1-9:こんにちは賊さん
遅れて申し訳ない。
本日の主だったガチャの成果。
白×2 金×2
5%と予想される金が二つしか出なかったのは残念でならないが、一日に白が二つ出たのは今日が初めてである。初日の黒と白が一つずつ出たとき以来の大当たりと言えよう。
問題の中身だが、金のほうは「千里眼」という新カードと、未鑑定のステータスアップ系と推測される果物のような何か。
ちなみにこれらはただのバフ系のアイテムの可能性もあり、どうにももったいなくて使えずにいる。金はともかく白金のバフアイテムは確実に切り札になる。そう考えるともったいなくて使えない。
それで白金はというと一つは「再生」のカード。もう一つはなんとスキル玉である。
正式名称はわからないが、初日に黒から手に入れたあの七色に光る玉である。白金からでも出るとは思わなかったが、そうなると黒のように強力なスキルではないのかもしれない。
しかしこの世界でギフトは強力である。何が出ても使いどころは必ずあるはずだ。何よりスキルは増えても困ることはあるまい。
では、早速新しいスキルを獲得しよう。
俺は指でスキル玉に触れ「使う」と念じる。すると、以前スキルを手にしたときと同じように力と知識が流れ込む。
手に入れたスキルはなんと「水魔法」だった。
もう一度言おう水「魔法」である。
素晴らしい、異世界。
ありがとう、ファンタジー。
俺、今日から魔法使いになります。
念願の魔法スキルを手に入れたぞ。早速試してみようとしたところで気が付いた。
魔法名がどれも「水~」なのだ。カードの場合、水属性は「アクア」だが、魔法だと「水」になっている。
違いがわからず頭を傾げる。
まあ、使ってみればわかるだろうと、俺は頭の中で使いたい術を選択する。すると魔法を行使するための呪文が浮かんでくる。
イエス、ファンタスティック!
「水よ、我がマナの呼びかけに応え、我が敵を討つ力となれ」
詠唱は浪漫。俺は密かに感動した。
「…水弾!」
しかし何も起こらなかった。
格好つけてポーズまで取っていたのですごく恥ずかしい。詠唱に感動して精神の集中が途切れて失敗したようだ。
だがこれは仕方がない。憧れの魔法と詠唱なのだ。カードで「使う」と念じればポンと出せるマジックアイテム感覚のなんちゃって魔法とは違うのだ。
次は失敗しないように、と軽く咳払いして深呼吸をする。
よし、大丈夫だ。
「水よ、我がマナの呼びかけに応え、我が敵を討つ力となれ、水弾!」
しかし何も起こらなかった。
あれ?
「水弾」は一応中級魔法に分類される。難易度的には使えそうなものなのだが…何か見落としがあるのか?
嫌な予感がしつつも今度は下級魔法を使ってみる。
「水よ、我が手に来りて恵みとなれ、水生成!」
しかし何も起こらなかった。
ああ、そうか。
俺は理解した。
何故魔法が使えないのか?
簡単なことだ。俺には魔力がない。
そりゃ魔法使えないのも当然だわ。
MP0では魔法は使えない。
つまり、俺は、魔法使いになれない。
こんなのってないよ…ガチャから出たスキルなのに使えないって…こんなの酷すぎるよ…
両手と両膝を地面に突き、がっくりとうなだれる。
正しく「上げてから落とす」を綺麗に決められた。しかも自分のスキルに、だ。
「自分のスキル?」
思わず頭にひっかっかった言葉が口から出る。
(そうだ、自分のスキルだったなら…)
俺は鞄の中に手を突っ込み、それを取り出した。
「魔力の源」…白金から出たステータスアップかバフアイテムかわからない代物。恐らく、きっとこれがそうなのだろう。
俺のスキルから出たものを俺が使えない。そんなことがあるのか?
いや、あるはずがない。もし使えないのであれば、何らかの措置があるはずだ。
そう、この「魔力の源」だ。
俺に魔力がないのであれば、魔力を使うスキルを獲得出来る以上、何らかの方法で俺が魔力を得る手段はあるはずだ。
そうであれば、この魔力の源は名前からしてピッタリである。
今試さずに、いつ試すの? 今でしょ!
