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神羅装甲 影継  作者: 桑名 啓之
雌雄決戦
111/117

死別―親友―

『……相変わらず、惚れ惚れする太刀筋……だな、景斎よぉ……』

『…………』

 広間は静まり返っていた。

 室内は台風でも起きたのかと疑いたくなるほど荒れており、原型を留めているものは大小問わず存在していなかった。

 それは、武人二人も同様である。

 靭島での迎撃戦を演じたときも。

 九州上空で複数騎を相手したときも。

 傷一つ付かなかった山吹は、目も当てられないほど損傷していた。

 左腕部からは血がとめどなく流れ、右肩部・左脚部装甲には大穴が生じ、そこからは景斎の肌と傷が覗いていた。

『……けど、本気で来てくれて……嬉しかったぞ……』

『……何故……』

 嬉々として語る籐十朗の言葉を遮り、景斎は静かに口を開いた。

『……何故、お前は狂わなければいけなかった……?』

『……心の弱さ、じゃないか?』

『…………』

『あの二人が死んだとき……俺もお前も、天城も一緒に……泣いたな』

『大の大人がみっともなく、な』

 震えていた。

 崩壊する拠点だけではなく、彼の声も。

『……多分、俺はそこに……付け入られたんだろうよ』

 穿たれた腹を抑えながら、籐十朗は語った。

 唯一色の異なった装甲は、籐十朗の腹を通ったのか赤く濡れ、広間の隅へと落ちていた。

《……我も、力を求めるあまり、警戒がおろそかになっていた。主だけを責めないでくれ》

《大和槍の釼甲最強・人間無骨……いや、兼定が何を……》

 國綱は問い掛けるが、その答えが返ってくるよりも前に土色の装甲は砕け散った。

「……あの源じいの孫は元気にやっているか?」

『……あぁ、少しばかり硬いところはあるが、真っ直ぐに育っている』

「かははっ……それでこそあの二人のガキだ。片倉甲に合わせてみたら面白いだろうな」

《……片倉……甲?》

「あぁ……今時珍しい、自己犠牲の出来る俺のお気に入りだ……鷺沼と他国の撃退には関与させたが、殺人だけはさせていない……」

『……そうか』

「……なぁ、景斎よぉ……」

 そろそろ出血による限界が来たのか、籐十朗の声は弱々しくなり始めていた。

『……何だ、籐十朗』

「分かってるくせに、死ぬ直前の男に聞き返すとは、相変わらず鬼だな、お前は…」

『……直接聴かなければ、確信できないから、な』

 平静を装ってはいるが、かつての親友であるその男は、景斎の心を良く理解した上で口を開いた。

「……甲と、そうだな、ついでに大和の今後を頼む……」

 それだけ言い残すと、彼は最後の力を振り絞って山吹の身体を押した。

 生身の、しかも手負いの状態でありながらも、籐十朗は超重量の武人を遠くへと押しやった。その反動で、彼の身体も後方へと飛んだ。

「……手を煩わせて悪かった、が、汚すようなことまでさせるわけにもいかねぇからな」

 そう言った彼の表情は。

 悔いの全くない、満面の笑みだった。

 次の瞬間。

 人より三回り大きい岩石が、見事に敗北した武人に落ちたのだった。

 岩石の下からは、おびただしい量の血液が流れている。

《……生体反応、無し》

『…………………………今河……籐十朗の討伐……完了』

《……ここから……脱出しましょう。ここで下敷きになっては、彼の心遣いを無駄にしてしまいます……》

『……諒解』

 僅かに返答が遅れたが、景斎は静かにそう答えると、飛火を噴かせ、崩壊によって生じた穴から抜け出した。

『……安らかに眠れ』

 ―枯れた鬼の目から、涙が流れた瞬間だった―



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