7-15:帝都再び
(´・ω・`)遅れ申した。
一先ず中継地点となっているであろうドローン、その他諸々を破壊し尽くしたことを確認するとようやく一息つく。まさかの射程距離外という予想だにしなかった展開にどうしたものかと頭を悩ませていると、ライムがハイロの排除を願い出る。だがこの提案は却下。如何せん距離があり過ぎるので、ライムと離れることになる。それでは俺の身が安全とは言い難い。
情けない話ではあるが、幾ら「領域」が増えようが未だその扱いに関しては素人の域を出ない。対イデアを想定している以上、ライムと離れるのは愚策である。
「とまあ、そういうわけだから、ライムは俺の傍を離れないように」
俺の言葉に嬉しそうに抱きつくライム。挟みこまれた腕で胸の感触を堪能しつつ、どうしたものかと考えながら森を歩く。曲がりなりにもこちらは厄災。万に一つとして殺されることなどあり得ない。しかしながらこちらから向こうを殺そうとなると、これまた幾らでもコピーを用意していると思われるハイロを殺し切るのは正直言ってかなり難しい。
できないわけではないが、その労力とリスクに全くリターンが釣り合っていない。現状脅威度の低いハイロを消し去るのに、脅威度が最も高いイデアに隙を見せるなどできようはずもなく、こうして俺は考え込む羽目になっている。
「いやはや……面倒な相手だ」
十分に考えて出てきた第一声がこれである。漫画なら「本体を倒せば全部消える」という展開で楽だったのだが、生憎と全部消さないとダメという結論が出てしまった。これを「面倒」と形容する以外に何と言えば良いのか?
ともあれ、脅威度自体は低いと見るには十分な情報は集まっている。名案を思い付くか、更なる強化を待ってからの対応でも遅くはないはずだ。そんな訳で、中継地点となるドローンの全破壊を以て、敵対異世界人であるハイロを放置することに決定する。
恐らくこまめにドローンを飛ばしてくることが予想されるので、その都度破壊することになると思われるが、その程度ならライムに任せれば問題はない。位置情報なら俺でも容易に把握できるので、自動で監視する何かがあれば放置しても安心だ。
(幸い領域が増大したばかりだからな。移動の合間に簡単なものでも作れば良い)
そこまで考えると俺は満足気に頷く。さっさとこの森を抜けて次の目的地へと移動しよう。
ということで「転移」を使用して再び神器一号で移動を開始。目的地を帝国首都ディバリエストに定め、ルートを決定したところで風呂を沸かす。森を歩いたので気分的にさっぱりしたくなったからである。冷たい飲み物の用意も万全だ。そして風呂が沸くまでの時間でちょちょいと自動監視用のブツを作る。
「名前は……いらんか」
パッと思いつかなかったので命名はなし。イデアの目を流用して作られたビー玉サイズのカメラアイっぽいものが付いた球体。機能は隠密性を重視しつつ十分な機動性を持たせた特化型で、俺の「領域」を用いて作られているため通常手段での破壊はほぼ不可能。バッテリー不要で何かあればすぐに知らせてくれる便利な代物だ。
少ないコストで作ったにしては思いの外優秀なものに仕上がった。やはり既にあるものを利用する、というのは正解だったようだ。そんな訳で早速即席監視システムを放ち、ハイロの動きを監視させる。同時に領域ネットで大気圏内にあるドローンをすぐに検索ができるようにショートカットを作成しておく。「取り合えずはこんなもんか」と風呂場へ移動。ライムと一頻り楽しんだ後、風呂上りに冷えた清涼飲料水をタオル一丁で飲む。
「っあー!」
一気に飲み干しアルミ缶を机に置いてベッドにダイブ。
「はー……問題はディバルをどうするか、だよなー」
結局何も良案が思い浮かんでいない。今後を考えれば帝都は可能な限り無傷で残しておきたい。なのでディバルだけを奇麗に排除したいわけなのだが……やはり位置が悪い。
「上手いこと地下施設だけを転移させるというのは……」
できないわけではないが、コストが重すぎる。「領域」で実現できないわけではないが、そのためだけに世界を改変するなど幾ら何でも無駄がすぎる。かと言って馬鹿正直に転移させようものならどんな防御手段があるかわからないため、最悪無駄に終わることを考えれば実行に移す気にはとてもならない。
力業に訴えればコストやリスクが大きく、物理的手段で行うならば帝都が無事では済まない。つまりどちらを取るか、という選択だ。いっそディバルをおびき寄せるためにセフィヨスを生かしておけば良かった、などと考えてしまう。
(いやいや、そのディバルの能力が未知数なところがあるから、各個撃破が必須なんだろうに……)
そもそもの話、能力が不明だからこそ少しでも勝率を上げるためにこの順番を選んだのである。現状では人事は尽くしたと言っても過言ではない。何事もなければ後4日で目的地へと到着する。それまでに何か出れば良いのだが、期待はほどほどにしてどう攻めるかの打ち合わせはしっかりとやっておこう。
方針だけ定めて特に何もしなかった日の翌日。ドローンの排除を確認した後、本日のガチャを回す。
銅×48 汎用カードとパンツと食料品に雑貨。
銀×40 汎用カードと消耗品に食器
金×11 汎用カードと消耗品
白×1 汎用カード
