あの鯛たんの中身はかつてこの世界に召喚された異世界人だ。それがドデカイ魚に手足を生やした姿になったら頭も抱えたくなる。
「……で? 中身は帝国に召喚された異世界人でいいんだな?」
俺の発言に鯛たんがモゾモゾとした後に膝を曲げてどうにか頷くような仕草を取る。
(魚だから頷けないのか)
それにしても酷い絵面である。多分、重要な人物だとは思うのだが、この見た目の所為で何もかもが台無しだ。手にした神器がトライデントみたいな三叉で水属性っぽく、不気味にマッチしているところとか最早奇跡である。
「まあ、その姿については置いておいてだ……」
「いや、置かないでくれ」
そうは言われてもできることがない。大体自分で勝手に出てきておいて「どうにかしてくれ」は少々都合が良すぎるのではないか?
そのような旨をオブラートに包んで苦言したのだが……
「だって仕方ないじゃないか! すぐに使ってくれないから、耐えるのに必死だったんだよ! 大体10%で鯛たんってなんだよ! しかも見事に引き当てるしさ! これだから確率は嫌いなんだ! サイコロ振るくらいなら固定値マシマシだろ!」
「お前が何を言っているのかわからんが、私怨が混じってそうなことは理解できた」
取り敢えずこの魚男――いや、男魚から話を聞かないことには始まらない。なのでどうにか宥め賺して落ち着いてもらう。ちなみにライムは我関せずと言わんばかりに俺にベッタリしている。
「はあ、もういいよ。時間だって有限だし、テキパキ行こう」
「そうしてくれると助かる。そう言えば、お前さん名前は?」
色々と諦めてもらい話を始めたは良いのだが、聞きたいことが多すぎて何から聞けばよいのかわからない。取り敢えず無難に話を進めるべく名前を聞く。
「残念だけど、君に名前を教えることはできないな。ディバルやサフィーの交渉の材料にされそうだ。あと、そこにいるの魔王だよね? どういう経緯? 色々と教えてあげたいのは山々だけど、そっちの事情を知らないと話せることも話せないんだよね」
どうやらこいつも異世界人を「同朋」として扱うタイプのようだ。ディバルの同類ということはないみたいだが、今も残っている過去の異世界人を優先しているのは明らか。つまり、敵対を避けるのは難しい。
「ほー、あまり非協力的な態度は頂けないな。ライム」
俺が名前を口にした瞬間、男魚の周囲をあの赤い光球取り囲む。
「へぇ、そう来るかい。でもいいのかい? こっちには神器がある」
「おっと、そうだった。でもそれが何か俺はよくわかってないんだよね。ほら、交渉ってのは対等な力関係があってこそ成立するものだろ? その神器ってのは『魔王』を抑え込めるだけの力があるものなのか?」
あと俺もいるからな、と付け加え目の前の男魚に脅しをかける。
「はあ……時間がないってのに……」
「無いならさっさと話せばいいだろ?」
「僕はお前を信用していない」
「しなくて結構。ディバルみたいに異世界人というだけで無条件に信用されても困るし、サフィヨスみたいに会話もままならないのも困るんだよ。俺は『世界』をどうにかしないと生き残れない身だ。過程はどうあれ、結果はあいつらの願いに沿うことになるとは思わないか?」
俺の言葉に「よく言う」と不快を顕にする魚――ダメだ吹きそう。
「大体、君の目的は『世界』を――イデアを手に入れることだろうが。僕らの望みはその破壊だ。手を取り合うことなどできやしない。この世界がなくなっても、君という脅威の根源が残り続ける。だから、この神器も渡せない。君を領域から遠ざける!」
そう言って魚が手にした神器を構え、その穂先を俺に向けた。
「いや、その姿で格好つけられてもな……」
「それ言う必要ある!?」
呆れるように肩を落とした俺に文句を言う魚。お前のその姿の所為でどんなシーンでも台無しだよ。
「だってさあ……完全なギャグキャラがシリアスなシーンを演じてもなぁ……」
今だって吹き出すの堪えるのに必死なんだよ、と優しく諭すように言い聞かせる。
「うるさい! 美少年だった僕をこんな姿にしやがって! イデアとか友人とか関係なしに君を殺したいぐらいだよ!」
「でも、勝手に出てきたのはあなたですよね?」
「ああ言えばこう言う! やっぱりこいつ性格悪い!」
「ちなみに口も結構悪いぞ」
茶化すように付け加えてやると、表情筋のない魚の頭がブンブンと振り回される。怒りを顕にしているのはわかるから、そのデカイ頭を振り回すのは俺の腹筋にダメージが行くので止めてくれ。
「もういい! 君には少し大人しくしていてもらう!」
魚が手にした槍にもう片方の手を添えると、その穂先に光が集まる。
「ライム。聞きたいことがあるから殺すな」
俺がそう命令を下すのと、魚の手から神器が離れるのはほぼ同時だった。槍を手にしていた腕と両足が切断され、男魚が地下室の床にドスンと転がり生臭い臭いが広がる。
「ああ、やはり僕じゃダメなのか……」
「その姿だからじゃないか?」
「……もういいよ。僕じゃ君を止められない。だから彼に託すことにする」
倒れた魚がそう言って、その手にある物を俺に見せる。白く、僅かに輝きを見せる拳よりも少し小さい玉――そうガチャ玉だ。「何故それを持っている?」と疑問に思った直後、俺は思い出した。
(まさか! 奴を呼び出す気か!?)
