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《企て》

「……潜入して、幾らかの損傷を与えてこいってか?」

 某国某所にて。

 一人の少年が、一人の男性から渡された物を見て放った第一声がそれだった。

 渡された書物を一通り眺めての感想だった。

 電子媒体というものが存在するにもお関わらず、わざわざ手書きの書物を利用しているのにはいくつかの理由がある。

 一つは秘匿性の問題であり、電子媒体は有線ワイヤードだろうが無線ワイヤレスだろうが、とにかく繋げる必要があり、どれだけセキュリティを強化しようが傍受される可能性を零にすることは不可能である。それに対して、非接続オフラインである書物は、その場にいる、もしくは盗撮または会話を盗聴されない限り情報が漏れることはなく、比較的情報保護において優れている。

 もう一つは、それを焼却処分してしまえば、電子媒体より圧倒的容易に証拠隠滅をはかることが出来るからである。電子媒体では情報を消去しようが、通信記録ログや媒体自体に痕跡が残ってしまうのに対して、紙媒体は原型を留めなければ『時間逆流』の神技でもない限り復元は不可能だからである。

 最も、時間をある程度操作する神技は数例確認されているが、どれだけの時代を重ねようとも『過ぎた時間を戻す』ものは一度として存在することが無かった。

 故に、彼らは情報の交換を可能な限りアナログで行う。

 外部に知られては不味い情報を扱うが故に。

 少年の問い掛けに、長髪の男は肩をすくめて答えた。

「正解だ。私たちの中で猪突猛進がこれ以上に似合う馬鹿程度の読解力でお書をその程度まで理解できるとはさすがだな」

「褒める気がねーんだったら無理して取り繕う必要も無いぞ、籐十朗とうじゅうろうのおっさん」

「ふむ、小生最大の貶し言葉だったのだが…次から事前にカンペでも用意しておこうか?」

「そんな前準備バッチリの貶しはいらねえよ…で、今回の襲撃の目的ぐらいは確認しても良いだろうが。何でわざわざこんな場所を襲撃する必要があるんだよ?」

 乱雑に頭を掻きながら、少年は面倒臭そうにボヤき、書物に視線をやっていた。

 対して、悪言を連ねる男は一度も表情を変えることなく話していた。

 少年の手にある書物にはほとんど隙間なく文字が羅列されているが、整然と整いすぎているために、逆に読む気力を削がれているようだった。

「その程度すら分からないからうぬは何時まで経っても恭弥なのだ」

「全世界の恭弥さんに謝ってこい、そして今すぐここで俺に平伏せろ。今なら俺が世界の代表だ」

「冗談だ」

「マジだったろ?」

「上々だ」

「マジだなコノヤロウ!」

 拳を目の前で強く握るが、彼にとっては脅しにもならないようで、男は相変わらず平然とした態度でいた。落ち着かせるつもりも毛頭ないのか、鋭く向けられた視線に顔を背けていた。

 反応を確認した少年は、その態度に半ば呆れながらも拳を下ろした。

 怒りが弱まったことを確認した男は、待っていたと言わんばかりに話を続けた。

「ともかく、汝はそのお書の通りに行動すれば良い。混乱を招き起こし、それに乗じて物資を得る。汝としても興に乗れる良いものだと判断したが…」

 男は少年の手にある書物を指差そうとした。

 だが、それよりも早く、少年が書物を…司令書を破り捨てた。

「要はここに乗り込んで暴れてこいって話だろう? ついでに刄金や釼甲の強奪…可能な限り荒らしてこいって話だろう? 最初から分かりやすく説明しやがれってんだ」

 内容が分かり、尚且つそれが自分の性格にあっているものだと分かった少年は、待ち遠しそうに口の端を釣り上げた。

「的を射てはいるが、油断はするな。幾らかの仕込みをして成功率は上げているが、それでも慢心はするな。その中には唯一小生たちの邪魔に成功した人間たちがいるのだからな」

 男は忌々し気に、少年に忠告した。

「へいへい、了解っと…しかし、それほどまでに強い奴がいるのか?」

「あぁ、現在確認されているのは三名…どれも非正規ではあるが、元軍人だそうだ。そして、例の小僧の言が真実ならば、一人だけ途轍もない才能を秘めている、ということらしい」

 どこから出したのだろうか、男の手元には銀の端末が握られており、そこには『要注意人物』というリストが載っていた。

「ふ~ん…名前は?」

「そうだな…確か…」

 男は指を顳かみに当てて考えるような仕草をした。

 思い出した男はその該当する人物のページを開いて少年に見せつけた。

「五十嵐要…階級は当時で少尉、甲竜程度の数物釼甲で一領の業物、三領の数物を撃墜した少年だったそうだ」


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