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訓練一日目ー1

「さて、ようやく始まったわけだから、全員気を引き締めて取り掛かるぞ」

「五十嵐君の酔いも大した事はないようなのですぐにでも動けますよ」

 要たちが飛ばされた先は島の沿岸部のようで、波の音が大きく聞こえていた。が、音と潮の香りだけで実物は一切見えなかった。

 というのもこの島の特徴である、数十メートルの高さを誇る絶壁が陸と海を遮断しているというのが原因である。

 本土と繋がっているのは来たときに渡った北東部に位置する橋のみであり、中央に大広場、東・南部に山岳地帯を模した地形を、北・西に雑木林が出来上がっている。

 境界線に当たる場所は大広場同様平坦ではあるが、何もない故に長居をし続ければ格好の的になってしまうだろう。

 現在要たちの目に写っているものは、北に木々、南に荒れた地形。

 つまりは南西部にある境界線、ということだ。

 選択に慎重な昴は視線を両方に行き来させながら少し考え込んでいた。

「二日間もあるのだから程々にしておくように、とだけ言っておく。最後に気が緩んで負けました、という結果では悔やんでも悔やみきれないからな」

「それは言われなくても俺らは分かっているが…問題は遥の方だな、ガッチガチに固まっているからなんとかして緊張を解したいんだが…よし、誰か一つネタをよろしく頼む」

「無茶を言うな、獅童。この中で気の利いた事を言える奴がいるとでも…」

「よし、なら俺が首藤の緊張を全力で…」

「いくら昴先輩でも遥に手を出したら叩きのめすぞ?」

「開始と同時に喧嘩は止めてくれないかしら…要も黙って見ていない!」

「いや、今回は要救助者役だからあまり介入しないよう言われているのだが…」

「…具体的にはどのような事が禁止されているのかを確認しても良いだろうか?」

 男勢が騒がしくする中、椛はそれを無視しながら要に尋ねた。

 心は喧嘩を止めるための宥め役に徹しているので聞くことはできなかった。

 要の口から確認できたことは以下のとおりだった。

 ・要救助者役は武力を持たない一般市民とする。当然専門知識は兼ね備えていない。

 ・命令を受けない限り自主的に動くことはない。精々危機に瀕して逃げ出す程度の行動のみ。

 ・要救助者を拘束された場合は失格とする。ただし要救助者に必要以上の怪我を与えた場合、その班員全員の留年を確定とする。

「…こんなところか」

「…何というか…完全なお荷物になるような条件ね…けど、それだと影継がここにいるのは?」

《過剰戦闘を食い止めるため、と話していたな。極限状態に追い詰められると手加減が難しくなるので当然といえば当然だな》

 ようするにいざという時の歯止め役だ。

 一応教員は常時生徒を監視している形ではあるが、距離が離れている以上物理的な介入が遅れるということは当然である。そこで有事の際には要も抑止力として駆り出されるということだ。

「そういう訳で、俺は協力できないが、皆頑張ってくれ」

《難易度は上がったみたいだけど、この組み合わせなら丁度良い下駄履かせね…っと、モタモタしているうちに複数箇所で戦闘が始まったわよ》

 空を飛び、偵察をしている雷上動からそんな金声が入った。事実、小さくではあるが彼らの耳に鋼のぶつかり合う音が届き、口論をしていた龍一と昴は気を引き締めていた。

「…仕方無い、この話は訓練が終わった後にでも再開するか」

「議論の余地すら無いが、後回しには同意だ…それじゃあ、全員南に移動だ」

 そう言って龍一が先導した。

 班のリーダーは龍一であり、全員それに従いすぐに行動へと移った。

 彼がリーダーと言うことには幾つか理由がある。

 一つはいつも中心である要は今回要救助者役なので論外。もう一つは、経験者である昴と心が仕切ってしまっては集団を扱うという経験が偏ってしまう、ということ。

 それらを総合し、かつ自身の意志をもって判断を下せる人間ということで龍一が選ばれたのだった。

「…ちなみに聞くけど、こっちを選んだ理由は?」

「森に比べれば視界が開けているからだ。敵の位置が全く分かっていない状態では昴先輩の弓も本領発揮出来ない上に、奇襲で要を奪われかねない。それに対してこっちは少し道が険しいが、ある程度まで登れば島全体を見渡せる上に戦闘が始まる場合、標高分だけ高度優勢がとれるからな…」

