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1-5:慰謝料をもらおう

「あ」

 間の抜けた声を上げた俺の体をすり抜けて行くように、風のようなものが通り過ぎる。物理的な接触のない風とでも呼ぶべき波動が影の中を通り抜けた。

 これが魔力なのだろうか? 

 現実逃避するかのように場違いな感想が頭に浮かぶ。

 こうなっては仕方がない。武器はあるが完全素人の俺が使ったところで勝目はない。よってぶっつけ本番になるが、魔法カードで戦うしかない。

 そう決心して取り出したのは、すでに束と化した魔法カードの山である。ホルダーでもあれば格好も付いただろうが、生憎とないので左手に山を持って、右手に一枚手に取り臨戦態勢を取る。これではまるでカードバトル漫画のデュエリストだ。

 素人丸出しだろうが知ったことか。俺は油断なく構える。


 いつでもあぶり出すがいい。影の中から俺を引きずり出したときがお前達の最後だ。


 強がりだが、今は戦うために必要だ。敵勢力は兵士八人に魔法使い一人…対してこちらは俺一人。しかも攻撃手段はあってもどんなものか自分でも把握していない。

 孫子曰く「彼を知り己を知れば百戦危うからず。彼を知らず己を知れば一戦一敗す。彼を知らず、己を知らざれば、戦うごとに必ず危うい」

 俺、超ピンチ。

 だがそんな俺を待っていたのは予想外の言葉だった。

「対象の魔力反応ありません」

「ちっ…やはり転移系の道具を持っているで確定か…よりにもよって転移系とはな」

 一番来て欲しくなかったぞ、と隊長が舌打ちする。 


 あれ? どういうことだ? 魔法っぽいのはこっちにも来ていたはずだが…まさかアレ気のせいだったのか?

 

 状況がわからず、頭を傾げていると兵士達が話を始める。

「転移系の道具ですか…隊長、それって滅茶苦茶厄介ですよね?」

「ああ、最高にな」

 隊長はうんざりとした様子で兵士の疑問に答える。

「いいか。『転移』ってのは予め指定されていた地点に瞬時に飛ぶことができる魔法だ。消費魔力が莫大でな、一日一回かそこらしか使えないし距離だってそう長くない。だから転移を使う相手を追い詰めるときは、転移地点を調べて待ち構えているところに転移させるのが一番いい」

 転移を妨害する道具でもあればいいだろうが、生憎とそんなものは国が一つ所持しているかいないか、という希少品らしい。当然この国にはなく、魔法使いが「我が国にも転移妨害装置があれば…」とかぼやいていた。

「でもな、今回はこのケースに該当しない」

 忌々しそうに隊長が続ける。

「いいか? 今回の相手は転移地点を設定することなく、転移で城から逃げ出している。部屋に残された奇妙な物に手がかりはないかと、上の連中が躍起になっているが…」

 状況が芳しくないらしく語尾を濁す。

 俺はダメ元で置いたルービックキューブの意外な奮闘にビックリしていた。

「まあ、取り敢えずは報告だ。転移持ちだとわかった以上、この人数では心許ない。一度転移を使わせたんだ。畳み掛けるための増員であるならば、上も承諾してくれるはずだ」 

 話をそう締めると隊長が歩き出すと、それに兵士達が続いていく。

 どういうわけか、先ほどの探査魔法とやらに俺は引っかからなかった。しばらく再使用は無いだろうし、理屈はわからないが使われても見つからないかもしれない。ならば多少のリスクは負っても情報収集だ。

 そうと決まれば全員が角を曲がったところで、俺は影の中から出て別の影の中に入る。先ほどのピンチに比べれば大したことではない、と逃げたくなる気持ちを抑え建物の影を伝い、兵士達の影の中に移動する。日が高いので密集していても中が狭い。入るにも一苦労だ。

 

