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事前準備

「影継の兵装を作ろうと思ったのだけど……要は何か要望はある?」

「……は?」

 昴たちと別れたあと、要は御影との約束通り、指定された場所に着くと、突然そんなことを尋ねられた。因みに影継は《この部屋では入ると邪魔になる》ということで廊下で待機している。

 場所はアンジェの宿直室……相変わらず御影はアンジェと同室で過ごしていたのだった。女子寮にも一つ部屋の空きはあるようなのだが、如何せん彼女が『部屋が広すぎる』という理由で辞退したのだった。

 部屋の主であるアンジェも、何の問題も無いと答えるため、現状が維持されているということだ。当然、今もアンジェは要たちの隣に座している。

「要さん、業物釼甲の特徴は確か拡張性の無さ、ではありませんでしたか? …こちら、お口に合えばよろしいのですが……」

「あ、あぁ。ありがとう……」

 来客である要に緑茶の入った湯呑を手渡しながらアンジェが不思議そうに尋ねてきた。

 彼女の言うとおり、業物と数物の大きな違いの一つが『拡張性』の問題であり、数物釼甲が武人に合わせて兵装を容易に変更・追加出来るのに対し、業物はそれがほとんどと言っていいほど出来ない。

 その特徴から、業物を使える実力を持ちながらも数物を使う武人もいるほどである。

 それを充分に知っていたため、要は驚きを隠せず、普段滅多に見せない動揺した表情をしたのだった。

 落ち着きを取り戻すためか、一口茶を口にし、一息ついてから要が切り出した。

「……アンジェも言ったとおり、業物の兵装追加は出来ない筈だが……」

「えぇ、確かに拡張性は数物に比べれば全く無いわよ。けれど、業物はその錬造主及びその釼甲の構造を詳しく知る鍜治師なら兵装の追加は可能なのよ。現代ではあまり知られていないようだけど、ね」

 二人の疑問を理解した御影は手を振りながら否定した。

「業物の兵装追加が出来ないのは、その構造の秘匿性が原因なのよ。正確には構造に見合った武器でなければ、展開することが出来ない、ということなのだけれど……要も知らなかったのは意外だったわ」

「……俺を全知全能だと思ったなら、これを機に考えを改めておいてくれ」

 湯呑を傾けながら要は静かに答えた。

 しかし、これで数物の拡張性について正確に説明することができる。

 数物は業物と異なり、大和を例にして語れば、各州の研究者が共同に開発しており、更には国から情報の共有を義務付けられている。

 そして、武装を釼甲に合わせて最適化する場合もあれば、武装のために釼甲を改良するというのが数物釼甲の現状である。前者は個々人の戦闘法に合わせて装備の変更をする場合に重要である。後者の良い例が乙竜と丙竜であり、乙竜ではどんなに手段を尽くしても装備できなかった銃火器……主に肩部駆動式砲台ショルダーカノンを搭載できるよう、改造された釼甲が丙竜である。

 これらが出来る理由は全て『構造を公開されている』ためだ、と要は理解した。

「……話は戻すが、つまり練造主である御影なら、影継の兵装は可能、ということか?」

「むしろ私にしか出来ないわ。影継の構造は私の頭の中にしか無いから、当然といえば当然ね」

 誇らしげに胸を張りながら、彼女は答えた。

「一応学園の兵装に関する書物は全部読破したから、時間があればどんな武器でも追加できるわよ?」

「先週あまり見かけないと思ってはいたが、もしかしてそれが原因か?」

「えぇ。見たこともない兵装が四百年分もあったから、読み始めたら止まらなくなって……! 螺旋式掘削機ドリルとかいう兵装が特に……って、危うく脱線するところだったわ……」

 嬉々として得た知識を話そうとするが、自分の語気に熱が入ったことを自覚すると、一つ咳をして仕切り直した。

「とにかく、要が良ければ、になるけど、影継の兵装を一つだけだけど追加できるということを言っておきたかったの」

「……随分と急な話だな」

 飲み終わった湯呑をちゃぶ台の上に置くと、それを事前に察知したアンジェが手早く茶を注いだ。いつもどおりの気遣いに要は軽く頭を下げた。

「まぁ、色々と理由はあるのよ。最近になってようやく学園の鍜治場を整理し終わって、使い物になるようにしたのと……デュランダル、だったかしら? 椛の話を聞いた限り、あの釼甲……神技無しでも倒せたかもしれないけど、今の兵装だけではとんでもない時間がかかったでしょうね」

