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神州千衛門影継と少女《壱》

ようやく本格始動開始です。

今後は有名な刀が釼甲となって登場します。名刀の代名詞や、英雄の剣…オリジナルも幾つか混ぜますが、十領十色の個性を楽しんでください!

 午後の講義もなんとか無事に終わり、帰り支度をしているところを要は佐々木に呼び止められた。

「要、今から時間を取れるか?」

「……教諭…?」

 いつもよりも遥かに小さな声で話しかけてきていることから、何か重要な事かと思って、要も少しだけ身構える。

「俺は必要ないのか?」

 当然隣にいる龍一も気になったのか、話しかけてきたが気を使っているのか小声だった。

 幸い周囲は放課後のことについて話し合ったり、部活へと移動したりと、二人のことを気にする生徒は龍一以外にいなかった。

「いや、今回は要だけに来てもらうことになっている…龍一、お前は先に帰っていろ」

 少々きつい言い方になってはいたが、龍一はそこに深い意味があると判断して潔く引き下がった。

「…諒解です。ただ、『正解』だった場合は俺にも事後で良いので連絡をお願いしますよ?」

「それは当然だろう」

「なら大丈夫です…と」

 納得した龍一はすぐに立ち上がり、適当に近くに居た、帰ろうとしているクラスメイトを誘って去っていった。

 残された二人は龍一の背を見送ってから立ち上がった。

「よし、時間もないからさっさと行くぞ」

「諒解」

 佐々木を先導にして要は黙って彼について行った。

 ひたすらに長い廊下を抜けて、決闘場を挟んだ校舎の反対側まで静かに歩いていった。

 ある程度見慣れた場所とはいえ、教諭と歩く事は滅多に無いため、少しだけ新鮮な景色に見えた。

 十数分後。

 途中関係者以外立ち入り禁止の看板が立てかけられていたにも関わらず、佐々木は施設の中へと入っていった。

 一瞬要も入ることは躊躇ったが、目的地がここではないと佐々木が言ったために仕方なく注意を無視して進むことにした。

 一旦距離が離れた佐々木に追いつくと、丁度何らかのセキュリティを解除している真っ最中だった。

 声紋・掌紋・網膜…複数の認証を必要としている事から、かなり重要な場所であることは間違いなかった。

 数十秒ほど経つと、ようやく全てのセキュリティを解除できたようで扉が開いた。

 中の電気は点いておらず、深い暗闇が長く続いていた。

 佐々木はその中に躊躇うことなく入っていくので、要も静かにそれを追って部屋の中へと踏み込んだ。

 そして、本能で、肌で感じ取った。

 そこに何があるのか、を。

「これだけの厳重な警備ということは…教諭…もしかして…」

「正解だ。要の想像通りの物がここにある…」

 佐々木はそう言って自身の手にある端末を幾つか操作すると、天井に設置された光源が全て灯されて、『それ』を照らし出した。

 漆黒の釼甲が、そこにあった。

 自律状態ではなく、装甲を展開した、いわゆる戦闘形態で。

 何かを、誰かを待っているかのような、そんな感じに要は襲われた。

 作りから相当の…それこそ一生に一度でも目にかかることができれば武人として最上の喜びだと断言しても良いほどの業物であることが本能的に理解できた。

「打たれた釼甲銘は…―神州千衛門影継しんしゅうせんのえもんかげつぐ…とある山奥に有った鍛冶師の蔵に死蔵されていた、業物の釼甲だ」

「…影継…ですか」

「今のところ十五人程の生徒に触らせてみたが一切反応せず…今回ようやく要の接触許可が降りた、ということだ。何か質問は?」

「他の教師陣がよくそんなことを許しましたね?」

「あいつらが許したんじゃない、俺が許させた。少々長い御話し合いになったが…」

「…諒解。何があったかは大体理解できました」

 疲れを露わにした佐々木が何をやったのかは詳しく聞かないことにしたらしく、要は部屋の奥に鎮座している釼甲の前に移動した。

 佇む黒武者の姿は、どのような悪鬼魔王すらも退けかねないただならぬ雰囲気を持ちながらも、鍜治師の気高き信念を貫き通した、息を飲ませてしまうほどの美しさも兼ね備えている。

