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6-7:育てたペットは

お待たせしました。

異世界の沙汰も金次第2巻の予約が始まっております。詳細は活動報告で。


・6-6の新カードの下りを修正。

・猫用の糖コントロールの餌が高い。

「きっちり仕事してくださいよ」と本日の幸運効果に苦情を入れつつ、目の前の現実にどう対処したものかと頭を悩ませる。

(ピンクの時を参考にすると、下手に何かしようとすると良くないことが起こる。となればやはりギリギリまで放置…するとキレ気味のタイたんが出てくる可能性もある)

 幸運状態の内に使用してしまおうか、とも考えたがそれで今日一日の探索時間が削れるのもどうかと思う。あれこれと考えを巡らせたところで、次に「幸運」のカードが出た時にでも使うことにして放置することにした。

 人間、嫌なことは後回しにしてしまうこともよくある話。ましてやそれが命に関わるかもしれないのであれば尚更である。使う場合は準備をしっかりしてからやるべきだ。

 取り敢えず目の前の問題を棚上げした俺は、移動を開始する前に「千里眼」のカードを使い上空に視点を移す。それからロレンシアの方角に「マーキング」を使用しマーカーをセット。

 ついでに何か見つからないかとしばらく見て回るが、この馬鹿でかい木がチラホラと見受けられる森を上から見下ろしたところで見えるのは緑一色。期待はしていなかったが、ただマーカーを設置するだけに金のカードを使ったのは少し勿体なく思ってしまう。

 予定通りに探索に移る前に、ライムに木の上まで連れて行ってもらう。あのコミュ障の住処の近くに何かあるとは思えないので、距離を一気に稼ぐべく「転移」を一枚だけ使用する。方角は北。一枚で飛べる距離なら未だ魔族領土の中央北側程度の位置である。

「さて、探索を開始しようか」

 リュックの中のライムに一声かけ、転移の着地地点の影の中へと入る。影から見る森の中の視界は相変わらずよろしくない。定期的に影から出て周囲を見渡した方が見落としは少ないだろう。「幸運」の効果があるうちは、偶然何かに気が付くなど十分考えられる。視野は広く持つべきである。

 そんなこんなで探索しているとあっという間に昼飯時。まだ幸運は訪れない。「おかしいな」と首を傾げつつも、まだ昼の探索があると前向きに考える。ならば今やるべきことは昼飯の準備である。

 というわけで本日の食材はこちら。レトルトのビーフシチューとこれまたレトルトのハンバーグ。そして鞄から取り出したるは小さな土鍋。ビーフシチューによる煮込みハンバーグというランチにしては贅沢な一品である。

 オムライスにかけてもいけそうだが残念ながらレトルトのオムライスは未だ見たことが無い。というより多分ない。自力で作ることも考えたが、ネットもないこの世界。調べもせずにまともな物が作れる気がしない。

 火を起こし、ハンバーグとシチューを入れた土鍋をセット。後はサラダだがこちらはまともなものがないので我慢する。問題は米にするかパンにするか、である。ここは米の残量からパンにする。日本人ならやはりガッツリと米を食いたいが、洋食ならばパンでも良いだろう。

 時間が少し経過して良い感じに鍋が温まってきた。ビーフシチューがポコポコと音を立てだしたので食べ頃だ。まずはシチューを一口。やはりガチャから出る物にハズレはない。ちょっと高いレトルト物のような微妙に漂う高級感が俺の安い舌を震わせる。

 肝心のハンバーグも元のデミグラスハンバーグの味付けにビーフシチューが加わり実に美味い。これならば午前の不調など吹き飛ばしてくれる。残ったシチューもパンにつけて綺麗に完食。たまにはこんなささやかな贅沢も良いものである。ああ、贅沢の基準が下がっていく。

 しばしの食後の休憩の後は午後の探索である。楽しい時間はあっという間に過ぎるものだと、金髪の美女に変身したライムの膝枕から起き上がる。スイッチを切り替えるように大きく背伸びをし、首を回しポキポキと音を立てたその時、視界に緑以外の何かが映った。それを確認するようにもう一度背伸びをしてそれを見る。

