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二日前

 実地訓練まで、後二日。

「龍一、今時間を貰えるか?」

 小校庭に一人龍一が向かっているところを、佐々木傭兵によって呼び止められた。

「……? 大丈夫だが、どうかしたのか、教諭……いや、その様子だと少佐と呼んだほうが正解でしょうか?」

「立場は後者なんだが、出来る限り手短に連絡しておくだけだ、気にすることじゃない」

 そう言って傭兵は周囲を見回し、人がいないことを確認すると小声で龍一に語りかけてきた。その様子にさすがの龍一も背筋を伸ばしていた。

「……先日の奇襲を仕掛けてきた集団が『救世主』だということは知っているか?」

「えぇ……というより鷺沼の件と同じで、しかも廃棄処分された釼甲を大量に使うのはそこしか考えられませんが……」

「……それで、さすがに『待ち』の体制でいられなくなったということは上もようやく理解できたのだろうか、一応の捜索隊が構成された」

「……つまりは『本腰を入れていない』ということですか」

「そうだ。本隊から数人が用意されただけで、残りは防人部隊から捻出しろ、とのことだ」

 そう言うと傭兵は怒りを少しも隠そうとせずに舌打ちをしていた。

 彼らが話している『上』とは、大和政府國衛省の大臣及びそれに次ぐ幹部の事である。

 國衛軍は独立した組織ではなく、あくまで國衛省に所属する軍隊と定められており、大多数の軍兵を動かす際には『上』の許可が必要になる。

 つまりは、あれだけの被害を受けながらも、そして一歩間違えていれば学園生全員の命を失っていたであろう事があったにも関わらず、上層部はまともに動こうとしていないのだった。

「……それで話というのは、その捜索隊に自分も参加せよ、ということでしょうか?」

「それも少しは考えたが、人数に関してはある程度間に合っているから問題はない。連絡事項は一応の動きがあった、ということだけだ……あぁ、あと『百年に一度来るかどうか分からない侵略のために莫大な費用を消費することはおかしい』などと言って軍事費を削った阿呆議士が禁固十年になった、ということも話しておいたほうが良かったか?」

「予想は出来ていましたが……思ったより長い期間に『ざまあみろ』、でしょうか?」

「『鷺沼』の件もあるから、俺としては終身禁固でも問題ないと思ったのだが……」

「死刑が設けられていないということが残念で仕方がありませんね」

 物騒な会話が繰り広げられていたが、運良く周りには一切人が居なかったため聞かれることは無かった。

 大和政府は、他国家に比べて少々特殊な点がある。

 それが『悪政断罪』というシステムである。

 政治を行うのは人間であり、その政治は國民の生活に直結する。つまりは多くの命を預かる仕事でもあるのだが、他国の政治体制……政治家に課せられるリスクがあまりにも軽微であればどうしても倦怠・腐敗は免れなくなってしまう。

 そこで、大和帝からの実質政権移行の際に設けられたものがそれである。

 『人の営みは國家が全力を持って保護するべきものである。これに逆らう若しくは怠る者には相応の罰あるべき』という声明が発表され、決して書き換えられぬ絶対の条文として憲法に記された。

 つまり、軍事費を削ったことで國衛の為の人材が減少し、今回、そして『鷺沼』のような事件が発生し、多くの人命を失ったために罰を与えられたのだった。

 龍一たちはその罰の大きさに不満を持っているようだが、そんなことで愚痴を零しても意味がないと判断したのか、同時に溜め息をついてから話を続けた。

「……ちなみに要はこのことを知っていますか?」

「既に昨日話しておいた。お前の場合はなかなか一人にならないものだから少し時間がかかった、というわけだ。二人とも揃って端末を使えない、というのはやはり不便だな」

「要は完全な機械音痴、自分は機械嫌悪ですからね……それより、反応は?」

「……抑え込んではいたが、怒っていることは明らかだったな。あいつとしては今すぐにでも姉を探しに……そして、根源の駆除に行きたいだろうに……」

「……! その姉って、たしか行方不明と言われていた……千尋という人か!?」

「名前は知らないが、要の姉がその人だというならば、そうなのだろうな」

 上層部の無能さで愚痴を零した時以上の怒りを滲ませていた。

 それは、要に対して何もできない事への無力感もある。

 本来、上に立つ人間がすべきことは、着いてくる人間を守ることである。決して自身の為に切り捨てるということはあってはならない。けれども、傭兵は教え子であり、直接ではないが部下である要に対して何もできていないのだった。

「……面倒だが、俺の部下で独自に捜査を展開するか…」

「……それだと、上にばれた際に更に面倒なことになるのでは?」

「数十年後に後回しにして膨れ上がったツケを払いたくないからな。小さいうちに片付けたほうが楽なうえに、成果を上げておけば文句も言われないからな」

 そう言って傭兵は煙草を銜えて火を点けた。

「……最後の提案は、要には黙っておくように。下手な期待をさせて失敗したら目も当てられないからな」


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