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影守

「…先程は無人釼甲に驚いて聞きそこねましたが…影継に聞いてもよろしいでしょうか?」

《…? 問題ないが…出来れば手短に頼む》

 月島心を背に乗せながら影継は学園の廊下を駆けていた。

 振り落とさないよう慎重でありながらも、はぐれている生徒に追いつくために可能な限り最大の速さで走っているのだった。

 現在向かっているのは学園の下層階に集っている一団であり、その近辺には釼甲が一領も無い、ということも判明している。

「いえ…五十嵐君がいとも簡単に釼甲を両断したことについてなのですが…あれは影継さんの太刀の斬れ味が良かったのか…それとも五十嵐君の剣の腕が良かったのか…と思いまして…」

 数物で甲鉄練度が低いとはいえ、神技無しで一刀両断出来るほどの硬さでないことは心にも分かっている。にも関わらず、要はそれをやってのけた。

《簡単な話。装甲の薄い継ぎ目の部分に、一分の狂いなく薙ぎ払いを放っただけのこと…主の手腕を考えれば容易なことだろう》

「…嘘でしょう?」

 口では簡単に言えるだろうが、それを実行に移すのはどれだけの至難の業か…少しでもずれれば間違いなく弾かれる、そんな危険な一刀だということは武人でない心にも充分理解できていた。

《それよりもこの先に八人程の熱源反応を感知した。釼甲も二騎反応有り! 充分な警戒をしておくように》

「…! 分かったわ!」

 影継の言葉に気を引き締めていると、廊下の角を曲がった先に影継の警告通り二騎の鈍色の釼甲が扉を破ろうと苦心していた。

 恐らく誰かの神技で扉に硬化を施しているのだろう、先程破られた委員会室の扉と同じものであるにも関わらず鋼の数撃を受け止めていた。しかしそれも時間の問題だろう、既に扉はひしゃげはじめ、あと一撃貰えば破壊されるであろう。

「…『遅滞』!」

 二騎が大きく得物を振り上げた瞬間を狙い、心は神技を放った。

 すると、鈍色の二騎は目に見えて行動が遅くなり始めた。

 映像をコマ送りするかのように。

「…影継、あの釼甲をどうにかすることはできますか!?」

《委細承知!》

 心に頼まれた影継は快く承諾し、自身の顎を大きく開いた。

 二騎を同時に挟み込み、高々と持ち上げた。

《…生体反応なし…ならば容赦はしない!》

 次の瞬間には鋼の凹む音が響いた。

 危険を察知した鈍色は逃げ出そうともがき始めるが、心の神技によって遅々とした緩慢な動きを見せるだけで何もすることができなかった。

《ガイラアァアァア!》

 そして、二騎を同時に噛み砕いたのだった。

 胴を分断された無人釼甲は、二騎とも上体を地に落とし、鈍い音が二つだけ響いただけで戦闘が終了した。

 落ちた衝撃で頭部が離れ、要が両断したとき同様空洞が覗かせていた。

《これで良いだろうか?》

「…………え?」

 予想以上の出来事に、心は放心していた。

 自律形態の釼甲が、これまた難無く戦闘形態の釼甲を粉砕したのだ。

 気を引くのが精一杯だと予想しており、その間に中に立て篭っているであろう生徒たちを助けようとしていたため、緊張する必要が無くなってしまったのだった。

(…五十嵐君も化け物じみていましたが…影継も負けず劣らずの…仕手無しで釼甲を破壊なんて聞いたことが…!)

 驚きによって心が固まっていると、それを非常事態だと勘違いした影継が慌てて声をかけた。

《? 如何したか、月島嬢? もしや扉が開かぬか?!》

「! いえ、な、何でもありません!」

 影継の声にようやく意識が現実に戻り、鋼の鍬形の背から降り、扉を叩いて声をかけた。

「無事ですか!? 風紀委員の月島です! あなたたちを助けに来ました!」

「い、委員長が!? 良かった、皆喜べ! 救援だ! 助かるぞ!」

「も、もう大丈夫なの!?」

「聞き間違いじゃないよね? もう神技は止めて大丈夫だよね!?」

 心の声を聞いた途端に、中にいた生徒たちは歓喜の声をあげながら我先にと姿を現した。全員心身共に疲れきっているようで、中には他の人に支えられながら出てきた人もいた。

「あ、あ…りがとう、月島ざん! もう扉が壊れそうになっだときは…ヒック…」

 今まで堪えていたのであろう、彼女に抱きつきながら涙を流す女子生徒だった。しかし、この窮地から救ったのは心ではなく、影継なのだ。

 それを伝えようとしたところ、金声が心に響いた。

《月島嬢、申し訳ないが我の事は触れずにいていただきたい》

「!?」

 顔を上げれば天井に漆黒の鍬形が張り付いていた。

 どういう意味か口を開くよりも先に、その理由が伝えられた。

《…見たところ、皆釼甲に対して多大な恐怖を抱いている模様。そこで我が顔を出せば、如何に月島嬢がいようとも安心できないだろう。故に、『嬢が一人で救出した』ということにしていただきたい》

 懇願の口調に聞こえるが、語気は非常に強く、有無を言わせない何かが込められていた。

 確かに、これほどまでに混乱している状態で、別物とはいえ恐怖の原因となったものが目の前に入れば落ち着きを失ってしまうだろう。

(…でも、それでは影継が報われないのでは…?)

 心の脳裏に一瞬だけ二年前の光景が浮かんだ。

 朧気な視界の中で、自分より小さな少年が、何かを言われて怯えた表情をしている。

 自身が救った人間から、聴くに耐えない罵詈雑言を、真っ直ぐに受け止めながら。

 涙を溜めた目を逸らすことなく、正面から向き合うその姿を。

《何を惚けている! 急がねば別の釼甲が来てしまうぞ!》

 影継の声によって意識が現実に呼び戻された。

 周囲を見渡せば既に影継の言っていたとおり八人が部屋から出て、移動の準備が出来ていた。

《ここから一番近い安全地帯は…教官の待機室だ! 早急に向かえ! 短い道中に加えて敵影は無いので、最短経路で行けるはずだ!》

「…! 皆さん、急いで職員室に…そこならば安全です!」

 影継の言葉通り、心は一番短い経路を先導していった。

 ようやく危険すぎる場所から抜け出せると思ったのだろう生徒たちは、先程よりも顔のこわばりが和らいでいた。

 九人が順調に進んでいったことを確認すると、その場に残っていた影継は彼女らとは全く別の方向へと向かっていった。

《…残り、はぐれているのは十と複数名…間に合うか?》




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