 さ、話しなさい。君たちは大事な情報源なんだ。困ったことがあれば何でも相談するといい。 


「しかし隊長。本当に転移持ちなんでしょうか?」

「まず間違いないと見ていい」

 隊長が即答する。余程確固たる根拠があるようだ。間違った答えで自信満々にしてる奴を見てると笑いそうになる。兜で顔がちゃんと見えないのが悔やまれる。

「当日、城に出入りした人物の中に、該当するほどの魔力の小さい人物が確認されなかった」

 この言葉から察するに、どうやら俺は魔力が小さいことが特徴のようだ。そう言えば「魔力が皆無」とか言われてたな。

「城壁は遥か昔に作られたときのままであり、その機能を未だに発揮している。例え城壁を越えようが、穴を掘って出入りしようが、その全ては記録される。その記録の中に該当する者はなかったのだ」

「つまり…相手は『遺産』の能力を欺けるだけの力を持っているか、転移手段を持っているか…というわけですか?」

 隊長が大きく頷く。

「仮に遺産の力を欺くことができるとして…一体どんな能力なら可能だ? そして召喚された者のギフトは金をアイテムに換える能力と聞く。誰にも気付かれることなく城から出て、一瞬で探査魔法の射程から逃れることができるとなれば、もはや転移する道具を手に入れたと判断するしかない」

 残念だったな。手に入れたのは道具ではなくスキルだ。王国兵士諸君の推理は穴だらけだな。

 しかし「遺産」とか超古代文明とかあったのだろうか?

 何だかすごく冒険心をくすぐる物があるな。流石ファンタジーと褒めておく。 

「しかし、他の可能性…例えば魔力を隠蔽し、上手く城を抜け出た場合はどうでしょうか?」

「仮に魔力を隠蔽出来て、遺産の目を掻い潜ることは出来たとしよう。しかし探査魔法はどうだ? 隠蔽で誤魔化せるのは『探知』だ。『探査』の魔法は誤魔化すことはできない」

 その違いがわからないので説明して欲しかったが、説明がなかった。

 それからしばらく兵士達の影にいたが…ああでもない、こうでもないと歩きながら議論していた。内容がさっぱりわからず、もういいかと思い始めたところで正解がでる。

「もしかして、そいつには魔力がなかったりして…」

 その言葉に俺はドキリとするが、すぐに杞憂とわかる。

「魔力を持たない人間ね…お前、そんな生き物が存在すると思うか?」

 いるわけないですね、と笑いながら兵士が答えると合わせて他の兵士も笑い出す。

 どうやら魔力を持たない生物なんて冗談レベルのものらしい。つまりこの世界の住人には魔力があるのが当たり前で、魔力がないという考えには至らないと見ていいわけだ。

 魔法使いも「魔力反応がない」と言っていた。そして俺は魔力が皆無と言われていた。それはあっても無いようなものと捉えられていたが、実際はゼロだったということか。でなければ探査魔法とやらに引っかかっていたし、城の遺産とやらにも記録が残っているはずだ。

 要するに魔法で俺を感知することはできないということか。さらに俺が手に入れた「影渡り」は魔法の感知以外ではその存在がバレない。これらの事実から言えることは―


 俺、チートでした。

 

 ある程度の大きさの影がある、という条件こそあるものの条件自体難しくない。その効果が完全な隠密能力である。誰にも見つかることがないとか、どんな壊れ性能のスキルだよ。

 あんなこといいな、出来たらいいなの妄想が実行可能だよ。戦闘能力ないからってずっと自分が弱者だと思っていたら、実はとんでもない力持ってたよ。

 しかしそうなると予定を少し変更したい。

 誰にもバレることなく行動ができる。潜入捜査もお茶の子さいさい。

 豚王とそれに仕えるハゲ共よ。この俺様を勝手に呼び出したことを悔やむがよい。たっぷりと慰謝料を徴収してやる。

 そうと決まれば夜をまって王城に潜入だ。待っていろよ、お宝ちゃん。




「ふふふふ…ふぇっへっへっへ…」

 深夜、王都ローレンタスの王城の地下にある宝物庫に不気味な笑い声がこだまする。そこは金銀財宝で溢れかえっていた。よくもまあ、ここまで貯めたものだと感心する。いや、一国家の財力ならばこんなものか?