なんというか在り来たりな結果に終わった。「幸運」のカードを対ディバル戦に温存して置こうと思ったのだが、流石に普通過ぎてコメントするのが難しい。強いてこれまでと違う点を挙げるとするならば、銀のガチャ玉から銀食器が出てきたということだ。何の効果もないただの銀のスプーンを眺めて溜息を一つ吐く。
カードに関しては何が出るか把握しているが、それ以外となると残念ながらとても覚えきれるものではない。「まさか銀にも食器があったとはなぁ」と、相変わらずの突拍子のなさに我が能力ながら感心する。
ちなみに能力改変時に高レアリティの排出率を僅かではあるが上昇させている。具体的に言えば銅を引く確率を凡そ10%ほど減らすことに成功している。なのでその分銀以上が出やすくなっているはずなのだが、現状確率は収束していないのか、そこまで体感できるほどの効果が見られない。
「まあ、いずれは収束するだろう」と一先ずこの件は終わりとする。ガチャの内容に関しては明日以降に期待すればいい。そう思っての翌日の結果がこれだ。
銅×50 汎用カードとパンツと食料品に雑貨。
銀×43 汎用カードと消耗品に学習机
金×6 汎用カードと靴
白×1 汎用カード
何と言うか「幸運」のカードの温存を止めたくなる普通過ぎる内容である。なお、金装備の靴は「歩行速度上昇」という性能が微妙な物だったので廃棄処分となった。そして銀から出た学習机――特殊な効果等は一切ないただの机である。勿論廃棄。一体何故こんなものが出てくるのか、と自分の能力を問い詰めたい。
ともあれ、本日中には帝国に入る。そうなればそこからは敵地である。ロレンシアとかいう滅びかけの国は敵地とは呼ばない。ただの道で十分だ。今日もライムとスキンシップを取りながら対ディバルについて話し合う。内容に関してはライムが脳筋と判明しちょっと困っている。
(力業が手っ取り早いのは確かなんだけどさ、もうちょっとスマートにやりたいんだよ、俺は)
思うだけで口には出さない。うちの娘、俺の発言に敏感すぎてちょっとしたことで凄いショックを受けたりするから、その辺り結構気を遣う必要がある。なのでこの場合はこんな風に言い換える。
「それは最終手段だなー。俺としては実質最後の戦いのようなものだし、もっとこう印象に残るようなものにしたい。あっさり終わらせるにしても工夫が欲しいところなんだ」
俺の言葉に考え込むライム。
「今後を考えると帝都は残しておきたい。その上で完璧と言って良い奇麗な勝ち方はないかと考えているんだが……条件的に不明な部分があってこれというのを思いつかない」
「なるほど、そうでしたか」
納得するライムに頷く俺。正直なところ「次元斬」を使っていなければ候補としては優秀だったのだが、残念ながらイデアの目を相手に加減をする余裕などなかった。ユニーク系なので当然変換の対象外。効果の再現も当然不可。座標さえ特定できてしまえば帝都の被害を最小限に抑えつつディバルを撃破できていたのだが、ないものねだりをしても仕方がない。
そんな感じに丸一日神器一号で移動しながら対ディバルについてライムと語る。結局日が変わっても帝国側からの接触はなく、それどころかドローンの接近もなかった。まさかとは思ったが、翌朝には普通にドローンを排除。「実は協力関係にある」という可能性が頭を過ったが、それならサフィヨスを見捨てはしなかっただろう。
仮にその後――つまりここ数日の間にできた共闘関係なら準備も不十分であることは間違いない。何せ中継地点となるドローンは破壊し尽しているのだ。一体どんなことができるのか教えて欲しいくらいである。
なにはともあれ本日の成果。
銅×55 汎用カードとパンツと食料品に雑貨。
銀×38 汎用カードと消耗品に服
金×7 汎用カードと消耗品
ついに白金すら出なくなった。明日の「幸運」に賭けるしかない。そして出てきた服なのだが……男物の燕尾服である。特殊効果として「汚れにくい」とあるが、正直趣味ではない上に、ライムに着せるにしてもサイズが全く合っていない。ここに来てガチャ運は右肩下がりと少し不安になってくる。なんにせよ、勝負は明日である。
結局のところ、取るべき戦術は「誘い出し」をまず行うことに決まった。俺が自身の分身(低コスト)を作りディバルの下へ向かう。通常戦力での妨害を行われるなら撃破して進み、ディバルの下へ案内されるようなら挑発して誘い出す。また、分身を使って座標を特定しつつ魔力をゼロにする仕組みを解析。
基本的に地下での戦闘は考慮していないが、向こうが出てこない場合は周囲の破壊も許容する。地下の破壊が難しい場合は最悪撤退も考える。力業は最終手段であり、こちらの損失を可能な限り避けることを最重要とする。
方針としてはこんな感じになった。これ以上は明日のガチャの結果次第である。これまで妨害が一切ないことが不気味ではあるが、半端なものは意味がないことを同じ厄災であるディバルがわかっていないはずはない。またディバルとは違う思惑でこちらに関わる連中がこないのも少し気になる。
(少なくとも、城内では何かあるだろうがな)
何かしてきたところでまた笑ってやるだけだ。予想外に順調すぎる道程に、日が変わる前に帝都が目視できる距離まで来てしまった。仕方なしに、帝都を前にして一晩ゆっくり休むことにする。ここまで妨害ないのであれば、ディバルは俺を待ち構えることを選択したと見るべきだ。ならばこちらも万全を以て当たるとしよう。




