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風紀委員選抜試験《参》

『…焔気操作!』

《!? 敵機、高度の熱量反応…神技の発動を確認!》

『何!?』

 影継の警告に身を構えるが、それよりも先に数個の焔弾が要を襲った。突然の出来事に対しても冷静に判断して回避行動に移る。

上へ、左右へ、下へ…最短距離で被害最小になる場所へと要は移動し続ける。まともに当たったものは一つもなかったが、二発…完全に避けきることが出来なかった。

『クッ…! 影継、機体状況!』

《右肩部と左脚部に被弾! 損傷は軽度!》

『騎行及び戦闘には!?』

《一切の支障なし…だが問題は…話が異なるぞ、蜥蜴丸殿!》

 正々堂々戦うと信じていた影継は、裏切られたように声を荒らげた。

 それも仕方の無いことだろう。武人道に従っていたと信じていた先達が、規則を破り、卑怯な手に出たことを受け入れ難かったのだ。

《…この馬鹿主! 飯島嬢を封神したのは、儂が支援不可になった時と言ったはずでは!?》

『…戦況が変わったんだ。鉄の塊ごときが、俺に指図するんじゃねぇ…!』

 既に浩は聞く耳を持たないのだろう、鋼に覆われたその鋭い視線は眼前にいる漆黒の武者を撃ち落とすことしか考えていなかった。

『可怜、敵が落ちるまで攻勢を緩めない…良いな!?』

《分かってるわよ! 私としてもあいつは気に入らなかったからね!》

 蜥蜴丸の声を押しのけて聞こえたのは、八日前に要を散々に罵倒した女子の声だった。

『―鬼火おにび―』

 浩の言葉と共に、若竹の釼甲を守るように複数の火球が生まれる。

《燃えよ劔、敵を討て

 燃えよ魂、我を奮え》

 呪いめいた言葉を唱えられると、若竹の太刀が熱を帯び始める。

《敵機 先程以上の熱量放出…大撃が来る!》

 熱された鋼は赤白い光を放ち、周囲の大気が陽炎となって揺らめいた。

 鋼越しに伝わる熱が、その一撃の威力を物語る。

 避けようにも既に逃げられる間合いではない。

炎刃焼覇えんじんしょうは!』

 熱された太刀を一切の容赦無く漆黒の釼甲に振り下ろした。剣筋は熱に歪められ、紅い軌跡を残して影継に襲いかかる。

『フッ!』

 反射的に要も鎧通しを「斬り下ろし」に対処できるように構えるが、奪われた視界が判断を間違えさせた。

炎の壁から現れた太刀は、下方から抉るように切り上げられ、要の鎧通しに当たることなく胴へと叩き込まれた。

 視界を奪ったのは出処を察知させないためであり、事実要はその攻撃を覚ることが出来ず、甚大な一撃を喰らった。

『ガッ…!』

 不意打ちに近い攻撃によって大きく体勢を崩した要は、ほとんど降下速度そのままで落ちていった。

《胸部に軽度の損傷! だが、高度と速度を大きく損失…体勢を立て直すために一旦騎行を中断する!》

『妥当な判断だ! 飛火の稼動停止! 疾駆を収めろ!』

 要は飛火の出力を完全に停止し、広がっていた翼を畳んで脚から勢い良く着地した。

 着地した、というのは聞こえが良すぎるだろうか。半ば転がるように勢いを殺し、完全に止まったときは仰向けの状態になっていた。

 空を見上げれば、若竹の釼甲はこれを好機と言わんばかりに高度を取り始めていた。

《敵機、圧倒的高度優勢…今から騎行しても充分な威力は得られん! 加えて今、先の狙撃銃で狙われれば回避はほぼ不可能…!》

『承知している! …何か打つ手は…』

 急いで体を起こそうとするも、勢い良く地面に叩きつけられた衝撃は少なからず要の全身を揺さぶっており、すぐに立ち上がることは困難の極みだった。

「要、影継! まだ生きているわよね!」

 就いた左腕で体を起こそうとしていると、後方から聞き覚えのある女子の声が聞こえた。

《…練造主!? 何故この場に!》

『…御影か? …悪いが取り込み中だ。影継を疵付けたことなら後で謝…』

