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5:警告 -WARNING-

――光――

光の中を金髪の少女が一人で踊っている。

鼻歌は俺の心を踊らせ、自然と笑みがこぼれていた。

俺の姿に気づいた少女が、嬉しそうな表情を浮かべ走り寄ってくる。

『おかえりなさい、お兄ちゃん。ずーっと待ってたんだよ』

「あぁ、ごめんね。色々と忙しくて」

俺は…この少女のことを知っている。

それは遠い昔からのようでもあり、つい最近のような気もした。

『うん、知ってる。大変だったんだよね』

「そう…大変だった」

でも、この少女といると心から癒される自分がいる。

『大きなおじさんも、キレイなお兄さんも、お兄ちゃんに一緒にいてほしいって思ってるんだよ』

「そう…なのかな?」

佐久間は敵意を燃やしていた気がするけど。

『そうだよ。お兄ちゃんはどっちの人がいい?』

「俺は…カーティスさんかな。結局佐久間とは戦ったし、カーティスさんの言う通り、世界が平和になれば良いかなって」

少女は少し哀しそうな顔をした。

『でもね、お兄ちゃん。平和っていうのは、どんなことだと思う?』

「え…それは…なんだかうまく言えないな」

そういえば平和というものが具体的にどういったものなのかなんて考えたことなかった。

『ふふふ、それじゃ今度会う時までの宿題だね』

「…そうだね、ちょっと考えてみるよ」

『きっとお兄ちゃんの周りは、これからも色々なことが起こるよ。でもそれは哀しいことの方が多いと思うんだ』

「そうなんだ、ちょっと怖いかな…」

少女は笑った。

『大丈夫だよ、お兄ちゃんが困った時は、アリスが守ってあげるから』

少女、アリスは小さな手で俺の手を握った。

『未来はずっと、光で溢れているよ…』


「いたたたた!」

身体中が痛い…俺はあのあと家に帰り、母親の手痛い治療を受けていた。

「まったく…身体中が筋肉痛じゃないの…何日も家に帰らないで、いったい何やってたの?」

俺の背中に湿布を貼りながら母さんが聞いてくる。

まさか言えるはずないよな…てゆーか言っても信じないだろうし。

「マサト君はまだ帰ってないらしいわよ?一緒にいるものだとばかり思っていたけど」

マサトは殺された…それこそ言えやしない。

俺は知らないフリをしていた。だがいつか、わかってしまう日が来るだろう。

俺はその時、どんな顔をすればいいんだ…

「まぁ和真ももう18だもんね、母さんは見守ってるからね」

そう言った母さんの顔が、なぜかどことなく淋しそうだった。

「悪いけど、また出かけるよ。会わなきゃいけない人がいるんだ」

一通り治療を終えると、俺は立ち上がって玄関に向かった。

「わかってるよ。和真は父さんの子だから…」

俺の後ろに続く母さんが、うっすらと笑顔を浮かべながら言った。

「え、何?」

俺の親父、冴木京介【さえききょうすけ】は、俺が小さい頃に死んだ。

葬式もやった気がするが、正確にいつのことだったかは憶えていない。

「父さんも和真のことをいつも見守ってるよ。だから無茶しないでね」

心配そうに見送る母さんに、俺は笑いかけた。

「大丈夫だよ。危ないことをする気はないし」

できればそうなって欲しくない。今まで通りの生活を取り戻したい。

そのために俺は、美里さんに会いに行く。

玄関を開け、教会に向けて勢いよく走りだした。

「…京介…あの子を守ってください…」


「和真さん、貴方がここに来た理由はわかります」

物音一つしない静かな聖堂、美里さんは俺の前を歩いている。

そういえば、今までこんな風に教会を見渡すこともなかった。

「それは能力を失う方法…ですね?」

俺は静かに頷いた。

このままこの能力を使い続ければ、間違いなく狙われるだろう。

ならば能力を失えば、俺を狙う理由はなくなる。

「残念ですが…不可能です。少なくとも私にはわかりません」

俺の思惑は、いとも簡単に崩れてしまった。

「もし能力を消すことができるなら、私も最初からそうしていました…」

そう言って美里さんは遠くを見つめた。酷く哀しい眼差しで。

「美里さんも…その…やっぱり能力でつらい想いをしたことがあるんですか?」

余計なことを…!

