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神羅装甲 影継  作者: 桑名 啓之
雌雄決戦
110/117

―魔剣―

 ほぼ同時刻。

 拠点の中間地点に置いて、漆黒は八騎を相手に大立ち回りをしていた。

 けれども漆黒は一歩も引く様子がなく、相手取っている複数色の武人たちはその実力に驚愕していた。

『……これだけ相手にしているのに、損傷が一つも無い……だと!?』

《ぜ、全包囲してから一気に攻めれば、何とか……》

『さっきやって失敗したところだろうが! 何があろうとも【アイツ】にだけは近寄らせるな! さもなきゃ負けるぞ!』

 息をする暇も与えないほど攻め続けている救世主であるにも関わらず、漆黒はひたすらに攻撃を受け流していた。

《……実物を見て、ようやく思い出したわ》

 そんな中、御影がふとそんなことを言い出した。

『? 何を、だ?』

《この複数色よ。私の記憶が正しければ、|桃山時代太閤(豊臣/羽柴秀吉)が行なった釼甲狩の副産物で間違いないわ……っと丑寅うしとら(右上方)!》

 御影の指示を聞いて、要は即座にその方向に鎧通しを構える。すると、そこに迫り来ていた長剣が当たり、受け流すと同時に鎧通しの柄頭えがしらで反撃をした。

《続けるわ。太閤の釼甲狩令は農夫の武力を剥奪する目的が主だったけれど、蒐集された中には名の知れない傑作も多々あった。けど、ほとんどが装甲も自律行動も不可能な状態にまで破損。けれども、破棄するには勿体無さすぎると考えられたのよ》

『……為す術無し、ではないのか?』

《そこで諦めるほど欲に溺れた権力者は潔くないわよ。太閤は当時のお抱え鍛冶師に一つの提案をして……そして、実現した》

 剣戟の中、彼女の声が何故か強く響き渡った。

《……釼甲の共食いをさせることによる、合成が……》

 その声は、静かな怒りのようなものを含んでいた。

 それを察した要は、慎重に言葉を選びながら問い掛けた。

『……その特徴は?』

《色によって甲鉄練度が異なる、といったところかしら? あとは無理矢理のつなぎ合わせだから……駆動が充分じゃない可能性も……》

『なら……』

 御影の言葉を受けて。最初に要は周囲にいる釼甲を全て見た。

 身体を回転させながら、襲いかかる斬撃を全て受け流し、弾き、時には避ける。

(……この色か!)

 そして、共通の色を幾つか見つけ出すと、すぐさま標的を最も近くにいる武人へと変更する。太刀も鎧通しも鞘に納め、両の刀に手をかけた。

 そして直後に放つは『晴嵐流合戦礼法―残夢―』。

大きく振り上げた腕よりも速く、その二刀は装甲に当たった。

 けれども、以前オヴァに見せたような完全軌道一致ではなく、二つの軌道による胸の灰色と腹部の紺色、二箇所の同時攻撃だった。

 胸部装甲は傷すらつくことなく終わったが、腹部の紺色はそれよりも遥かに甲鉄練度が低かったようで、僅かだが装甲の下の肌が見えた。

 そうと分かれば方針は決まった。

 全ての釼甲に共通している紺色を主に狙っていく。

 甲鉄練度は先の一撃である程度把握出来たので、致命傷にいたらない程度まで力加減をすることも難しくはない。

 ……しかし、要には一つだけ気にかかっていることがあった。

 先程から、攻撃の輪から離れて射撃に集中している赤錆色の武人である。その隣には紅蓮も控えているが、こちらは敵意を持っていないため、要は無視しても良いと判断した。

 赤錆は巨大鎚ハンマーという兵装から白兵戦を主眼に置いた釼甲であることは明白なのだが、それを一度も振るっていない。

 射撃兵装も拳銃ハンドガンを二梃と、遠距離兵装が特化しているわけでもない。

(……何か企んでいることは間違いない……!)