「どのように動くかをある程度で良いから説明できるか?」

「見て分かるとおり、最初はこの山を拠点にする。だが一所にずっと留まる訳にもいかないから、時期を見て下山。そしてしばらくは攻勢に移る…」

 道無き道を歩きながら龍一がそれぞれの質問に答えていく。要が戦線に出られれば一気に攻めるという手段もあったのだが、それが禁じられている上に、奪われれば失格になるという条件が付け加えられているので慎重にならざるを得なかった。

 と言っても慎重になりすぎず、ある程度攻めも考えているため、妥当な作戦だった。

(…長期戦に持ち込まれれば非常に厳しいが、だからと言って短期決戦には戦力が不足しているからな…)

 常時装甲出来る程の余裕があれば問題は無いのだが、やはり食糧も制限されているということが、彼らにとっては痛かった。

 つまりは充分な熱量の供給ができないということだ。熱量欠乏を起こしたところを一気に攻め込まれた場合は為すすべなく負けてしまう。それ故に分配まで気を使わなければならなかった。

 色々と考え込んでいると、彼らの耳に金声が届いた。

《荒木班、半数が戦闘不能とみなし失格です》

《次いで古賀班、同様の理由で失格です。これで残りは八班です》

「…始まって…三十分…だけど…?」

「偶然近くに飛ばされたのだろう。しかし人数が多いからもう少し時間がかかると思っていたが…」

 口を動かしながらも椛と遥は速度を弛めることなく歩く。その疑問に、龍一は静かに答えた。

「…これだけの速さとなると、多分岩代の班や楠の班だろうな。この二人の班は恐らく脅威になるだろうから、出来れば遭遇したときに消耗していると嬉しいんだが…」

「…二人とも名前は聞いたことがありますけど、どのような意味で脅威なのでしょうか?」

 心から投げかけられた質問に対して、龍一は少し考え込んでから口を開いた。

「…岩代は射撃の腕はそこそこだが、体の使い方が上手い。楠はその真逆、と言えば良いのか…それに加えて結構人望のある奴だから、班の人数自体が多いんだ」

「…もしかして、十五人くらい集まっていたあの班?」

 御影が思い出しながら尋ねると、静かに首を縦に振った。

 つまりは人数差が二倍近く。加えて要という保護対象がいるため、手数で攻められれば一溜りも無い、ということだ。

 そんな兵数の差で奇襲でもかけられたら、と思ったのか、心は息をのんだ。

「さすがに、さっきの戦闘で何人かは削られているとは思うが、それでも人数差はかなりある…ある程度消耗したことを確認したら一つの班に攻撃を仕掛ける。異議はないな?」

 龍一の言葉に全員が頷いた。

「まぁ、それまでは全員休憩だ。士気を充分に高めておくように」

「よし、なら俺は首藤と話でも…」

「…御影と椛は首藤に同伴しておいてくれ。いきなり不穏な状態になるのはさすがに勘弁だ…」

「えっと…これくらいの助言なら問題ないのかしら…?」

《あくまで訓練に関しての助言のみ禁止されているので、問題は無いだろう。発言を一切しない救助者というものは存在しないので当然といえば当然だろう》

「…そう言えば少し気になったのだが、要、さっきから息切れをしているように見えるのは気のせいか? この程度の山だったら全力疾走で三往復しても余裕だと思ったが…」

「…間違ってはいないな。ただ、一般人レベルにすることを徹底されているようだ」

 そう言って要は服の袖をまくった。

 そこにはウェイトリスト…つまりは重りが着けられていた。それも一つ二つではなく、肘までまくってもまだ続くほどに。

「これは…?」

「行動を制限するための負荷だな。正確な数値は分からないが、全身には鎖帷子を着けられているから体が途轍もなく重い…」

 そう言いながらも、それだけの重量を着けられながらも、要の足取りは衰える様子が無かった。常人離れした身体能力はある程度認知していたので、椛と御影は大した驚きは無かった。

「…それって要では外せないの?」

「外せるには外せるが…監視の目があるから、取り外した時点で失格扱いになるといっていたな」

《厄介な物であることは間違いないが、今回に関してはこれで丁度よいのかもしれんな》

「お~し、ここで一旦休憩だ」

 先に進んでいた龍一、昴、心は既に比較的平坦な場所で腰を落ち着かせて手を振っていた。


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