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1-7:初めての戦闘

 村人と別れた俺は林の中を真っ直ぐに進んでいた。向かう先はこの先にある森の中、ゴブリンが三十匹程いる集落と思しき場所。

 魔法カード「遠見」を使用して上空から周囲を見渡したところ発見したのだ。この遠見は有効範囲内になら、どこにでも視点を動かすことができるようだ。たまたま近くに村を見つけたので、家の中は見れるのか、と視点を移動させようとしたところ出来たので恐らく合っているはずだ。

 それから面白がってあっちこっちに視点を飛ばしていたところ、緑色の子供…ゴブリンをアップで見てしまい、軽く吐き気を覚えた。その腹いせ…もとい戦闘訓練を兼ねてゴブリン討伐に向かっていると言う訳だ。

 この遠見のおかげで周囲の地形も把握出来たので、最短距離になんら障害がないことも判明している。自分の視界を飛ばすため視覚だけが遠くにある違和感が凄い。かなり便利だが、影の中にいないと危険な効果だ。残り一枚なので大切に使おう。

 しかし見たまんまゴブリンがいるなんて本当にファンタジーだな。しかも見た目が醜悪でものすごく汚い。周囲にハエが集っているとか、どんだけ不潔なんだよ。この分だとオークとかコボルトなんかもいるんだろうな。グリフォンとかドラゴンみたいに強そうなのはご遠慮願いたい。

 さて、距離も縮まってきたので戦術の確認だ。今回は攻撃用魔法カード使って戦闘を行う。影の中から近付き、遠距離攻撃で奇襲を仕掛ける。その後は影の中に隠れて様子を窺う、機を見て再び遠距離から魔法カードで攻撃を加える。

 これは魔法カードの威力と射程のテストも兼ねる。カードの力がどの程度通用するかの実験台になってもらう。問題はゴブリンがこの世界だと、どの程度の強さなのかイマイチわからないことだ。まあ、定番で群れれば厄介だが、種族としては弱いと言ったところだろう。少しずつハードルを上げていくことで、精度の高い検証結果を得るのだ。

 それと魔法カードは魔法名を声に出すことで発動するのではなく、これも「使う」で発動する。宝物庫で初めてカードを使った時は「どうやって使うのだろう?」と思ったら発動した。先ほど使った「遠見」も使うと念じると発動したので「使う」で確定と見ていい。

 でも折角だから名前で使いたい。いや、いつか絶対使おう。

 などと魔法使いな自分の姿を想像していると、集落のある開けた場所が視界に入る。流石、影の中を移動すると早い早い。

 俺は影の中から出ると、集落からは見えないように太めの木を背に使うカードを確認する。


 アイスアロー×3 ウインドアロー×3 アースアロー×3

 サンダーボルト×2 アースボルト×2

 アクアショット×2 アースショット×2

 アクアボール×2 ウインドボール×2


 森の中なので火気厳禁である。それとシールド系は今回は使わない。影を使って一方的に攻撃するつもりだからだ。念の為にサンダーストームとアイスランスも準備しておく。銀のカードはまだまだあるが、効き目が薄いからと言ってバカスカ使うのは良くない。実験も兼ねて金のカードを保険にする。

 準備万端。早速戦闘開始だ。集落までの距離はおおよそ200mと言ったところか、FPSで鍛えた俺の華麗なるスナイプを見るがいい。

 カードを両手に意気揚々と隠れていた木から出てきた俺を待っていたのは、こちらをガン見しているゴブリンの集団だった。


 え? 何でこっちの位置バレてんの?


 これはあれか? 匂いや音で存在がバレていたってことか?

 俺は直ぐに影の中に入り仕切り直す。ゴブリンが何やら騒がしい。俺を探しているのだろうが、当然見つからない。取り敢えず再開するとして今度は木の上から出て、そこから狙おう。

 集落を見渡せるような木の上に移動するとアイスアローを再びカードの山から取り出し、いつでも使えるようにして影の中から出る。

 その瞬間、ゴブリンが一斉にこちらに振り返る。


 どういうことだこれ?


