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神羅装甲 影継  作者: 桑名 啓之
雌雄決戦
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後日談 其ノ弐

 第一部最終話です。ここまで辿り着く事が出来たことに自分でも驚きつつも感慨深いものがあります。様々な事が重なり書ける時間が少なくなったりして読者の皆様には待たせてしまいましたが、そんな桑名を見守ってくれた皆様がいたからこその達成だと思います。


 それでは第一部、最後までお付き合い願います。

「それじゃあ、この度の勝利を祝って……」

「はい、乾杯!」

「「「「「《《乾杯!》》」」」」」

 その一声と同時、その場にいるほぼ全員が釣られて手にもっているものを高く上げた。それが終わると、それぞれが思い思いの場所へと向かい会話や食事を始めたのだった。

 最初は呆気にとられていた龍一だったが、十数秒ほどで意識を現実に戻し、声の主へと駆け寄った。

「千尋さん、俺の役目を取るのは勘弁してください! 何のための相談だったんですか!?」

「いやー、なんか長くなるかもしれないなーって思って……」

「二十文字にも満たないですよ! それにあと一言だけで……あぁもう! 要からも何か一つ言ってくれ!」

「……諦めろ」

「俺に、じゃねぇよ!? って、千尋さんももうどっか行ったな?!」

 龍一が叫びを上げるも、雑談の声が大きくなり始めた宴会場では虚しくかき消されるだけだった。ちなみに千尋は少し離れた場所で待機していた御影たちの場所へと(途中自分の皿に食事を山のように盛り付けながら)向かっていった。

 ……ちなみに龍一が全体の代表として音頭を取った(本番では取られたが)のは、今回の戦いで「公式の」功労者とされたためである。

 本来なら景斎、次いで要だったのだが、景斎は残務処理の為に欠席。要は片倉甲との私闘を正直に自白したため、処罰待ちの状態であり、代理として龍一が推薦されたのだった。

「あ、あの……だ、大丈、夫?」

「あぁ、ありがとうな、遥。お前だけが俺の味方だよ……」

「そうか……俺と龍一は親友だと思っていたが……それは俺だけだったか。残念だ」

「悪い、要! そういう意味で言ったわけじゃ……あぁもう面倒くせぇ!」

 心底悲しそうに要が言うと、龍一は焦りながら取り直した。

「……まぁ、冗談はさておいて……」

「お前が言うと微塵も冗談に聞こえないんだが……」

「悪かったな。最後の一仕事を手伝わせて……」

 一転して、要は龍一に対して深々と頭を下げた。

 その行動に一瞬驚きを見せ、止めようとした龍一だったが、そこで彼は明るく答えた。

「何、俺が好き勝手に手伝っただけだ。気にするな」

「そう言ってもらえると助かる」

「それに……あれが無ければ危うく冤罪を被せることになっていたほうが俺としては恐ろしかったからな。さすがに同い年が二人も終身禁固刑になっていたら心が持たなかっただろうよ」

「……そうだな……」

 ……一人は言うまでもなく、片倉甲である。

 要、龍一含む複数名の自主的な行動により、彼の無実を証明する証拠を発見。それにより、彼の罪は一気に軽くなった。とはいえ、龍一と甲が顔を合わすようになるまでもうしばらく時間がかかるようだった。

 そして、もう一人は水上紫亜である。

 最初は片倉甲同様、脅迫で無理強いされていたのではないかという方向で調査されていたが、結果は黒だった。

 彼女は救世主において活動をかなり自主的に行なっていたようで、それによる被害は相当なものだった。学園内部の情報を漏洩させ、救世主の大きな助けとなっていた。さすがにこれは弁護のしようもなく、厳罰が下され、彼女は表舞台から姿を消すことが確定したのだった。

「……飯島可怜には、どう説明すれば良いことか……」

「……そういや、二人は仲が良かったんだったな? 今じゃそれも本当かどうか怪しいところだが……」

 彼女の学園での姿が、完全な仮面だったとすれば?

