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本番間近《弐》

「気持ちは嬉しいが、アンジェの提案は却下だ」

 昼食は昨日同様屋上で摂ることになったが、そこにいるメンバーは要・椛・御影・アンジェの四名だった。

 昼休みに入ると同時にアンジェが要の講堂に突入して誘われ、学生三人はそれぞれが一度食堂で持ち運びのできる昼食を頼んでからここに来たということだった。

 食べ始めてから数分後にアンジェが、今朝椛と決めた考えを述べたのだが、要は悩むまもなく切り捨てたのだった。

「め、名案だとアンジェは思ったのですが…」

「要、そう簡単にアンジェの案を切り捨てるのか! 少しくらい検討してはどうなんだ!」

「ようは、仕合に向けての訓練の為にアンジェの講義を無しにして、二人が俺のフォローをするということだろう?」

「そ、そのとおりでございます! それで出来た時間を是非要さんの訓練に…!」

「俺は、自分が約束を守れないことが何よりも嫌いだ」

 懸命なアンジェの言葉は、要によって容赦無く遮られた。

「そして、アンジェは二ヶ月前…俺が約束したことを覚えているか?」

「え、は、はい。『アンジェが学びたいという気持ちがある間は、要さんが全ての教科を毎日教える』です…」

「…その約束を反故にしろ、とアンジェは言いたいのか?」

「は、はい! 要さんが充分に仕合に備えられるようにと…」

「巫山戯るな」

 途端、凄みを利かせた要がアンジェを睨んだ。

 今まで一度たりとも見せなかった要の威圧に、驚きと戸惑いを隠せず、アンジェと隣で聞いていた椛は言葉を失った。

「大和武人の真髄の一つは『一度契った約束を違えず』だ。一度でも約束を違えば、その武人の信頼は地に落ちる…そういう意味合いも含まれている」

「で、ですが、アンジェは一週間位なら大丈夫…」

「アンジェはそういうだろう…だが、俺が断る理由は、そちらではない」

 要の訴えは留まることを知らずに、少しずつ溢れていった。

「俺はもう、約束を違えたくないんだ…どんなに小さな約束でも…だから、頼む。アンジェにとっては小さいことかもしれないが、俺を…『嘘つき』にしないでくれ。この通りだ…!」

 最後の方は、要は涙声になっていた。

 床に着くのではないかと思うほど頭を深く下げて、声を震わせながら頼み込んでいた。

「かかか要さん!? 頭を上げてくださいませ! 先程の提案は無かったことにしても良いので…お願いします!」

「か、要!? 一体どうしたというのだ!」

 あまりにも予想外の反応に二人は戸惑わざるを得なかった。

 どうにかして二人が説得して頭を下げるのを辞めさせると、見計らったように、先程まで押し黙っていた御影が口を開いた。

「ところで、仕合の方式は『神樂』ありの戦いになるのかしら?」

「それはまだ明かされていないな」

 『神樂』あり…つまりは限りなく実践に近い白兵戦になるかどうかということだ。

 釼甲は神技を使えるかどうかで戦術の幅が大きく広がる。だが『神樂』との精神同調も必須となるため扱いが難しいという欠点があるため、この学園に入学したての実戦経験無しの一年がそう容易に出来ることではない。

 大和であれば国衛軍に、他国であれば軍隊に所属する、ある程度熟練された人間であれば、即座に『神樂』と精神同調することは可能であるが、それでも時折完全に同調することが出来ず全力を出し切れないということも少なくない。

「まぁどっちにしろ、影継の主としてふさわしいところを見せてもらおうかしらね? 今日から楽しみでしょうがないわ」

「…期待に添えられるよう努力はする。という訳で、二人はいつもどおりに過ごしてくれ。変に気を遣われるとかえって気になって集中できないかもしれないのでな」

「…かしこまりました。ですがお昼ご飯を用意したり、当日の応援くらいはよろしいでしょうか?」

 簡単には引き下がれないのか、アンジェは頭を少し悩ませてから提案をした。

「わ、私もそれぐらいなら問題ないだろう? アンジェに協力すると約束した以上は何もしない訳にもいかないからな!」

 次いで椛もアンジェに続いた。

 要は一瞬断ろうと口を開きかけたが、『約束』という言葉に思わず口にしかけた言葉をため息に変えた。

 自分が『約束』を守る以上は他人の『約束』も尊重しなければならない。それを充分に理解している要はそれ以上否定の言葉を出せなかった。

「…分かった。それ位だったら生活に支障が出ない程度に頼む」

 二人の気迫に根負けした要は不承不承といった様子で了承した。

「まぁそれだけでも充分な助けになるとは思うわよ…あ、ところで私の分もお願いできるかしら? 食堂の特別料理は要がいないと頼めないみたいだから」

「………」

 御影の変わらない対応に感謝の念を抱きながらも、チャッカリしすぎていることにさすがの要も何も言えなくなった。

「はい! そのくらいでしたら喜んで!」

「…ということは明日から五日間、四人分を用意するということで良いのか?」

「…もう一度言っておくが、出来る限りで大丈夫だからな?」

 少し心配になるほど意気込む二人を諭すことで要含む四人の昼休みは終わった。


 それからの要の生活は周囲から見ればほぼ普段通りだった。

 朝は一日だけ遅れた日を除いて、誰よりも早く登校して席に着く。

 講義の最中は自分用のノートを完成させて、余裕があればアンジェの講義用ノートに様々な捕捉修正を加える。

 今週は龍一も要の苦労を知って反省したのか、要からノートを借りるということはなくなっていた。

 昼は椛とアンジェが用意した弁当を、仲の良いメンバーで輪を作って突っついた。

 夕方も要に関して言えばいくつかの衝突はあったが、どれも要が穏便に済ませようとする努力と、佐々木の早期発見によって大きな問題なく無事に解決された。

 放課後は要と龍一の部屋でアンジェの講義が始まったが、興味をもった御影を先導に椛・遥も参加することになった。

 二時間ほどの勉強会のようなものを終えると、食事を済ませてから女子は自室へと戻っていった。

 要に訓練している様子は、この五日間、察せられることはなかった。

 そうこうしているうちに、仕合の日が訪れた。


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