1LevelからのDungeon -”呪われました”の19作目-
ここはとある辺境の”お山”です。ある呪いにかかっている、美少女であり、”ガンマン”であるところのシルフィさんは、師匠である、凄腕の”ガンマン”であるビリーさんと一緒に、お馬で移動していました。あいのりです、小さな身体できゅっと、前に座るビリーさんに抱きついています。ぽっかぽっかと蹄の音がのんびりと、リズミカルな、常足です。
2人して、辺境の”お山”を下っています。簡易なテントや、カバンを葦毛の体格の良い、馬につけて、ちょっと遠出をするような感じの、旅装です。”お山”の麓にある、辺境の街、”サンヒル”へと、向かっています。今日は、”怪物”狩人の免許の更新に、組合とか、ギルドとか言われている互助組織へと移動しているのです。ついでに、街をぶらぶらしてみようか?という作戦です。この場合の作戦というのは、シルフィさんと、ビリーさんが、街で楽しくすごすということを、達成目的にしている、そんな感じのもので、立案したのはええと……誰なんでしょう?どちらからともなく、遊びにいきましょうか?という話になったのだと思えばいいんじゃないでしょうか。
移動にかかる時間はのんびりやって、半日ほど、旅装をすこし遠出バージョンにしているのは、気が向いたら、街の向こう側へ足をのばして、良い景色をみながら狩りでもしようか?という、ぼんやりとした計画があるからです。
もっとも、その気になれば、移動するのはほぼ一瞬でできるくらいの、機動力、巡航能力の持ち主であるところの、二人ですが、まあ、そこはそれ、旅の風情を楽しもうという、まったり、ゆったりとした、心持からの発する欲求のなせる業の結果、ぽっかぽっかと、いう速さでございました。
ちなみに、ビリーさんとシルフィさんが騎乗しているこの葦毛の馬は、一見ふつうの馬に見えますが、”お山”の”鍛冶屋”にして”発明家”である黒い竜の人であるところのヤミさん(10万と38歳)がいろいろ改造した、馬です、いわゆる機械化馬(”さいぼーぐ”といっていました)ですね。本気で駆けると、軽く音の速さの4分の1くらいには達するそうです。燃料は水で排気ガスもでません。”ていねんぴ”で”えこ”なんだよという、うたい文句でございました。
「良い天気ですね、お師匠様」2人でのお出かけでにこにこ気分のシルフィさんが、昇ってきた太陽の日に銀色の髪を輝かせながら、言いました。
「そうだな!山を下るから少し暑くなるかもな!帽子はしっかりかぶっておけよ!」朝からテンションが高いビリー青年(見た目20前半)であります、いつも彼は元気なのです。
「はい!」嬉しそうに、師匠とお揃いの幅広の帽子をしっかりとかぶりなおす、素直なシルフィさん(10歳くらいに見える)でありました。
***
ここは、辺境の街サンヒルです。時折近くの平原や、森から、湧き出る”怪物”から、市民や財産を守るために、石造りの城壁が周囲をかこっています。シルフィさんとビリーさんは、街へ入る手続き(身分証の提示と、少々の通行税を支払ます)をして、早速”怪物”狩人互助組織、通称”ギルド”に向かいます。
”ギルド_guild”という呼び名は、通称です。正式名称がとても長い半公半民の組織で、その役割は、各施設ごとに多少の差異はありますが、世の中に降って湧いてくる災厄であり、資源でもある”怪物”を狩る、狩人をゆるやかに統括、援助するというものです。
具体的には、”怪物”を狩ったあとにのこる各種”水晶”の買い取りや、武器を所持したままでの移動、街など、生活空間への入場の許可をするための免許の発行と、更新手続きの2点が主たる活動です。ちなみに、”怪物”から得られる”水晶”は各種スキル(skill)で種々の素材へと変化させることができる、資源となるのです。
そのほかにも、狩人の戦闘能力や、魔法スキルの利便さに注目して、多種の隙間産業的なお仕事を斡旋するとか、武器防具のメンテナンスを行う工房が併設されているとか、各種狩り用の道具の販売店が入っているとか、個人のスキルを確認するための、人物鑑定士が常駐しているとか、軽い喫茶から、本格的な料理を提供する食堂まで、その規模はまちまちです、お食事処、がギルド内に開いたり、とかとか、そのギルドそれぞれに、特色があったりします。