俺は魔力の源を握り締め、その果実のような実に齧り付く…前に念の為に「使う」と念じる。
すると、魔力の源はまるで俺に吸収されるかのように、光の粒となって俺の体を通り抜けた。
危ない危ない、あともう少しで食べるところだった。
もし食べていたらどうなっていたかはわからないが、ファンタジー成分の含まれる部分は「使う」で大体OKという認識がある。これもそれに当てはまるようだ。
特に変化は見られないが、魔力がどんなものかもよくわかっていない。仮に増えていたとしても、それを実感出来ないのだ。それを含めて、魔法を使う実験はここからが本番だ。
期待を胸に魔法行使の手順を再確認し、俺は実験を再開した。
結論、ダメだった。
初めはMPの最大値が上がっただけで、MPは回復しておらずゼロのままだったから無理だと思った。一時間休憩してダメだったので、寝ればきっと回復すると思ったところ、マナポーションがあったことを思い出した。
飲んで試したがやっぱりダメだった。魔力の使い方がわからないとかそういうのではなく、魔力がないからダメだった。
どうやらあのアイテムはステータスアップの効果ではなかったようだ。
諦めきれず、鞄の肥やしになっている魔石を使えないものかと試行錯誤してみるも無駄だった。
よって、こう結論づけるしかなかった。
今の俺は魔法が使えない。
そう「今の」だ。いつか使いたい。
俺の野望はこんなところで潰えたりはしない。例え中二病と言われようが、魔法は浪漫なんだ。諦められるわけがない。
そう思っていたが後になって「魔力がない」という特性が消えることに気付き、魔力が増えなかったことを喜んだが、やっぱり魔法が使えない事実は大きく、俺の気分は晴れることはなかった。
良い天気だ。
日はすっかり高くなり、青空の下、俺は街道を歩いていた。
いつまでもあんな暗い場所にいたら気分まで滅入ってしまう。人には光が必要なのだ。この太陽の光が俺の心を癒してくれる。
そう思って街道をのんびりと歩いた。
見渡す限りの平原…遠くに見える緑豊かな山々。陰鬱な今の俺の心を癒すにはこれ以上の景色はないだろう。ただ一つ、欠点を挙げるならば…
賊に囲まれてさえいなければ完璧だった。
ちょっと気分転換に街道を歩いたらこれだよ。
気分良く歩いていたら、前方の森から街道に向かって歩いてくる二人組の男たちが見えた。背中に弓を背負っているのが見えたので狩人だろうと思ったら、今度は右側からも二人組の狩人らしき男たちが出てくる。
前方は街道を塞ぐように立ち止まり、もう片方はこちらに真っ直ぐ近づいていくる。後ろを振り返ってみたところ、同じような格好した男が四人こちらに向かってきている。
あ、こいつら賊だわ。
そう気付いたときにはすでに包囲網は完成しつつあり、逃げ道は確実に塞がれていく。森からも少し離れているため入る影もない。となれば取るべき手段は限られてくる。
この場で殺すか、後で殺すか。
人を殺すことに躊躇がないわけではないが、こいつらは生かしておいても犠牲者が増えるだけだろう。先制攻撃で全員殺すことは簡単だろうが、折角なのでアジトに案内してもらってお掃除しよう。囚われた美女とか盗まれた財宝とかがあるかもしれない。
そうと決まればどうやって案内してもらうか考えよう。
「一人旅は危ないぜ、にーちゃん」
包囲が完了すると正面の賊が俺に近付き声をかける。前方に注意を引きつけている間に後ろから、というやり方のようだ。
近付かれる前に「探知」のカードを使用しているので、後ろの動きもある程度わかる。何というか、頭の中にゲームでよくあるレーダーのようなものが出て、それで位置や動きが把握出来る。銀のカードと思って侮っていた。これはかなり便利である。
ともあれ、まずはこいつらの対処をしなくてはならない。
賊であるなら、相手は物取り。ならば何も持っていなければ、狙われるのは恐らく命。ならば生かすメリットを提示すればいいだけ。あとは親分なりアジトなりにご案内、という作戦だ。
なので俺がすることはただ一つ。肩にかけた鞄を地面に放り投げるだけだ。当然、カードは別に仕舞っている。先ほど探知を使う前に、次の目的地である街を探すため「遠見」を使うときに判明したのだが、どうやらカードは服の中に入っていても使用可能だった。なのでポケットはカードだらけである。
俺が鞄を肩から外し、地面に投げるとぽふっと着地する。
「見ての通りです、もう何も残っておりません」
目の前の男のうちの一人が前に出ると、鞄を持ち上げ揺する。その結果を顔を横に振り知らせる。
「食料が入っていましたが、今朝それもなくなりました」
後ろの男が懐から何かを取り出した。サイズ的にナイフだろうか?