そんなことを聞けば余計悲しませるのは目を見えてるはずなのに。

と言った後に後悔した。

失敗した…という顔をしている俺に、美里さんは笑いながら口を開いた。

「他人の心が見えるというのは…良いことばかりじゃないんですよ」

そう言うと、美里さんは視線を窓の外に向けた。

正直、話を聞くまでの俺は心が見えるという能力がうらやましかった。

他人の心が見えるなら、相手がどう思っているのかわかるし嘘だって見抜ける。

「私はとても貧しい家庭で育ちました。父も母も毎日のように仕事で、家にいることなんて滅多になかったんですよ」

夕日が美里さんの顔を照らしている。

「それでも両親の暖かさは、この能力を使わなくても伝わりました。私をとても愛してくれてるって…でも成長して街に出てから気づいたんです。多くの人々は心の中に闇を背負っているということに」

何も言えなかった。

俺に何かやましい気持ちがあるわけじゃない。

だが美里さんは何十人、何百人の心の中を見せ付けられてきたのだろう。

その中には怒り、憎しみ、それらを含む負の感情だってきっと数えきれない程。

今まではうらやましいと思っていたが、もし俺だったら耐えられないかもしれない…。

「でも、それでも私を救ってくれたのは…ここです」

美里さんは立ち上がり、大きなマリア像に祈りを捧げた。

「私はここが好きです…ここには汚れも闇もありませんから」

振り返りながら笑って見せた。やはり酷く哀しそうな顔で…

「そして気づいたんです。この世には悪い人もいるけれど、それと同じ…もしくはそれ以上に良い人たちもいるって…」


教会から出た俺は、ゆっくりとした足取りで家に向かっていた。

能力は消せない…

その事実が俺に重くのしかかる…

なぜ俺に…いや、その前になぜあの時に路地裏になんか行ったんだ…

ふと周りを見る。

たくさんの人々が忙しそうに、あるいは楽しそうに通り過ぎていく。

きっとこいつらは何も知らないんだ。

この街で何が起こっているか、どんな奴らが潜んでいるか、もちろん恐ろしい能力のことだって。

…今の俺を美里さんが見たらどう思うだろう。

きっと哀しい顔をするに決まっている。

憎悪、後悔…今の俺はまさにそれらの塊だ。

いつもはできるだけ関わらないようにしている、柄の悪い奴らだってもう怖くなんかない。

だって怖いのは…自分自身だからだ…

ふと気づいたんだ。

自分を守るためとはいえ、この数日間で一体何人の人間を殺したんだ?

この手で、足で、ただの高校生だった俺が。

途端に自分だけが取り残されたような気になった。

知ってしまったから、この世界の闇の部分を。

「ちくしょう!」

誰にでもなく叫んだ。

通り過ぎる人たちが怪訝そうな顔で見ている。

そうだ、俺はどんな理由であれ…人殺しだ…

「くくく、勇ましいことだなぁ…」

いきなりの背後からの声に、思わず飛び退いた。

背後にいたのはコートに身を包んだ細身の男、目だけがギラついていた。

「だ、誰だ!?」

俺は街中だというのも構わず、男に対して敵意を剥き出しに叫んだ。

「こんな奴があの佐久間をねぇ…わからねぇもんだ」

ギラついた目で俺のことをジロジロ見てくる。

佐久間を知っているということは、当然関係者だ。

能力者かもしれない。

俺の剥き出しになった敵意がやられる前にやってしまえ…と叫んでいる。

しかし男は突然、戦う気のない素振りを見せた。

「やめな、街中だぜ?こんな人目がつく場所じゃ戦えねぇよ」

と言いながら男は煙草に火をつけた。

「…何の用だ?佐久間の仇討ちか?」

俺はできるだけ気持ちを落ち着けて聞いた。

「仇討ち?そんなつもりはねぇよ。ただある御方からの使いで来ただけだ」

てっきりそうだと思い込んでいた俺は、かなり拍子抜けした。

「ある御方?」

まさか組織のボスだと言っていた真中という奴か?

