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《疾風怒濤 対 不動城塞》

『…随分質が悪いのばかり集まってんな…木偶に潰されないだけマシだが、かといって突出してるわけでもねぇ…』

 黄緑の武人は、その莫大な重量を持つ鋼の身体をゆっくりと進めていた。

 本来釼甲の背に備えられている飛火が存在せず、騎行が出来ない非常に珍しい型の釼甲のようで、その代わりと言わんばかりに分厚い装甲が彼の身を守っていた。

 各地で行われている戦闘が、無人釼甲の『目』を介して映像として彼の眼前に写り出されていた。

 どの学生武人も攻撃を防ぐのが精一杯といった様子で、彼の内に秘めたる『モノ』を震わせるような武人は全くと言っていいほど居なかった。

『つまんねぇな…』

『ならば手合せを願えるか?』

『!?』

 声のした方向へ顔を向けると、一本の矢が空を切りながら黄緑の釼甲へ襲いかかってきた。矢を視認した彼は右足を軸に左足を引くことによって、紙一重で避けることに成功した。

『…奇襲とは随分楽しい真似をしてくれるじゃねぇか…? 士道に背いているが、大丈夫なのか?』

《宣戦布告もなしに無差別攻撃をするような野蛮人に士道を説かれたくはないわね》

 皮肉を込めた金声と共に、一騎の釼甲が彼の眼前に舞い降りた。

 空色の機動戦闘型釼甲・雷上動。

 仕手は【疾風怒濤】・村上昴。

 手には自身の背を超えるような弓が握られていた。

 腰には二振の刀が両側に差されている。

『…天領学園風紀委員所属、村上昴。邪道に身を置いているようだが、腕は立つとみて手合せを願おうか?』

『御丁寧にどうも、俺は陣場じんば恭弥きょうやっつーんだ。よろしくな…けど、わざわざ俺に喧嘩を売るって事は腕に自信がある、という解釈で良いか?』

 恭弥と名乗った少年は喜々としながら腰に下がった大剣を引き抜き上段に構えた。

 身幅は厚く、白刃が無ければ鉄板と言われても何の違和感もないだろう。当たればどれだけ強固な装甲であろうとも穿ちかねない。

 だが、昴の対応は非常に落ち着いたものだった。

『…いや、単なる腕試しだ。昨日負けたばかりで自信喪失していて、な』

 言いながら昴は弓を格納し、二刀を抜き払った。

 左の刀を前方に、右の刀は下段に構えた。

『…随分面倒臭い奴が来たな…まあ、そこそこ出来るようだから期待させてもらうぜ?!』

 前口上が終わると同時に黄緑の巨体は、見た目にそぐわない俊敏さで駆け出していた。

 間合いを一気に詰める踏み込みにより、蹴った大地は大きくへこみ、勢いのまま降り下ろされる。圧倒的重量のある白刃が風斬り音を鳴らしながら空色の武者へと襲いかかる。

 だが、それよりも速く昴は横に飛んだ。

 白刃が空色の武者を追い掛けるも、その圧倒的速度には全く歯が立たず、距離だけが離されていく…

 恭弥が大剣を振り抜いたときには既に昴は彼の背後を取っていた。

『おぉ…!』

『まずは一撃!』

 鋒は真っ直ぐに装甲の薄い腰部分に突き立てられようとした。

 が、昴の鋼が装甲を破ることは無く、弾き返される音が響くだけだった。

『…そんなものか! 風紀委員とやらもこの程度じゃ話にならねえぞ!?』

 黄緑の機体は無理矢理に身体を回し、大剣で昴の首を狩らないとばかりに一閃したが、それも先程同様難無く避けられた。

《…あの釼甲、とんでもない甲鉄練度よ。さっきの一撃で軽い傷しか付けられなかったわ》

『当然だろう? 俺の釼甲の銘は【デュランダル】…言わずと知れた西洋の魔甲だ!』

《……主、貴方はその釼甲について何か知っている?》

『いや、全く』

『何だこのノリの悪さ!? 誇らしげに教えた俺が馬鹿みたいじゃねぇか! 名前くらいは知っているだろうが!』

『異国の釼甲に精通しているわけがないだろうが…』

 昴たちの反応に恭弥が悲痛に吼えたが、それでも返ってくる答えは否定だった。

 …事実を述べれば、仏蘭西フランスだけではなく、伊太利亜イタリア西班牙スペインでも有名な英雄叙事詩えいゆうじょじし【ロランの歌】にもその名は現れるほどの名甲である。

 その頑丈さは、如何なる武具によっても傷一つ付けることは出来ず、歴代の仕手が敵の手に渡らぬよう破壊しようと試みたが、やはり傷一つ付かず、それどころか破壊するために使われた武具が壊れたなどと、全て失敗に終わったという逸話が残っているほどである。