「どうせまた出るんだろ?」と魔法の鞄の中に放り込んだままの白金の玉。どういう手段かは不明だが、あの魚はそれを取り出した。同じ過去の異世界人であり、何故か俺のスキルの中に存在しているという共通点を持つ――これは無視できるものではない。
「ルーウィ!」
「ライム!」
俺と魚が同時に叫ぶとそれは開かれた。同時に魚は細切れとなり、虹色のエフェクトが狭い地下室を光で満たす。
「撤退だ!」
すぐにそう判断し、引こうとしたがライムが動かない。それもそのはずだ。地上へと上がる階段を前に、そいつはいた。
「よぉ、久しぶりだな」
バールを持ったピンクのフリルたっぷりの魔法少女衣装に身を包んだ金髪の――少年がいた。
(そう言えば「性転換」消えてたな)
ここでまさかの男の娘。もう何がなんだかわからないよ。シリアスな展開のはずなのにどうしてこうも視覚的に笑わせにくるのか?
「……ミハネを殺ったな?」
「誰それ? と言わせてもらおうか」
直後、目の前には魔法少女風少年モドキの姿があった。どうやら初手をライムが防いだようだ。遅れるように衝撃がやって来ると、その場から消えると同時にライムの赤い光線が視界を埋め尽くす。影の中に退避したいが、ライムががっちり掴んでおっぱいを押し付けてくるので動けない。あと光がチカチカしすぎて足元に入れるだけの影がない。
恐怖を背中の感触で隠していると、リヴァイアたん(偽)が床を抉るように蹴りを放ち、こちらに石畳の破片を飛ばしてくる。それを魔力の線で面を作って全て受け止めつつ、攻撃も同時に難なくこなすライム。状況はよく見えないが、多分ライムが優勢。
その証拠にピンクの衣装がついた腕が床に落ちており、高速戦闘という弱点がなくなったことを示している。俺が冷静に状況分析を行っていると、バールのようなものが目の前で止まっていた。どうやら俺に向かって投げつけられたようだ。
ライムの作った障壁とせめぎ合っているようにも見えるそれが、正面30cmくらいのところでガリガリと音を立てて振動している。
(あれ? これ大丈夫だよな?)
できることがないのでライム任せだが、この光景は心臓に悪い。脂汗でも出そうである。そんな風に呑気に構えていると――無数の魔力の線を被弾しながらも潜り抜け、バールのようなものを押し込もうとする魔法少女風の少年が見えた。だが、その手が得物に触れた直後――無数の光が彼を貫いた。
一瞬の停止すら許さぬ攻防では、恐らくこれは当たり前の結果なのだろう。両手両足を失い、体中を穴だらけにした血塗れの少年が、床に倒れ伏している。
「ちっ、やっぱ魔王が相手じゃ無理か……」
意識も朦朧としているのだろう。その目は何も見ていない。ただゆっくりと光の粒子となって消えていく。
「まあいい、どの道、お前も終わりだ」
それが果たして負け犬の遠吠えなのかどうか、俺は知ることもできずに光と消えた姿を見送った。
「ライム、よくやった」
俺は大きく息を吐いてライムを労う。腰も抜けていないし、漏らしてもいない。「俺も成長したもんだ」と言いたいが、多分ほとんどおっぱいに集中してたからだ。本当エロって偉大だな。
「この程度のことは造作もありません」
そう言ってムニュムニュと押し付けて来るので、俺もライムの頭をナデナデしてやる。しばらく頭を撫でてやってから神器を回収。取り敢えずは鞄の中にしまっておく。ポイントに変えるのはいつでもできるので、相応しい時にやるべきだ。
(はあ、しっかし濃い一日だ)
肉体的にはまだ大丈夫だが、精神的な疲労が限界だ。ライムの魔王化に始まり、激変した移動環境。狂人魔王に鯛たんとリヴァイアたん(偽)との戦闘。今日はもう限界だ。
「ライム、少し早いが今日はここまでにしよう」
俺の言葉にライムは頷き、何処かに使える部屋はないか探すことにする。
(あの狂人のことだから、部屋という部屋に人形があってもおかしくないんだよなぁ……)
この危惧が見事に的中。結局一番マシな部屋の人形を全て処分する頃には外は暗くなっていた。寝るには早いがベッドを出して横になる。当然のようにライムが服を脱いで入ってきた。はい、楽しみましたとも。何度も念入りに「ご主人様」呼びを確認して気が付けば朝になるくらいは頑張りましたとも。そんな具合に一日が終わりを告げた。
さて翌朝。裸のライムに抱きつかれながら朝食を摂る。姿が変わったことで普通の食事も必要だろうかと思ったが、ライム曰く「魔王になったので食事は不要になりました」とのこと。それと「変身」を失ったことで寝室性能が低下するかと思ったが、多機能化したライムにはそのような心配は無用だった。
(表情があって喋るというのが、これほど心強いことだったとは……どんなシチュエーションも思いのまま。これは妄想も捗る。そして実現できる!)