 だが、王都を見る限り文明は中世にすら届いていないように見えた。住民の顔色もよくなく、賊は蔓延り、経済の中心たる商業地区も人で溢れかえるほどではなかった。スラムがあり、そこに至っては論外。汚物の悪臭が隣の地区にまで移っている様は悪夢と言ってよかった。

 恐らくだが、これらの財は民を搾取して集めたものだろう。二週間に渡る情報収集で貴族や王族…政治関わる人間のいい噂など一度も聞かなかった。

 まあ、そんなことはどうでもいい。今ならあの豚王にも感謝ができる。


 ありがとう。俺のためにこんなにも金を貯めてくれて。


 俺は傍にあった宝箱を開ける。その中にはギッシリと金貨は詰まっていた。小さな箱を開けると宝石が、少し豪華な箱の中には幾つもの宝石をあしらった装飾品もあった。

 「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ」

 もう笑いが止まらんね。

 折角だからガチャにポイントを充填する練習もしておこう。確かイメージが大事だったはずだ。が、その前にやっておくべきことがある。

 金貨の山に手を突っ込み、無造作に手一杯の金貨を掴む。

 そう、金貨の掴み取りである。やだ…何このときめき、至福というか何というか…やめられないぞ。

「うひょー、ほっほっほっほ」

 ダメだ、笑いが止まらない。いつまでもやっていたい。


 練習? 後でするよ。


 金貨の山に飛び込む。転げまわる。金貨同士が擦れあり、チャリチャリと音がなる。たまらなく心地がいい。

 日本で言うなら札束の風呂に入っているようなものか。しかしこちらは純金。実弾感が半端ではない。

 腹がよじ切れるほど笑い転げ、たっぷりと堪能した俺は金貨の山に寝そべり息を整える。

 

 俺って結構俗物だったんだなぁ。


 自分という人間の新たな一面を発見した気分だ。何事にも無関心な人間だと思っていたんだが、一皮剥けばこうも浅ましいものか。

 だが、それもいい。ここは異世界で、俺には力がある。

 浅ましくて悪いか?

 欲深くて悪いか?

 やりたいことをやって何が悪い?

 この世界では許される。この国が、王が、貴族が、商人が、この世界に住む人間が、それを教えてくれた。

「力があれば何をしても許される」と俺に情報を売った商人が言っていた。まさにこの世界はその通りなのだろう。

 郷に入っては郷に従え、という言葉がある通り、俺はこの世界の郷に従うまでである。いや、こんな言い訳じみた言葉はいらないな。

 

力があるんだ、文句ないだろ?


 これで十分だ。

 しかしこれだけ笑い転げても誰もこないな。来てもらっても困るが。

 まあ、宝物庫の前に大きな扉があり、その扉のある部屋に通じる長い通路の先に見張りがいるだけだからな。距離があるし、扉はファンタジーらしからぬほどにぴっちり閉じるしで、よほど大声を出さないと聞こえないだろう。

 というか「開錠」のカードがなかったらどうするつもりだったんだ俺は。隙間から潜り込むつもりだったが、この扉に隙間なんてどこにもないぞ。

 どうにかなったから良かったが、やはり思いつきで行動するのは良くないな。これからはキチンと計画を立てて行動するべきだな。

 反省はこれくらいしてポイント化の練習といこう。

 初めて金貨をポイントにしたときは金貨でポイント買うイメージだったはずだ。早速金貨を一枚手にして「この金貨でポイントを買う」とイメージする。

 だが何も起こらない。

「…まさか回数制限だけじゃなくて、一ヶ月に百万ポイントまでとか制限まであるとかないよな?」

 不安が口から出たが、ポイントに変換するイメージで変換出来た。どうやら変換するまでに少し時間がかかるようだ。


 金貨1枚を100000Pに変換しました。


 頭の中に流れたメッセージを気にすることなく、金貨を色々なイメージで変換するのを試みる。

 だが、どれも上手くいかず、結局最初のポイントに変換する以外は使えないことが判明した。少しくらい融通が利いてくれればいいのに。

 次は金目の物は変換できるか試してみる。取り敢えず明らかに高そうな黄金の裸の女性像を手に取り、ポイントに変換しようとする。


 黄金の像を2500000Pに変換しました。


 手にした像が消え、頭の中にメッセージが流れた。

 どうやら金目の物を直接ポイントに替えることもできるようだ。250万ポイント…素晴らしい。

 では次の実験だ。

 宝箱を持ち…上げられないので手に触れた状態で変換を試みる。だが失敗。手にした状態でなければ出来ないのか? それとも箱に入っているのはダメなのか? 質量かもしくは種類が多いのも対象外になるのか?