「……やはり、そう思うか」

 御影の言葉に要は素直に同意した。

 影継は近接戦闘に特化した釼甲であることは要も充分理解しているが、それを充分に活かせる兵装を持ち合わせていないことも察していた。

 身体強化・甲鉄練度は要が今まで見てきた、知った釼甲の中でも上位に入っていることは間違いないが、兵装の乏しさが決め手を欠いているのだ。

「今すぐに、とは言わないけど……出来れば実地訓練には間に合わせたいから……」

「いや……実は何にするかは大体決まっているんだが……」

 御影が期限を指定しようとするよりも先に、要は考えを口にし始めた。

「先に言っておくと、俺は戦闘に関して言えば晴嵐流とある程度の騎行術しか使えない……恥ずかしい話、銃火器は全て暴発させてしまう。ここまでは知っているな?」

「まぁ、今までの訓練を見ていたから、薄々と感じていたけど……」

「つまり、候補は近接武器に限られる、ということでございますか?」

 アンジェの答えに要は頷いた。

 要の最初の射撃訓練以降、何度銃を扱おうとしても、引き金を引くと同時に暴発するとういう現象が起こり、それにより犠牲になった物は既に二十を超えている。さすがにそれ以上の数を一個人で消費する訳にもいかず、要は射撃訓練に限り受けなくても良いという特例が布かれている。

 それを数度見ている御影は言葉を選びながら、アンジェは出来るだけその話題に触れないよう注意しながら話を進めた。

「それなら、要の案を聞かせてもらっても良いかしら?」

「……期待しているようで悪いとは思うが、俺が頼みたいのは野太刀だ」

「…野太刀……たしか大太刀とも呼ばれる大きな大和刀でございましたか?」

 アンジェの問い掛けに二人が頷いた。

「……晴嵐流は鎧通し、太刀、野太刀に適した術技があるのだが……影継には二つしかない。そこで、練造出来ると言うのなら、これを頼みたいが……何かまずかったか?」

 話している最中に御影は口に手を当てて思案顔をしていた。それを見た要は

「……ん、いえ……少し引っかかるものがあったけど……思い出せなかっただけよ、気にしなくて良いわ。刀であればかなりの物を作れる自信はあるけど、特に要望があれば出来る限り教えてくれるかしら?」

「諒解」

 そう言うと、要は可能な限り詳細に『それ』の要望を述べた。

 時間としては十五分。

 口頭だけで説明しているため、比較的時間がかかっているが、御影は要の要望を一度聞いただけで全て理解し、簡単ではあるが図面に書き起こして要の目の前に差し出した。

「大体こんなものになるだろうけど……」

「あぁ、理想通りだ」

「分かったわ、じゃあ今すぐ取り掛かろうと思っているから……しばらく影継を借りても良いかしら?」

「俺は問題ないが……《影継は?》」

《否定する理由も無いだろう。しばらく主の護衛が疎かになるのは痛いが……まぁ、龍一殿や昴殿がいれば問題は無いだろう。錬造主によろしく頼むと伝えておいて欲しい》

 金声で意思伝達をすると、影継は即断して答えた。

「《諒解》……影継からも了承は得られたから……御影、頼めるか?」

「私が提案したことを、私が拒否する訳が無いでしょう……とにかく、貴方にとって最高の一振りを作り上げるわ」

 そう言って御影は席を立ち、迷うことなく室外へと向かった。

「それじゃあ、影継。付いてきてくれる?」

《承知》

 それだけの声が聞こえると、一人と一領の足音は遠くなっていった。

 部屋に残された二人は、しばらく静かに座っていた。

「……そういえば、蜥蜴丸さんは狙撃銃をさも当然のように装備しておりましたが、あれはもしかして……?」

「御影の話も考慮すると……福原一族に蜥蜴丸の構造図でも伝わっていたのではないかと……それなら腕の良い鍜治師が見れば追加兵装は可能、ということだからな」

 アンジェのふとした疑問に、要は憶測ではあるが律儀に答えた。

「しかし、業物の兵装を追加出来ないことにそんな理由があったとは思わなかったな。さすがの爺さんも全能ではない、ということか……」

 湯呑を傾けながら、思い出すように要が呟いた。

 その表情は、どこか悲しみを混じえているようにアンジェには見えた。

「……もう一杯、如何でしょうか?」

「……貰えるか?」

 ただ、静かに、それ以上の会話はしばらく無く、時間だけが過ぎていった。

 要が自室に戻ったのは、アンジェの特別講義をこの場で済ませた後だった。



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