「…人工物っぽい?」

 まだ距離はあるが、わずかに見える灰色の建物らしき物体。ただの大きな岩でした、という可能性もあるが「幸運」の力がそろそろ発揮されてもおかしくない。ならば早速近づくことにしようと、ちゃっちゃと休憩中に出した折りたたみ椅子を全て収納。

 変身を解いたライムをリュックに入れて影の中へ潜ると、慎重に発見したものに向かって歩き始める。何がいるかわからないのでライムに警戒をさせつつ、周囲をよく観察しながら近づく。また変な生き物に出会いたくはない。人工物ならば何かいる可能性が高いので慎重を期す。

「んー…これはあまり期待できないか?」

 近づいてわかったのは緑に覆われた城壁のようなもの。大半が崩れ去っており、これだけ植物に浸食されているのであれば、数百年の年月は経過していることは明らかである。どうやらここは城であったらしく、所々留めている原型からそれっぽさが伺える。

(せめてポイントに変換できそうなものがあればいいんだが)

 四本あったであろう塔は全て崩れ去り、城内もとても無事とは思えない惨状に期待は出来ないと思いつつも「城なんだから宝物庫くらいはあるよな?」と自分に言い聞かせるように希望を抱く。

「探知」のカードを使用し、重い腰を上げるようにゆっくりと周囲の確認をしながら影から出るとリュックの中から三度叩く合図がある。ヤバイ奴がいる―俺がダメージを負う可能性がある何かがここにいる。

 魔王を自称していた緑の怪生物では警告がなかった。あれが防御重視であったと仮定した場合、ここにいるのは攻撃重視の魔王クラスがいるとも考えられる。となればまずは様子見。

 首を残して影に身を潜め「遠見」のカードを使用。ボロボロの城の中を見る。するとすぐにそいつは見つかった。

 黒衣を纏った人型。紫っぽい肌に黒く長い髪に血のように赤の瞳。角と翼を生やしたその姿はまさに「悪魔」と呼ぶに相応しい。そんな悪魔がこちらを睨みつけている。

(こっちに気づいていながら仕掛けてこない。見た目は強そうだけど、実はそれほどでもない? それともこちらを警戒している?)

 相手の強さを計る判断材料などあるはずもなく、魔力を持たず感知出来ない身としてはこういう時に不便を感じる。ならばうちの魔力担当に聞くまでだ。実験も兼ねることを考えれば丁度良い相手かもしれない。

「ライム。俺が持つカードの使用を許可する。やれるか?」

 その返答は「YES」と即答だった。リュックの中のライムはアレを相手に勝つ自信があるようだ。まあ、俺の能力を使うのだからそれくらいは出来て当然だろう。だがその戦いっぷりをこの目で確かめる必要はある。故に命令を一つ下す。

「存分にやれ。敵を全て排除しろ」

 ベルトに付けたカードホルダーを外し、リュックから這い出たライムに渡す。不測の事態に備えて必要最低限のカードはポケットにしまっており、いざとなれば今日の「変換」をそちらに当てるつもりなので問題はないだろう。危機感知のお守りと身代わりの護符もあるので備えは十分。

 リュックから出たライムはスライム形態のままカードホルダーを体内に取り込む。その後、体内の色が変化し始め、透き通った水色から核すら見えない暗い青へと変わる。これでカードホルダーも見えなくなった。

 そうやって隠すのか、と感心していると体の一部を伸ばし歩くように動き出す。一本、また一本と伸ばす触手を増やしていき、4本足でぐいんぐいん動き始めた。伸ばした体を振るように動かし、遠心力で自分を飛ばして飛ぶように動く。最早動きがスライムのそれではない。