サンヒルのギルドには、食事処が併設されていまして、シルフィさんと、ビリーさんは免許の更新を終えて、軽く遅めの昼食を食べているところです。
「うん、結構おいしいのですね」もぐもぐと、サンドイッチとスープという取り合わせで食事をしているシルフィさんが、満足そうに言います。
「そうだな!だがまあ、シルフィが作るやつには負けるけどな!」ばくつきながら言うビリーさんです。
「てれますね!」満面の笑みのシルフィさんです。
そのまま食事をしながら、まったりとしていると、食事処での噂話が聞こえてきます。近くのテーブルで話題になっているのは、とある変わった”迷宮”のお話のようでした。話を披露しているのは、やけに声が通る青年で、どうやら、周囲にもこの話を聞いてもらいたいという意図があるようでした。
「その変わった迷宮は、挑戦する狩人を選ぶんですよ」良い声の青年です。
「ほうほう、迷宮に入るのになにか条件があるんだね」受け応えるのは、同じテーブルに座る、体格の良い男です。
「そうなんですよ、その迷宮はなんと”1レベル”の人しか入れないのです!」どよどよと、周囲が明確な声にならない声を上げます。
「そりゃ、だれも入れないんじゃね?1レベルなんて、5歳児でもいねえぞ?」野太い声が聞こえます。
「あかんぼうしか入れない”迷宮”ですか!シュールですねぇ」これは女性の声です。
「そうなんですよ、なのでこの迷宮にはまだ誰も入ったことがないそうなんです」良い声の青年は笑みを浮かべながら言います。
「……あー、それでその迷宮って、いつごろからあるんだね」白い髭を生やした、小柄な、でも筋肉質の男が聞きます(どうやら、丘妖精の人のようです)。
「なにぶん、噂ですので正確な年数はわかりかねますが、最低でも1年前には存在が確認できていたということですよ」青年が答えます。
「じゃあ、そりゃ嘘だな。そんなに長く放置してりゃー迷宮暴走の1つでも発生してなきゃおかしいぜ」これは野太い声です。
「そうかもしれませんね」ひょいと肩をすくめる青年です。「でもですね、同時にこんな噂もありましてね」と声を潜めて……それでも結構周囲に響いていますが……言います。
「その迷宮があるあたりの村へ、避難勧告がひそかに出ていて、すでに迷宮から徒歩半日以内の住民の避難は完了しているそうですよ」
周囲が不自然に静まります。
「ま、まあ所詮噂だしな……」
「そうですよ、噂ですよね」
「……噂ということにしておこう……飲むか、おかわり」
「師匠師匠、どういうことなんでしょう?」シルフィさんが、聞きます。
「お祭り騒ぎが起きそうだということさ!よし、午後からの予定は決まったな!」
「?よくわかりませんが、わかりました!でも1レベルの人しか入れない”迷宮”ですか、おもしろそうです!」にぱりと笑うシルフィさんでした。
***
ここは、サンヒルを含む辺境の街を納める領主の館です。館のやや広めのホールに、領主さんと、ローブを着た男と、その他、5人の狩人の男女が集まっていました。
「さて、状況を再確認いたしましょう」領主が何度かした説明を再度行います。
1.昨年、領地内に、1レベルの人しか挑めない”迷宮”が出現した
→1の補足_1 ”迷宮”は自然発生する現象である
→1の補足_2 ”迷宮”内では、”怪物”が湧いて出る
→1の補足_3 ”怪物”の強さ(Level)の最高値は出現する総数に比例する
(多く出現していると強い個体が多くなる)
2.その侵入制限のため、発生してから1年程だれも”迷宮”内で狩りをしていない
→2の補足_1 "怪物"は自然消滅しないので狩らなければ増え続ける
→2の補足_2 "怪物"は普通、”迷宮”の外には出て来ない仕様である
→2の補足_3 しかし、迷宮内に抱えられる怪物の数には限りがある
3.その結果、”迷宮”から増殖、強化された”怪物”があふれそうになっている
