1-2:ガチャを回そう
理不尽のフルコースと常識破壊のコンボをくらい、俺の精神は削れた。それはもう削岩機でかき氷を作ろうとするかの如き無茶っぷりに、俺のなけなしの精神も頭も限界寸前である。どうしたもんかと、つい口に出る。ため息もついでにでる。しかし、どうしたものかと頭を抱えてもやることは一つしかない。
そう、ガチャである。
連中は「ギフト」と呼んでいたが、所謂「スキル」と認識していいだろう。ポイントの確認が出来るかと思ったところで「残高999500P」とでた。どうやら一回500ポイントのようだ。つまりあと1999回使用可能である。
貯金を食いつぶすほどソーシャルゲームにどハマリした中毒者が、異世界に来てまでガチャができる。それも他人の金で、だ。しかもギフトとやらは一般人でも持てば魔王と戦えるほど強力らしい。アタリが出れば一体どれほどの力となるか想像出来ない。
しかし何が出るかは不明。だが、勇者として召喚された以上、強力なものが出るのは約束されたも同然。これはチートアイテムか何かをゲットして、一般人から勇者か英雄にジョブチェンジするフラグが立っていると見た。
ポジティブに考えれば考えるほどいける気がしてくる。アニメや漫画にもある通り、力なき主人公が力を手に入れ、最高のハッピーエンドに向かって爆走する様を想像すれば、あれくらいの理不尽ならお釣りがくるのではないか?
むしろこれから起こるであろう、チート&ハーレム(願望)を考えれば収支は余裕のプラスなんじゃないか? よろしい、ならばこの理不尽にも目を瞑ろう。
さらにポジティブ思考を加速させる。もう何も怖くないし、嵐の中田んぼの様子だって見に行ける。パインサラダの用意はいいか? さあ、行くぞ!栄光のドロー!
パンツ(白)を手に入れた
なんだろう…嫌な予感がしてきた。しかしそんな予感に怖気付く俺ではない。何せ他人の金なのだ。変態にクラスチェンジするフラグは早々に折れることを祈りつつ、張り切って続きといこうか!
「91回目…またコモンか…」
あれからガチャを回し続け、出てくるガチャにランクをつけた。
銅をコモン、銀がアンコモンで金がレアだ。これ以上があるならスーパーレア、ウルトラレアと言ったところか。これまでの戦績は銅62回、銀27回に金2回である。現在の収穫をまとめるとこうだ。
金:短剣 ポーション
銀:カード×18 ポーション×4 石×5
銅:ハズレ×36 パンツ×21 ポーション×3 カード×2
おわかり頂けたであろうか?
そう、出てくるアイテムがなんなのかさっぱりわからないのだ。ハズレは本当に見たままなので説明はしない。
何に使うかわからないような物や奇っ怪なオブジェクトに、百均ショップで売ってるような雑貨をどう説明しろというのか。キッチンで使う便利アイテムとかでても、使い方がわからないものばっかりなんだよ。でもポケットティッシュは取っておく。
パンツも説明不要だが、男物もちゃんとあった。比率が19:2というのは一体どういうことだろうか?
次にポーションだが、レアリティに応じて、液体の入った容器がちょっとずつ豪華になっていること以外さっぱりわからない。どんな効果があるのかすらわからない。そもそもポーションかどうかすらわからない。
ファンタジーだからという理由でポーションとしてるが、毒である可能性だってある。金と銀のポーションらしきものは取っておくとして、銅のポーションはどうするか…一先ずは保留としておく。
その次は石。拳ぐらいの大きさの石。もうまんま石。ちょっと色が付いてるからファンタジー的に考えて、魔石とか何かの力を持った鉱石と予想している。価値があることを祈るばかりだ。
そしてカードだ。このカード、レアリティに応じて裏の模様の色が違う。銀なら銀色で裏に、銅なら茶色だ。それで表はと言うと、中央の大きな四角い縁の中に絵が書かれており、その上に日本語で文字が書かれている。火の玉の絵で「ファイアボール」と書かれてたり、氷の矢で「アイスアロー」などがある。推測だが、これを使用すれば絵の中の効果を得られると見ていいだろう。
早く試したいが、密室で使うものではないので我慢する。様々な種類があるので現状最も有用と見てよい。それで、現在のカードはこうなっている。
銅:着火、流水
銀:ファイアアロー、アイスアロー×2、ウインドアロー×2、ファイアボルト、サンダーボルト×2、アクアショット×2、ウインドショット、アースショット、ファイアボール×2、アクアボール、アースボール、ウインドシールド、解毒
