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ガールズトーク《椛と心》 +α

 学生寮には男女共に大浴場が用意されている。

 個室にも浴場はあるのだが、必要最低限の大きさしか無く、手足を縮めて入らなければ全身を湯に浸かれないほどである。

 それを嫌ってか、大抵の生徒は寝汗を流す時など大浴場使用時間外に風呂に入る場合と、一人風呂を好む場合にしか使われない。

 時間ギリギリだというのに浴場に入る彼女たちも同様なのだろう、先程まで医務室で一緒だった女子五人は貸切状態を満喫していた。

「ほわぁあぁ……噂には聞いておりましたが、ここまで広いとは驚きでございます!」

「あら、真白さんはここが初めてですか?」

「はい。アンジェの場合は部屋のお風呂でも充分でしたので…」

「でも今日は怪我をしているのだから、あの狭い浴場はお勧め出来ないわよ?」

「…そう……しばらく……身体に負担をかけないよう……ここでゆっくり…」

「首藤は身体を伸ばしすぎだ。私たちしかいないとは言え、大の字になるのは少しはしたないぞ?」

 少女たちの声が反響する。

 初めての実戦…それも奇襲乱戦による疲れを落とすために、管理人に交渉した結果、一時間という制限付きで特別に開けてもらえたのだった。

 アンジェと御影は身体を洗い、遥は数回身体を水で流すといの一番に風呂へ身を浸からせ、椛と心は軽く身体を洗い終わると並んで肩まで浸かって座っていた。

 それぞれの性格が何となくだが垣間見えた。

「あ、綾里さん。宜しければお背中を流し…」

「それくらい自分で出来るから大丈夫よ。それよりも今日、アンジェは安静にしていないと。ほら、痒いところは無い?」

 アンジェは初めての状況に戸惑っているようで、それを良いことに御影が問答無用で彼女の身体を洗い流していた。

「……綾里は凄いな。熱量欠乏寸前だったというのに、もうあそこまで回復しているとは……」

「……どこかに熱量でも溜め込んでいるのでしょうか……?」

 全女子が羨むような豊満なそれを見て椛と心の二人は思わず呟いていた。

 どの角度からも見える凸凹は、およそ十五、六の女子の体付きではない…背の高さも相まって、稀に教師と間違えられるほどだ。

 遥に至っては既に現実を受け入れながら目を背けるという、どこか矛盾した行動を取っている。つまりは一度たりとも御影の方を向いていないのだ。

「取り敢えず、いい湯ですね」

「……そう、ですね……」

 上級生相手にどう対応すれば良いのかわからないのか、椛は少しだけ声を詰まらせて答えていた。その様子を感じ取った心は、その緊張を解すように笑った。

「ふふふ、そう畏まらなくても良いですよ。普段通りに……それこそ五十嵐君に話しかける時のような態度で大丈夫です」

「! な、何故ここで要の名前が…」

「やっぱり、ですね……五十嵐君は魅力的だから、思わず言ってみただけなのですが、まさかここまで露骨な反応が返ってくるとは思えませんでした」

 椛の反応に、悪戯を成功させた子供のように、心は無邪気に笑っていた。悪意がない分、タチが悪い……そう思いながらも、心の話を完全に無視できない彼女がいる。

「五十嵐君は……何となくですが、自分より他人を優先する人なのですか?」

「え、えぇ。他人…と言っても親しい人間に限りますが、誰かが傷つく位なら自分を犠牲にする男ですから…私としてはもう少し自分を大事にして欲しいところですが……」

「あら、五十嵐君は大切に思われているみたいね?」

「……け、怪我人が出れば心配になるのは当然でしょう!?」

「ふふふ、そういうことを言っていて良いのかしら?」

 何かを企んでいるような、楽しみにしているような表情を浮かべると、心は突然立ち上がった。

 まるで、この場に起きる騒動から逃げる準備でもするかのように。

「……どういう事……でしょうか?」

 何故か聞くのをためらわれたが、彼女は重くなった口を開き、辛うじてそれだけ声にすることが出来た。

 彼女の問い掛けに、心は顔だけ振り返り、浴場の扉に手をかけながら応えた。

「……素直になっておかないと、綾里さんや真白さんに盗られてしまいますよ?」

「………!?」

「それでは失礼♪」

 言葉を失った椛を背に、心は浴場から出た。

「……さて、私も村上君相手に何か手を打たないと、見本になりませんね」

 言いながら素早く普段着に着替え、その場を後にした。