→3の補足_1 一度あふれた怪物は一定の時間(数日から数週間)あふれ続ける
→3の補足_2 強い個体ももちろん、外で自由に暴れてしまう
→3の補足_3 怪物があふれることを”迷宮の暴走”などといいます
4.ゆえに、どうにかして、怪物を減らすか、この迷宮を消滅させなければならない
→4の補足_1 迷宮を消滅させるには、”核”となる”迷宮水晶”を破壊すればよい
→4の補足_1 ”迷宮水晶”は迷宮の最奥で、強大な”怪物”通称"Boss"に守られている
「以上が現状です」沈痛な表情の領主さんです。「現在、迷宮の徒歩1日以内の住人には避難をしてもらっていますが、未だ退去が間に合わず、時間が必要です」
「それをふまえて、対応策の説明です。”1レベル”しか入れないという条件を達成するために、レベルを下げるスキルを開発しました。ただ、かなり不自然なスキルのため、発動に相当な代償がかかります」領主は、ローブを着た男へと説明をするようにうながいしました。
「はい、説明いたします。まず、このレベルを下げるスキルですが、一部の”怪物”がもつ、スキルの劣化コピーです。通常は攻撃か接触かのような、何かを引金にして、確率的に対象のレベルを引き下げるという特殊攻撃ですが、これを、被害者?被験者?の同意を得ることで、任意に発動するようにしました」淡々と説明をする黒ローブの男です。そして、黙って聞いている他の面々です。
「代償は、使用する人のレベルです。一度このスキルを使用すると、使用者のレベルは恐ろしいことに1まで下がります。また、対象のレベルダウンの効果は必ず1レベルになります」感情を押し殺して淡々と続けます「1度使用すると、そのスキルは消滅します、ただし、発動の対象は少人数ですが、複数を選べます」
「ということだ、何度も説明を聞かされて、うんざりしているとは思うが、覚悟は決まっただろうか?領民の為に、君たちをレベルを1に下げさせてください。そして、”迷宮”を踏破してほしい」領主さんは、5人の狩人に頭を下げて頼みます。
彼ら、彼女ら、は、辺境領地の貴族の継承権が低い、次男とか、三男、もしくは、女性とかです。この状況を打破するために、半ば生け贄として、選ばれました。みんな覚悟を決めてた顔をしています。そこには、まあ、いろいろドラマとかがあったのでありました。
「頭をあげてくださいな、領主様ともあろうものが、配下の貴族にそういう態度はいけませんね」女性の狩人が、透明な笑みを浮かべて言います。
「情けない、むざむざ君らを、死地へと送るしかない、この不甲斐なさを、笑って欲しい」苦しげな表情の領主様です。
この領主様、身内の不慮の事故でなり手がいなくなって、本来は領主になるはずのない立場の若い青年が、その地位を引き継いでいます。少年時代、ともにやんちゃをした地方貴族の少年少女が、この目の前にいる5人だったりいたします。
その、幼なじみ(恋心をいだいていた女性を含む)を、迷宮暴走を遅らせるための捨て石にせざるを得ない、その事実に身を引き裂かれそうな気持ちになっています。
また、領主様は、領主の責任に押しつぶされそうになっている、幼なじみの為に、自主的に生け贄になろうとしている、彼らに、理不尽な怒りを感じたりもしていますが、立場上それを見せるのは我慢しています。
「なーに、俺たちなら、軽く”迷宮”のボスを狩って、おとなしくさせられるさ」ことさら明るく言うのは、ムードメーカーの童顔の青年です。
「そうだぞ、大船に乗った気で、吉報を待つが良い」大柄な男が太い声で言います。
「うん、帰ってきたら、たくさんの水晶を買い取ってもらって、豪遊だあ」華美なドレスの女性が、右手を振り上げながら、言います。
「あのその、あまり思い詰めないでくださいね?私たちはぜったい帰ってきますから」黒髪の清楚な女性が声をかけます。
「そうだな、これだけの手柄を上げれば、君たちの結婚を反対する勢力も黙るだろうしね」クールな青年が、珍しくふざけて言います。黒髪の女性が頬を赤らめます。
「……みんな」領主は涙をこらえています。
