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要の暗躍

「よ、ようやく着きましたが……皆さんご無事でしょうか?」

「い、一応は……」

「ひ、被害は零……その代わり色々と削られたが……何事も無く終わらせた俺たちの勝ちだ……!」

「りゅ、龍君……何が……あったの?」

「まさか始まる前にここまで消耗されるとは思わなかったな……」

「む、村上君も大丈夫ですか? 脂汗が凄いことになってますが……」

「鞄を吐瀉物まみれにされるよりは良い結果だ……」

ようやく目的地に到着したとき、五人がかなり消耗しており、一人は完全に倒れ込んでいた。この惨状を聞きつけて遥が慌てて合流していた。

 横になっている要は微動すらせず、生きているかどうかも微妙なほど弱り果てていた。その脇にはアンジェが腰を下ろしており、濡れたハンカチで要の頭を冷やしていた。

「……えっと、連絡を受けて来たのですが、状況が全く読めていません。鏡花です」

 さすがに教師一人だけで対処できるようなことではなく、応援として呼ばれた鏡花は死屍累々の現状に戸惑いを隠せずにいた。

 その理由を、唯一消耗の少なかった心が説明すると、鏡花は驚きながらも指示を出し始めた。

「……分かりました、五十嵐君は訓練開始までの三時間休憩を取らせますので、あとは……そうですね、大嶺先生に任せておいてください」

「あい、わかりました~ えっと…そこの……そうだ、柴田先生、お願いします!」

 そう言って五組の車両に同乗していた大嶺教師は近くにいた男性教員を捕らえて要を運ばせた。

「……これで一安心ですね……けれども、このことを伝え忘れた旦那は帰ってから厳しく言いつけておかないといけませんね? 本当に肝心なところで面倒臭がる性格をどうにかしないと……」

「で、出来れば穏便に……って、旦那?」

 異様な雰囲気を持ち始めた鏡花を、心が落ち着かせようとしたところで少し気になる単語が現れた。

「? 聞いてないのですか? 名前を考えれば大体予想もつくと思っていたのですが…」

「……名前は確か、佐々木、鏡花……だったな。ただ、結構多い名字だから偶然の一致だと思っていたな……」

「まぁあまり公言されていないからな。軍内部でも知る人は少ないから、すぐに結びつかなくてもおかしくないことだ」

「……龍君は…知ってた?」

「結構最近だがな……取り敢えず俺も始まるまで休みたいのですが……」

「えぇ、ご苦労様でした。開始十五分前に大広場に集合してくれれば何の問題も無いので、それまでは各自自由時間です」

「諒解……それじゃあ、俺はどこか木陰で休んでおくわ……」

 言いながら龍一はふらつく足で歩き始めていった。遥はそれが心配だったのか、早歩きで追いかけていった。

「俺は少し水でも飲んできます……教諭、この辺に水呑場はありますか?」

「えぇ。と言ってもここからだと少し遠いですが……あちらの大広場を横断すれば……」

「分かりました……それじゃあ、俺はそのついででしばらく散策することにしよう」

 それだけ言って昴はその場を立ち去っていった。

 残されたのは、男子が全員離れたので、当然女子・女性のみになっていた。

「さて、私もそろそろ持ち場に戻りましょうかしら……と言っても、やることは時間まで無いのですが……」

「……申し訳ありません」

 その場を後にしようとした鏡花に対して、アンジェが呼び止めた。

「えっと……もしご存知ならば、何故今回の訓練にアンジェが同行できたのかをお聞かせ願えますでしょうか?」

「……あぁ! あなたが旦那の言っていた野良メイドの女の子でしょうか?」

「は、はい!」

「……うん、旦那の話していたとおり、可愛らしい女の子ですね……何をどうすればここまで成長するのか不思議で……」

「え、ええと……先生、アンジェに何か気に入らない点でもございましたか?」

「ん? あぁ、特に何でもありません」

 一瞬だけ顔より下に恨みがましい視線を送られたアンジェは、怯えて一歩引いていた。

「それで……何の話でしたか……あなたがここに来ることができた理由、でよろしいですか?」

「はい、先生ならご存知かと思い、不躾ながら尋ねさせていただきました」

「……う~ん……本人が居ないので良いかどうか分かりませんが……まぁ口止めされてないから大丈夫かと……」

「? もしかして、佐々木先生が?」

「いえいえ、確かに旦那は協力しましたが、実は提案をして抗議をしたのは五十嵐くんなんです……」

「「「……え?」」」

 三人の反応が予想通りだったのか、真相を明かした鏡花は非常に楽しそうに笑い声を上げた。

「……うん、やっぱり黙っていましたか。まぁ、あの子らしいと言えばあの子らしいですね」

 一人納得がいったように頷いている鏡花に対して、椛と御影が揃って身を乗り出した。

「……要が、今回は何をしたのかは教えていただけますか?」

「ここだけの話ですが、五十嵐君はアンジェちゃん…で良いですか? 彼女も今回の訓練に見学という名目で来られるように連日学園の教師を説得していたのですよ」

「……もしかして要が昨日眠たそうにしていたのって……」

「綾里さんの想像は多分正解です。半数以上の教員から許可を取らなければならないので、相当時間をかけていたようですね。半数とはいえそれだけでも数十人ですから……」

「……どうして要さんは、アンジェなんかの為にそこまで……」

「……真白さんにみんなと一緒に学生らしい思い出を作って欲しい、と言っていましたね」

 要が行動する理由が分からず俯きかけていたアンジェに対してそんな言葉が投げかけられた。その言葉に、彼女は鏡花の顔を見上げた。

「聞いた話だと、真白さんは元々学園生になるために海外子女入学試験を受けて、総合では合格点までは届いていたけど、英語が零点ということで不合格にされた、と……」

「は、はい。点数は聞かされていないのでそこまで出来ていたとは存じておりませんでしたが……ですが、それが一体……」

「……私の記憶が正しければ、ですが、五十嵐君は確か中学校に通っていない、と……」

「「え!?」」

 予想外の要の過去に、椛とアンジェの二人は驚きの声を上げていた。

 その中で、御影は何かを考えているのか、一人で呟いては一人で納得したような反応を示していた。

「彼が防人部隊に入隊したのが四年前なので、恐らくは小学校もまともに卒業していないのではないかと……」

「で、ですが、要さんの知識は素人のアンジェから見ても素晴らしいものだと……」

「ほとんどが独学か、専門家に聞いて……というよりは問い詰めて、の知識だそうで……」

 続々と明かされる要の過去に、三人は徐々に言葉を失い始めていた。そんな雰囲気を察知したのか、鏡花は咳を一つした。

「脱線しましたね……とにかく、五十嵐君自身も学生としての思い出がほとんどないようなので、同い年で学園に通えない真白さんが昔の自分と重なったようで……それ以上は話してもらえませんでしたが、とにかく彼自身も思うところがあった、ということだけお伝えしておきます」

 そうして、鏡花は柔らかい笑みを浮かべた後、静かにその場を離れた。

 去っていく最中、彼女は要を囲んでいた友人たちの顔を思い浮かべていた。

 

(……よいお友達ですね。あの御方のお孫さんだということも肯けますね)


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