 銃火器の類は一切なく、見た限り主要兵装は太刀と鎧通しだと判断した。

 この釼甲に魅入られた要は、吸い込まれるように黒武者に手を伸ばし、艷やかな装甲に軽く触れると…

 甲高い装甲解除の音が部屋響き、漆黒の釼甲に光が纏い始めた。

「な…!?」

 驚く要を無視するかのように、漆黒の釼甲は次第に光を強めていく。

 戦闘形態の釼甲はパーツに分かれ、舞った。

 要を中心にして廻る釼甲は、その勢いで渦を巻き起こしていた。

 四方から同じ力が加えられなければ、立っていることすらままならないほどの、激しい風が。

「グッ…」

 突如、漆黒の釼甲から莫大な量の情報が脳を焼き切らんとばかりに流れ込み、内側から破裂するのではないかと思われるほどの頭痛が同時に襲いかかってきた。

 しかし苦悶の表情を浮かべようとも、情報の流入は留まることを知らず、徐々に頭の中が真っ白になっていく。

 すると突然、雑然とした情報が一気に吹き飛び、眼前に『何か』が現れた。

《問おう、汝にとって釼甲は何たるかを…》

 頭の中に直接叩き込まれるように、声が響いた。

 低く気高い声が、一言一言が、要の身体を揺さぶった。

「…釼甲は…」

 雑多な情報と共に、心の枷となっていたものまで流されたのか、要は『何か』の問い掛けに対し、自然と言葉が出ていた。

「…『けん』をもって、民草を守る『かぶと』となる。故に『釼甲』…護るための、力だ!」

 心のそこで燻っていた灯火が、言葉と共に焔となっていくことを、『何か』は、そして要自身も感じた。

《善かろう、ならば唱えよ! 我と共に戦う、誓いの祝詞のりとを! 護るための力として、存分に振るえ!》

 響く声と共に、要の頭に言葉が浮かぶ。

 それが、この釼甲…影継の信念であることを理解して。


《これより修羅を開始する

 鋼の志は如何なる障害にも折れる事無し

 我、天照らす世の陰なり!》


 己を奮い立たせるその祝詞を。

 声の限り、叫んだ。

《委細承知! これより、我は貴殿の釼甲と成らん、神州千衛門影継也!》

 その言葉と共に風が収まり、徐々に光が集まり、何かを明確に象っていった。

 四方からの力が失われると、要は疲れきったように後ろへ倒れ込んだ。

 ようやく目が開けるようになったところで、要は足元に柔らかい感触が有ることに気が付いた。

 まだ視界が不完全なので、手探りでそれが何であるかを調べようとすると、手の平に絹のような手触りの、弾力性のある何かだということに気付いた。

「うぅ…ん…?」

 だが触っているうちに聞こえた何かに、要は身を凍らせた。

 徐々に視界が戻ってきて、触っていた何かの方へと視線を移すと…


そこには何故か、全裸の少女が眠っていた。


「なっ…こ…!?」

 声をあげようにもあまりに焦っているがために声にならず、その場から逃げようにも、太腿に少女の頭が乗っかっている上に足を抱きとめられているために全く動けなかった。

 服越しに伝わる柔らかい感触は女性特有の柔らかさを持ち、その体からは蜜のような甘い香りがただよい、要の鼻腔をくすぐった。

 理性が吹き飛ばされそうになるのを必死に抑えて、状況を把握しようと鈍りかけた頭を可能な限り全力で回転させる。

 そこでようやく、ここに入ったのは要一人でないことを思い出した。

「さ、佐々木教諭は…!?」

 助けを求めようと連れてきた男を探してみると、佐々木傭兵は部屋の隅で伸びきっていた。

 装甲解除の際に発生した衝撃波で吹き飛ばされたのか、壁に背をもたれかけるように倒れ込んでいた。

 何をすべきか全くわからない状況がしばらく続いていると、眠っていた少女がようやく目を覚ました。

「ん~…少しうるさい…わね…」

 寝惚け眼を擦りながら体を起こし、目の前にいる要をぼんやりと見つめてきた。

 褐色の肌に、黒い銀髪、琥珀色の瞳で、要を見つめた。

「……初めまして…か?」

 間の抜けた挨拶をすると、ようやく少女も意識が覚醒し始めたようで、数秒後には嬉しそうな満面の笑顔を浮かべた。

「…初めまして、御影みかげよ」

《…挨拶よりも恥じらいを持て…我は神州千衛門影継と申す。以後、貴殿の釼甲となろう》

 …それが、五十嵐要と御影、そして神州千衛門影継の出会いだった。



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