 悪戯を成功させた子供のような笑みを浮かべ、自室に戻っていく姿を、途中他の生徒に見られていたが、彼女はそれを少しも気にした様子はなかった。

 要の夜は静かに。

 少女たちの夜は騒がしく。

 昴と龍一の夜は密かに。

 過ぎていった。


「…食べないわね? やっぱり魚じゃないと食べないのかしら?」

「…人の部屋で何をやっているんだ?」

 鳶色の鷲に何かをあげようとしている女性に対して傭兵は呆れながら尋ねた。鷲は全く興味が無かったのか、主が現れると同時に飛び、真っ直ぐに彼の肩へと降り立った。

「…済まん、さすがの俺でもお前は重すぎる。そいつからは俺が言っておくから下の場所に戻ってくれるか?」

「何よ? 私は帰ってくるのが遅い旦那の為に、代わりにご飯をあげようとしていただけよ?」

「だからと言って焼き鳥を与えようとするな。釼甲とはいえ同族を食らうなんて出来る訳がないだろうが」

「諒解。美味しいのに…」

 言うと鏡花は与えようとしていたものをそのまま自分の口へと運んでいった。教員用に与えられた寮の一室、そのベッドの上で彼女は小さく焼き鳥を齧っていた。

「…お前には自室に帰るという選択肢は無いのか?」

「別に問題は無いと思うわよ? 寝床は大きいし、私たちは夫婦だから社会的に見ても問題なし」

「その代わり俺の買い溜めしておいた食糧が一気に無くなるが…言っても無駄か…」

 諦めたように息を吐きながら、傭兵は部屋の隅に置かれた机へと向かった。座ると同時に引き出しから紙を一枚取り出して何かしらを書き始めた。

「報告書?」

「そうだ」

「被害報告と戦闘報告は私が終わらせたけど…」

「それじゃない。以前から言われていた方の報告だ」

「…あぁ、五十嵐君が釼甲を装甲できなくなった理由? 何か分かったことでもあったの?」

「…しばらく待っていろ。それからゆっくり話す」

 それだけ言うと、二人と一領は沈黙を守った。

 時間にして一時間ほど。

 ようやく作業が終わったのか、傭兵が伸びをすると同時に湯呑みが置かれた。

「お疲れ様。それで、話を聞かせてもらえる?」

「ありがとう。と言っても簡単な事だ。要の実力が数物釼甲の許容量を突破した、というだけだ」

「…はい?」

 信じきれなかったのか、鏡花は首をかしげて固まったが、それでも傭兵は容赦無く話を続ける。

「確かに数物釼甲、特に甲竜は釼甲の中でも最も装甲し易い上に身体能力強化に関しては他二竜に比べて限界値は高い。ただ、それらは両方とも業物に比べれば圧倒的に低いという欠点がある…要の実力は、今現在大和が制式に採用している釼甲全ての身体能力強化の限界値を超えていた、ということだ」

「ちょ、ちょっと待って…それって…!」

「…お前がそう驚くのも無理のない話だが、要の師範を考えればかなり妥当な線だと思うぞ…というより、『前例がある』のにすぐに気付けなかったのは失敗だったな…」

「…神之木中将を御大将?」

 鏡花の言葉に傭兵は静かに頷いた。

 その反応で、彼女は思わずたちくらみを起こしたが、さすがに倒れるようなことはなく、すぐに持ち直して話を続けた。

「それじゃあ、獅童君ももしかしたら…ということ?」

「…あいつの場合は、自身が持つ異常性に救われているところが大きいが、可能性としては十分だな。あの『見ただけで理解する才能』無しで俺に勝てるようになればもしかして…と言ったところだから…先は長い」

 そう言いながら傭兵は飲み干した湯呑を置いて立ち上がり、迷うことなく部屋の外へと向かっていった。途中立てかけてあった金属製の訓練刀を手に取り、それに幾つかの重りを付けて。

「…さて、俺もすぐに追い抜かれないよう訓練量を増やすとするか…」

「…無理はしないように、ね。布団は温めておくわ」

「真夏日にやるべきことじゃないな。さっさと自室に帰ってくれると俺としては助かる」

 そう言って傭兵は自室を後にした。

 蝉が鳴き始める、文月中旬の夜の事だった。

これで第二話完結です。駄文を二十万文字も読ませるのは拷問に近いことだとは思いますが、読了していただいた方々には感謝以外の言葉が見当たりません。ありがとうございました。

それでは、また次回に。出来る限り早く投稿できるよう努力はしますが、筆者の都合により遅れる可能性も有るかもしれません。その場合は気長にお待ちください。

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