 確認のためもう一度影に入ると、ゴブリンは俺を見失いあちこちを見渡し始める。それを確認して影の中から出ると…やっぱり一斉にこちらに振り返った。

 もしかして影から出るとき、人間には聞こえない音とか出てるのか?

 音ではなかったとしても、ファンタジー的に魔力とかかも知れない。でも人間は何も感じた様子はなかったし、街の中でも反応した人もいなかった。さっきの村人も当然無反応だった。となると人間は感じることはないが、他の生き物なら感じる何かが、影の中から出るとき一緒に出るとかそんな感じか。

 具体的なことはさっぱりわからないが、影の中から出て即座に不意打ちをかますのは相手を選ぶようだ。強力な能力と思っていたが、思わぬ落とし穴が見つかった。まあ、ゴブリン相手に発覚したのは不幸中の幸いと言える。

 思わぬ展開に戸惑ったが、戦闘を開始してしまおう。相手もこちらが高所にいるので弓を持ち出した。当たるような距離ではないだろうが、ここはファンタジー。当初の予定通り、一方的な攻撃を行うべく影の中に入り場所を変えてから攻撃を行う。直ぐに居場所がバレると言っても、何もしないよりかはマシである。

 今度は地面の影の中から出ると同時にアイスアローを使用。予想通り、誰に対して使うかという操作を求められる。これらの攻撃用カードは対象を指定しなければ使えないらしく、その対象も有効でなければ発動しない。そこらへんの木に試し撃ちしようとしたが発動しなかったのである。岩に対して「開錠」や「解毒」を試みたがこれも不発に終わった。

 対象を最も近いゴブリンに指定するや、カードが光の粒となって消える。そして瞬時に30cmほどの氷の矢が空中に生まれたと思った瞬間―


 ゴブリンの眉間に見事な氷の角がにょきっと生えた。


 何が起こったのかもわからずに頭に氷の矢を生やしたゴブリンが崩れ落ちる。それを見ていたゴブリン達がパニックを起こす。倒れたのでわかったが、どうやら氷の矢が頭部を貫通したようだ。後頭部にも角が生えている。

 俺はというと対象を指定すればあとは勝手に飛んでいくことよりも、その速度に驚いていた。200mほどの距離を一瞬で到達しているのだ。どう考えても音速を超えている。ならばその運動エネルギーは如何程か?

 考えなくてもわかる。この魔法カード、相当強い。

 そうと判れば他のカードも直ぐに試してみたくなる。

 銀のカードでこれならば金のカードなら? 白金のカードなら一体どれほどの強さになるのか?

 正直に言って、この時の俺は浮かれていた。戦意を喪失し、逃げ惑うゴブリンを後ろから魔法で撃ち続けた。当初の予定を無視して、影に入ることなくカードを使い続けた。

 アローを使えば頭部に刺さり、ボルトを使えば胸を貫き他のゴブリンにもダメージを与える。ショットは一度に三,四発の玉を発射するのだが、散弾のようにゴブリンの体を穴だらけにした。ゴブリンの足は遅く、森の中に逃げ込めたのは数匹だけだった。それさえもアクアボールを続けて放つと、命中と同時に起こった小規模な水の爆発で、まとめてバラバラに引き裂かれた。

 それはまるで、RPGでのレベリングのように淡々と行われた。初めての戦闘とカードの強さを知った時の高揚感なぞ直ぐに吹き飛んだ。ゴブリンが弱すぎて、戦闘と認識出来なくなったのだ。余りにも強さに差があったため、すぐに「戦闘」は「作業」となった。

 僅か数分で全滅したと思われる集落に近付き、周囲を見渡す。酷い臭いである。

 ゴブリンの体臭もあるだろうが、血と肉片に塗れた集落は酷い臭いだった。

「あー、流石にレベルアップとかはないか…まあ、ステータスとかないみたいだし当然だわな」

 居心地の悪さを誤魔化すように呟く。余りにもあっけない結果に、検証すら碌に行っていない。

 戦闘訓練とは一体なんだったんだろうか。

 集落なら何かあるかもしれないと、木と藁で出来た竪穴式住居のような建造物の中を覗くも何もなし。ならば一番大きい家になら何かあるだろうとそちらに向かう。

 臭いが服につく前にさっさと済ませてしまおう。何もせずに立ち去ったほうがいい気がしてくるが、折角ゴブリンを排除したのである。何かお宝があるかもしれないし、捜索しなかったせいで手に入らなかったというのは何となく嫌だ。ゲームでも罠があるとわかっているのに、マッピングのために踏みに行く気質がこんなところにも出ているのか、と自嘲する。

 急ぎ足で一番大きな建造物に辿り着くと、扉のない入口から中にはいる。

 そこには恐怖で震えるゴブリンの子供が集められており、それを庇うように大人のゴブリンが立ち塞がっていた。


 何だ、この状況は?


