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修羅始動

『…雷上動、機体状況は?』

《…戦闘及び騎行に一切の支障なし。何時でも行けるわよ》

《残存熱量もまだ八割はあります。最大稼動でも一時間は持ちますね》

『さて…正宗、こっちも確認しておくぞ』

《不備は存在しないな。それよりも主、あまり眠っていないようだが、体調の方は万全か?》

『それこそ問題は無いな。一夜完徹程度なら何度も経験しているから慣れっこだ』

「…首藤、獅童に異変が出たらすぐにでも退かせるように。リーダーが倒れては格好がつかないからな」

《…言われなくても…大丈夫…》

 休憩から三分経った現在、龍一・昴たちは最後の点検へと移っていた。僅かであるが日の射し込む角度が急になっており、時間が無いということを暗に仄めかしはじめていた。

 そんな中、要は少し離れた場所で影継を横に置いて静かにその光景を眺めていた。

 油断のない、とは言い切れないが、慢心の無い友人たちを見て頼もしく思っているが、同時に一つの不満も抱えていた。

「…昨日…というより今日は良く眠れたのかしら?」

 声のした方向に要が振り返れば、御影が明るい笑顔を浮かべていた。

「…あぁ、お陰様で、だ。ありがとう」

「あら? 私は何もしていないのにお礼を言われるの?」

「…そうか? 交代の時、椛に話し相手になるように頼んだようだから、何もしていない、とは言えないのではないか?」

「…気付いていたの?」

 すっとぼける事に失敗した御影は、少しだけ怯えた子供を連想させるような表情で要の顔を伺った。その様子に、要は小さく頷いた。

「まぁ、少しタイミングが良過ぎたな。御影たちが交代する時間からすぐに椛が来た上に、俺を見ないで寝ていないことを言い当てていたからな」

「あら…椛も意外とうっかりしているのね。私の事は悟られないように気を付けてって言ったのに」

「そのおかげで今日の体調は万全なんだ。礼くらいは言わせてくれ」

「…取り敢えずありがたく受け取っておくわ」

 言いながら御影は要の隣に並んだ。

 そこから要は彼女の表情を見ることが出来たが、それが彼には心無しか赤くなっているように見えた。

 それが照れであることを理解した要は少しだけ頬が綻んだ。

「…龍一たちが出ている間は、御影と椛が俺の防衛に当たるのだったな?」

「えぇ。これなら武人が直接来たら椛が押潰す、弾が飛んで来れば私が『弾く』…結構堅牢な防御壁じゃないかしら?」

「とは言っても、それも完璧じゃないからな。油断だけは絶対に…」

 そこまで言いかけたところで、要の全身に悪寒が走った。

 勢い良く一番近い絶壁の方面…つまりは西側へと視線を向けた。

「か、要? 一体どうし…」

『…要!』

 突然纏う雰囲気の変わった要に驚く御影や椛たちだが、そんな中龍一も何かを察したのか、親友に焦った様子で問いかける。

 何か、とてつもない物が迫っている事を、互いに確認するかのように。

「……! 龍一! 南西に八十、同時に【玄盾げんじょう】を西方向に展開! 昴は即座に上空に向けて騎行を開始! 《乗り込み》へ即座に対応してくれ!」

『諒解! 逸らせば良いんだな!』

《…えっ…な、何?》

『あ、あぁ、諒解した!』

《い、五十嵐君。一体どうしたので…》

「話は無しだ! 椛、今すぐこっちに駆け寄れ!」

「あ、あぁ、分かった!」

 要の意図を瞬時に汲み取り、龍一は飛火を使わず一足で指定箇所へと着地。昴は要の指示通り、封神されている心の動揺を他所に騎行の準備を開始する。龍一と要以外は状況を今ひとつ飲み込めていないようだが、要はその説明する時間すら惜しいと言わんばかりに焦りを見せていた。

 数少ない現状理解者である龍一は、封神されていない二人を守るように立ち塞がり、【神器】展開の祝詞を唱えた。


『天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道全てに阻むものあり!』

《之、よこしまを通す赦し無し!》

『…【玄盾】!』


 彼の叫びと共に、群青の釼甲後背部の装甲が開き、自身の大半を覆うほどの大盾が展開される。それを指示された方向へ素早く、そして低く構えて『何か』に備えた。

 昴も爆音と共に騎行の開始を始める。

 そして、それら全てが終わると同時に破砕音と共に白刃が迫った。

 大木など相手にならない、巨大な白刃が地に対して水平に。

「なっ!?」

 椛は異常に気付いて反応を見せるが、それよりも遥かに速くそれは走る。

 だがその途中、正宗の【玄盾】に衝突し、轟音が鳴り響いた。しかし、圧倒的質量…それも相当な速度を持ったそれを簡単に止められるわけもなく、群青の武人は白刃に押し返され、地面に大きな抉り跡を作っていた。