 それを告げるには、彼らはあまりにも幼すぎた。

《あぁ、そのことだったら儂が嬢に告げておこう》

 傍から、年よりじみた声が聞こえ、そちらに顔を向ければ若竹の釼甲が二人を見上げていた。雑音の中でもはっきりと聞こえたのは、金声であるためだろう。

「……蜥蜴丸が、か?」

《左様。福原に新たな主が決まった、ということを知らせるついでじゃ》

「……あぁ、リヤの事か。しかし、ついでにしては、随分重い内容だと思うんだが?」

《伊達に歳はとっておらん。その程度の責を背負えなければ儂はただの老害じゃろう》

 言ってから蜥蜴丸はカラカラと笑ったが、それもすぐに穏やかな声に変わった。

《……御仁らが気に病む事はない。嬢にとっては酷な話かもしれんが、事実と向き合わせなければいつまでも立ち止まったままだろうからのう》

「……いや、それでもやはり自分が話そう」

 蜥蜴丸の言葉を聞いて、要は決心したように言った。

「ここだけの話、飯島には以前水上の無実を証明するよう頼まれていたから、な。責を負った以上は最後まで全うするべきだろう」

《諒解。じゃが、儂も同席しよう。助言程度ならいくらでも出来るからのう》

「……協力に感謝する」

 要は深々と頭を下げた。

《……では、儂はこの場を去るとしよう。さすがにあれには巻き込まれたくないのでな》

「……あれ?」

 意味深な言葉を残して去った蜥蜴丸の最後に見た方向へと龍一は目を向けた。

「よぅし! 男共は全員盃を持て! 今から飲み比べを始めるぞ!」

《勝った奴には賞品として主の店である『天明堂』で一週間食い放題の権利が与えられるぞ! 当然だが酒も付けてやるそうだ》

 その言葉を聞くと、部隊の男女共に声を上げた。用意された男性の手の平ほどある盃を手に持ち、なみなみと酒が注がれた。

「そんじゃ、第一杯目……始め!」

 永興の合図を受け、全員が一斉に手に持つそれを傾け、喉を鳴らし始めた。

「お? お前も参加しろ! 折角の祭りを眺めるだけもつまらないだろ?」

「い、いえ、俺たちは未成年なので……」

「ん? 『たち』って……誰もいないぞ?」

「…………え?」

 一人の隊員に言われて龍一は隣を見たが、先程までいたはずの要の姿はそこにはなかった。

「……あいつ……! 危険を察知して抜け出しやがった……!」

「まぁ、細かい事は気にすんな! ほら、宗風むねかぜ、用意!」

《諒解ぜよ》

「領解するな! 釼甲なら主の暴走を止めろ!」

 男性に言われて猿の姿をした釼甲が酒の入った盃を押し付けた。

 だが、その叫び虚しく彼の口に酒が注がれた。

 結果は、言わずもがな、彼は始まるとほぼ同時に敗退した。


《……獅童殿を放っておいて良かったのだろうか?》

「龍一は今まで一度もあのような席には出なかったからな。経験させるという意味でも丁度良いだろう。それまでは全て俺が身代わりにされていたからな」

 宴会場から抜け出した要は、影継を横に、宿の屋根の上に腰を下ろしていた。

 先日の戦いの最中には満月だったそれは僅かに欠けた十六夜月となっており、その放つ光は弱まっていた。

 そんな中、要は影継から預かった太刀を音も無く抜き、鏡のような刀身を月光の下に晒した。

「…………」

 しばらくの間、彼は何も語ることなく、静かにそれを眺めていた。

《……一つ、尋ねても良いだろうか?》

 頃合を見計らっていたのか、影継は静かに言葉を口にした。

「俺で答えられることならば」

 質問をされた要は太刀を納め、静かに横に置いた。

《では……》

 許可を得た影継は、言葉を選んでいるように少し悩む様子を見せたが、意を決して金声で語りかけた。

《……ありとあらゆる才無き男が、剣を振るい続け、極めんと努める理由。それを、想像でも良いので聞かせてもらえるだろうか?》