銅はカードが出にくい割にパッとしない。銀は攻撃的なものが多い。解毒があるなら治癒とかもありそうなのだが「ヒール」ではないのだろうか? 基準がさっぱりわからない。まあ、まだ数が少なく判断材料がないから仕方がない。
最後に短剣だが…ほんとに価値がわからない。綺麗な装飾なので価値はあると思うし、何よりレアものである。魔法を発動させたり特殊な効果が付いていてもらいたいものだ。
それでは、まだまだ回せるので続きといこう。たかだか百回にも満たない回数で、レアのその先にあるものが出るとは思っていない。ソーシャルゲームに魂を売った俺はこの程度では折れんよ。問題はレア以上があるかどうかわからないということだ。
ともあれ92回目を回したわけだが…またしても銅である。これで八回連続だが…まあ、しょうがないね。よくあることだ。中身を確認すべくガチャ玉に触れると、いつものようにぱかっと二つに割れ中身が飛び出す。
それは拳ほどの黒い三角形の物体だった。黒いだけの無地のビニールで包装されたそれを手に取ると、よく知る手順でビニールを剥がしていく。
「そんな…まさか…」
俺は信じられないといった表情で剥き出しになった黒い三角形の物体を恐る恐る口に運ぶ。
パリッ
表面を覆う黒いシートは海苔…そして中身は勿論米である。そう、コンビニのおにぎりだ。
「いよぉぉぉぉっし!」
おにぎりを片手にガッツポーズを取る。外に誰かいたら聞こえるだろうが構うものか。この心の叫びを声に出さずして今の喜びを表現などできようはずもない。
まさしくおにぎり。ジャポニカ米である。まさか異世界に来て早速米が食えるとは…この感動、誰に伝えればいいのか!?
あいつらはダメだ。さらに俺の評価を落とすだろう。となると、この感動は独り占めか…罪なものだ。しかしおにぎりが出るという事はインスタントラーメン、お茶やジュースもあるのではなかろうか?
それとも食べ物全般が出るのか?
試行数が少ない現状ではまだまだわからないことだらけだ。お茶が欲しいと思いつつ、部屋に備えられていた瓶に入ったぬるい水を飲み、もそもそとおにぎりを完食する。おかかだったので次は鮭かツナマヨが欲しい。シートに何が入っているか書かれていないのは少し不親切だが、贅沢を言うつもりはない。
それはともかく、どうやら同レアリティの中でも出やすいものと出にくいものがあるようだ。百回につき一つおにぎりが手に入ると仮定して、おにぎりコンプリートには一体何度回せばよいのだろうか? そう考えると二千回という数字が少なく思えてきた。
まあ、まだ1900回以上残っているから、それまでに何かでればまた金貨をもらえるだろう。それに先ほど出た短剣の価値次第ではすでに追加課金が決定かもしれない。今はとにかくガチャを回してアタリを引くことが重要である。
そして93回目も銅…ってこれ歯ブラシか?
まさか生活用品も出てくるとは思わなかった。なんか金さえあれば結構まともな生活できる気がしてきた。あ、金さえあれば何とでもなるのは普通の話だな。
94回目…銅、ルービックキューブは…ハズレだな。こういった玩具はこっちだとどう見られるんだろうか?もしかしたら高値で売れるかもしれないな。
はい、95回目…黒っと…黒!?
俺は思わず二度見した。黒というと、クレジットカード的に考えて最高のレアなのだろうか? 目の前で転がる真っ黒の玉を見ながら考える。
「…車とか出てこないだろうな?」
玉よりも中身の方が大きい場合がある以上、この部屋よりも大きな物が出てくる可能性も考慮に入れておく必要がある。現代のものがチラホラ出てくるので少し警戒してしまう。圧殺は勘弁してもらいたい。
ここで開けるか否か、じっくり考える。本当なら「やったぜ、レアゲット!」というノリで開けていただろう。いつもの調子なら間違いなくそうしていた。何が出てくるのかさっぱりわからないので警戒するに越したことはない。
「よし、開けるか」
まあ、レアゲットの誘惑には勝てないし、有用なものを手に入れないとこの先が怖い。黒い玉に指を触れるとゆっくりと真っ二つに割れ、中から光が漏れ煙が出てくる。演出がつくとは思わなかった。
七色の光と白い煙が消えた後にはキラキラと光る玉がそこにはあった。玉から玉か…いや、これはよしておこう。
いつもの通り玉に「使う」という意思を込めて指先で触れる。その瞬間、それは流れ込んできた。
「な!」
驚きのあまり思わず声が出る。これもガチャ玉だと思っていた。しかしこれはまったく別のものだ。
「…はは、はっはっはっはっ、はーはっはっはっはっ!」
笑うしかなかった。流石はファンタジー、何でもありのようだ。俺の中に流れ込んできたものは「知識」と「力」である。
「それ」がどのようなものか?
