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《暴》

『…ふむ、確かに小生相手に十分間生存したか…これは意外な伏兵だったな』

『…ケッ…! 無傷な相手から言われてもあんまり嬉しくねぇな…!』

『強いとは思っていたが…まさかここまで化け物だとは…!』

 場所は変わって離れ小島に。

 三騎の戦闘開始から丁度十分が経ったところでの状況は…控えめに言っても芳しくない、というものだった。

 明言すれば、絶望的と言わざるを得ない状態だった。

 津雲の槍はまっぷたつに折れ、岩代の腕はおそらく折れているのだろう、力無く重力に従ってぶら下がっている、という有様であり、相方である楠のほうもそれほど酷くは無いとはいえ、主兵装である銃火器の弾薬は尽き、腹部装甲の隙間からおびただしい量の血液が流れ出していた。

 二人とも龍一や昴に敵わなかったとはいえ、学年の中では上位に位置する実力を持つ武人である。それでも、二人が協力し合っても今河籐十朗には一つ傷を着けることすらできなかったのだ。

 連携は一学生としては最高と言っても過言ではなかった。

 それこそ、教員相手ならば数人相手でも全員にそれなりの損傷を与えたことが出来たであろう。

 けれども、籐十朗はそれを軽く凌駕した。

 神技を一切使うことなく。

 圧倒的な技術のみで。

 絶望的な力量差だけで。

 立つのもやっとな岩代に歩み寄り、その手の十字槍の鋒で貫かんと構えた。

『しかし…小生も長居は出来ないのでな。約束の時間は付き合わせてもらった…故に、これで終わりにさせてもらおう…』

『クッ…』


『悪いがこれ以上の暴挙は俺が許さん』


 岩代が腹を括った瞬間、男の声が響いた。

 同時に空から漆黒の武人が二騎の間に割って入る。

『晴嵐流合戦礼法―“虚空こくう”―』

 着地と同時に身の丈を越える野太刀が鋭く振りおろされた。

『フッ!』

 だが籐十朗はそれを、前脚を軸に弧を描くように回避した。紙一重の、無駄のない動きであり、敵として戦っていた岩代でさえも見惚れてしまうような流れだった。

 けれども、漆黒の武人の攻撃はそれだけで終わらなかった。

 振り下ろした野太刀から即座に手を離し、ほとんど隙なく抜刀。

 十字の軌跡を描き、逃げ場を完全に無くしていた。

『…っと!』

 第一刀は外したが、奇襲の第二刀は軽くとはいえ見事に命中し、土色の胸部装甲に一線の傷を付けた。

踏み込んでいた籐十朗の足は即座に引かれ、突如現れた武人から距離を取った。

『ほう…今度はかなりの手練が来た模様だな』

『…………』

 体勢を立て直す土色の武人に対して要も充分な警戒をする。

 二人がかりでも傷一つ付けられなかった…そして、周囲の状況、それこそ、大木が十何本と切り捨てられている中平然として立っている相手である。

《…あなたは確か…この前私のところに来てた武人、だったよね?》

『おぉ、その声は『暴風姫』か。ということは…オヴァは敗北して貴女を奪われた、というわけだな…』

 一瞬だけ西の方へと視線をやったが、次の瞬間突如開き直ったように笑い声を上げ始めた。

『クハハ…ならばその腕を拝見させてもらおうか!』

 叫びを上げると同時に籐十朗は全速力で踏み込み、岩代たちに向けたものとは桁違いの速さをもった攻撃を繰り出す。

 けれども、要もそれに一切の動揺を見せることなく太刀で捌いて受け流し、返す刀で突き返す。だが、それも上体を下げることによって回避され、そのまま通り抜けていった。

『陸戦は優れている…なら、騎行戦はどうかを試させてもらおう!』

 言うが早いか、籐十朗は走り抜けた勢いをそのまま利用して上空への騎行を開始した。

『…影継、残り熱量残量は!?』

《…姉上の消耗が激しすぎた…恐らく最低限の消費でも五分は持たぬ。短期決戦に持ち込む以外の勝機は無いだろう》

『そうか…』

 その言葉に要は迷いを見せた。

 五分では打ち合いの合間に隙を見出して神技を放つ、などという悠長な手段を取っていられない。けれども、相手の手の内が分からない以上、要の攻撃を覆す何かが控えているかもしれないと…