「遠見」のカードを再使用する頃には見た目悪魔の何かは既にライムを目視出来る距離まで詰まっていた。何か喋っているようだが、見えるだけなので聞こえない。「盗聴」のカードを使おうかとも思ったが「悪魔がスライム相手に何を言うか」なぞ想像するまでもない。

 思わず子供が悪口を言われたので殴りに行く親を連想したので聞かないことにする。俺自身、悪魔の口からスライムに対して吐かれる罵倒なぞ聞いたら、じっとしていられるか自信がない。そんな風に苦笑していると何の前触れもなく戦闘が始まった。先手を取ったのはライム。使用したカードは「石化」と初っ端から殺意マックスである。

 悪魔は自分の周囲に突如現れた灰色の靄を腕を振って消し飛ばし、口から怪光線を吐き出しライムを攻撃。それを回避すると同時に土魔法で顎目掛けて石の棘が床から放たれる。それを悪魔は蹴り飛ばし伸びた爪で空を斬る。

 まるで俺が「斬撃」を5枚同時に使用した時のように、ライムがいた場所に5本の爪痕が残される。そう「いた」場所だ。使用したカードは「転移」と思われる。そして転移先は…悪魔の背後。重力に従い落下すると同時に取り付いており、羽からは煙が吹き上がっている。

 爪による遠距離攻撃の隙を逃さず背後に転移と同時に背中に取り付き、スライムの能力で捕食開始。俺には真似できない戦い方である。

 だが流石は悪魔というべきか、その程度のことでは怯まない。まるで漫画の気とかを放出するようなポーズでライムを引き剥がそうとする。実際、何か(多分魔力)が放出されているらしく、周囲の床に亀裂が入りライムが剥がれかかっている。それを見逃すことなく悪魔は後ろに手を伸ばしライムを掴む。

 残念ながらそんな悠長なことをしていてはタイムオーバーである。「転移」を使用してもう5秒は経過した。つまりNEXTカードのお時間である。俺がそう思った直後、悪魔が紫色の体液を口から大量に噴き出した。

 一体何を使ったらそうなるのか、という疑問はあるが今は戦闘を見ることが優先である。片膝を付き、プルプルと震える悪魔はまだ生きている。そこに容赦なくライムの追い打ちが刺さる。文字通り顎から頭にかけて串刺しにされ、体を広げたライムが悪魔を覆っていく。

 抵抗する力は最早残されていないらしく、腕が僅かに動くもライムを引き剥がすことは出来ず、次第にその体は粘体に覆われていく。全体が粘体に覆われ、こんもりと盛り上がったスライムの体が徐々に小さくなっていく。

(はい、勝負アリ。「ヤバイ奴」とは一体何だったのか)

 まさかこうも一方的な展開になるとは思っておらず拍子抜けである。影から出てライムのところに行こうかと思ったところで動きがあった。ライムが食事を中断し動き出したのだ。何処に行くつもりなのか、とそのまま見守っていたところ、床を破壊し地下へと降りる隠し階段を見つける。ライムはそのままそこへと降りていった。

「おいおい、何処に…って、ああそうか。『敵を全て排除しろ』って命令だから地下にいる何かを始末しに行ったのか」

 雑魚にかまう必要はないんだがなぁ、とボヤきつつ「アシダカグモが次の獲物に襲いかかるが如くの行為」はすぐに終わるだろうと遠見を解除。安全を考え、影の中でライムに与えるご褒美を考えながら待つことにする。

(しかし、実際戦うところを見ると本当に強いな。いや、俺だってカードが勿体無いとかその辺考慮に入れなければあれくらいできるけどさ。ライムにカードを使わせて戦わせた方が安上がりになるのは確定だな)

 少々複雑な気分ではあるが、忠告通り戦闘はライムを主軸とした方が良い気がしてきた。カードの使用のクールタイムがある以上、粘体装甲による二人がかりが最も強いとは思うが、状況によってはライム単体の方が良い場合もある。

 よくぞここまで育ってくれた、と俺は頷きながら感心していた。その時、地下で何が起こっているかなど気にも留めずに…


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