これで「世界」……いや、これからはイデアと呼ぶべきか?
その一件が解決した場合、心置きなく再びライムに「変身」のスキルを覚えさせることも可能となるはずである。「やばい、無敵の未来が見えてきた」と俺の表情筋は緩みっぱなしである。そして本日の日課タイム。攻撃カードがほぼ全滅の状況。一刻も早く戦力を整えねば、と早速一回目のガチャを回す。
現れたのは薄っすらと輝くような黒い玉。これは最早世界が俺を祝福していると言っているに等しい。俺は思わずガッツポーズを取って早速開けようとしたその瞬間――ライムにその手を掴まれた。
「どうした?」
反射的にそう訊いたのだが、ライムの表情がおかしい。まるで信じられない物を見るかのような目で黒玉を見ている。
(……まさか、中身は新たな召喚モノか!?)
危うく罠に引っかかるところだったと胸を撫で下ろす。それにしても流石は「魔王」だ。事前の危機を察してくれたのは本当にありがたい。白金で出てきてあの強さならば、黒で出現した場合の強さは計り知れない。この反応を見るに、ライムでも警戒するような相手と思われるのだから、この事前察知はまさにグッジョブである。
折角黒が出たのに開けることができないというのは悲しい。GPに変換できないものかと思ったが、玉の状態では無理のようだ。仕方無しに本日二回目のガチャ。結果はまたしても黒。
「……しつこいな」
俺はポツリと呟く。
(単発引きで最高レア二連なんてあるわけないだろ。何年ガチャ引いてると思ってんだ? 俺に喧嘩売ってんのか?)
ライムを見るとその表情は険しいままだ。つまりこれもアウトだ。俺は大きく息を吐いた三回目のガチャを回す――黒。「さっさと開けろ」と言わんばかりの過去の異世界人の干渉に頬が片方釣り上がる。こうなったら100個全部黒にしてやろうじゃないか、と喧嘩を買う。するとライムが神妙な面持ちで俺の前に出た。
「お父様。大変申し上げにくいのですが『世界』が異常を感知しました。我々は既に監視下に置かれております」
状況が理解できずに「?」を頭を浮かべる。異常が発生していると俺がイデアに監視されている。その言葉を俺は疑問に思う。
(俺には魔力がないため監視対象にはならないはずだが……ディバルは何と言っていた? そう、確か……)
あの時の言葉を一つずつ思い出していく。少なくともイデアには俺が「いないものとして」映っているはずだ。ならばどうやって俺の存在を知る?
「……スキルはマーカー?」
思い出した言葉を呟くと同時に噛み合うものがあった。スキルとは、イデアが作ったその目的を達成するためのものであり、召喚された異世界人を見失わないためのもの。
「あいつらは俺のスキルから……」
そう言葉にした瞬間――繋がった。
(最後の言葉の意味はこのことか!)
同時に最悪の結論が導き出される。事実上、俺はスキル「ガチャ」を封印されてしまったことになる。
「あいつら……俺を売りやがったな!」
怒りを顕にするも、ぶつける対象はとっくに死んでいる。連中の怨念を甘く見たわけではない。あの二人のうちのどちらがやったのかはわからないし、両方という可能性もある。
「ガチャが使えないのは非常に拙い。いや、それよりも……」
ディバルの言葉が思い出される。「最優先の取り込み対象となり得る」という言葉に俺は焦りを覚えながらも必死に思い出す。
(そうだ、目だ! ディバルは確か「世界」が異常を検知した際に「目が現れれば時間の余裕がない」と言っていた!)
その目を俺はまだ見ていない。だが、ライムは魔王化した際に見ている。これに関してはライムが対処済みと報告しており、それが原因である可能性は低い。やはりあの二人のどちらかが原因だ。いや、そんなことよりも――俺にはあとどれだけ時間が残されている?
次で6章はお終いどすえ。