「さあ、あまり時間もないんだろう?てばやくやってしまおうぜ」童顔の青年がにやりと笑いながら言います。
黒いローブの男は、悲しみを押さえて、彼らに一歩一歩近づいていきます。
5人の狩人は、それぞれに覚悟を決めています。
1レベルに落ち弱体化したのちに、迷宮の強化された怪物相手にどれだけ戦えるだろうか?とか、死ぬまでに何匹たおせるかなとか、彼女だけは守って、返して上げなければな、とか、各々、内心思いながらです。
と、その時でした。
ドタン、バタンとすごい音がして、広間の扉が開き、普段はおちついている家令が、血相を変えて飛び込んできます。
「なにごとだ!」領主は叱責します。家令はひゅーひゅーと息をきらしています。そして、言いました。
「め、迷宮が消滅いたしました!」
「「「「はあ?!」」」」驚愕な内容に、全員等しく、思考が停止したのでありました。
***
少し時間をまきもどすことにいたしましょう。
深夜、日が変わったくらいの時刻。人気のない”迷宮”の前です。
「それじゃあ、師匠、ちょっといってきますね」るんるんと、スキップをしながら、”迷宮”の入り口である”門”をくぐる少女さんです。それは、近所に散歩に行ってきますと同じ程度の気軽さでした。
1レベルの人しかくぐることを許されない”門”は、何も問題なく、シルフィさんを通します。
「おう、いってきな!気をつけてな」ビリーさんは片手をあげて気楽に見送ります。
「はい!気をつけて、師匠の分を残しておきますね!」迷宮に踏み込みながら、シルフィさんは言いました。
少女シルフィは呪われています。呪いの内容は、レベルアップ不可です。生れてから、10年、一度もレベルアップしたことがありませんでした。
正確にはこの呪いは、深夜に経験値が0になり、レベルが1になるというものでした。つまり、日が変わるまでに経験を積めばレベルアップできるのだけれども、日常生活で溜まる経験値が僅かで、一日ではレベルアップに達しない為、それが行われなかったのでした。
彼女は師匠にであい、”怪物狩り”という手段によって効率よく経験値をためる手段を手に入れました。そして、経験点が深夜に0になる前にレベルが上げられるようになったのでした。
あいかわらず、深夜日が変わる時にレベルは1に下がるのですが、レベルアップ時に加算される各種身体的、精神的な修正はそのままという仕様であったがために、彼女はめきめきと強くなっていきました、毎日毎日修行(”お山”での狩りのことですね)をして、どんどんレベルアップと、1レベルにもどるを繰り返したおかげで、非常識なまでの身体能力と知力精神能力を手に入れたのです。今では、500Levelくらいの”怪物”(一軍を壊滅させるくらいの実力があります)も鼻歌混じりで狩ることができるほどです。
そうして、生まれた、史上最強の1Level、それが彼女、”ガンマン”のシルフィさんなのです。
迷宮の中は、最初から、”怪物”の集団がひしめき合っていました。小型の人型の”怪物”や、大型の獣型、昆虫型、の、序盤には定番といわれる10から30くらいのレベルの怪物達が、それこそ100の単位で押し寄せてきます。シルフィさんは、にやりと不敵に笑い、両手に構えた”銃”を撃ち放します。銃口から、魔法の弾丸が飛び出し、”怪物”の軍団をまとめて吹き飛ばしていきます。
シルフィさんの”銃”はリボルバータイプのいわゆる拳銃のような形をしていますが、火薬でもって鉛弾を打ち出すものではありません。いわゆる魔力のようなものが、介在しない武器は、”怪物”に対して効果が低いので、その方法だと、ほとんどダメージを与えられないからです。
代わりに薬莢型の触媒を使っての、呪文を唱えない魔法の攻撃、と言う手段をとっています。”銃”という魔法の武器の、引金を引いて、薬莢のお尻を叩くという行為が、発動の条件となっているのです。この戦闘方法の師匠が、ビリー青年というわけです。ちなみに、ビリー青年の、もといた世界、の武器を模倣した、オリジナルな戦闘方法です。