《…! 主、このままでは押し切られる! 即座に勢いを逸らせないか!?》

『それなら…! 問題はない! 遥、『上方』だ!』

《…! 分かった…!》

 声と同時に龍一は地面に対して垂直に構えていた盾の面を僅かに上に変更。すると、その面をなぞるように白刃は勢いを変えることなく上空へと向かっていった。

 騎行している最中の昴の足元を掠め、そのまま弧を描きながら海方向へと帰っていった。

 …岩代の『猪突猛進』の際に行なったことと同じことをしたのだった。

 向かってくる攻撃の『力の向き』を僅かに逸らすことによって軌道を変えたのだった。

 遥の神技ならば反射も可能ではあるが、問題点としては変更する向きによって消費熱量が大きく異なる、というものである。

 最も消費が大きいのは当然『反射』であり、『静止』に比べて二倍の熱量を消費する。しかしどちらも、今の攻撃であれば一人分の熱量を完全に消費してしまう。

 次が存在する可能性がある以上、熱量を無駄に消費することは避けたい…そこで、岩代との戦いの時も、先程の攻撃を凌ぐ際にも使ったのが、僅かに軌道を逸らす程度の変換である。

 必要最低限の消費で、最大効果を得た、ということだった。

 並みの人間ならば無駄が幾つも生じる上に、奇襲では計算が追いつかないところを、龍一の並々ならぬ思考回転速度により最適解を算出…そして即座に実行した、というわけである。

