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影の中の光

「……そうか、今回『も』汝は作戦に参加しないというわけか……」

 某国某所。

 相変わらず光の弱い無機質な部屋の中で、今河籐十朗は口を開いた。

 眼前には要や昴と年の差があまりない少年が壁に背をもたれていた。前触れなく現れてきた籐十朗に対して親の仇を見るような鋭い視線を隠すことなくぶつけていた。

 それは以前、からかわれて向けられた恭弥のものとは大きく異なり、純粋な憎しみのみが込められているのだが、それを知りながらも籐十朗は変わらず飄々としていた。

「…悪いな。だが、多人数を殺しかねない作戦……俺のやり方に全く沿わない以上、『要請』には断らせてもらう」

「それならば仕方がないな。やる気のない人間を戦場に持ち込んでも邪魔にしかならないから、今回汝は控えておいてもらおうか」

「話が早くて助か……」

「だが、これで『後がない』、ということだけは忘れるな。次以降出陣することが無ければ…」

「……充分に分かっている。これで拒否権は使い果たしたって事だろ? ただ、今後は単騎行動……それが無理なら少人数の作戦に……って言うだけ無駄か?」

「望むのならば善処はしよう。ただ、そこまで言うからには次こそは絶対に動いてもらうぞ」

「脅迫操作じゃ本領を発揮させることが難しいのは知っているだろ?」

「そうでもしなければ汝は戦おうとすらしないだろう。事実、唯一出陣した二年前でも一騎打ちを一つしただけで撤退した事は鮮明に覚えているぞ…それも殺さなかったな」

 言うと籐十朗はその場を立ち去ろうとしたが、そこで一つ警告を出した。

「…次からは情を捨てて挑め。さもなければ、あの女子の…加えて、故郷の者たちの命は無い……分かっているな?」

「……あぁ、それさえなければ今すぐにでもてめえらを八つ裂きにしたいが、こいつの…みんなの命には代えられねえからな」

「理解しているのならば話は速い……それじゃあ、坊主の見張りはしかと勤めろ」

「「「「Yes,Sir!」」」」

 それまでずっと黙っていた人間が気力十分であることを示すかのように大声を張り上げた。異国の言葉を使っているが、そのうちの二人は亜細亜系の武人と神樂であり、武人に至っては大和人であった。

 それを確認すると籐十朗はすぐにその場を離れていった。

……残されたのは六人。

「下手な事をしようとすれば、二人とも容赦無く痛めつけるから覚悟しておけよ?」

「……四人がかりでないと俺を殺せない、の間違いだろう? お前らがあたかも俺以上の実力者のようであるような言い方をするな……」

「 “ちっ! 口の減らない大和人だ!”」

「 “自分の置かれている状況が理解できていないようなら、少し思い知らせてみようかしラ? 模擬戦と言っておけば多少の怪我は見逃されるデショ?”」

 異国人である二人は、この少年には分からないだろうと思って異国語で会話を展開していたが、雰囲気と単語から少年はある程度何を言っているのかは理解できていた。

 しかし、そんな安い挑発に乗ることもなく、静かに自分の後方から聞こえる寝息に安心を得ようと必死だった。

「……こんな俺の姿を見れば、詩織は失望するだろうな……」

 その言葉は誰に投げかけたのか、答える人間は無く、少年は歯軋りをした。

「……ただ、それでも最後に一度だけ、あの時の武人と仕合ってみたいな」

 悪言が狭い室内で反響していたため、少年の声は全て見張りの四人に聞こえることは無かった。


 部屋を出ると、いつも通り黒布を纏った人形が彼を出迎えた。

『お待ちシテおりましタ…結果ハ…失敗でスか?』

「…やはり、虎の扱いは非常に難しいものだ。隙あらば首を狩ろうと言わんばかりの殺意は素晴らしいが、出来ればこちらに向けて欲しくはないものだ」

 籐十朗は人形に対して愚痴を零す。

 先程の少年とは異なり、感情を持たないが故に、反発するという概念もないからだ。

 命令すればその通りに動く…しかし、どれだけ人間に近い動きが出来ても、一般人にも劣る性能では戦場に投入しても役たたずでしかない。

 数は力である。

 しかし、それを凌駕する個の前では塵芥同然となってしまう。それ故に、籐十朗は今回の作戦のために協力を要請したのだが、結果は先程の通りである。

「仕方ない。小生が参加するか…それに、くだんの五十嵐という人間とも殺しあうのも一興か?」

『…例ノ…大和最強の孫息子…デシたか?』

 予想外の問い掛けに一瞬籐十朗は驚きの表情を見せたが、それもすぐに毒々しい笑みへと変わった。

「…そのとおり。世界大戦においては一個大隊に匹敵し、その圧倒的な実力から『雷神』と謳われ、終戦へと向かわせた五十嵐源内…その孫息子はどれほどの腕を持っているのかが知りたくて知りたくて仕方がない…不幸にも、二年前の戦いで源内が殺されたのは残念だが、小生は運が良い! その血筋とまだ殺りあえる機会があるのだからなぁ!」

 籐十朗は溢れる笑みを抑えきれず、しまいには大笑いを始める始末だった。

 …彼はただひたすらに強者を求める狂人である。

 傷つくことに恐れを抱かない。

殺すことに躊躇いを持たない。

 しかし、見込みのある人間は殺さない。

 故に【戦闘狂】と呼ばれている。

「決行日の二日後が楽しみで楽しみで仕方がない! …おい、そこの! 小生は最終点検に入る! 以降小生には一切近寄らないよう全員に通達しておけ!」

『かしコまリマした』

 途中手の空いていた人形を捕まえてそれだけ言うと、籐十朗は軽快な足取りでその場を去っていた。


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