どうやって使うか?
どのような効果があるのか?
全てがはっきりとわかる。調べる方法がなくとも断言できる。俺は新たなスキルを手に入れた。こっちではギフトというが、わかりにくいしこれからもスキルでいこう。
それで、手に入れたスキルだが…一言で言うと影の中に出たり入ったりできる能力だ。影の中も移動できるようで、歩くよりずっと早く移動ができる。更に影の中は気配など感知されないというおまけ付き。
どうやら野生の獣相手だろうが完全な隠密行動が可能らしい。但し、探知魔法には引っかかるようだ。原理はわからない。ちなみに影の中から一方的に攻撃することはできないようで、武器だけ出すとかも無理だ。体の一部だけ出して攻撃は可能だが、一部でも出た途端相手に感知されるので弱い相手にしか通用しなさそうである。注意事項として入ってる影が消えると強制退出となる。
光が天敵とは勇者っぽくないな。
しかし「○○のスキルを覚えた!」とかナレーションでもないとスキルを覚えたかどうかわからない。あと名前もわからない。人に聞けばわかるかもしれないが、能力を他人に明かすのは危ない。調べるあてもないとなると、自分で名前を付けることになるわけだが、ネーミングセンスには自信がない。取り敢えず「影渡り」と無難なところにしておく。
新たなスキルを試したいが、まだ1905回ガチャを回せるのでさっさと回してしまおう。
96回目、銅でパンツ…ブリーフはいらんなぁ。しかも赤い。誰が履くか、こんなもの。
97回目、金でカード。
金でもカードがでるのかと驚く。「サンダーストーム」と書いてある。君は暫定切り札に決定だ。
98回目、銀…って銀ではないな、これ。もしかして白金、プラチナか?
確かに銀の色じゃない。この白さは白金と見ていいだろう。驚きの白さだ。無警戒に開けると光が漏れる演出の後、出てきたのは鞄。肩にかけるタイプで大きさはノートパソコンを入れる鞄より少し幅広なものである。中を開けてみると、そこは真っ暗で何も見えない。
「…四次元鞄…いや、魔法の鞄か!?」
試しにそこらに散乱しているハズレを片っ端から入れていくと、いくらでも入っていく。
「おお、全部入ったよ」
これはいい物を手に入れた。やっぱり冒険には魔法の鞄や袋がないとね。流石ファンタジー、わかってるじゃないか。黒、金に白と立て続けにレアが出てる今、正しく流れが来ている。さあ、続きだ。
99回目、銅でCDケース。もちろん中身はない。この手の使い道が思いつかないハズレは始末に困る。
そして記念すべき百回目は…銅かよ。しかもパンツで紫とはがっかりである。ちなみに現在あるパンツの種類は白、黒、ピンクと緑に先ほどの紫。白と青の縞パンと白黒、紅白の縞パンに白のローレグと黒のレースで10種類である。男物は割愛。
気を取り直して101回目に行こうとしたがおかしい。
幾らガチャを回すイメージをしても無反応なのである。まさか紫のパンツが原因か?
ガチャ渾身の紫パンツが不評だったから機嫌を損ねたのか?
そんな馬鹿な。ごめんなさいガチャさん。実は紫のパンツ大好きなんです。だから機嫌を直してください。いや、そんな訳ないな。となると回数制限だろうか?
子供じゃないんだからそんな制限要らないだろ。こっちは良識ある大人である。身の丈に合わない課金などするわけがない。しかし回数制限以外となると、すぐに思いつくものがない。金はあるのに回せないとは、何とももどかしい。
「おら、クレジットカードだ。回させろ」とか言ってみても何も変わらない。今はこちらの人間が納得するようなものがでなければ不味い状況である。最悪、この短剣と魔法の鞄を差し出す羽目になりそうだ。
まったく、さっきの流れは一体どこに行ったのだろうか。
そろそろ活動報告にも色々書き始めます。
人物紹介、設定等もあったりしますのでお暇な方はどうぞ。そちらは纏まり次第こちらにも載せる予定をしております。