6-3:「世界」不思議発見
サブタイのネタにキレが欲しくなる。
戦闘を終え、探索を続けるも何も得るものがなく一日を終えた翌朝。二日続けて出た白金に喜び、同じく二日続けて出て来た葉っぱをノータイムでGPに変換する。その後、失った銀のカード「障壁」を昨日と併せて8枚「交換」で補充。銀のカードは足りない出力を枚数で補うのが効果的だという判断からである。
それと約束通りに「交換」の1枠で魔力の源を出し、それをライムに与える。2億ポイントもかかるが、遺産のゴーレムという臨時収入もあったし、これからを考えるとペットの強化はやっておいて損はない。自称魔王は複数いることは判っているので、アレ以上の強敵との戦闘は想定しておくに越したことはない。
私見ではあるが、恐らくアレは防御能力に特化した生物であると考えられる。銀と金のカードの威力の差から、アレの属性攻撃に対する耐性は凄まじいの一言に尽きる。反面、攻撃能力はその防御能力に比べ高くなく、速度も同様である。
影の中へ退避するだけとは言え、ライムの補助だけで回避可能なのだからその速度は決して速いとは言えない。以上のことからあの魔王は防御特化型と推測される。
そう考えればライムの反応が「気になる」程度で済んでいるのも頷ける。唯一「犠牲」のギフトを持ったハスタニルの美人護衛に対して警戒を示したが、それはこちらの防御を打ち破るだけの攻撃能力を有していたからであり、ロイヤルガードを「警戒に値しない」と評価した基準からも伺える。
(なるほど。ライムは俺が「怪我を負う可能性」で警戒度を設定しているわけだな)
なんという有能なペット。解っていたがさらにライムの評価が上がる。これはボーナスとして明日もう一度魔力の源を交換しても良いかもしれない。うちはブラックではないので昇給は勿論ボーナスもある。年中無休の24時間営業で休みなしという点は「人間じゃないから」という理由で問題ない。
今日も今日とて探索だが、いつまでも闇雲に探し回っているのでは能がない。つまり一先ず「何処に向かうか」を設定する。選ばれたのは魔族領土中央。「千里眼」や「遠見」のカードを使い、大体真ん中らへんに拠点を作成。そこを中心に探索する。
探索するにしても既に終わった場所には目印を付けることも忘れない。このだだっ広い土地を隈なく探すなどそもそも正気の沙汰ではない。人海戦術でも取れれば話は別なのだが、と千里眼の効果中に大体真ん中になりそうな位置を「マーキング」で印を付ける。
これで後はマーキングした位置に向かうだけである。コンパスいらずの樹海破りに、満足気に頷くと探索を開始。探索5日目が始まった。
探索6日目。ちょっとしたトラブルで5日目の探索は早々に終わりを告げ、さらに変身時間の伸びたライムと楽しんで過ごし一日を無駄にした。そのトラブルというのがトラウマものであった為、一日を回復に費やす必要があったのだ。
偶々影から出て来た場所に虫がいた。所謂「ムカデ」に似た全長30cmはある大型の昆虫だ。そう、俺が影から出る時は頭から出る。つまり、30cmはあろうムカデの足が俺の顔面を走り回った。悲鳴を上げるとライムがすぐに処理をしてくれたが、こんなことがあってはもう探索どころではない。
俺はすぐさま影に戻ると全力で頭と顔を洗い、タオルで荒々しく拭いた。その後はもう先程のおぞましい感触を忘れるのに必死だった。取り敢えず何かで上書きしようと、美女に変身させたライムの胸に思いっきり顔を埋めるなどしてみたが中々消えてくれない。
結局そのまま簡易ベッドを作り、夜まで影の中に引き篭もっていた。森の中である以上、様々な生き物がいる。それを完全に失念していたが故のアクシデントである。ちなみにライムの変身時間はついに12時間を超えるところまできた。本日追加予定の魔力の源で何処まで伸びてくれるのか?
