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7-10:久しぶり、死ね

 ローレンタリア王都――その王城の城壁とそれを囲む帝国軍があった。どうやらまだ戦闘中らしく、遠目からでも兵士達がわらわらと動いているのがわかり、ピカピカと城壁から魔法が撃ち出されているのも見て取れる。その光景を車内から見ていた俺は、欠伸を一つしてベッドから起き上がる。

「やっと着いたかー」

 俺は大きく伸びをして服を着替える。最早自宅のように神器一号の中ではラフな格好をしており、ライムに至っては裸婦である。いや、その日の気分で裸エプロンにしたり下着姿だったりと色々と着せ替えをして楽しんでいるだけで、裸というのは実は結構少ない。改良した「作成」のスキルでマイクロビキニなど布地面積の少ないものはどうにか形になった。

 何の疑問も発さずに喜んで着用してくれるので、新しい衣装への欲求は増えるばかりである。またメイド服や踊り子衣装でそれっぽく振る舞えるように特訓もした。パナサを初め、何人かの踊り子の動きを記憶しているおかげか、そちらの方は再現度が大変素晴らしく良い娯楽にもなった。車内では狭いので屋上部分でしか堪能できないのが難点だが、星空の下で見るのは中々風情があって良いものだった。

「巫女、ナース、スーツ……ああ、学生服も欲しいな。しまった、葵の学生服を手に入れるべきだったか?」

 口に出して言うと変態っぽいが、今更そんなことは気にしない。俺は欲望のままに生きるとさっき決めたのだ。

「他は……くノ一も良いな。北欧系美人っぽさがあるからアンバランスさが……となると和服も試してみたい。いや、その前に入手しやすい衣装から――」

 俺は思考に没頭して呟きながらも神器一号から降りると収納モードに切り替え、手にした立方体を魔法の鞄に入れる。

「城の中では何が手に入るか……ああ、その前に豚だ。あの豚王にちょっと絶望を味わわせるのが先だ」

「豚でございますか?」

 俺の呟きを聞いたライムからの質問に「ああ、豚だ」と頷く。と言っても「豚」というキーワードだけではわかりにくいので簡単に説明。

「なるほど、お父様をこの世界に呼んだこの国の王ですか」

 心中複雑なのだろうな、と表情が安定しないライムを見て笑う。大方「お父様から全てを奪った抹殺対象」と「お父様をこの世界に呼んだ功績」がぶつかっているのだろう。なので俺はこう言う。

「何にせよ、あの豚は俺の獲物だ。手出しはなしだ」

 そう言うとライムは神妙に頷いた。そこまで気負う必要はないのだが、ライムの中の判断基準では大きな何かがあるのだろう。ともあれ、目的地が視界に入っているということは「転移」を使えばすぐにでも到着する。だがすぐには使用しない。どうせなら一つ用事を済ませてしまいたいのだ。

 そんな訳で取り出したるのは本日のガチャから出た白金のアイテムであるこの手鏡。名称は「遠見の手鏡」というそのまんまのアイテム。使用すれば遠くのものをこの鏡面部分に映し出す便利なマジックアイテムである。言ってしまえば無限に使える「遠見」のカードみたいなものだが、一時間に一回しか使用できない。ちなみに本日のガチャの内容はこんな感じだ。


 胴:汎用カード×1 パンツと食料品に雑貨。

 銀:汎用カード×13 

 金:汎用カード×2 

 白:遠見の手鏡


 カードの数が妙に少ないこと以外は特に代わり映えのしない成果である。一応この便利アイテムもあるが、ぶっちゃけ情報画面を用いれば「遠見」自体が不要なものとなってしまっており、正直「なくても全く問題ない」という評価である。しかし出てしまったのなら使わなければ勿体ない。そんな理由で使用してみたのだが――やはり手鏡。サイズが小さくて不便に思える。