《難しいことは考えないの!》

『!?』

 思考が堂々巡りに陥っていた中、千尋がその様子を見かねて声を上げた。

《要君の悪いところは何事も深く考えすぎること! 時間が限られている? それなら一瞬で決めてしまえば良いこと! 手の内が分からない? だったら出される前に倒せば何の問題もない! 少なくとも私はそうやって要君相手に全勝してきたよ!?》

『…………』

《始める前から負けた時のことを考えているようじゃ絶対に勝てない…勝つために全力を、勝つために何をすれば良いかを考えなきゃダメ! 何かあったら次に戦う…要君の友達を信じて!》

 彼女の言葉に、要は黙って耳を傾けていた。

 いつもの…昔のままだった。

 何事も思慮深い要は戦闘時にあらゆる結果を想定してしまい、そのせいで足踏みをしてしまうことがある。

 それを、姉である千尋が迷いを叩き切る。

 二年前と同じように。

 二人過ごした日々と同じように。

 彼女の姉としての義務は、その一歩を踏み出せるよう背中を押すことである。

『…そうだな。臆病風に吹かれた人間に全力を出せるわけもない…か』

 喜色をふくみながら要は下段に太刀を構える。

 後顧の憂を振り切った彼は不謹慎ながらも、変わらない姉に笑いを覚えていた。

『姉さん! 合図をしたら敵の周囲に【壁】を張ってくれ! 熱量残量が少ないためこの一手で決める!』

《《諒解!》》

 掛け声を出すと同時に再び空へと駆けた。

 先行く土色の…人間無骨を追って。

『迷いを見せていたが追ってきたか! ならばその腕…晴嵐流をこの目にとくと見せてもらおうか!』

 土色の武人は横に旋回し、真っ直ぐに騎行する漆黒へとその身を走らせた。

 槍の攻撃距離の長さを利用し、太刀の届かない距離から突きを放つが、それを漆黒の武人は下段構えからの切り上げで軌道を逸らした。

『クッ…!』

『ほう…これを逸らしたか! 小生に単騎で立ち向かうだけのことはあるようだが…それでもどれだけ持つかは…』

『期待に沿えないようで悪いが、これで終わりにさせてもらう!』

 交錯を終え、籐十朗が構え直している後方で『地を蹴るような音』が鳴った。

 次の瞬間には背面甲鉄に衝撃が走り、土色は大きく体勢を崩した。

『グウッ!?』

 悲鳴を上げると同時に今度は左腹部…装甲の継ぎ目に攻撃が入り、深くはないが傷を付けられた。

『我流体術―“八艘はっそう”が崩し―』

 そこで籐十朗は攻撃の正体を理解した。

 狭い一室でゴム球を叩きつけたような縦横無尽の連撃。

 一度動けば、容易に止めることは敵わない。

飛空乱刀エアリアルブレードあばれ―』

 敵の周囲に大気の障壁を張り、攻撃を終了と同時に障壁を蹴り、次の攻撃を仕掛ける。

 言葉にすれば容易に聞こえるかもしれないが、それは二人の実力あってのことである。

 総重量百貫(約375キロ)を軽く越える武人が亜音速でぶつかっても破れぬほどに圧縮するなどという常識という言葉を投げ捨てた姉・千尋の『大気操作』。

 そして、釼甲で身体能力が強化されているとはいえ、それだけの重量による衝撃を身体に与えながらも、何度も繰り返す弟・要の並外れた力。

 どちらかひとつでも欠けていれば、成し得なかった術技である。

 籐十朗は三撃を貰ってようやくその技が何たるかを理解したが、逃げ出すには既に遅く、さらに五撃をまともに喰らい…

 ようやくその身を大地に落としていった。


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