魔法の光弾の威力は、使い手の能力に依存いたします。そして、シルフィさんは前述の呪いの副作用によって、非常識までに精神的な能力が上昇していますので、とても単純な光弾の魔法とは思えないほどの、威力を誇っているのです。その結果。
「『七面鳥を撃っているみたいだぜ!』でしたっけ?」という、師匠に習った台詞が出てくる程に、怪物達を易々と撃ち払っているわけなのです。七面鳥ってなんなんでしょうかね?とか思いながらです。
”怪物”を倒したことによる経験値が、彼女のレベルをどんどんと上げて行きます。それにともなって、レベルアップしたことによって手に入れられるスキルが彼女を更に強化して行きます。スキル(skill)といいますのは、攻撃のダメージが上がる特殊な”技”とか、動物とお話ができる、とか、生きて行く上で役に立つ、かもしれない、レベルアップ時に自動習得できる能力の総称です。人は誰でもその身にスキルを習得し、それを活用しつつ生活しています。習得したものは、自身でも完全には把握できません、傾向から推測する程度です。正確に知りたいときは”人物鑑定”のスキルをもつ人に見てもらう必要があります。
スキルは、普段の生活によって取得できる種類が決定する、傾向にあります。農耕や、職人さんたちは、その作業に見合う、草花の様子が分かりやすくなる、とか、手先が器用になる、とかのスキルを手に入れます。シルフィの場合は、戦闘を頻繁に繰り返していますので、それにふさわしいスキルが続々と積み上げられていくわけであります。
もっとも、動きを半ば強制的に行わせる、技系のスキルは、全く習得していきません。これは、彼女が無意識にその手のスキルを拒否しているからです。そもそも、技系のスキルは発動させることもなく、再現が可能なほどの、スペックが有る身体でありますので、スキル習得のアルゴリズムも空気を読んで、肉体の強化とか、鋭敏な感覚とか、精神的な疲れの自動回復とかのスキルなどの、各種能力の底上げ、に集中しています。
結果、可憐なガンマンの少女が、2丁拳銃で、”怪物”たちをなぎ倒して行く、無双状態が発生するわけです。素の、スキル無しの状態でもほぼ無敵なわけですから、その侵攻速度の非常識さといったらもう、ありえないほどであるわけなのです。
迷宮には、”怪物”だけではなくて、罠なども設置されています。これは、迷宮の核となる巨大水晶が、迷宮を操作して、作成しておく部類のものです。とうぜんシルフィさんの前にも立ちふさがるわけです、落とし穴とか、壁などから突き出る槍とか、毒ガスとか、色々です。しかし、それらは彼女持ち前の鋭い感覚で発動前から丸わかりで、時には避け、時には発動前に光弾で潰し、時には、壁を打ち破って、踏破していきます。もちろん、片手間に怪物をなぎ倒しながらです。
「ヤミさんのダンジョンの方が、罠のえぐさがうえなのですね」”お山”の竜の人が作った遊ぶ為のダンジョンと比較しながら、鼻歌混じりで進んでいく、銀髪美少女、シルフィさんでありました。
シルフィさんは、適度に怪物を減らしながら、迷宮の最奥に到達しました。ここまで半日も経過していません。広い凝った意匠の部屋には、一体の大きな人型怪物が立ちふさがっていました。
「おお、角つき黒山羊さん、コウモリ羽根プラスなのですね」シルフィさんは、”お山”で狩りをしていた時に、少しばかり骨のありました怪物を見て、驚きの声を上げます。
怪物は、直立する黒山羊で、いびつにねじれた大きな角を2本頭から生やしています。背中にはコウモリのような大きな羽根が2対ほど、見えます。怪物は一声大きく吠えて、シルフィに向かって飛び出しました。また、吠え声が発動条件になっていたのでしょうか、青白い炎が、シルフィさんの周囲から立ち上り同時に襲いかかってきます。
シルフィさんは、”銃”で、その直立黒山羊を迎えうち、……ません。ひらりと躱して怪物が守っていた奥の扉へと走ります。そして、その扉へ、光弾を連打いたしました。すると、通常では破壊できないはずの、ボスを倒さなければならないと開かないはずの、扉が、あっさりと破壊されて、奥へと入れるようになりました。
