6-6:別れと出会い
お待たせしました。オチを付けたがる関西人の性に悩まされつつ新作を書き溜め中です。
寒さのせいか猫がよく膝の上に来ます。
あまり長く乗せていられないのでどいてもらっていますが、ふと思いついて猫でエアギターっぽいことをやってみたところ意外としっくりきました。
そろそろカサブタを剥がす頃合いです。
「今更知ったところでどうしろ?」という情報の後に、本当に今さらなスキルの正式名称を付け加え呆けることしばし、再起動した頭が「別にどうでも良いことじゃね?」と思考することを投げ捨てる。全ては今更、過去のことである。
人生前向きに生きてこそで道は開ける。残念臭ただよう初代厄災にも、俺が元の世界に戻る計画の中で何かしら役目があるはずだ。
「まあ、話すことも話しただろうし俺は行くから」
―しかし、今更俺がどんな顔して会いに行けと―
(こいつ面倒くせぇ!)
コミュ障がウジウジと悩み行動に移さない。俺が元の世界に帰るためには協力が必須だとは言え、個人の感傷にまで首を突っ込む気はない。
「俺は、ディバルから言われた通り渡す物は渡した。次は、お前らがどうこうする番だ。その間に、俺は他の異世界人と話をつける。そういう訳だからとっとと行って来い」
そう言いながらも去るのは俺。正直付き合ってられん。だがその前に聞きたいことがあることに気が付き振り向くとサフィヨスに尋ねる。
「ああ、そうだ。俺からも一つ質問があった。今の俺が『世界』に対して何らかの干渉を行ったとする。この場合、どんなことが起こり得る?」
―干渉に依る、としか言えん。たが、それこそ「世界」に対して攻撃的…もしくは改変を行うような過度な干渉となれば間違いなく出てくるだろう。そもそも通常アレは世界を観察しているだけだ。何かしら大きな数字の変化が起これば、その事象を確認するために「目」を飛ばす。一応は気をつけておけ、アレの「目」は見た目以上に厄介だ―
その返答に俺はしばし考える。ディバルが言うには俺はアイテムを介して「世界」に間接的に干渉しているような表現をしていた。だがそれはあくまで予想であり、今までオーブ系のアイテムを使用しても今のところ何も起こってはいないとは言え、次もそうだとは限らない。
「世界」というものの概要が未だはっきりと掴めていない状態では用心に越したことはない。つまり現在所持している知識のオーブではあまり核心をつくような質問はしない方が良いと思われる。使うにしても無難なところで済ませる方針で行こう。
候補としては勇者か魔王のどちらかだろう。話を聞いた限りではどうやらこの二つは「世界」の意思が介在する存在らしい。ならばこれについての情報が何かの足がかりとなることも考えられる。とは言え、勇者と思しき者は既に殺してしまっているので魔王について聞くことになりそうだ。
使わない、という選択肢もある上に他の使い道も出てくる可能性もある。やはりここはいつも通りに保留ということに収めておこう。
(あとはディバルも言っていたが「目」に注意、か)
厄災が二人して「見られる」ということに警告を発している。この一点は警戒度を上げておきたいが、備えたところでどうにかなるものでもなさそうなのでお手上げ状態。良くない情報ばかりで気が滅入る。目の前のコミュ障に何かを期待するのも間違っている気がするし、状況は芳しくないの一言に尽きる。
「もう一つ別れる前に聞いておきたいんだが、会いに行く『神眼』持ちの日本人は魔族領土で『魔王と交渉する』って言っていた。能力で色々と知ってたことを考えると、多分それってお前のことだよな? 今その日本人が何処辺りにいるかとか判らないか?」
俺の質問に少しの間が空きサフィヨスが頷く。そして何かを喋ろうとしてしばし固まると諦めたのか、また直接頭に語りかけてくる。
