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訓練一日目ー3

《…これで三分の一が失格となったわね。あまりにも早すぎる気もしなくないけど…》

「俺としては龍一が出掛けて三十分で成果を出したことに驚きだ。飛火も必要最低限しか使わなかったからこの場所は多分割れていないだろうからな…天才の呼び名は伊達じゃない、か…」

 要たちが最初に拠点にした場所から、昴と雷上動は全体の動きを眺めていた。

 遠距離武具を取り扱う以上、視力は重要なものではあるが、昴はそのことに関しては抜群に優れている。実際、距離として数百メートルはあろう龍一と岩代の戦いが鮮明見えており、行動一つ一つを間違うことなく周囲の班員に報告していた。

「…普段要と手合せしているから気付かなかったけど、もしかして獅童もとんでもない武人だったのね…」

「一度聞いただけなのだが、獅童の剣術は我流だと言っていたな。それにも関わらずそれだけの練度というのは驚いたな…っと、北西の…海寄りの班が休憩を取っているようだが…どうだろうか?」

「どれだ?」

 椛の指し示した方向へ昴が目を凝らした。数秒ほどその周辺を見渡して、確認が終わると彼は一つ息を吐いた。

「どうやらそのようだ。加えて他の班もちらほらと休みを取り始めているな…」

「もう昼過ぎですから、当然といえば当然の判断ですね。私たちもこのあとに備えて少し休みましょうか?」

「…そうだな。龍一と首藤もそろそろ戻ってくる頃合だから丁度いい…」

『実はもう戻ってきているんだが…』

「ひゃっ…へぷっ!?」

 突然後ろから声をかけられた心は飛び上がり、思わず前方に倒れ込んでしまった。

 それと同時に龍一は装甲を解除して、倒れた心が起きやすいよう手を差し出した。

「すいません、まさかそこまで驚くとは思っていませんでした…」

「…いえ、周囲への注意を怠った自分の責任ですので、気にせずに…」

 心は差し伸べられたその手を握り、服についた砂や土を払いながら起き上がった。倒れた際に怪我などはしなかった、ということを確認して龍一は安堵の息を吐いた。

「…飛火の音が全くしなかったのだが、何をしたんだ?」

 後ろからほぼ誰にも気付かれずに接近する…無装甲状態ならば可能ではあるが、釼甲を装甲した状態でこれを行うことはほぼ不可能と言われている。

 その理由は大まかに二つ。それも至極単純明快だ。

 一つは、釼甲とは突き詰めてしまえば相当な重量を持つ刄金で構成されており、それが隙間をほとんど作らない造りになっている。そのため、小さな動作…それこそ、手を上げるだけの動作だけでも少なからず音が生じてしまう。

 戦闘のような激しい動きになればなおさらである。

 第二の理由は、飛火自体が爆音を立てる、というものである。

 釼甲とその武人…個人差は多少あれど、それでも最低重量は三百を優に越える。そんな物体が空を飛ぶためには相当な速度が必要になる。

 疾駆は戦闘の邪魔にならないよう、必要最低限の大きさしかない。その代わり、飛火の出力を上げることによって騎行を可能にしている。

 そのため、騎行は常に爆音を伴っている。

 そうなると、どうしても隠密性に欠けてしまうため、奇襲・暗殺などには全くむいていない、というのが武人の大きな欠点なのだ。

 しかし、龍一は声をかけられるまで心に気づかれなかった。

 他の班が休憩に入った、ということで気が抜けた、ということを考慮したとしても常に学科内上位に君臨する心に気付かれずに背後を取る、というのは非常に困難な事であることには間違いない。