 見ればわかる。子供を大人が庇っている。自問自答し、俺はある可能性を失念していたことに気が付いた。

 ゴブリンが人と同じように暮らし、ゴブリンが人と敵対していない可能性である。

 亜人と呼ばれる人ではない種族がいることは知っている。それらは情報収集の際、シレンディという宗教国家が、宗教上「亜人を人と認めていない」と言うことを知った時に知り得た。その時、俺はこの亜人をドワーフやエルフと言った種族と認識していたが、もしかしたらゴブリンも亜人に分類されているのかもしれない。

 では、亜人とは何か?

 人とは異なる文明を持った異種族の総称か?

 なら俺がやったことは何になる?

 おおよそ彼らに文明と呼ぶべきものがあるのかは不明だ。この暮らしっぷりを見る限り、文明と呼ぶべきものは見当たらない。だがここには四十匹にも満たないゴブリンしかいなかった。人類に置き換えるなら田舎である。

 ならばゴブリンが暮らす街があるのか?

 そんなこと知るわけがない。こっちに来て日が浅いのに事情などわかるはずもない。

 ならばどうする?

 ゴブリンにでも聞いてみるか?

 そこで俺は気付いた。俺は「翻訳の指輪」を装備している。つまり、ゴブリンと会話が出来るのだ。そうとわかれば早速声をかける。

「なあ、一つ聞きたいんだが…」

「人間風情ガ!」

 俺の質問が終わる前に傍にあった、石の付いた棒で殴りかかってくる。

 予想外の行動に思わず手にしていたカードを使用してしまう。「しまった」と思う間もなく、それは発動した。

「サンダーストーム」…保険として手にしたままだった金のカードだ。

 つんざくような「ゴウッ」と言う音とともに、荒れ狂う雷が一瞬にしてゴブリン達を飲み込んだ。その後も轟音はやまず、周囲を雷がなぎ払う。藁と木でできている建築物など、ゴブリン共々あっという間に黒焦げにし、森にまでその被害は到達していた。

 幸いなことに森の木々には火はついていない。火事の心配は無さそうだ。

 しかしながらゴブリンについての確認には失敗した。「人間風情が」とか言っていたが人間を見下しているのか?

 何だか少しまずいことをしてしまったと思ってしまったが、あちらが人間という種を見下しているのであれば、出逢えば戦いとなるのは仕方のないこと。そうなればゴブリンに文明があろうがなかろうが、殺し合いは生存競争だ。俺に出会った不運を呪うがいい。

 そう納得すると、気分は先ほどとは打って変わって晴れ晴れとしたものだ。悩む必要なんて元々なかった。カードの魔法が強力であるとわかった以上、多少の面倒ごとくらい力で解決可能なのだ。


 そうだ。今ならどんな厄介事が来ても瞬く間に解決してやろう。物理的にな!


 自信を得て俺は堂々とゴブリンの集落だった場所を歩く。先ほどの場所には何もなかったが、もう一軒くらいは探しておこうと大きめの家に向かう。

 そこで俺は人を見つけた。

 薄汚れた裸の少女は縄のようなもので両腕を拘束されており、至るところに裂傷や痣が出来ていた。何よりも股から伝う血の跡と、地面に出来た奇妙な白っぽい塊と最悪の臭いがここで何が行われていたかを語っていた。

 その光景を直視出来ず臭いに耐えかね、嘔吐物が喉まで来かかったところで―


 少女と目が合った。


 


 すみません、先ほどの発言キャンセルでお願いします。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 敵対してるかどうか知らない状態で一方的に虐殺して金品探してたのか。色々やばいな。
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