―恐らくはそうだろう。しかしそのような人物が近くにきた記憶はない。それと一度も会ったことのない人物の居場所を特定するようなスキルは持っていないな―
「だろうね」と端から期待していなかったという風に鼻を鳴らす。これで宛もなく探すことになった。探せば何か使えるカードはあるだろうが、中々に面倒である。
(葵を探して情報交換ということになりそうだが、色々と隠していたツケをどうやって精算させるべきか? 日本に帰るためには葵の能力は必須だろうし、貸しにしとけば後々有効か)
振り返ることもせずにサフィヨスの元を去った俺は、服に臭いが付いていないか気にしながら歩く。あいつのスキル無効化範囲から出ないと「影渡り」…ではなく「影界」の能力が発動しない。存在自体が面倒な奴である。距離を取ったことでライムの方も気を抜いたのかリュックの中で落ち着いている。
ちなみに不発に終わった「転移」のカードはしっかり減っていた。相性が最悪すぎて敵対しようとする気すら湧かない。
「これで少しは前進したかねぇ」
ようやく影の中に潜れるようになって俺は大きく息を吐く。森の中なので入る影など幾らでもあり、移動には困らない。問題は目的の葵が何処に居るのか、である。
(一先ずロレンシアに向かい残されてそうなバカ二人にでも聞いてみるか)
そう考えたところで俺はあることに気が付いた。それは同行者であろうハイロの能力だ。
「…あれ? 未来兵器がスキルで出せるなら魔族領土の探索くらいは余裕だよな?」
では何故あのコミュ障と葵らは出会っていないのか?
考えられるのは二つ。まだ動いていないか、偶然未だに出会っていない。もしくは何かトラブルが起こった。後者に関しては葵とハイロの能力を考えれば可能性は低い。だが無いわけではない。
(あの能力が足を止める必要がある事態が起こった? それとも何かを見つけたか?)
葵が帰還を諦めるとは考えにくい。ならば予定よりも優先することができたと考えて良いだろう。そしてその可能性に思い当たるものを俺は知っている。
勇者召喚―新たな異世界人が呼び出され、その能力を見た葵がこちら側に引き入れようとしている可能性。それほどの事態ならば、葵が未だ魔族領土の探索をしていないことも頷ける。
「まったく、せっせと動いているのは俺だけか」
ぶつくさと文句を言いながら影の中を移動する。次は良いニュースでありますようにと願い込め、最近開発したライムの「部分変身おっぱいのみ」を頭部と肩で味わいつつ揉みしだく。感触は良いんだが、やはり全体像がないとイマイチである。
初代厄災と別れてからほぼ半日。日付もそろそろ変わろうとする時刻になっても俺は起きていた。何故か?
こちらにおわすカードをどなたと心得る。そう「幸運」様である。期待のあまり眠れずこうして日が変わるのを待っている、というわけだ。見た目安物の小さな置き時計を凝視し、今か今かとその時を待つ。明日の楽しみにしても良かったのだが、どうにも眠れずこの有様である。遠足前日の小学生か。
「時間だな」
待つことしばし、日付が変わり確認の為に一度ガチャを回す。出て来たのは銅のガチャ玉。中身は200mlの缶。恐らく缶コーヒーと思われる。妙に飲みたくなる時があるのでこれはアタリだ。まだ「幸運」を使っていないが幸先は良い。本番はここからだ。
「頼みますよ、幸運様」
カードを使用し、本日のガチャ残り99回を一気に回す。今更な話ではあるが、中身を確認することなくひたすら連打するようにガチャを回すと10連ガチャっぽくなる。上手くやれば100連だって可能だが、意外に引っかからずに回すのが難しい。思考だけでできるはずなのだが、雑念がどうにも混じってしまうようだ。
さて、回し終えてレアリティごとに分類し、本日の主だった成果がこちらになる。
白金×4
黒が見当たらないようですが?
