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接近

「…まさかあの男の代わりに汝が出陣するとは思わなかったな…」

「ハッ! さすがにやられたままで黙っているほど俺は大人しくねぇんだよ! 今度あいつに会ったら八つ裂きにしてやらぁ…!」

 静かに進む船の中、今河籐十朗と陣場恭弥が雑談を繰り広げていた。

 脇にはそれぞれ土色の蝮と黄緑の牛が鎮座していた。話に介入する様子はなく、静かにその光景を見守っていた。

「意気込むのは構わないが、小生の邪魔にだけはならないように心がけておけ」

「あぁん? 何を言っているんだ? 俺のデュランダルはブレイドアーツの中でも最高峰の甲鉄練度を誇るんだ。さすがの籐十朗のおっさんでも…」

「小生にしてみれば心太ところてんを斬るのと大差無いな」

「…へぇぇ…言ってくれるじゃねぇか。何なら今すぐここで試してみる…」

「…そこまでにしておけよ。敵とやりあう前に協力者同士で殺し合う馬鹿はさすがにやらないでくれ」

 部屋の外から危険を察知して一人入ってきた。

 顔には左目から顎にかけて一直線に刀傷が走っており、金髪は非常に短かった。身なりはあまり整っておらず、首を覆うノースリーブのシャツに迷彩服の上下を着た程度だ。

 体格はかなりしっかりしており、比較的体の大きい恭弥に比べると少し小さい程度である。

「ちょっと黙っていろ、男女! こいつとだけは決着をつけないと俺の気が済ま…」

「………先に言っておこう、汝の骨は拾って海に捨ててやろう。それが小生に出来る最低限のことだからな…」

「は? 何だ、もう勝ったつもりで…」

「おい、さすがに今の言葉は聞捨てならねぇな…」

 何時の間に移動したのか、『彼女』は恭弥の首根っこを掴んだ。

「グェッ!?」

 アヒルを押しつぶしたような悲鳴が聞こえたが、彼女はそれでも手を緩める様子は無かった。時間とともに恭弥の顔は青ざめていき、助けを求めて彼女の手を叩いた。

 さすがに絞め殺すのはまずいと思ったのだろう、不満を残した様子で女性は渋々と手を放した。

「ゲホッ! オウッ…ぷ!」

「…ったく、言葉には気をつけろよ? ま、これで喧嘩は収まったから結果オーライ、ってやつか?」

「オヴァ・ポーラ、殺るのならば、ここではなく甲板でやるように気を付けてくれ。血というものは臭いがキツイから、室内で殺すのは得策ではないからな」

「あい了解っと。それで、目的地まではあとどれくらい時間がかかるんだ?」

 倒れている恭弥にもう興味は無くなったのか、女性は窓を開けて外を眺めた。本島には灯が浮かんでいるが、進む先は闇しか見えなかった。

「大体八時間程だろうか」

「……なげぇな。全速力で行けば二時間位の場所じゃないか? それに、出発場所をもっと近くにしておけば一時間で到着しそうだな。そろそろ体が鈍ってきそうだ」

 愚痴を隠すことなく零す女性に対して、籐十朗はしばらく考え込むように黙り込んでいたが、話すと決めたのか、頷いてから口を開いた。

「…それには幾つかの理由がある。第一に、敵方に気付かれぬよう『熱量欺瞞』の神技をこの船全体に施している。釼甲の探査に掛からないという面では非常に優れているが、如何せん素早い移動には対応できないようでな。牛歩戦術…というわけではないが、とにかく知られぬように進むとなれば、どうしてもこれほど遅くなってしまう、ということだ」

「へぇ? それで、他の理由は?」

「時期を合わせている。水上みなかみの端末がまだ使えたので調べてみれば、一日がかりの野外訓練が現在行われている模様でな」

「疲弊したところを襲撃ってか? 相変わらずあんたのやることなすことはえげつねぇな。聞けば今まで各国への攻撃も仕切ったのはあんただそうだが…武人として一般市民には手を出さない、とは考えねぇのか?」

「何、ただ単に間引きを行なっているだけだ。強者に成れぬ弱者に生はあまりにも贅沢すぎる。それを早いうちに摘み取っただだけだ、おかしくは無いだろう?」

「…イかれてるな。ま、そんなあんただから俺は生き残れたってことで良いのか?」

「元より興味はあったのでな。露帝が作り上げた『釼甲を扱える神樂』…女子でありながら恭弥に勝るとも劣らないその腕、買わせてもらった」

 …世界における軍事大国・露帝。

 技術力も最先端を行く、という意味では敵う国はなし、と言われるほどであり、世界大戦の際に失った兵力を取り戻すべく『人造人間』の研究を開始。

 十年以上の長い年月を…生命を機械的に作り出すという偉業を僅か十年程度で成し遂げ『大量生産出来る兵隊』という目的を『半分』達成した。

 …詳しく述べれば、完成したのはプリーストのみであり、バスター…大和で言う武人は施術に耐え切れず全て破棄される結果となった。

 プリーストも人以上に優れているとはいえ、封神した相手には歯も立たない。恐らく数十人が束になってかかろうとも、一騎二騎いれば跡形もなく蹂躙されるのが落ちである。

 そこで、露帝でその研究に関与した人間は『プリーストにバスターの能力も与える』という考えに至った。

 そこから更に数年。下地は出来ていたので、それほど長い期間をかけないうちに第三人類(と露帝は呼んでいる)が完成した。

 神樂と武人の才を併せ持つ人間兵器。

 その新なる存在が彼女、オヴァ・ポーラである。

 男性に劣らないその体格。

 女性の、窮地に耐える順応性。

 両の利点を兼ね備えた彼女は、まさにオヴァポーラの名が相応しかった。

「…ま、研究所での扱いに比べればこっちの方が俄然良いからな。精々堪能させてもらうぜ」

「汝は既に相応の働きを見せているからな。しばらくの安全は小生が保証しよう」

「…それで、話はこれで終わりか?」

「いや、実は話していなかったがもう一人神樂がいるのだ。ただ、衰弱しきらないと近寄れない状態なのでな。弱ったところをすぐ汝に封神してもらいたい」

「もしかして、どっかで話に上がってた『暴風姫』のことか? 一個人であんたに苦戦を強いらせたっていう…」

「そうだ。話が早くて助かる。神技を発動できなくなるのが到着とほぼ同時の予定だ。ただ、極限まで弱らせなければいかないという問題があってな。予定より遅れれば死にかねない。早まれば出陣前に怪我を負う…結局、出陣と同時にあの女子を汝に封神して戦ってもらうことになったが…異議はあるか?」

 籐十朗が問いかけると、オヴァは楽しげに笑った。

「…問題はないな。あぁ、早く始まってくれねぇかね?」

 喜びに震える身体は、無意識的に彼女に握りこぶしを作らせた。

 彼女もまた、戦いを求める鬼だった。


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