 結局は情報画面を使ってある人物を探すことにする。こっちは「検索」も標準装備なので捜し物ならこれ一つで完璧に対処できる。ただ一点、この情報画面は「領域」を用いて実行しているので、これを使っている間は他のことが疎かになる。例えば防御。画面を開いている間はイデアからの攻撃を俺は防ぐことはできない。抵抗はできるが、完璧に防御するのは恐らく不可能だろう。

 つまり、これはライムが傍にいる状況でなければ安心して使えないという欠点を持っている。まあ、これだけ便利機能を詰め込んだ性能なので、何のリスクもなしに使えてしまえば面白みがない。数ある手段の中から取捨選択をするからこそ面白いのだ――と力説していたところで目的の人物を発見。

「ライム、転移を使うから――」

 掴まれ、と言う前にライムが俺の腕を胸で挟むように抱え込み、その感触を味わいながら金のカードで「転移」を使用。城壁の上にスッと着地すると同時に周囲の兵士達が一斉にこちらに槍を向けた。ライムが攻撃する前に「その必要はない」と合図を送り、俺は一歩前に進み目当ての少年の前に出た。

「はじめまして、少年。俺の名前は白石亮――この国に召喚された日本人だ」

 突如目の前に現れた「日本人」と称する男に、藤井はどう出るのかと少しワクワクしたのだが……

「え? あ、はい。はじめまして、藤井永遠ふじいとわですが?」

 現状が把握できていないのか?

 それとも思考が追いついていないのか……どうにも反応が芳しくない。登場が急すぎたのは勿論だが「突然誰もいない場所に現れた」という部分が引っかかっているのかもしれない。そういうことならば少しは説明が必要だろう。

「ああ、わかりやすく言うと向こうの方から瞬間移動でやって来たんだ。突然お邪魔してすまないね」

「いや、瞬間移動って、えっと……?」

「うん。じゃあ、これから行くところあるから、君も来てもらえるかな?」

 そう同行を促して歩き出したところ、周囲の兵士達が俺の前に立ち塞がる。

「勇者様! 今この場を離れられては困ります! このような誰ともわからぬ輩の言葉に耳を貸してはなりませぬ!」

 兵士長っぽい人物がありきたりなセリフを吐くが、当の藤井君は言うと「でも、日本人だって言うし……」とはっきりしない態度である。

「ああ、ちなみに俺はこの国に召喚されて、王様とかに殺されそうになったから逃げ出したクチな。そっちも利用できないとわかると殺しに来るから気をつけろよ?」

「はあ!?」

 なので親切にこの国の実態を教えてやる。

「黙れ! そうか、貴様が王家に仇なす狂人、シライ・シリョーか! こいつを討ち取れ! 大金の掛かった賞金首だぞ!」

「ライム、煩いから周り片付けてくれる?」

 俺がそう言った直後、周囲で起こる広範囲バラバラ殺人事件。大量の血が城壁から流れ落ち、呆然とする藤井君。

「さ、行こうか」

 そう言って促して先を行く。その直後――雷撃が俺を襲うも、それはライムの手により阻まれる。

「何やってんだ、あんた!」

「え、掃除だろ? こいつらの生死なんて気にするなよ。ほら、さっさと行くぞ」

「ふざけんな! 殺人鬼なんかとご一緒できるかよ!」

 一応殺したのは俺ではないのだが、確かに命令したのは誰かと言われれば「俺」である。拒絶するなら無理強いをする気はないので、そのままにしようかとも思ったが一応一言くらいは言っておくべきだろう。

「何を吹き込まれているかは知らんが……事実を知りたいなら付いて来い。ここにいる連中が、守るに値しないどころか、存在価値すらないことを教えてやる。そもそもだ、逃げ出した者が何故こうして戻ってきたのか考えろ。見た感じ高校生くらいだろうが、考える頭はあるだろう?」