さて、朝食を取りながらの本日の主なガチャ結果はこちら。
金×5
うん、普通だな。そして三度登場「赤の獣」。緑が出るのが待ち遠しい。昨日の分と併せて計8つの金だが、目立ったもものはそれくらいで残りは全て既存のカード。着実に戦力は回復し、蓄えられているので贅沢は言わない。
銀のガチャ玉からも装備品は出るのだが、こちらは何か特殊な能力を持っていることが非常に少なく、最初から切って捨てている。GPの足しにはなるので、出てきても困らないのが救いだ。
それでは朝食も摂り、ガチャも回したので本日の探索開始と行こう。今度からは影から出る地点はしっかり見よう。少し気は進まない程度で休むわけにはいかない。今日もキリキリ探索だ。
時刻は昼。そろそろ昼食にしようかというところで一度影から出る。出る際にはしっかり上を確認し、何もないと確信してから外に出ている。あんな事故は二度と御免だ。
本日の昼食はこちら。レトルトのカレーパックと同じくレトルトのご飯。相変わらず見た目では何が入っているのか判らないが、推定肉にじゃがいも、人参が入ったレトルトものならカレーで決まりだろう。指で幾つか潰してしまったのはご愛嬌。今日は少し贅沢に行く。いつまで続くか判らないこの探索。英気を養うのは重要なことである。
「…ビーフシチューだ、これ」
お湯に入れて温めた中身をご飯の上にぶちまけてから気がついた。開けた瞬間の臭いで気づくべきだった。
「だがまあ、これはこれで」
意外と食える。ホワイトシチューをご飯にかけて食べる人もいるので、ありえなくはないだろうとそのまま食べる。肉の質が思いの外良くてご飯が進む。カレーほどの満足感は得られなかったが、これはこれでアリだろう。
昼食を終え一息ついたところで探索を再開…の前に「遠見」のカードを使用。ここから見える範囲を確認する。ファンタジーだけあって不気味なほどでかい樹木が所々に見受けられることもあり、上空に視線を移しても人工物の有無などがはっきりしない。
何よりこっちの建造物がどういった物か、またどんな物があるのかすら知らないので視界に写った程度では気がつかない恐れもある。だからこうして定期的に時間をかけて、酔わないように周囲に視線を動かして探っている。
それにこの方法には一つ利点がある。目的の厄災の能力の範囲内に入れば何かしら変化が起こると踏んでいる。広範囲に有効で、定期的に使うに躊躇しないレアリティで攻撃的ではない、となるとどうしてもこのカードに落ち着く。元々使用頻度が高めのカードなのであまり枚数に余裕がないのが難点か。
効果時間いっぱいまで周囲を見て回ったところ、気になる場所を一つ発見。間違いなく人工物。明らかに石材を加工したものを見つけた。ただ相当時間が経過しているらしく、緑が生い茂っており廃墟と呼んで差し支えない状態だ。
(こんな状態じゃ何もないとは思うが、調べないわけにはいかないよなぁ)
幸い位置はマーカーの方向から大きく逸れてはいない。ついで感覚でそちらに立ち寄ることにする。道中何事もなく、むしろ影の中を移動している最中に何かあるとそれはつまり「影渡り」への干渉。つまり厄災さんいらっしゃい、となる。何かあったほうが良かったかもしれない。
ともあれやっと見つかった人工物。早速探ってみよう。見た時から判っていたが、色んな植物に塗れており原型を留めていないこともあってか、これが一体何なのかまだ見当が付いていない。
(石造りだから予想としては住居、なんだろうが…)
生い茂る植物と格闘しつつ調査すること1時間。予想通りここは住居跡だったと判明。よく周囲を見てみれば同じような石造りの住居跡が幾つも見つかった。緑に覆われていることから、何百年も前にここに何かが住んでいた、ということだろう。
「魔族領土…っていうくらいだろうから人じゃない可能性も十分ある」
だが人工物があることから文明を築いていたことは明白。ならば仮に魔族と出会うことになれば交渉は可能と見るべきか?