「バカが、言えるわけねぇだろ。とにかくその御方がお前を目障りに思ってるんだ。強さうんぬんじゃなく、どこにも属さないフリーな状況をな」

吐き捨てるように言った。

「まぁ警告ってやつだ。俺らの組織がどういう物かってのは入ってからじゃないと言えねぇが、うちのトップもお前のチカラを望んでいる。俺らと一緒に世界を変える気はねぇか?」

ニヤニヤ笑いながら聞いてくる男に、俺はそっぽを向いて拒否した。

「そうかい、まぁ明日までに考えな。もし拒んだ場合は始末していいと許しが出てる。どっちかというとそれを期待してるぜ…」

男は高らかに笑いながら去って行った。

何なんだ、組織に入らないなら始末するだと?

冗談じゃない…!

しばらく憎々しげに男の背中を睨みつけていた。

男の姿が見えなくなった所で、俺の方に走り寄ってくる男が一人。

見た感じ若者…その男が突然俺の襟首を掴まえた。

「おい!さっきの男はどこ行った!?」

高校生…俺と同い年くらいの男だ。

長い茶色の髪を振り乱し、怒りのこもった形相で俺を睨みつけている。

「知らねーよ!何なんだよお前は!」

俺は掴んでいる手を乱暴に振りほどいた。

くそっ、と呟き辺りを見回す高校生。

さすがにこの人込みでは、もう見つからないだろう。

「さっきの奴は、お前の仲間か?」

彼は一呼吸置いてから、俺に聞いてきた。

「んなわけないだろ。どう見たらそうなるんだよ」

すると彼はバツの悪そうな顔で謝った。

「そうか…悪かった。ずっと探してた奴を見つけたんで、頭に血が上り過ぎたみたいだ。」

さっきの男に恨みがある。そう言って彼は遠くを睨みつけた。

「何かされたのか?俺もさっき勧誘…ってか脅されたんだけど」

その言葉を聞くと、彼は驚いた表情で向き直った。

「なんだと!?それじゃお前も能力者…!?」

驚いた…まだ能力者はたくさんいるだろうと思っていたが、まさか数日の間にこんなにも出会うとは…

俺は数日前に能力に目醒めたこと、何度かこの能力を使い敵と戦ったことを簡単に話した。

「そうか…俺は周防隼人【すぼうはやと】一年前に能力が目醒めた」

どうやら歳は俺と同じ18だが、学校には行っていないらしい。

こんなチカラに目醒めて、追ってる奴もいるのに学校になんか行けるかよ…と少し笑いながら言った。

「そういや脅されたって言ってたな。また来るとか、そんなこと言ってたか?」

明日返事を聞きにくる…ということを伝えると、周防の顔が徐々に厳しい表情になった。

「まずいな…とにかく俺をお前の家に連れて行ってくれ。奴は危険な男だ…間違いなく戦闘になると思う」

最初俺は拒んだが、周防が今にも土下座しそうな雰囲気なので、渋々承知した。

俺は益々戦いの場に身を置いていくのかもしれない…

二人並んで歩く中、そんなことを思っていた。



2023年 4月8日


いつも同じ夢ばかり見ているのに、今日は珍しく違う夢を見ました。

もしかしたら夢の続きなのかな?

このままドラマみたいに続けばいいのにな(笑)

なんて、そんな夢みたいなことあるわけないか。

夢だけど。


いつも私を守ってくれるあの人。

なぜか知らないけど、あの人が泣いていました。

あんなに強いあの人が泣いているんだから、よっぽど哀しいことがあったんだよね…

私はあの人を慰められるのかな?

哀しそうなあの人の顔を見ると、私まで哀しくなってきちゃいます。


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