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6-4:それは色々と残念だった

お待たせしました。手がかじかんでタイピングに時間がかかる。

 目の前の知識のオーブから距離を取りじっとそれを見る。


 これは手がかりですか? いいえ、罠です。


 これまでの経験からこういった「タイミング良く出てくる物」には何らかのオチが付いたり、状況が悪くなったりする傾向にある。そう、これは孔明の罠である。

(同じ手にそう何度も引っかかるかよ)

 俺はニヤリと笑いオーブを使わずに魔法の鞄の中に放り込む。ただでさえ「世界」への干渉は控えたいところなのだから、仮にこのタイミングでなかったとしても使用は躊躇われる。

 魔族の正体には興味はあるが、知っておかなければならないことという確信はなく、またそのリスクを考えれば回避を優先するのも選択肢として十分考えられる範囲である。

 いつも通りの棚上げ事案で済ませ、続きのガチャ玉を開けていく。残りは30個もないのですぐに終わる。今日は白金が一つ出たので、残り五つの金からでは大したものも出てこないだろう。


 魔法のポーチ

 装備した者の魔力で容量を底上げ出来るポーチ。破壊された場合、収納しているアイテムは全て消滅する。


 出ました。一つ目は葵に渡したので、これでポーチを二つ所持していることになった。しかも装備者の魔力で容量UPの効果があることを確認。これはライムに装備させるべきアイテムである。

 これで鞄の容量問題が解決した。そう思っていたのだが、人型に変身していないと「装備している」と認識されないことが判明。取り敢えず俺のベルトに装着することで落ち着いた。

 ちなみに容量を比較しようとして、俺の限界容量状態からライムに渡した際にこの事実が明らかになった。ポーション類が全部こちらに移ったことで荷物整理が出来たと考えよう。

 残りの四つの金は一つはポーションで残りはカード。三つが全部ソード系だったが、先に使用した「石化」が補充されたのが地味に嬉しい。

 それでは今日も張り切って探索と行こう。この集落のような場所は粗方探索し終えたのでもう用はない。今日の目標はマーカーが示す魔族領土大体中央部である。




 さて、何事もなくマーキングした地点に到着。既に日は沈みかかっておりギリギリ間に合ったといったところである。ライムの食料に困ることのない道中だったが、正直ここの生物の強さが今ひとつ判らない。基本、影からの奇襲の一撃で仕留めている弊害がここで出たようだ。

 基本的に影の中は探知用の魔法かスキルでないと気づくことが出来ないので、そういった技術や能力を持たない魔獣では俺の相手にはならない、ということなのだろう。相性の善し悪しによる影響がよく解る。

 決して「こんなのにびびって勇者召喚しないと魔族領土に攻め込めない現地人雑魚すぎwww」とか思ってはいけない。思ってはいるが、思ってはいけない。油断大敵である。

 間もなく日が沈むので今日の探索は終了である。ここまで進展らしい進展はなし。もっと奥にまで踏み込む必要があるようだ。

 翌朝、影の中で目を覚まし朝食を摂りながらガチャを回す。いつものながら作業故に気づくのが遅れてしまい俺はそれを取りこぼした。影の中は真っ黒い部屋になっている。その為、背景と同化して現れたそれに気づかず、真っ黒い玉がこれまた真っ黒い部屋を転がっていることに反応が遅れた。

「待てぇぇぇぇい!」

 叫んだときには遅かった。既に背景と同化した黒のガチャ玉は何処にあるのか判別するのが難しくなっていた。だが俺は慌てない。「影渡り」のスキルを解除すればこれこの通り。影の中のものが全て外に強制排出される。

 思ったよりも近くにあったことに安堵しつつ黒のガチャ玉を回収。無言でガッツポーズを取る。場所が場所なので叫ぶのは厳禁だ。

「いやー、長かった。最後に出たのは一体何時だったか」

 開けるのが惜しくなってくるこの黒光りする玉を撫でながら大事に持ち運ぶ。また見失っては行けないので今日はこのまま外で残りを回す。少し開けた場所だが、こんなところで誰かに見られることを心配するのも無駄であろう。

 残りは20回程度なのでさくっと回して本日の成果を確認したい。そう思って鞄から出した折りたたみ椅子に座り、ちゃっちゃと回していたら出やがりました、白金の玉。

「おやぁ? 今日『幸運』のカードを使った覚えはないんですがぁ?」

 ニヤケが止まらないまま残りを回し終え、本日の成果がこちら。


 金×2 白金×1 黒×1


「グゥレイトォ、数なんて問題じゃないぜ」

 金の数は少ないが、そんなことはどうでも良いほどの収穫である。楽しみは最後に取っておくとして、銅と銀をサクサクと処理。続いて金は―カードが二枚。一枚目は「ファイアストーム」だったので「まあ、いつも通りか」と思ったが二枚目は違った。

「幸運」と書かれたカードを見る。目を擦ってもう一度見る。立ち上がって本日二度目の無言のガッツポーズ。これで明日も黒が出る可能性が高い。こうなると白金も期待してしまう。だが、ハッと思い出す。

(待て、上げて落とすのがいつものパターンだ。そうだ、以前もこんなことがあった気がする。あの時は何だ? 何が出た?)

