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神羅装甲 影継  作者: 桑名 啓之
雌雄決戦
113/117

立役者

「……っし! これで一丁上がり!」

 狭所から十数を越える人間を引きずり出すのと身動きの取れないよう縛り上げるのを終えると、龍一はそう言って草むらの上で大の字になった。

 総計で数百キロを軽く越えるため、釼甲を纏っていようとも相当な負担になっていたのだが、それを龍一は僅かに呼吸を乱すだけで平然としていた。

 時間も大分経ったためか、晴れていた霧も徐々に濃くなり始め、視界の夜空が白子染まり始めていた。

「……えっと……こ、この人たちは大丈夫……なの?」

「ん? あぁ、致命傷は避けているし、そもそも武人はその程度の怪我で死ぬようなことは無いから安心しろ」

 運んでくる途中、微塵も動かなかった敵を見て、遥が不安そうに尋ねたが、龍一は非常に落ち着いた様子で答えた。

 次の瞬間、先程まで龍一たちの通った入口が崩れた。

「……! りゅ、龍君! 綾里さんたちを……!」

「……獅童少尉たちは無事でしたか」

「随分と派手にやったものですね」

 遥が慌てていると、草木の影から二人の男女が姿を現した。

「そうでもありませんよ。場所が場所だっただけにあっという間にかたがつきましたし……って、中将、その傷は!?」

 龍一が起き上がる途中、声のした方向に振り返ると、足や肩を血で汚した神之木景斎とそれに肩を貸している神之木美命があった。

「ご安心を。少し出血が激しいですが、放っておけば明日にでも治る傷です……それよりもかな……いえ、五十嵐中尉は……」

 弟弟子の姿を探す景斎を見て、龍一は先程崩れた入口を指差した。

「……!? か、景斎さん! 速くあの子を助けないと……!」

「…………」

 焦りを見せる美命に対して、景斎は静かに目を閉じていた。

「……このままでは鈴音さんたちのように……!」

 と、反応を示さない相手に、彼女が何かを言いかけた瞬間だった。

 突如、島の中央部から轟音と共に火柱が噴き上がった。いくつもの砕けた岩石が辺り一面に飛び散り、再び出始めた霧も吹き飛ばした。

《なっ……何事だ!?》

《……丑戌に四つ生体反応在り。内二人は五十嵐殿と綾里嬢と判明》

 驚く正宗と、冷静に状況を判断する國綱の反応に、それぞれの武人は火柱の上がった方角へと視線をやった。

「……遅れましたが、中尉からの伝言で……片倉甲との決着をつけてくる、と」

「……そうか」

 龍一からそう聞いた景斎は、肩を貸していた相手から離れ、ゆっくりと漆黒と紅蓮の飛んだ方へと向かって歩き始めた。

「では、自分は少しばかり弟弟子の晴れ舞台でも見に行かせていただきます」


「い、今のは一体……?」

「中将と三将……は違うだろうな。二人の場合は『雷気操作』だからな。おい、伊賀。そっちの寝っ転がっているのは三人くらい運べるか?」

「……微妙ですね。無銘では腕に乗せたら彼らを輪切りにしてしまいますから」

《……つくづく申し訳なく思います。こんな時だけ、法印坊の姿を羨ましく感じます》

《クカカカカ! そう煽てようとも何も出んぞ? しかし、無銘ならば薪を割るのに丁度良いだろうよ》

 蟷螂の釼甲は背中に一人、大熊の釼甲は背に三人乗せ、口に一人をくわえて救世主の人間を運んでいた。

 その主たちも、従うものも、笠井大島に居る人間に対してあまり不安は抱いていないようだった。

「わ、笑っている場合では……今すぐにでも要たちの救援に……!」

 先程の火柱が上がってから、椛は非常に焦っていた様子だった。どれほどかと言うと、それまで反重力で運んでいた人を落とし、そのまま彼らの下に駆け出そうとするほどだった。その際に、その男から鈍い音が聞こえたが、命に別状は……無いだろう。

 それを見て、アンジェもソフィーもどちらを優先すべきか悩んだようで、視線を島へ人へと往復させていたが、二人そろって駆け出そうとした。

 だが、その三人の前に、千尋が立ち塞がった。

 いきなり目の前に立ちはだかったため、三人は無理矢理足を止めた。

「……ち、千尋さん! そこを退いてください! 速く行かないと……!」

「……ゴメンね。心配する気持ちは凄く……凄く、分かるよ」

「……!! でしたら……!」

「……けどね。私はそれ以上に、要君を信じてあげたいんだ」

 ソフィーの声を静かに遮り、彼女は優しく微笑んだ。

「要君なら、勝って無事に帰ってきてくれる、ってね」

「「「…………」」」

 一瞬、誰も、何も言えなかった。

 一片の曇りもなく信じているという表情は、いつものただ明るいものではなかった。


「だって、要君は私の自慢の弟だから」


 淀みなく発せられた言葉に、一瞬三人は呆気に取られていた。

 ……これほどまでに、無条件に誰かを信じることができるだろうか。そう三人は思ったからだった。

 一度は大敗した相手がいるというのにも関わらず、この戦いでの要の勝利を心底疑っていない様子に、畏敬の念すら抱きかねなかった。

 三人の驚きを察知したのか、千尋は突如普段のような朗らかな笑顔を浮かべて三人を前触れなく抱き込んだ。先程以上に狼狽を見せる三人であったが、それもお構いなしに彼女は言葉を続けた。

「みんなも多分知っているだろうけど……要君って凄い頑張り屋さんだから、どれだけ鍛えてきたのかはわかるよね?」

「あ……」

 言われて彼女たちは思い出した。

 怪我を負いながらも刀を振るった事を。

 時間を削ってでも刀を振るった事を。

 誰のために戦ってきたのかも。

「だから……全部を、とまでは言わないけど、みんなも要君を信じてくれるかな?」

「…………」

 椛は、しばらくそのままで黙っていたが、千尋から離れると背を向けてゆっくり歩き始めた。反応が芳しくないことに、千尋は僅かだが戸惑いを見せていた。

「え、えっと……二ノ宮さん……」

「……何をしている? 早くこれを終わらせなければ、要たちに負担をかけてしまうぞ?」

 少しためらった様子でアンジェが口を開いたが、何かを言い切るよりも先に彼女は遮った。そして、言いながら彼女は先程落とした男性を拾い上げた。

 表情にはまだ僅かに割り切れない様子が見え隠れしているが、一つの決心がついたためか、切羽詰った様子は無かった。

「私たちは要を信じて、帰ることの出来る場所を作っておこう。それが、今私たちがやるべきことだろう。そうですよね、千尋さん?」

 ―椛の問い掛けに、千尋たちは力強く頷いた。


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