 何が引っかかっているのかわからないので一つずつ潰していこう。

 まずは箱。これは装飾品の入った小さい物でやってみたところ、無事変換に成功。185万ポイントに変換された。

 次に手に触れた状態で変換は可能か試してみる。これも可能。指に触れてるだけでも金貨はポイントに変換された。試しに触れずに変換を念じてみたが、流石に触っていなければ変換はできないようだ。

 次に質量なのだが…該当するほど大きいものがない。よって次、複数のものを同時に変換する。金貨のように同種の物ならば変換は可能なのは知っている。なので右手に金貨、左手に金の指輪を持って両方を同時に変換しようと試みる。

 結果は失敗。どうやら一度に複数の種類を変換することはできないようだ。

 一度に一種類しか変換出来ないのはわかったので、次は一度にどれくらいの量を変換出来るか検証しよう。丁度そこに金貨がぎっしり詰まった箱がある。早速検証開始だ。

 おもむろに手を宝箱の中に突っ込むと、金貨を変換と念じる。さて、どれくらい変換されるかな?


 金貨1177枚を117700000Pに変換しました。


 金貨が全て変換されたことで、ゴトリと宝箱の中で変換されなかった物が底に転がる。そんなことより一億である。1億1770万である。ガチャ換算で2354日分である。おおよそ六年半に少し届かないくらいか。


 あれ? 思ったよりも少ない気がするな?


 ここは一生分のガチャ代金を頂いておきますか。地球の俺一生分の慰謝料だからね。それくらいはもらっても罰は当たらないね。

 テンションは最高潮。俺は目につくものを片っ端からポイントに変換していく。

 

 金の彫刻、180万ポイント!

 

 宝石が大量に飾られた金のティアラ、980万ポイント!

 

 金塊、580万ポイント!

 

 大きな宝石の指輪、2800万ポイント!

 

 って高いな!? マジックアイテムだったか?


 多分魔法の剣、4280万ポイント!


 これも多分魔法の盾、3000万ポイント!


 武器防具はやたら高いな。狙い目だろうが、数はそれほどないので取りすぎればすぐにバレる。本気で追手を差し向けられるのは面倒である。ここは厳選して取るべきだ。これだけ変換してもまだほんの一部に過ぎないのだ。まだまだ取っても直ぐにバレることはないだろう。さあ、次にいくぞ。


 基本に戻って金貨126枚、1260万ポイント!

 

 やたらでかい宝石…と見せかけて隣の指輪、8万ポイント! はい、ハズレ。


 銀の女神像、85万ポイント!


 低いのが続いているのでマジックアイテム狙いで指輪、48万ポイント!

 

 ならばここで逆転の金ピカの魔法剣、45…ってゼロ多いな!

 

 いくらだとゼロの数を数える。

「45億ポイント…だと?」

 一体何を変換したんだ? すぐに変換したものを戻せないかイメージしてみるが…出来ないようだ。ならばログだ。何を変換すれば45億などという途方もない数字になるのか、すごく気になる。なんか国宝級の一品を変換した気がしてならない。だとすればすぐに気付かれてしまう。テンションが上がりすぎて碌に確認もせずに変換した結果がこれだよ。

 どうにかしようと色々とイメージしていると、少し前にイメージしたログが出てくる。イメージの反映に時間がかかるのはどうにかならないのだろうか?

 ともあれ一番新しいログはこうなっていた。

 

 聖剣アスカロンを4500000000Pに変換しました。


 あ、これあかんやつや



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― 新着の感想 ―
[一言] なろう名物、異常に馬鹿で幼稚になる主人公 小学生? 何のために魔法鞄出したの? 敵地でだらだら遊んでるとかヤバすぎ
[気になる点] 良いアイテムは残して使い道がないアイテムだけポイントにすれば良いのに 特に金貨は色々使えるのに考え無し過ぎでは? [一言] 成人した大人ではなく、小学生レベルの残念主人公
[一言] むしろ国の運営できないくらい根こそぎいただけばいいのではw
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