思案していると所々声が漏れる。一人でいる時間が長くなってきた弊害だろう。苦笑しつつ他に何かないかと調査を続けていると、良い手を思いついた。カードホルダーに手を当て「探知」のカード使用し、周囲の状態を正確に把握する。
結果、2m程先に地下があることが判明した。これは自画自賛も許される。気分良く地下のある場所まで行くとしばし周囲を見渡し後、探知の効果で出入り口を探す…が見つからない。
どうやら出入り口は完璧に塞がっていると見て良い。こういう時は万能ペットの出番である。朝方、渡した魔力の源でさらに強くなったライムは、土魔法を使いあっさりと地面をひっぺがし入口を作ってくれる。
早速中に入ってみると、そこには記憶の中にあるものとよく似たものがあった。半分以上はかすれて見えなくなってはいるものの、それでも特徴的な二重の円の中にある六芒星には見覚えがあった。書かれている文字は読めないし、記憶にあるものと一致しているかは判らない。だが、俺はこれが何であるか見当がついた。
「…召喚陣」
俺がこの世界に呼ばれる前、日本で最後に見たそれと、地下にある石造りの床に刻まれたそれは酷似していた。
「ここで、呼び出されたのか?」
「どうしてこんなところで?」という疑問はある。それと同時に二つの可能性が見えてきた。一つはここはかつて人の領域だった。これは大陸を統一した帝国が存在している以上、最も可能性が高い。もう一つは魔族と呼ばれる何かが異世界人を召喚していたことがある、ということ。
前者ならば特に問題があるわけではない。だが後者となってくると少し事情が違ってくる。元々、俺は一つの疑念を抱いていた。「世界」とは完全たる人類を創造することが目的である。ならば「魔族」と呼ばれる種が何故存在するのか?
作った馬鹿共の趣味と言われればそれまでだが、この発見でふと思いついてしまったことがある。そもそも、どうやって異世界から人間を呼び出す術は生まれたのか?
この過程に関する情報は今まで一度も出てきていない。今更ながらディバルなら何か知っていそうだったが、あのお喋りミイラなら「世界」に関することを話さない、というのも納得し難い。なので考えれば考えるほど、答えはこれしかないと思うようになる。
「…『世界』は何らかの形でこの世界に干渉し、異世界人の召喚方法を伝えている」
言葉にしてみて新たな問題が頭を過る。そう「どうやって?」だ。ディバルの話から「世界」が現世に関わることはほとんどなく、イレギュラーな事態が発生でもしない限り、直接干渉してくるようなことはないはずである。
そこで目の前の発見に戻る。人とは異なる文明を持つ種族―「魔族」。それが作られた目的がそうなのだとしたら、下手な接触はしない方が良い、ということになる。既に緑のケダモノに接触してしまっているので後の祭りだが、今後は控えた方が良いかもしれない。
何処まで行っても推測の域は出ないが、慎重を期すに越したことはない。魔族との接触は避け、独力で厄災と探す方向に切り替えよう。
もっと単純に「神の啓示」みたいなのでパパっと伝えているのであれば悩む必要はないのだが、どうにも「世界」はやってることがでかい割にかゆいところに手が届いていないイメージがある。俺という明らかなイレギュラーに気づけないでいる辺り、当事者としては考えてしまうところである。
それから日が暮れるまで移動と探索を続けたが、新しい発見はなく夜を迎えることとなる。色々と考えることが多かったせいか、驚くほどあっさりと眠りについた俺は、翌朝目を覚ますと日課のガチャを回す。
「わーお」
棒読みで驚きの声を上げ、出て来た物から僅かに距離を取る。出て来たアイテムの名前は「知識のオーブ」。「世界」の知識に接続してあらゆる質問に答えてくれるという物である。