となれば猶予はない、さっさと喋ろう。
「ですが私には隠し財産があります。それを用いれば、皆さんの装備や食糧事情を充実させることも出来るでしょう」
ナイフを持つであろう男の動きが止まる。正面の鞄を持った方ではない男が右手を軽く挙げる。すると後ろの男が俺から少し距離を取った。こいつがリーダー格のようだ。
「にーちゃんよぉ、命乞いならもうちょっと上手くやれよ」
「そう思うのでしたら、どうぞ命を奪うなりなんなりしてください」
投げやりに返事をする。勿論殺しに来る気配があれば即戦闘開始となる。その為のカードがこちら「ファイアシールド」である。
先日のように人間を対象に指定出来ず、攻撃出来ないのであれば、防御を優先して影に入ってしまおうという訳である。影の中にさえ入ってしまえばこっちのもの。相手はこちらを一切感知出来ないので、あとは不意打ちで仕留めるもよし、逃げてしまうもよし、である。
さて、相手リーダー格が黙ってこちらを見ている。もうワンアクション必要だろうか?
「一つ聞きてぇ」
おっと、必要はなかったか。
「護衛を雇う金すらねぇのはわかった。だが、財産を隠し持つんならどうして一人でこんなところを歩いてやがる?」
言われてみれば確かに…って共感してどうするよ。
「ああ、簡単なことです」
俺は努めて平静に、何もかもを諦めているように投げやりに話す。芝居なんてやったことはないが、なんとかなるだろう。
「袖の下を払えなかっただけです。最近は要求額が上がる一方で…王都から出る際に文字通り全てを召し上げられましたよ。生憎、隠し場所は実家の方にありますので一人旅というわけです」
「くっくくく…で、そんな奴がどうして俺達のようなならず者に隠し財産があることを教えるんだ?」
本当になんで教えるんだろうな? 俺が聞きたいよ。
「もうどうでもよくなったんですよ。幾ら稼ごうが上が理不尽に巻き上げるこの世界に」
「はっはっはっは!」
リーダー格が突然笑い出した。失敗したかもしれないと、俺はいつでもファイアシールドを発動させることが出来るように、頭の中のレーダーに集中する。
「こいつを頭のところに連れて行く」
よくわからないが、上手くいった。
「おい、こんな腐った国だ。街に住むならどこも一緒だ。だったらいっそ、俺達と来い。奪われる側から奪う側にまわらねぇ限り、何も変わりゃしねぇ」
あれ? 何か親近感持たれてるというか、好感度上がってね?