 そう、あの時は「奴」が出た。白金が二つに黒が一つという「幸運」のカードでも使わないとまずお目にかかれないような成果に、浮かれていた俺の前にアレは出て来た。だが「開けない」という選択肢はない。

 あのお役立ちアイテム「危機感知のお守り」は白金のアイテムである。少し「嫌な予感がする」程度で引き下がるリターンではない。そして運命のカプセルは開かれた。


 サンダーバースト


 あ、はい。普通ですね。何と言うか時間を無駄にした。黒できっちり〆て終わらせよう。「強力なものが出ますように」と祈りを込めて黒のガチャ玉に手をかける。直後、それは現れた。

 大きな黒塗りのボディ。以前は当たり前のように目にした四輪駆動。ガラス部分から中を見ることは出来ず、何らかの処理がなされていることが判る。そう、これは―

「車だ」

 真っ黒な自動車が俺の前に現れた。車をマジマジと見ながら意味もなく鞄に手を触れ「鑑定」を三枚同時に使用する。


 ヒドゥンカー

 あらゆる探知効果を無効化する絶対隠蔽の車。燃料には魔石を必要とし、魔力を補充し続ける限りメンテナンスも必要としない。各種隠蔽効果を使用時は魔力消費量が上がる。物理耐性、魔法耐性を共に高いレベルで実現しており戦闘も可能。車本体のスペックは付属のカタログを参照。


「うお、おー? おおお?」

 念願のマイカーが何故こんな時に手に入るのか、という感想はさておき鑑定結果を見る限りこれは良いものであることは間違いない。何より「もう歩かなくて良いんですか? やったー!」という想いが強い。思っていた物とは違うものが出たが、これはこれでアリである。

 しかしまさか初めて黒が出たときに予想した通りに車が出るとは思わなかった。これで今後の探索も捗ることだろう。しかも隠蔽効果のお陰で危険とも無縁となる。これはまさに今役に立つ物である。

 一体俺は何を警戒していたのか、と呆れながらも早速乗車。まずは乗り心地を確かめて見る。ドアを開け運転席に座ってみると、思いの外座り心地が良い。ペダルの位置やハンドルは俺が知る自家用車そのもの。だがハンドル横に見慣れないスイッチが見受けられる。

「ああ、これが隠蔽効果を発揮する為のものか」

 座席にあったカタログを見ながら機能と現物を見合わせ一つ一つ確かめていく。驚くことにレーダー機能まであった。残念なことに探知可能対象が敵に限定されている為、そこまで有用なものではなさそうだ。

「速度は一般的な乗用車程度。火器とか装甲とか不穏な文字が見えるんだが…」

 あったらあったで困るものでもない。取り敢えず実際に動かしてみるかとハンドルを手に、アクセルを踏もうと前を向いたところで気がついた。


 ここは森だ。


 ちょっと開けているだけでここはどでかい森の真っ只中である。車で走行するような場所ではない。しばし運転席で目の前に生い茂る木々を見る。俺は無言で車から出ると魔法の鞄に車が入るかどうか試してみる。

 当然このサイズの物が入るわけもない。ベッドですらバラバラに分解して持ち運んでいるのだから自家用車が入るはずがない。

 次に影の中に入りヒドゥンカーを引き込もうとするもダメ。俺が持ち運び出来るサイズの物しか無理なのは判っていた。ならば発想を変えよう。

 取り出したるは一枚のカード。「転送」のカードである。これを使い運搬することで使用可能な場所まで移動させる。ところが試しに適当なところまで離れて転送しようとしたが、以前使用した時と比べ手応えがおかしい。

(何かこう、抵抗されている?)

 そこで思い出したのが「物理耐性、魔法耐性を共に高いレベルで実現しており戦闘も可能」という鑑定結果。まさか「転送」のカードにも適用されているということか?

 結果、転送自体は可能だったがその距離は一枚で50m足らず。これでは森を抜けるには幾らかかるかわかったものではない。では他に何か手段はあるかと鞄の中とカードホルダーを見て考える。

 考え抜いた末に出した結論がこちら。


 ガチャ

 Lv96

 164265850000P

 0GP


 ヒドゥンカーは2800GPに変換された。折角なので適当にアイテムをGPに変換しレベルを上げたが惜しい。あと少しでLv99かLv100になる。テントがある場所に戻ると鞄を漁り、GPに変えても良さそうな物を物色する。

 無理に換える必要はないのだが、こうなると気になって仕方ない。今後使用するかどうか不明という点では剛力の実などのライムが食べない能力UPアイテムが候補。再入手を考えた場合、レアリティが高い使う機会が少なさそうなカード。例えば「複製」など銅を除く各レアリティで存在しているが、複製可能なのはカードの等級未満。

 白金の「複製」は現在二枚所持している為、一枚は変換候補。これで残りは金のレアリティから色々出せばLv100にも届くだろう。候補を絞ったところで選別開始だ。


 ガチャ

 Lv100

 164265850000P

 20GP


 10分後、こうなった。Lv100になってもGPはまだ増えている。ということは100以降もレベルは上がっていくのだろう。取り敢えずこの件に関しては明日以降のガチャに期待しよう。