「………………」

 影継の問いに、男は長く口を閉ざしていた。

 黒の釼甲が何を思ってその言葉を口にしたのか、男には容易に想像が付いていた。

 目を閉じ、熟考した上で言葉を選び、口を開いた。

「……その男には多分、使命感や責任感で武を極めようとしているわけではないだろう」

 空に浮かぶ月を仰ぎながら、男は呟いた。

「ただ単純に、守りたいものがあるから、奪われないために必死なのだろう」

《その為に、人並外れた訓練に次ぐ訓練で、その身を醜くしてでも、だろうか?》

「醜くしても、だろうな」

 即答だった。

 第三者を指しているはずの『男』を、全て知っているかのように。

「正義などと大層な事は言わない。その男は、守る為ならば修羅となり、敵を討つ……その男の両親、そして祖父に及ばずながら、な」

 ……彼が思うのは、命を賭して誰かを救った家族。

 同時、自身が守るべき、彼の家族。

「あ、そんなところにいたのね」

 ふと、下方から彼を呼ぶ声が聞こえた。

 誰の声かは分かっている。視線を声のした方に向ければ、四人が並んで彼を見上げていた。

「降りてきてもらえるか、要。さすがに女手だけではあれだけの酔っ払いはどうしようもないからな」

「お義姉さんではさらに皆さんの酔いを酷くしそうなので……」

「……ソフィーちゃんの遠慮が少なくなったのは嬉しいけど、もう少し手心がほしいかな?」

「え、えっと……お疲れのところ大変申し訳ございませんが、助けていただけないでしょうか?」

 ……少し困った様子で、彼女たちは彼に助けを求めていた。

 些細なことではあれど、彼にとって、そのように頼られる事がどれだけ嬉しいことか。

「諒解。任せておけ……行くぞ、影継」

《承知!》

 だから、快く了承し、彼と一領は屋根から軽く飛んで降りた。

 葉月上旬の、風の弱い日の事だった。


 ……ちなみに、笠井大島はその後『双竜島そうりゅうじま』と呼ばれるようになったのだが、その理由は一つであったはずの島が左右対称の形に成り果てたためだった。

 二島の間は鋭利な刃物で両断されたかのように切り取られており、一方は奇妙な穴が、もう一方は丸く焼け残った木々が目のように見え、それが『二頭の竜が競って天に昇ろうとしている』ように見えることからその名前が付けられたのだが、これは大きな蛇足であろう。


 ……以上で神羅装甲影継の第一部を完結させていただきます。

 半年以上に渡り、長々とお付き合いいただき、読者のみなさまには感謝してもしきれません。第一部完結まで漕ぎ着けたのも、お気に入りとして登録してくれた方々、指摘・助言・応援のある感想があってこそでした。

 この場を借りてお礼をさせていただきます。ありがとうございました。


 今後の計画ですが、次回作である『風物語』を中心にチマチマと書き進めていきます。影継については現状『第二部未定』とさせていただきます。というのも、現在計画中の第二部では第三部への繋ぎになってしまい、戦闘より人間関係中心の話になりかねず四苦八苦しているためであることと、桑名自身が『読者の皆様がこれから先を希望しているかどうかが分からず非常に不安』な状態になっているためです。無反応ほど作り手にとって恐ろしいものは無いので……

 こんなところてん精神・遅筆・文章力下位の桑名ですが、出来れば今後の作品にもお付き合いいただけると幸いです。


 それでは、皆様良い夏を。

追伸:

 現在、『影継』の人気投票を行なっています。もし気に入った登場人物がいれば是非お気軽に参加してください。桑名の重要な活動力に換わります。

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