 俺の言葉に拳を握りしめる藤井君。だがその目は納得しているとはとてもではないが言えない。それでも同じ日本人の言うことだからか、突如現れた俺についていくという決断を下した。時間が少しかかったせいで距離が少し空いたが、城壁を降りて城へと向かう俺とライムの後ろを走って追いかけてくる少年の姿を確認すると、鞄の中に手を突っ込んで目的の物を取り出す。

「少年ー、コーラ飲むかー」

 まだ少し距離のある彼に声をかける。しかし警戒してか返事はない。なのでそれはライムに渡す。氷の魔法でペットボトルのコーラを冷やすライムを横目に、黙々と王城へと歩いていると、後ろから声がかかった。

「何で殺した?」

「邪魔だから。あんまどうでもいいこと聞いてくれるなよ。がっかりする」

「てめぇ……!」

 どうやら彼は人を殺したことに怒りを感じているらしい。

「その程度で怒るなよ。戦争してれば殺しもするだろ? こっちじゃ、命ってのは馬鹿みたいに軽いんだ。城壁の上で聞いたろ? 俺はこの国と戦争しているようなもんなんだよ。ま、一方的に殺されかかって反撃した結果でしかないがなー。というわけで、ちょっとここの豚王に用があるわけだ」

 黙って俺の後ろを歩く少年に畳み掛ける。

「別にお前さんを無視しても良かったんだがなー……一応同じ日本人だし、教えてやるくらいは、と思ったんだよ。なにせ、もう一人の日本人はこっちの人間に殺されてるしなー」

「他にもいるのか!?」

 やはりこの話には食いついた。なので事実を教えてやる。

「ああ、いたよ。さっきも言った通り殺された。隣のロレンシアって国だ。そこで召喚されて、独自に帰還方法を探そうとしたところ、王様の機嫌を損ねて拷問された末に殺された。ちなみに俺もそうなりそうだったから逃げ出した」

「嘘、だよな?」

「はあ? 何で嘘をつく必要があるんだよ? ちょっとスキル――いや、ギフトを手にして浮かれてないか?」

 俺がそう言うと藤井君は黙ったまま喋らなくなった。俺を信用ならない人物と見て警戒するのは構わないが、身の程というのは知って欲しい。煽ってやっても良いのだが、メインディッシュが控えているのでつまみ食いはよろしくない。なので、俺はさっさと本命に向かうことにする。

「ライム、王城まで飛ぶぞ」

 俺がそう言うと隣りにいたライムは空のペットボトルを投げ捨てこちらにそっと寄り添う。そして俺が肩に腕を回し、ライムがこっちの腰に手をやると跳躍した。

「おい!」

 少年を無視して城へと飛び移り、外壁を破壊して内部に侵入する。すると破壊音を聞きつけてか兵士達がやって来る。中には俺の顔を覚えている者もいたのか、指をさして大声を上げるが煩いのでカット。遅れてやって来た少年が最初に目にしたのは城の床を染める大きな血溜まり。

「真っ直ぐ豚王のところに行くから。ついといで」

 それだけ言うと歩き出す。向かう先は玉座の間――そこに豚王はふんぞり返っている。正確に言えば、あいつは太りすぎているので移動することが困難になっており、あの場所から動くことはあまりない。

「お、ここだな」

 見覚えのある扉が見えたので、俺は嬉しそうにそう呟いたのだが守兵は二人こちらに槍を向けている。

「侵入者だ! 陛下を――」

 助けを呼ぶ前に二人まとめて扉ごと破壊。銀のカードが一枚減ったので、代金を豚につけておこう。そして悠々と破壊された扉から玉座の間へと入り、赤いカーペットの上を歩く。

「貴様は!」

 豚王の姿を確認するとニンマリと笑う俺――向こうもこちらの姿を確認し、驚きを隠せない肉塊が蠢いているが、そんなことはどうでも良い。ようやく会えたこの喜びを今すぐ奴に伝えよう。

「ようやく再会できたな。いや、ほんと久しぶりだな、豚ァ。そんな訳だから、ちょっと死んでくれよ」

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