 あれこれしていた所為で随分時間を食ってしまった。本日の探索を始めなければ。




 西に向かって探索を開始し、昼食を終えたところで鳥に変身したライムが空から戻ってくる。「遠見」のカードは使用頻度が高いこともあり、枚数の維持の為にも節約は必要である。また魔力的なサムシングは俺にはさっぱりなのでライムに偵察させることは理に適っていると言える。

 その結果、俺の狙い通りライムは何かを発見してくれた。言葉が話せないので単純なやりとりしか出来ないが、どうも「奇妙な点」を発見したようだ。距離はそこそこあるようだが、今日中には辿り着けるとライムは判断している。

 ならば少し張り切ろう。手がかりらしい手がかりがない状況、何かを見つけたかもしれないというならばモチベーションも上がるというもの。俺はライムが指し示した方角をズンズンと進み続けた。

 歩きだしてから約三時間。足が疲れてきたので少し休憩を取る。まだまだ歩けるが、目的地まで歩き遠しで疲れ果てた状態での到着は危険と判断してのことである。ペットボトルの水を飲みながら何か手がかりがあれば良いのだがと期待する。

 十分ほどで休憩を終わり、再び影の中を歩き始める。そしてまた二時間ほど歩いて休憩を入れる。一度影から出て方角と目的地の確認を行うと、もうすぐ視認出来るくらいの距離まで来ていたようだ。

 ライムに危険はあるかどうか訊ねてみたが、どうもよくわからないらしく反応が曖昧だ。どうやら何かあるのは間違いなさそうだ。ふと「厄災の手がかりではなく遺産か何かではないか?」という考えが過る。

 有り得ない話ではない。もしかしたら今後に役立つ何かがある可能性だってある。そう考えると俄然やる気が出て来た。もしも遺産があるのであれば、最低でも億単位のポイントである。ポジティブに考えれば考えるほどすぐにでも動き出したくなるが、予定していた休憩時間はまだ少しある。

(まだだ。計画通りに動くんだ)

 今日は運が良い。それはガチャの内容からも判ることだ。中身は期待しすぎただけで決して外れではなかった。ならば流れが来ていると見るべきだ。休憩時間中はじっとしていた俺は、キッチンタイマーが時間を知らせるアラームを鳴らせると同時に立ち上がる。

 歩き出したところでおかしなことになった。いつの間にか俺は影の外に出てしまったいたらしい。幾ら何でもこれは酷いと、自分の失敗に思わず苦笑い。直後、俺の体は勢い良く何かに引っ張られた。

「う、おぉぉぉ!?」

 状況が飲み込めず兎に角「探知」のカードを使用し、何が起こっているかを確認しようとする。だが何も起こらない。自分の体がすごい速さで運ばれていると気づくのに時間を要したのはまさに失態と言える。

 そして自分を運んでいるライムが、全力で目的地から遠ざかろうとしていることに気づくのが遅れたのは致命的と言えた。

「飛べ、ライム!」

 危険が迫っていることを察した俺は、視界を確保する為に木より高い位置へと移動するようライムに声をかける。ライムが俺ごと大きく跳躍し、木々の合間を縫うように飛び上がり空が見える位置まで来る。「転移」のカードを使用し、この場から離脱した…はずだった。

「…あ、あれ?」

 何も起こらず再びライムと一緒に飛び上がり、もう一度「転移」のカードを使用するも何も起こらない。大地へと戻った時、ライムは動かなかった。俺もまた動けなかった。

 地面に落ちた俺を待っていたのは強烈な虚脱感。立っていることも出来ず膝と両手を地につける。顔を上げるが目の前には何もいない。


「名は『反逆者』…『世界』に反旗を翻した者の固有スキル。それは即ち『世界』の影響への干渉能力。その力は、スキルそのものへの干渉―つまり、スキルの無力化とその効力の無効化だ」


 ディバルの言葉が頭に浮かぶ。「厄災」―そう呼ばれる異世界人が、今俺の後ろにいる。助けを求めるライムに何も出来ず、ゆっくりと後ろを振り返る。そこには一つ人影があった。

「俺は白石亮! 日本人…異世界人だ! あんたが厄災で間違いないな!?」

 俺はどうにか絞り出すように叫ぶ。だがしばらくそのままの体勢でいたが何の反応も返ってこない。顔をゆっくりと上げた先にはボロボロのローブを着た長く赤い髪の男が俯いていた。その様子を眺めていると彼は口元に手を当てたり首を傾げたりと、何かを言おうとしているように見て取れる。

 しばし彼の様子を見てみたが何か言おうとしていたのを諦めたかのように、口元に当てられていた手がだらんと下る。


―異世界人か―


 頭に彼のものと思われる声が響く。

 コミュ障か、あんた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ライム人型に変身させてポーチ装備させて車が入るか試してみたらよかったのに……って思った。
[気になる点] 二つ目のポーチ? どこの回かは忘れましたが、既に二つ目は出てましたので今回のは三つ目ですよ。
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