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攻撃準備

 夜が明けて、靭島には様々な音が響いていた。

 銃声。

 剣戟。

 爆音。

 騒音は陽が昇ると同時に始まり、一時間以上経っているのにも関わらず未だに止む気配どころが小さくなる様子すら無かった。

「…無装甲状態で頭上に弾丸を掠める感覚はまだ慣れないな」

 そんな音が響きわたる森の中、要たちは腰を低くして音を殺して進軍していた。

「いくら直撃しても死にはしないと言っても怖いものは怖いわよ。受ける寸前にでもその神技が切れれば赤い花を散らすことになるって…」

「幸い、流れ弾は綾里の『磁力反発』で逸らせるから被害は零というのが救いだな…獅童、予定地点まではあとどれくらい時間が掛かりそうだ?」

「…あと十分くらいだな。そこに到着したら五分後に俺たちも攻撃を仕掛けるつもりだが…今のうちに疑問があれば答えておこうか」

 龍一が視線を外らさずに問い掛けた。

 最初に口を開いたのは御影だった。

「確認になるけど…組み合わせは村上と月島、獅童と遥、残った私と首藤二人で要の防衛…村上たちは上空から攻撃して敵の注意を上方に向けて、そこを椛たちが地上から奇襲…で間違いはない?」

「あぁ、問題はない……やっぱり加賀の班が失格になったおかげで気にせず話せる、というのは助かるな」

 加賀三春の神技『聴覚移動』が生き残っていれば、場所の特定に加えて作戦の漏洩という問題があったため、このように堂々と話すことはできなかったが、彼女は楠班に所属していたため、現在は失格になっている。

 事前に班の構成員全員を把握している龍一は、それ以降作戦を口にするようになった。

「…残りの班に探査系に特化した神樂は居ないから、大分攻撃が楽になるな」

「その情報はありがたいけど…それ、本当の実戦だったらあまり使えないんじゃない?」

「…? それって?」

「前情報。相手神樂全員の神技を知っているなんて本来ならありえるんじゃないかしら?」

 遥の質問に御影は迷うことなく答えた。

 実際、手の内が明かされた状態で戦うなんてことは余程の事がなければ起こり得ない。それが例え決闘でも、切札というものは隠されて当然の物である。

 龍一はその発言に対し、少しだけ考える素振りを見せたが、すぐに答えを口にした。

「…そのとおりだ。ただ、俺は多数を率いての急場にそれほど強くないから、こうして事前に穴の少ない作戦を実行するくらいじゃないと被害を大きくしかねないからな」

「…言われてみれば、獅童君の立てる作戦は全て村上君か獅童君のどちらか一騎が戦闘、もう一騎と残りの皆は五十嵐君の護衛でしたね。五十嵐君が拘束された時点で失格とは言え、思ったよりも慎重な作戦ばっかりで…」

「…【神器】が禁止されてるから…だと思う…」

 心の発言を遮るように遥が口を出してきた。

 予想外の返答に心は思わず声の出処へと顔を向けると、遥は不満げな表情で彼女を睨んでいた。

「ご、ごめんなさい…でも、その【神器】というのは一体…?」

「あ~…正宗の隠し玉なのでそれ以上の追求は勘弁してもらえませんか? 昴先輩に研究でもされたら相当痛いので…」

「…自分から言わせてもらうと、正宗は白兵戦・対軍戦には優れていますが、味方を抱えた戦況ではあまりにも危険すぎる、ということです」

 龍一の困った様子を察して要が口を挟んだ。

 助け舟が来たことで顔を伺えないが龍一は息を一つ吐いていた。

「…? それは味方がいると全力を出せない、ということですか?」

「その程度で済めば良いのですが、意思疎通が充分でなければ間違いなく味方は『正宗によって撃墜される』でしょう」

《要殿が甲竜で【龍】を、しかも初見で避けたのは驚いたな。それ以降は主と要殿が組む事が多くなったな》

「まさか訓練であんなものを出されるとは思わなかったぞ。お陰様で被害報告書をどれだけ書かされたことやら……」

 要はその時のことを思い出したのか、眉間を揉んでそう零した。その答えに正宗ではなく龍一が申し訳無さそうに話を戻していった。

「…あの時は本当に悪かったよ…とにかく、要が相方ならそういう事は無いんですが…昴先輩と、という話だと即席のコンビネーションですからね。そうなると自然単騎特攻の作戦が多くなってしまうんですよ」

「…なるほど」

 龍一のその言葉にまっ先に反応したのは昴だった。要の後方に位置していながらも、全員に良く聞こえる声を出した。

「…最初の岩代班への攻撃は龍一の釼甲での戦闘法を俺に見せるため、逆に俺の戦闘法を見るために楠の班に単騎特攻させ、今日の作戦を作った、ということか?」

「話が早くて助かる……まぁとどのつまり、コンビネーションは完成するわけがないから戦法の組み合わせでなんとかしようって話です。月島先輩は慎重な作戦と言っていましたが、それは大きな間違いです。これでもし…といってもほとんどありえない話でしたが、昴先輩が撃ち落とされていたらそれこそ残り全班を俺一人でどうにかしなければいけなかったんですから、結構大胆な作戦でしたよ?」

「…分かりました。少しはぐらかされた気もしないでもないですが、疑問はなくなりました。ありがとうございます」

「いえいえ…っと、そろそろ目的地だな」

 話しているうちに大分進んでいたのか、森の中で比較的開けた場所にたどり着いた。

 彼らが目的地としていたのは、靭島の最西端。

 開けたと言っても昼時が近いというのにも関わらず日差しはほとんど差し込んでいない。その理由は比較的単純で、草木がその場を覆うように生えているからだった。

「…思うけど、あの戦闘中…しかも真夜中に良くこんな場所を見つけたな」

「偶々視界に入っただけだ。もしかしたら使えるかもしれないと思って言ってみたが、正解だったみたいだな」

「…初動を遮るような枝は…無し。これなら失速は考えなくても済みそうだ」

《…敵の班もこちらには気付いていないようね。これなら時間通りで問題なさそうよ》

 上空から舞い降りた雷上動が全員にそう報告した。

 飛火による騎行を行う際、出発点は障害物の無い場所に、という鉄則がある。

 しかし今回のように既に戦闘が開始している場合は例外となる。

 というのも、騎行には当然初動速度というものがあり、鉄の塊が飛行する以上最初の一秒程度はどうしても隙が大きくなってしまう。もしそこを狙われてしまえば、充分な速力を得るのに時間がかかるばかりか、最悪戦闘不能に陥りかねない。その状況を回避するためには敵に見つからず、かつ騎行直線上に障害物が無いほうが望ましい。

 そこで昴が見つけたこの場所を出発点とすることになったのだった。

 非常に見つかりにくい上に、障害物は精々木ノ葉程度であり、状況としては最高の場所だった。更に付け加えると、上空からの攻撃の際、影で位置を悟らせないという意味も含まれている。

 ただ、そこに到着するまで一時間程かかっていた。

 残り時間は三時間二十分。

 最後の攻撃のために龍一たちは今有る交戦地帯を全て避け、熱量・気力を温存していたのだった。

「じゃあ、十五分後に作戦開始、ということね。全員それまでに準備を万全にしておきましょう」

「「「「諒解!」」」」

 月島心の、その良く通る声により、最後の調整が開始された。


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