あっという間に他の賊に囲まれ挨拶される。名乗られてもモブの名前なんて覚えないよ。
アジトにいるであろう頭目の元にドナドナされる間、リーダーの賊が語りだした。
曰く、自分も元は商人で、多額の賄賂を要求され、それを断ったがために店を潰されたばかりか、妻子を殺されたのだそうだ。目の前で陵辱され、殺された妻の復讐をするために賊となったとのこと。
そうだね、プロテインだね。
どうでもいい話が終わったところで場所はアジトがある洞窟前。開けた場所なので丁度いい、ここにしよう。
「私は…いや、俺は今まで一体何をやっていたんでしょうね。ただ搾取されるために稼ぐ日々…この国が腐っていることなんて解っていたのに…」
俺は突然立ち止まり、話を始める。先ほどまでの話はほとんど聞いてないが…まあ、なんとかなるだろう。
「俺は…俺はもう奪われる側でいたくない。奪われる側はもう嫌だ。奪われるぐらいなら、奪う側に行きます! お願いです、俺を仲間に入れてください!」
「ああ、俺はお前を歓迎…」
「なんて言うと思ったか、ヴァ~カ!」
両手を顔の横で広げて煽る。
「いやー、まさかこんな簡単にアジトまで案内してくれるとは思わなかったよ。感謝するよ、ありがとちゃーん!」
さらに口を尖らせ馬鹿にした口調で礼を言う。だが、賊はフリーズしたままである。もう一押しいるか?
「妻子の復讐で賊になりましたってお前、殺した相手に復讐しろよ。関係ない人から奪って殺して『俺、復讐者、キリッ』じゃねーよ。兵士相手だからってヘタレんなよ。ボクちゃん弱いものイジメされちゃったからもっと弱い人イジメてやるーってか?」
「殺せぇぇぇぇぇっ!」
ついに賊リーダーが怒りを爆発させる。ついでに物理的にも爆発する。
叫び声を上げると同時にアースボールを使用。対象に指定することが出来たので早速使用したところ、リーダーと隣にいた二人を巻き込んだので残りは五人だ。
当然先ほどの煽りには意味はある。
何故あの時、アイスアローは少女を標的に出来なかったか?
だが、先ほどのアースボールは成功した。何故か?
これはそれを知るための実験なのだ。
俺が注目したのは「敵意」である。敵意のある相手、敵対している、もしくは敵と認識した相手が対象として指定する条件なのではないか?
そう仮定したからこそ、わざと相手に敵意を抱いてもらえるように煽ったのだ。決して負ける要素がない相手なので、煽って楽しんでいるわけではない。
と言う訳で検証の再開だ。
前回失敗したアイスアローが発動し、サンダーアローも続けて続けて賊の頭部に綺麗に刺さる。これで残りは三人。
「何しやがる!?」
この期に及んでその台詞か。間違いなくこいつは下っ端だ。なのでアイスショットでサクっと殺したのだが…氷の塊が五つも出た。前回使ったショットは三つだったと記憶しているのだが…属性によって個数が違うのだろうか? 検証項目がまた増えた。
あっという間に六人が殺されたことで、残った二人は戦意喪失と言ったところか。動けずにそのまま固まっている。検証には丁度良い状況である。
「さて、ボスについて話してもらえるかな?」
「てめぇ…こんなことして…」
「話さずに死ぬか、話して生き残るチャンスを得るか、だ」
但し、チャンスが与えられるのは喋った方だけだ、と付け加え様子を伺う。
「俺が話す!」
間髪容れず、抵抗しなかった奴が手を挙げる。完全に戦意喪失と見なしアクアアローをプレゼントを試みると、見事に眉間に突き刺さった。これは相手に敵意がなくなっても対象指定が可能と見ていいかな?
「てめぇ…」
「ははは、ごめんごめん。別にあんたらのボスの情報なんて欲しくないんだ」
信じられないものを見るような目でこちらを見ていた最後の一人にウインドショットを使う。風の塊で足を狙ったが相手の足元に直撃し、足首から下を吹き飛ばす。あまり精度が良くないようだ。
「ぎぃやァァァァッ!」
賊は足首から下がなくなったことで立っていることができず、地面に倒れ痛みのあまり叫び声をあげる。
「ああ、ごめんごめん。昨日賊に攫われて足の腱切られた子がいたからさ、ついやっちゃった。許してヒヤシンス」
軽い調子で片手を挙げて謝る。当然謝罪の意志はない。
まだ検証は終わっていない。これからやることを考えれば、謝罪なんて意味がない。悲鳴を聞いてアジトから仲間が駆けつけても面倒だ。さっさと終わらせて次に行こう。