 今までに何度も感じたことのあるような……それでいて今までとは比べ物にならないほどの背筋の寒さを受けながら要は攻撃の手を速めていった。

『無事なようだな、要!』

 攻勢に転じている最中、要と御影が聞きなれた男の声が聞こえた。

 包囲網の一角を切り崩し、群青の武人が突如として現れたのだった。

『早かったな。【虎】の神器でも使ったのか?』

《ご明察。長引かせて得のある戦いじゃないからな》

『そういうことだ。それで、敵の数は―――』

 群青の視線が赤錆色に向かった瞬間だった。

『―――不味い! 正宗、青龍砲は!?』

《ど、どうしたの……?》

 突如として焦りを見せた龍一は、声を荒らげた。その鬼気迫る様子に遥は怯えた様子だったが、それすらも気にしている余裕はなかったようで、遥を落ち着かせるための返答は無かった。

《砲弾の製錬まで残り五分は必要だ!》

『それじゃあ遅すぎる! あれだけは……【無気力化】だけは確実に阻止しないと……!』

 その反応を見て、周りの武人たちは全員、装甲の下で笑った。

『敵が二人も……いや、神樂も合わせて四人いるなら好都合……!』

 要たちが対策を打つ前に、赤錆から何かが響いた。

『が……はぁっ……!?』

《ひっ……あぁあぁああ!?》

最初に異変を見せたのは群青だった。

 音が鳴ると同時、頭を抱えながら膝を突き、遥に至っては何かに怯えるような悲鳴を上げていた。普段の何倍もあろう声量からただ事でないことは察せられた。

『……これは……っ……! 御影は無事か!?』

《………………っ……!》

 問いかけるも、返答は無かった。

 けれども、最後に聞こえたかすかな声は、何かに堪えながら答えようとしたが、耐え切れず何も返せなかった、といった様子だった。

《……主! 気を確かに……!》

『すでにそいつには聞こえていないだろうよ。無駄なあがきは止めておけ、青の釼甲よぉ? まぁ、発動直前に看破したことは素直に褒めといておこう』

 正宗が悶え始めた龍一に声をかけようとしたところ、包囲していた武人の一人がそんなことを言った。彼らは全員何かしらの対策をしているようで、ほとんど苦しむ様子を見せていなかった。

『……貴様ら、一体何を……!』

『? おかしいな。これを食らえばまともに問答すら出来ないはずだが……』

 唯一、異変の中で平常を保っている要に対して、男は僅かに驚いた様子を見せたようだったが、それもすぐに余裕の表情に戻る。

『しかし、気掛かりだというのなら冥土の土産に教えてやろう。お前らも薩摩で見ただろう抜け殻と同じようにしようとしているだけだ』

《! やはりあれは貴様らの仕業か!?》

『……何を意図してあのようなこと……』

 言う最中に気付いたのか、要はそこで言葉を止めた。

『……まさか……精神操作か!』

『……これはまた驚いた。いかにも、知る者の意識を奪うことで、この場所を知られぬようにするのも目的のひとつではあるが……何よりも、薩摩には武人・神樂の才ありながらも埋もれている人間が数多く存在する……それを、我々が有効利用してやろう、というわけだ』

 相当な優位に立ったためか、男の口は異様なほど軽くなっていた。装甲の下、下卑た笑みを浮かべているようで、言葉の端々に甲高い笑い声が混じっていた。

『……自我が無いほうが操作はしやすいからな。と言っても効果範囲が狭い所為で、一度にかけられる相手の数は限られているため、時間はかかるが、薩摩の人間全員に施せば……』

