幼馴染
「…それで…二人はこの時間まで…寝てたの?」
昼休み。
既に半分ほど終了したころに小校庭で寝ていた二人は目を覚ました。
当然食事を摂っているわけが無く、慌てて食堂に向かったところ、目の前の彼女と同席して無事昼食にありつけた。
時間が半分ほどすぎても食堂は依然として人で溢れかえっており、彼女に見つからなければ何も食べずに午後の講義に挑まなければならなかったかもしれない。
「あぁ、誰も起こしてくれないもんだからぐっすりで…」
「…普通は…そこまで寝ない…それに…自業自得」
「相変わらず手厳しいな、首藤は…」
「しかし遥が食堂に来る途中に俺たちに気づいていてもおかしくなかったんじゃ?」
「だから…自業自得」
「…成程、それぐらいは自分でなんとかしろ、と?」
正解だったのか、首藤遥は自身で作ってきたのであろう弁当を広げながら頷いた。
体が他の女子に比べて小さいので、弁当もそれに合わせて小さめ…というわけではなく、食欲旺盛の男子でも引いてしまいそうなほど大きな物だった。
白米半分、色取り取りのおかずが半分と、如何にも女子らしい品目なのだが、いかんせん量が多いので少しばかり可愛らしいという言葉とは疎遠な状態に見える。
「しかし態々食べずに待っていたところを見ると、やはり首藤は優しいな」
「…そうでもない…」
照れたように顔を伏せるが、時折気になったのか、遥は視線だけで龍一の方を見た。
「まぁ、食べながら話すのも楽しいからな。待っていてくれてありがとうな、遥」
「………うん…いただきます」
「「いただきます」」
その答えに満足したのか、遥は小さく微笑んで弁当に手を付けた。
ただ、その大きさのあまり要と龍一のスペースが圧迫されており、机から微妙にはみ出した皿に気を付けながら食べ始めた。
「ところで、遥の方の授業はどうだ? 俺たちは徐々にだが実践的な…といってもまだ釼甲は使わないが、訓練も組み込まれ始めたが…」
「私たちは…一ヶ月位前から神技の精密操作に入り始めた…」
「そうか…遥に自慢しようとしたらさきを越されていたのか…」
「首藤の神技は確か…」
「『力量方向操作』…使い勝手が…難しい」
箸を止めることなく進めながら、遥が丁寧に答える。
「…ただ逆を言えば使いこなせればとてつもない効果がありそうだ」
「使い方次第だな。薬も毒も元を辿れば同じものだからな…あ、その玉子焼き旨そうだな。この天ぷらと交換できるか?」
「……うん、分かった…」
少し迷ったようだったが、交換するものを確認すると即交換に応じた。
唐揚げと天ぷらを交換する場面を見て、さすがの要も突っ込まざるを得なかった。
「…天ぷらそばの天ぷら…それも一個だけの海老天を交換とは…」
唯一乗せられた大物を交換に出す親友を信じられないものを見るような目で見ると、それに対抗するように龍一も口を開いた。
「そういうお前も、何でメニューに乗ってない『野菜の玉子綴じ丼』なんてものを頼んでいるんだ? しかもその量で百円って…」
龍一が指差した要の昼食は、カツ丼のカツを野菜に変えたような丼物で、量は遥ほどには及ばないが、それでも二人前はありそうな器に山のように盛られていた。
「親しくなった食堂の人が開発したものの様で…いろいろ試してみる代わりに一律百円という条件付きでな…」
「本当にお前は普通の人とのつながりが広いな…」
「褒めてもこれはやらないぞ?」
「遠慮しておく」
そんな会話をしているうちに昼食も食べ終わり、時間も後十分程度で午後の講義が始まるという頃になった。
「…っと、そろそろ動かないと遅れるな」
最初に腰を上げたのは龍一で、それに着いていくように遥が立ち上がった。
遥は龍一の後ろにピッタリとついて行き、端から見れば兄妹のようにみえた。
「…首藤は龍一に懐いているように見えるのだが…二人はどんな関係に当たるんだ?」
ふと疑問に思ったのか、要は思わずそんなことを口にしていた。
その声が耳に入ったのか、二人は揃って振り返った。
「どんなって…そういえば要には俺たちの事を話していなかったか?」
「全く。というよりお前の学園での人間関係は一切把握していないな」
そういえばそうだ、と気付いたように龍一は指を鳴らした。
それを真似しようと遥も試してはいるが、力が足りないのか、それともコツを掴めていないのか、擦れるような音だけが聞こえた。
「俺と遥は幼馴染でな。今年で十年目の間柄だ」
「随分と長いな」
「何年かは会わなかった…最初に龍君と会ってからが…十年…」
「と言ってもそんなのは一年二年の話だから、途切れるようなことも無かったな…」
懐かしむように話す龍一に、要は思わず自分の幼馴染を思い出した。
五年ぶりの再会だというのにも関わらず、自分の不甲斐なさが原因で間に亀裂を走らせてしまったことを。
訓練以外の時間では、どうすれば仲を直せることができるかなども考えていたが、話すきっかけも無ければ話題もないために行き詰まってしまった。
授業の合間にも一応話しかけようとはしたものの聞く耳を持たないようで、声をかけようとしただけで椛はわざと他の友達に話しかけるような、あからさまな避けがあった。
(…どうしたものか…)
決して要もこのままで大丈夫だとは思っていない。
だから自分の頭で思いつく方法を色々と考えては見たが、どれも上手く行くようには思えないと判断して、一度意識を別の方向に向けることにした。
遥と分かれるまでの間、龍一は彼女との思い出を再び噛み締めるように語りながら歩いていた。