「あの俺の黒は何処にありますか?」
口に出してもないものはない。まあ、これまで毎回出ていたのがまさしく幸運なだけで、もしかしたら案外こんなものなのかもしれない。だが実績を鑑みればこちらのケースの方が今は稀。
何時になるかは判らないが次回に期待しよう……と、これで終わりかと思いきや、流石は「幸運」である。なんと新カードが3枚もあった。ガチャレベルが100になっただけはある。いきなり新カードを引き当てる辺り、きちんと仕事はこなしてくれる。
早速その効果を見てみよう。まずは一枚目が金のカード。鑑定結果はこうだ。
元気弾
・対象の生命力を用いて目標を攻撃するカード。
まさかの元気徴収&攻撃カード。相手の許可なく元気をぶんどりそれを攻撃に使うという中々に酷いカードだ。使用した「鑑定」のカードは二枚なので情報はこの程度だが、この内容なら十分である。使用用途は攻撃に限られるが、相手の生命力を用いる部分が必中であるならば、威力次第では主力級にもなり得る。
次も金のカードで鑑定を二枚使用である。
保存
・対象の状態を留め保存するカード。
使い道がはっきりしている分悩む必要はない。つまりこのカードがあれば日持ちしない食べ物も腐る心配がない、ということである。対費用効果が悪すぎやしませんか?
それとも何か他に使い道はあるのか、と考えてみるがすぐには思いつかない。取り敢えずはこのカードは貯めておいて何か良い使い方を思いつくまではカードホルダーの肥やしである。
そして最後は白金のカード。
「タイたん」
言いたいことは色々とあるが…取り敢えず鑑定結果はこうなった。
「タイたん」のカード
・マッスル筋肉乙女「タイたん」を召喚するカード。稀に「鯛たん」が召喚される。
このどう反応すれば良いのか困る内容に俺の思考が一時停止する。何処からツッコミを入れるべきだろうか?
「マッスル」と「筋肉」が重複していることもそうだが、乙女で「たん」付けである。美少女風と考えても筋肉系だ。まともであるはずがない。何よりのピンクの悪魔と同類の恐れがある。使わないに越したことはないカードだ。
仮に使ったとして稀に「鯛たん」が召喚されるらしい。何だそれは?
そして最も重要ななのがこのカードの絵。
「…これどう見ても『タイキック』だよな」
某バラエティ番組の罰ゲームをコミカルに描いたもの。それが「タイたん」のカードの絵である。基本的にカードの絵はその効果を示している場合がほとんどだ。つまりタイキックが主力の筋肉系乙女を召喚するカード、と解釈出来る。
「何これ?」
そんな疑問が頭を過る。使うことはないカードだが、下手にGPに変換しようとして拒否されるのも怖い。
「君子危うきに近寄らず」
その諺通り、俺はこのカードをそっと鞄の中に封印した。一難去ったところで、残りの白三つの中身はというと―残念ながら全て既存の物だった。但し「危機感知のお守り」の予備が手に入ったのでこの結果には満足だ。
黒こそ出なかったものの、全体としてみれば十分「幸運」の効果を発揮していると言って良い成果である。当然一部見なかったことにしたものはあるが、誤差の範囲と言って良い。次回も頼みますよ、幸運様。
翌朝、今日一日は「幸運」のカードの効果が続くので非常に気持ちの良い目覚めとなった。ガチャから出たパンと缶コーヒーで朝食を摂りつつ、本日の予定を考える。やることと言えばロレンシアに向かいつつ葵を探す、なのだが寄り道も悪くないと考える。
何せ今日一日は幸運なのである。探索に集中すれば何か良い物が見つかる可能性は十分ある。折角のファンタジーなのだからこんな日くらいは冒険も悪くない。それに今日一日だけである。このところ精神衛生上良くないことが続けて起こっている。ちょっとくらいは気晴らしが必要だ。
朝食を終え、片付けなど変換からの廃棄でサクッと済ませ、やる気十分に立ち上がった時、何かが地面に落ちた。ポケットから何か落ちたのかと反射的に拾おうとして腰を曲げ手を伸ばす…が、そこにあったのは一枚のカード。
予想していなかったわけではない。どうやってか魔法の鞄から抜け出した「タイたん」のカードが地面に落ちていた。ご丁寧に絵が見えるように土の上に横たわるそれにはしっかりと「100」という数値が描かれている。
…お前もか