岩代との戦闘を終えてから一分と経っていないので、そんな短い時間で数百メートルあるこの場所にまでたどり着くのは、飛火を使ったとしか考えられない。

「何をした、って…単純に飛火の音を外に向けなかっただけだが?」

「…成程、首藤の神技か」

「正解。いや~もうこれがうるさくて仕方がなかったぞ? 耳がまだ痛い感じがするし…」

「…後ろから回ってきた理由は?」

 龍一がおどけたように答えていると、今まで黙っていた要が突然そう尋ねた。

 その言葉で、昴たちも気が付いた。

 先程の戦闘場所から要たちの拠点へと真っ直ぐに騎行すれば、当然全員の真正面に現れるはずである。しかし、龍一は全く逆の方向から音も無く接近している。

 全員が疑問を持った中、その問いに龍一は別段悪びれる様子もなく、正直に答えた。

「いや、ただ単にみんなを驚かせたかっただけだ」

「「「はぁ!?」」」

「…それは『そのためだけに貴重な熱量を消費したのか』という驚きで良いか?」

「当たり前でしょう!? そのためだけに遠回りに加えて神技使用!? どれだけ無駄使いしているのよ!?」

「私たちには他の班の半分しか食糧が与えられていないのだぞ!? 何故始まって三時間しか経っていないのにそんなことをしたのだ!?」

「ふと思いついて試しにやってみたかっただけだが?」

「最悪だ!?」

「…だから…止めたほうが…いいって…言ったのに…」

「え、え~と…そ、そうだ! 皆で少し休みましょう! はい、全員分用意しておいたので、どうぞ!」

 この刺々しい雰囲気を打破しようと考えたのか、心は半ば強引に昼食を全員に配って会話を中断させた。

「…終わったことをどれだけ言っても仕方無いか…」

「えぇ、次から注意はしていかないと…なるようにしかならないわね…」

 さすがに全員空腹には耐えられなかったのか、一旦口論を中止にして配られたそれに手を付け始めた。

携帯固形食料と水。

 普段の食事からは程遠いが、サバイバルである事を考慮すれば当然の食事である。

「…いただきます」

 さすがに先輩の気遣いを無用にするわけにはいかないと判断したのか、御影も椛も静かに出されたそれに手を付けた。

「…獅童君はすいませんが、少し離れた場所で食べていただけるでしょうか? さすがにここでは全員気にしてしまうと思うので…」

「諒解です」

「…わ、私も…」

「すいません。食べ終わったら知らせてください」

「では…」

 そう言って龍一と遥はその場から離れようとして、要の横を通った。

「…あれで正解か?」

「あぁ、助かった」

 すれ違いざまにそれだけ二人は言葉にしたが、その一言で充分だったのか、要は納得したように一つ頷いた後、黙って椛たちの居る方へと向かった。

対して、龍一と遥は少し離れた場所で食事に手を付けた。

《…損な役目を買って出たものだな?》

 龍一の横で、正宗が金声で語りかけた。

「そうでもないさ。一隊を指揮するのも、全員が全力を出せるよう気をつけるのもリーダーの役目だ。これで全員が普段通りになれるものなら安いもんだ」

「…でも…思ったより…みんな、活き活きしてた…」

 食料を齧りながら遥は呟いた。

 事前に話されていたようだが、その結果が予想以上に効果を出していることに彼女は驚いていた。

「…これも、要が俺の意図を酌んでくれたおかげだな」

「? 五十嵐君が?」

 遥の問い掛けに、龍一は頷いた。

「…一目で俺が遥と正宗に伝えておいたことを理解したんだろう。全く、やっぱりあいつには頭が上がらないな…」

 …龍一が遥達に伝えていた内容は、班全員の緊張をほぐすために一芝居うつ、というものだった。

 一時的に精神を最高潮まで昂らせることによって、緊張を振り払うというものだ。

一見強引な手段に思えるかもしれないが、意外と理にかなっている。緊張によって萎縮してしまうと本来の実力はとてもではないが出すことはできない。実際に、軍に入隊したての新人には実戦前に精神向上安定薬(麻薬ではない)が投与されることが多い。ただ、それは容易に入手できるものでなければ、学生に投与するわけにもいかない物である。

そこで龍一が取った手段というものが、『自身が道化となることで全員の精神状態を普段より高め程度にする』ということだった。

 今後の行動に支障が出ないよう細心の注意を払いながら後ろに回り込み、驚かせる、というものだったが、危うく触れられずに終わってしまうところを、要があの質問をしたのだった。

 それがなければ、龍一の策も無意味になっていたことは間違いない。

「手助け無し、とか言いながらきっちりバレないように、それでいて最善の結果を出す…まだまだあいつには敵わないな」

 言いながらも、龍一はどこか嬉しそうに携帯食料を齧った。

「…それ…五十嵐君に…言わないの?」

 一口二口水を飲んでから遥は尋ねた。

 龍一は一度も要本人の前で褒めることは無かった。

 時々、それも彼女の前でしか手放しで褒めることは無かった。

「今更そんなことを面と向かってなんて気恥しくて言えないだろ? それに…」

 楽しそうに、満面の笑みで彼は続けた。

「あいつは、今はまだ敵わなくても、いつかは越えたい…いや、一緒に並びたいと思う相手だからな」


四月の半ばに達したので状況報告を。

先に謝っておきますと、第四話はまだ八十ページ分しか出来ていません…恐らく投稿は五月、遅くなれば六月になる可能性も…

「身の程をわきまえず三作同時進行に手を付けたからだ!」と思うとは思いますが気長にお待ち頂けると幸いです。

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