「そんなことを言わないわよ、この馬鹿真面目! 対等な勝負に持ち込みましょうと言いに来たのよ!」

 要の声を遮って、御影が怒鳴った。

『…何?』

「あたしを封神して、戦いなさい! この時代の戦い方なら、私の神技は最強の護りになるわ!」

 御影が話しているうちに若竹の釼甲は旋回が終わり、狙撃銃の照準を漆黒の釼甲に合わせ始めていた。

「……! とにかく! 『装甲の祝詞』を! 手遅れになる前に!」

『…諒解!』

『今更何をしようとも遅い!』

 御影が影継に触れたのは、福原が引き金を引くのと同時だった。

 音速を超える弾丸が、風を切り裂いて漆黒に襲いかかる。

 それよりも、僅かに速く、装甲の祝詞が唱えられる。


《世に闇あれば闇を斬る

 世に悪あれば悪を討つ

 釼甲の神髄、此処にあり!》


 次の瞬間、再び眩い光が決闘場に走った。

 飛び込むように、銃弾が光の中に飲み込まれたが、着弾音は全く無かった。

 光が収まると、あまりにも予想外の光景が福原たちの目に入った。

『…………なっ!?』

《…何よ…あれ?》

 福原と飯島は驚きの声しか上がらなかった。

 敵の胴を撃ち抜いたと思った弾丸は、漆黒の装甲に触れるか触れないかの距離で完全に停止していたのだった。

 そこだけ時間を止めたかの如く。

《…時間操作の神技!? いや、でも遅延・加速はあっても、停止は聞いたことが…!》

《期待させて申し訳ないけど、そんな大層な神技じゃないのよ》

 惚けたような飯島に対して、自分ではない女性の声が響いた。

 声と共に倒れていた影継はゆっくりと立ち上がった。所々に傷はあるが、どれも大したものではなく、戦いに一切の支障はない。

 装甲し直した要は腰に差された太刀を抜き、先程同様の構えをした。

『とにかく、これで条件は同じ…もう一度、御手合わせ願おう! 影継、疾駆を展開、飛火を点せ!』

《委細承知!》

 その間一秒にも満たない時間で、再び漆黒の武者は空へと舞った。

『チッ…死に損ないが! これでも喰らえ!』

 若竹の武人は再び銃を構え、照準ほとんど関係なく我武者羅に弾丸を撃ち込んできた。連射性能が極端に低い狙撃銃ではあるが、装填・射撃の繰り返しで、網を張るように弾丸が撒かれた。

《因果狂わす!》

磁力障壁リニアフィールドはじき―!』

 漆黒の武者は避ける素振りも見せず、代わりに弾丸が彼を避けるように逸れて行った。障壁を辛うじて突破した弾丸も、漆黒の武者が容赦無く切り払い、一発も当たることなく弾丸の雨を突破していた。

《敵機周辺に電磁場の発生を確認! 敵神樂の神技は『磁力操作』と推測!》

『…磁力…だと?』

《如何にも…神技がそうと分かれば、これ以上狙撃銃による攻撃はもう通用しないと判断したほうが良いじゃろう…接近戦で太刀打ち…》

《…けど、まだ私の神技がある! これさえあればあいつを沈められるわ!》

《!? おい、馬鹿者! これ以上は…!》

『了解、目には目を、歯には歯を、神技には…神技を! …炎刃焼…!』

 と、唱えたところで突如釼甲の飛火が大音と共に暴発した。

 福原・飯島両者の突如色を失ったように視界は白く染まり、激しい衝撃によって体勢を大きく崩した。

 福原は衝撃の大きさから只事では無いことと、すぐにでも体勢を立て直さなければならないことを理解したが、体が全く言うことを聞かなかった。

『……あ?』

 指一本すら曲げることが出来なかった。

 自分の体であるにも関わらず、全く言うことを聞かない恐怖に福原は襲われた。

《―――――…!?》

 飯島も何かを語ろうとするが、金声の掠れる音だけが響く。

 異変に気付いた生徒のざわめきが耳に届いたが、それよりも福原は自分が真っ直ぐに地面に落ちていくことを悟り、全身に鳥肌を立たせた。


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