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神羅装甲 影継  作者: 桑名 啓之
雌雄決戦
97/117

武人 参

「準備から後片付けまでやってもらって悪いな」

「いや、三人とも好きでやっているから問題ないだろう……それより、少し勝手が過ぎたのではないかと思ったが……」

「気にするな。そのおかげでこうして一対一で話し合えるんだから、な」

 場所は変わって道場の中央。

 甲はあぐらをかき、要は正座で対面していた。

 昼食後、片付けをし始めた三人の所為で手持ち無沙汰になると、甲は三人に『五十嵐と少しだけ話がある』とだけ伝え、要を連れて家を出た。

「……それで、話というのは?」

「なに、単純に男同士の語り合いってだけだ。色々と気にかかることも多かったからな」

 言いながら甲は身体を前に進めた。

 乗り出すような姿勢に、大きく見開いた目。

 興味津々の様子を隠そうとするつもりは全くないようだった。

「……まず、仕合中『晴嵐流』って言っていたが、それが五十嵐の修めている剣術なのか?」

「あぁ。しかし、それがどうかしたのか?」

「…………いや、少しだけ流派が気になっただけだ」

 少しの考える間を開けられたあと、甲は手を振りながらそれを否定した。違和感を覚えたが、要はそれを深く追求しなかった。

「ただ、仕合中も思ったけど、晴嵐流はもしかして釼甲の装甲を前提にした剣術か?」

「……よく分かったな」

「それはウチ……富嶽流も同じだからな」

 言われて要も納得がいった。

 最後の一撃はそれまでとは異なり、身体の捻転だけで生み出された勢いによる攻撃であり、少なからず晴嵐流と通ずるものがあった。

 騎行での戦闘では当然だが足場が無い。そのため、落下や飛火による加速・武人自体の腕力が攻撃・防御両面で重要となる。しかし前者は釼甲の性能によりけり、後者は鍛えるにも人間である以上限界が存在する。

 そこで、編み出されたのが晴嵐・富嶽のような『釼甲の装甲を前提とした武術』である。足運びを省略した技もあれば、捻転・遠心力など使える自然力学を組み込んだもの、そして当然陸戦ならではの踏み込みを考慮した、威力を持つ技と様々である。

 誰がどのように扱おうとも、威力が一定の銃火器が普及した現在では、あまり重要性が低くなりつつあるが、それでも戦闘における思考はこれらの武術によってほとんど確立されているため、それを学ぶために武術を教えこまれるという場合も少なくない。

「ま、似た武術ものだから何となく感じたってことだ」

「……ということは、甲は武人なのだろうか?」

「あぁ。といっても、俺の釼甲は今外に出ているから見せられないけどな」

 要の質問に少し困ったような表情を浮かべながら彼は答えた。そして、彼は確認することがそれだけだったのか、話を変えた。

「……一つだけ、『防人』の意見を聞かせて欲しい」

 それはあまりにも真剣な、静かな口調だった。

 突然甲の纏う雰囲気が変わったことに要は一瞬驚いたが、それだけで彼もさらに姿勢を正した。

「……自分で答えられる事ならば」

「あぁ、それで構わない」

 真面目に、誠実に答えてくれると確信した甲は、一つ深呼吸をして、それを尋ねた。

「……救世主が見付かったら、その属員どうなる?」

 ……その異様な気迫は、憎みによるものか、怒りによるものか……感情の種類は分からぬが、誤魔化しを言えるような雰囲気ではなかった。

 要はそれに僅か怯みかけたが、すぐに気を取り直して口を開いた。

「……あまり公には出来ないが、生かして捕らえられた場合は正式に裁かれる場が設けられ、大和の法律によって判決が下される。証拠・証言で時間は掛かるだろうが、罪相応の罰が与えられる事は間違いないようだ。罪によっては……極刑も有り得る、とのことだ」

「……そうか」

 要の返答に、彼はどこか満足そうな顔をしていた。

「……この答えで問題ないだろうか?」

「あぁ、充分すぎる。それを聞けて少し安心したよ」

 言葉と共に、甲は要へと頭を下げた。

「……多分、五十嵐……いや、要なら成し遂げられる。だから、これ以上救世主の所為で涙を流す人を、生命を落とす人を作り出せないよう、徹底的に叩き潰してくれ」

「……………………諒解……した」

 彼の願いに、要は異様なほど長い間を空けて了承した。

 しばらくの間、道場は沈黙に包まれた。要は何か思うところがあるのか、静かに目を閉じ、深く呼吸を繰り返し、それからもう一度甲を見た。

 言いたいことが有ったのか、僅かに口を開きかけたが、それもすぐに閉じ、軽く会釈をして腰を上げた。

「……では、自分はこれで失礼……」

「……笠井大島かさいおおしまだ」

 要が立ち上がり、その道場を去ろうと振り返った瞬間、背中から語られた。

「……ここからさらに五分ほど山を登った先に無人の神社がある。そこから見て南西の方向に、霧がかかった島がある。そこが、救世主の本拠地だ」

「……そう、か」

 淡々と語られる情報に、要は苦々しく返事をした。

 その意味を、それまでの甲の言葉の意味を理解しているが為に、それ以上言葉を返すことができなかったのだった。

「そしてもう一つ……神宮では『気を付けろ』。知る者は潰す。それが救世主、だからな」

「……協力に感謝する」

 要は振り返らずにそう言った。

 振り返る事が出来なかった。

 だから、それだけ返して、道場を出ていった。


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