 昴たちがそのことを知るのは、もう少し先の話である。

 地面に何事も無く着地し、再び二刀を構えて黄緑の武人に向かい合う。そして向こうも大剣を下段に構え直して空色の武者を睨みつける。

《…とにかく、あの硬さは厄介ね。近接型の兵装ではないとは言え、損傷零は酷すぎるわ…》

『…そうだな…ならば、俺たちがやるべき事は一つ!』

 両の柄を握り直し、再度速力を上げて一気に踏み込む。

『平穏を脅かす馬鹿に制裁を! 行くぞ、月島、雷上動!』

『誰が馬鹿だこらぁあぁああ!?』

 昴の言葉を合図に、空色の釼甲の飛火が点火した。

 ―神速と城塞の戦闘が始まった―


 ほぼ同時刻。

 小校庭付近でも一つの戦闘が発生していた、

 乙竜が三騎、迫り来る無人釼甲に対して応戦しているが、絶え間なく続く襲撃の所為でそこにいる生徒たちには疲労の色が見え始めていた。

 それを理解してか、それともただ単純に攻めあぐねて数を増やしただけか…とにかく、彼らを襲う敵の数が増えていることだけは確かだった。

『畜生、すばしこく動き回るものだから全然弾が当たらねぇ!』

『このままじゃジリ貧だ! 戦えなくなったやつは隙を見て逃げろ!』

「逃げろって言ったって、この状況でどこに逃げれば良いのよ!? 後ろは壁で前は敵、避難所指定されている中で行けそうな決闘場はアイツらの後ろよ!」

 生徒の数は十人、対して現在攻撃してきている無人釼甲は八騎。

 一点突破が出来たとしても大きな被害が生まれてしまうことは間違いないだろう。対抗しようと自身らを追い詰めてしまったことが彼らの失敗だった。

『…誰でも良いから、助けてくれ!』

 助けを求めると同時に敵機の内一騎が突如前のめりに体勢を崩し、白刃がその首を容易く貫いた。刃を突き立てられた釼甲はもがくように手を伸ばしたが、それも一瞬のことですぐに力尽きていった。

 そして突然の襲来に、全ての釼甲の意識がそちらに向いた。

「…!? 救援が来たの!?」

『! 今だ! 全員前方の三騎に集中砲火!』

 その集団を仕切っていたであろう一人の合図に、その場にいる全員が持てる力を全て注ぎ込んだ。十人分の神技、銃弾を三騎だけで浴びればさすがに一溜りもなかったのだろう、内二騎が墜落し、残りの一騎は騎行不可になっていた。

『道が拓けた! 全員走れええぇぇえ!』

 掛け声と同時に彼らは走り出し、真っ直ぐに決闘場へと駆け抜けていった。

 彼らを逃すまいと残された五騎は後を追おうとしたが、先方を切った二騎は一つの影に切り伏せられた。

「…申し訳ないが、ここは一騎たりとも通らせん」

 太刀を八相に構えた五十嵐要だった。

 敵機を鋭く睨むことで牽制し、三騎の動きを完全に封じ込めていた。生身でありながらも、装甲をせずとも、大した自我が無くとも感じられるほどの覇気を放ち、恐怖を知らぬはずの釼甲達が怯えて退き始めていた。

「……………」

 要は僅かに顔を回して後方を確認する。

 先程の集団は武人を含めて全員が逃げ切れたようで、既に背は見えなくなっていた。誰一人として倒れている人間が居ないことに安堵しながらも、再び目前の敵に目をやる。

 銃火器の類は装備しておらず、かつ全てが同じような武具であるため、要としては充分にやりやすい相手だった。

 元・北米合衆国軍制式採用釼甲・ミカケ。

 手にしているのは短剣であり、要の持っている太刀に比べて拳三つ分ほど刀身が短いため、一撃の威力はそれほどでもないだろうが、その代わりに小回りが利くという利点がある。手数の多さで言えば旧式釼甲の中でも上位に入るだろう。

 しかし、装備している物がそれしかないため、後ほど同国にて開発された釼甲・ヤオガーに近接戦闘型釼甲の座を奪われている。

 先程切り伏せたウォーウルフ同様、本来ならば一部を除いて全て廃棄処分されており、お目にかかれないものであるはずだが、それが倒れているものも含めて八騎もある。

「…骨董品自慢でもしにきたのか、この集団は?」

 軽口を叩くも、返事はない。

 ようやく気当たりに慣れたのか、敵も半歩ずつではあるが距離を詰めてきた。

 鋼が地面を擦る音が、要の耳にも静かに届いた。

 それを察知した要は、身を翻して一目散にその場を走り去った。

 …要の役目は、『敵を倒すこと』ではなく、『一般人全員の無事を確保する』こと。

 そのために、ここではこれ以上時間を無駄に浪費するわけにもいかず、次のはぐれ集団の救出へと向かう。

 呆気にとられた敵機は大分距離が離されてから彼を追い掛けるも、目の前に突如現れた釼甲によって行く手を阻まれた。

 鳶色の、双槍の釼甲だった。

『釼甲無しでこれほどまでとは…アイツはどこまで行けば気が済むんだ?』

《貴方に分からないのなら、まだまだ伸びるということでは?》

 男のぼやき声に封神されている神樂は短く切り捨てた。

 右手には自身の二倍ほどの丈を持つ長槍が握られており、刃先を敵のうち一騎の眼前に突きつけていた。

 長尺過ぎる得物は、懐に入り込めば幾らか状況は好転しそうではあるが、彼に対してだけはそれが通用しそうに無かった。

 …反対の手には、長槍の四分の一程度の短槍が握られており、下手に踏み込めば今度はそれが鋼を穿つと暗に示していたのだから。

 押すも敗北、退くも敗北。

 彼に手数は通用しない、というのが、数物釼甲の低い人工知能でも理解できるほどの殺意によって証明されている。

『…全く、部下の急成長は嬉しいが、反面離れていくような寂しさを感じられずには居られないな。なぁ、鏡花?』

《知りません。とにかく、時間も押していることなので、早く目的を達成しましょう》

『…諒解、それじゃあ始めるか…』

 気だるそうに呟きながら、鳶色の武者は槍の突きつけを止め、長槍を両手で構えた。

『これより、無人釼甲の殲滅を、佐々木傭兵が遂行する。異論は無いな、佐々木鏡花?』

《準備万端です》

 …防人部隊所属少佐・佐々木傭兵及び一尉・佐々木鏡花の一方的な殲滅戦が始まった。

 戦闘内容に関しては、無人ゆえに…そして、彼の私怨もあってか、あまりにも残虐な手段を用いられていた、とだけ記しておく。


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