『ふぅうぅう………』

 攻撃を逸らした龍一は深く溜め息を吐いていた。

 安堵のものではなく、次に備えるための、気を引き締めるための呼吸である。

「…辛うじて回避…か」

 掠めた髪を押さえつけながら要は呟いた。

「…今のは…何? …釼甲の剣にも見えたけど…」

「…以前学園に奇襲を仕掛けた釼甲の剣に似ていたが…あそこまで巨大なものでは無かったはずだが…」

 視線の先には軌道を逸らされた剣が徐々に縮んでいくのが全員の目に映った。

「…成程、何らかの神技で一時的に巨大化していた…」

『ほ~…あれを凌ぐとは結構やるじゃねぇか』

 突然耳に届いた金声にまっ先に反応したのは要だった。

 顔を向けた先には灰色の釼甲が騎行し、手を要にかざしていた。

『なら…見えない弾丸ならどうだ?』

「……!」

空弾エアバレット!』

 …一つだけ音が鳴った。

 莫大な質量が空気を押しつぶしながら飛ぶ音が。

 けれども、その弾丸は形有って形無し。

 目に見えない『ソレ』は、音だけを引き連れて一人に襲いかかる。

「…すまん!」

 詫びを入れながら要は両隣に居た御影と椛を手で押し出した。

「キャッ…!」

「クッ…!」

 突然の事に対応できるわけもなく、二人はそのまま体勢を崩して地に倒れようとした。

 瞬間、その二人の間から暴風が巻き起こり、揃って地面に叩きつけられた。

「い、今何が…」

「…いたっ…ふ、二人とも大丈…」

 と、椛が顔を上げ、御影が安否を確認しようとしたところで二人は気付いた。

 先程まで、間にいた一人の姿がなくなっていることを。

「…!? か、要は!?」

「…御影、あそこだ!」

 椛が指差したのは、灰色の釼甲のいる反対側。

 そこに、大木に背をあずけている要の姿があった。

「…ちょ、ちょっと待って…ねぇ…椛…私の見間違いならいいんだけど…」

「…き、奇遇だな…わた、しも…そう思っていたところだ…」

 顔を伏せている。

 その僅かに見える口元からは、見間違うことのない紅い液体が伝わり落ちていた。

『三人とも無事か!?』

《今のは…何!?》

《見えない弾丸…いや、あれは砲弾と大差ない威力だったぞ!?》

 二人と一領が三人の無事を問う。

 けれども、誰もその問いに答えることは出来なかった。

 二人は言葉を失うほどのショックにより。

 一人は言葉を発せぬほどの衝撃により。


「「要えぇええぇ!!」」


 ようやく口にされたのは、絹を裂くような悲鳴二つだった。

『ん? 何だ、もう一人外れたのか? 意外とあっさりしていたな。それともこのガキの神技が強力過ぎたのか? どちらにせよ、弱すぎてつまらねぇな』

 響く女性の声に、全員怒りを覚えずにはいられなかった。

『…おい、そこの灰色』

 真っ先に口を開いたのは、龍一だった。

『奇襲仕掛けておいて負けた相手は弱い、だ? 巫山戯た事吐かすなよ?』

『へぇ、戦意喪失してねぇんだ? こっちなら楽しめそう…』

『楽しむ? そりゃ無理な話だ』

 ゆったりとした動作で群青の武人は太刀を構える。

 鋼の仮面の下は、悪鬼も怯むような形相だということを、灰色の武人は察知できなかった。

『お前はこれから地獄を見てもらう。懺悔も後悔も悲鳴も言訳も未練も…一切合切受け入れない…』

《獅童殿、暫し待っていただけないだろうか?》

 怒りで口早になる龍一を、声が呼び止めた。

 いざ、飛びかかろう、という状態であったところを辛うじて踏みとどまり、群青の武人は顔だけで後方へと視線をやった。

 漆黒の鍬形が、その主を立ち上がらせていたのだった。

 要は攻撃を受けたであろう腹部を押さえながら、それでもしっかりとした足取りで歩いていたのだった。

『…………要、怪我の方は?』

「意外と鎖帷子のおかげで少なかったな。と言っても、どこかしら損傷していることは間違いないが…」

『無理はしなくて良いぞ? こいつなら今から首を刈り取って大和海に浮かべるつもり…』

「そいつの相手は俺がやる。これだけは、龍一に譲れない」

 要の有無を言わさぬ気迫に、龍一は瞬間沈黙した。

 少し噎せた要の代わりに、影継がその理由を話す。

《主によれば、あの武人が封神しているのは姉君の模様…それ故に、我侭で有ることを承知した上で主自身の手で救い出したい、ということだ》

「ち、千尋さんが…?」

『…そうか…』

《獅童殿には申し訳ないが、もう一騎の招かれざる客を討ってもらいたい。主が心置きなく戦えるよう、力を貸して欲しい》

 影継が訴え出ると、龍一は影継が指し示す、足音の響く方に視線を向けた。

『…分かった』

 振り返らず、背を向けたままで彼は肯定の言葉を言った。

「…恩に着る…」

 言いながら要は自身を抑えつけていた鎖帷子と重りを全て外した。

 身に纏っていたそれは、地に落ちると最小限の音と共に地面にめり込んだ。

 語られなかったが、総重量八十キロ…並みの人間ならばまともに動くことすら許されない負荷である。

 その異常な重量に神樂三人は言葉を無くしたが、そんなことを意にも介さず、龍一は言葉を続けた。

『そんな畏まらなくて大丈夫だ。親友が困っていれば、全力で助ける。して当たり前の事に礼はいらない…そう思って、全力で助けてこい。乱入者は誰一人として近付けないから安心しろ』

 その言葉を聞き、要は装甲の構えを取る。

「…ありがとう、龍一」

『…だから要らない、と言ったはずだ』

 そう言いながらも、彼の声には喜びの色が滲み出ていた。

 それを感じ取りながら、要は祝詞を唱え上げる。


《これより修羅を開始する

 鋼の志は如何なる障害にも折れる事無し

 我、天照らす世の陰なり!》


 そして、漆黒の武人が姿を現した。

 以前と異なり、その肩に釼甲の身の丈二倍はありそうな全長、それでいて丸太の如き刀幅を持つ、鬼包丁という表現が当て嵌るような野太刀も携えて。

『…大和非正規國衛軍中尉・五十嵐要…いざ参る!』

『ほぉ…そっちの群青じゃなくてアンタがイガラシか…呆気なく終わってくれんなよ!』

 漆黒の武者は飛火を点し、灰色の武人へと飛ぶ。

 そして、群青の武者には黄緑の騎士が襲来する。

『…チッ…この前の真っ黒はもう飛んじまったか…男女と殺り合う前だったら大丈夫かと思ったんだがな…』

『お望みの相手でないことは悪いが、俺に勝てないであいつに勝とうなんて千年早い…大和非正規國衛軍少尉・獅童龍一が相手する』

『ははっ…相手になるならやってみやがれ。救世主特攻隊長陣場恭弥…御相手願おうか!』


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