雄介とミライ
しばらくするとさっきの女が本を持ってやってきた。「お待たせしました。この本ですね」女が持ってきた本は頼んだとおり『なく子も黙る』だ。「ああ、それだ。それと…」「承知しています」女が俺の手錠を外しながら俺は女に時間を聞いたところ11時と答えた。「それでは」女は去っていった。
11時。今日は確か仕事があったはず…ため息をついた。「…読むか」本を読み始めた。
佐久間は本を読んでいる間ずっと誰かの視線を感じていた。2時間経った頃、こちらを見る人が変わった。「何のようだ」本を読みながら聞く。「お食事をお持ちしました」女が軽食を持って来た。「2時間ずっとこちらを見ていただろ」「…いえ、私は見ていません」視線が違うとは云えない「そうか。見てる奴に云ってくれ。集中して本が読めないと」人に見られると読めない質だ。「それと…俺が勤めている有馬福祉公社の社長は多分…」有馬草太だと云おうとしたが止めた。違っていたら嫌だからな。「多分…?」女が小さく驚いた。『あの御方』か…「多分の次はなんだ、答えろ」威圧感が凄い…「もし違っていたら」「嫌か?」頷いた。
2人はしばらく黙っていたが、やがて戻っていった。
「もういいぞ、出ても」通気鋼からミライが出てくる。ミライが俺を固定するものを外しながら聞いてきた「なんでわかったんですか?」「…視線だ。最初に俺を見た奴とは俺を見る目が違った」最初は監視の目、しかし次に俺を見る目は俺だけでなく部屋全体を見た。「雄介さんは凄いです。私がどんなに頑張っても雄介さんはその上にいる…」俺は立ち上がろうとしたが何時間も座っていたせいか…「…手を貸せ」「はい」何故かミライは笑顔で答えた。