そこには、彼女の背丈ほどの、大きな水晶が中に浮かんでいました、シルフィは、背後から追いすがってくる直立黒山羊をあしらいながら、巨大水晶に近づいていきます。
***
迷宮の外、師匠のビリー青年は、ゆったりと立ち木にもたれかけていました。そして、何かに気がついたように、背をそこから離し、迷宮の出口に目を向けます。
地響きが遠くから聞こえてきます。それは、だんだんと大きくなり、ついには周囲に轟く大音量となりました。
「ししょー!ひっぱってきましたよー」風きり音とともに、シルフィさんが迷宮から飛び出てきます。その細く白い手には、自分の背丈ほどの巨大な水晶を抱えています。
その彼女を追いかけて、直立した巨大黒山羊を筆頭に大量の怪物が、迷宮から溢れ出てきます。
「はっは!やったなぁ最高だぜ、いえぃ!」と手を前に出して、シルフィさんの手と打ち鳴らします。そして、抜く手を見せず、”銃”を撃ちはなち、怪物を打ち抜きます。怪物はその身体の周囲に一瞬だけ生体障壁を浮かび上がらせますが、ほとんど抵抗なく、倒れ伏して、消滅します。
「はっはぁ!撃ち放題だぜ!」弟子と同じく両手でそれぞれ銃を操り、的確に素早く怪物を撃退していきます。
「ししょう!これどうしましょう?」シルフィさんは両手で”迷宮水晶”を抱えます。
「よし!”お山”の連中にいい土産ができたぜ!」
「じゃあ、このまま”お山”へ帰りますか?」小首をかしげつつ、迫ってきた獣型の怪物を蹴り飛ばして消滅させるシルフィさんです。そうです、彼女の筋力もまたレベルアップ時の補正で非常識なまでに上昇しているので、ただの蹴りが一撃必殺の威力をもたらすのでありました。
「そうするぜ!このまま狩りながら、”お山”へ凱旋だぁ!」右手を差し上げながら、言います。
「がいせんだー」
「奴を高く吊るせー!」「つるせー」なにやら物騒な台詞を吐きながら子弟は、ぴゅーと、お山へと去って行くのでありました。迷宮水晶を追ってくる、”怪物”達を嬉々として狩りながらです。
***
「つまり、何者かが、”迷宮水晶”を迷宮から持ち出して、そこのボスごと北の”魔の山”へと怪物を引き連れて行ったと……」信じられないことを聞いたという顔の領主様でございました。
「はい、正確な状況はわかりませんが、調査をした者の報告ではそのようなことがあったのではないかとのことでございます」青い顔の家令が、調査員からの、報告をいたしました。
「信じられない、まさかそんなことが……」貴族の狩人の一人が呟きます。
「そもそも、迷宮水晶って、ボスを倒さずに取り外せるものだったのか?」がたいの良い青年貴族が呆然と呟きます。
「無理ですよ、普通。人の技じゃないです」黒いローブの男も呆然と呟きます。
「ええと、でも、もしかして、これで”迷宮暴走”は解決できたということでしょうか?」黒髪の清楚な女性が呆然と呟きます。
「そんな気がいたしますわね」豪奢な意匠の女性が同じく、呆然と答えます。
「どうすればいいのかな?」童顔の貴族の狩人が言います。
「喜べばいいんじゃないのかな」肩をすくめながら、言うクールな青年です。
「そうだな、原因とか、犯人?とかは後で調査をしよう、今は、まあ、解決を喜んでおきましょう」領主が、幼なじみ達の命が助かったことを喜びつつ、笑いました。
周囲の貴族の狩人や、レベルダウンのスキルを使わなくて良くなった黒いローブの男とかも、笑っていました。なんだか、乾いた笑い声で、顔が引きつっておりましたが。
***
”お山”に帰るまでに、怪物を壊滅しつくした、子弟、シルフィさんとビリーさんは、”お山”の面々に、街から?のお土産を披露していました。
「で、これが、拾ってきた”迷宮”なのです」「だぜ」シルフィさんとビリーさんは、どうだといわんばかりの顔で、大きな水晶を机にドンと置くのです。
「「「元あった所へ返してきなさい」」」”お山”の面々の、皆様、みごとなご唱和でございました。
辺境地方の崩壊を、趣味全開で防いでしまった”ガンマン”子弟が、”魔の山”と呼ばれる面々にいっせいにツッコミを入れられるくらいの、平和な日常でございました。