《……身内同士での殺し合いを実現できる、というわけ。どう? 面白そうでしょ?》

『ちなみに、これは薩摩の人間にかけた【無気力化】より出力を高めた【精神破壊】……身体は鍛えられても、これは対処のしようがないだろうよ!』

《あぁあぁあぁああああ!!?》

 ……御影が耐え切れず悲鳴を上げたその時、要の中で何かが切れるような音がした。

 頭の中が音一つない湖面の如く静まり返るが、己の心は獣のように怒り狂っていた。

 考えるよりも先に身体が動き、淀みない動きで湖月とは左右対称の構えを取り始めた。

『…………!?』

 しかし、それは今まで見せた合戦礼法・堂上礼法とは比較にならない禍々しさを孕み、優位に立ったはずである救世主たちも無意識に足を引いてしまうほどだった。

 だが、要が見遣るはただ一騎。

 怯んだ隙を見逃さず、一歩踏み出す。

電磁騎行リニアドライヴ

 それと同時、漆黒は自身の飛火に磁気操作を施し、半強制的に出力を向上させ、精神操作の根源である赤錆色の釼甲へと一直線に駆けていった。

 それを遮ろうと二騎が割って入ってきたが、それすらもものともせず吹き飛ばし、次の瞬間には敵の懐で太刀を大きく振り上げていた。

『はっ……!?』


『ガァァアァアッ!!』


 驚く暇も与えられることなく、漆黒は叫びと共にそれを垂直に振り下ろした。

 聞こえた音は風斬り音だけ。

 けれども、赤錆色の釼甲は見事に両断され、太刀の軌道からは鮮血が噴き出していた。

 悲鳴も上げる事なく、武人はそのまま後ろへと倒れ込み、装甲が解除された。

 息は残っているが、それだけだった。

『………………え?』

 全員が呆気に取られるしか無かった。

 渾身の一撃が装甲を破った……それだけならまだ受け入れられる現実であった。

 だが、漆黒が両断したのは装甲の中でも最も堅牢に作られているはずの兜。

 頭部への一撃は、どのようなものであろうとも致命傷に繋がるため、釼甲が練造される際は、どの部位よりも頑丈に作られている。

 ……にも関わらず、漆黒は両断した。

 頭頂部から胴にかけて一直線に。

 先程までの騒ぎが、嘘のように静まり返った。

《……あ、主……今、一体何を……?》

 そんな中、影継が言葉を口にしたが、それも未だに理解が追いついていない様子で、所々が詰まっていた。

『……無我夢中で、自分も全く……』

 問いに対して要は、自身が振り抜いた一刀を見遣った。

 電磁加速を発動したところまでは朧気ながら記憶している。しかし、それより先はまるで自我が存在しなかったのではないかと疑ってしまうほど、

『う、嘘だろ、おい!? あんな一撃が存在するのか!?』

『“これ以上はもう相手に出来ねぇ! さっさと逃げ……”』

『逃亡が許されると思っていたのか?』

 いつの間に回復していたのか、群青の武人が逃げ出そうとした救世主の行く手を遮るように立ちはだかっていた。

『随分と厭らしい手を使ってくれたもんだ……』

『“ど、どきやが……”』

 血路を開こうと先頭を駆けていた武人が剣を構えた瞬間だった。

 何の前触れも無く、大音量と共に地面が大きく揺れた。

 それにより群青は一瞬だが体勢を崩し、それを見逃すことなく一騎ができた隙間をくぐり抜けて外へと逃げ出していった。

《“い、今だ! 全員で一気に突っ走れ!”》

 背の遠くなった武人を見て、次々と救世主が押し寄せた。

《……しまっ……!》

『【白虎牙】!』

 しかし、焦りを見せた正宗とは対照的に、龍一は至極冷静に状況を判断し、これ以上逃げ出すことが出来ないよう、幾本もの牙で敵の逃げ道をクモの巣でも張るかのように塞いでいった。

 唯一連続発動が可能な神器である【牙】は鋼を穿ち、悉く敵を串刺しにした。

『焦るな、正宗。確かに不覚は取ったが、既に外部には増援が駆け付けている。ここから抜け出すことが出来ても、逃げ出すことは不可能だ』

《……ならいいが……》

 不覚をとってしまったことに怒りを覚えているのか、正宗の声はいつもより少しばかり低かった。

《それよりも……ここ、崩れそうだよ……!?》

 遥の言うとおり、地面は上下左右に揺れ、軋んだ天井からは天板や石礫が降り始めていた。群青の攻撃により意識を失った武人たちは、

『……確かに、長くは持ちそうも無いな……要、俺たちもそろそろ……』

『……済まない』

 龍一が声を掛けると、要は静かに首を横に振って答えた。

『……まだ一つ、やり残したことがある。それを終えるまで、俺は戻ることができない』

 言いながら漆黒は道の奥へと歩みを進めていった。

 先程まで紅蓮がいた場所には影はない。

 【牙】の餌食になった武人の中にも居ないことから、奥の方へと姿を消したということは誰もが簡単に想像することができた。

『……そうか。分かったが、無理だけはするなよ。勝ち逃げだけは許さないからな?』

『厳しいな……まぁ、諒解しておこう』

《……健闘を祈ろう、五十嵐殿、影継殿》

《有難く受け入れておこう》

 言われて、一騎は一歩踏み出す。

 そして、群青は【牙】に刺さったそれをぶら下げながら外へと向かって駆け出していった。

『……御影。少しでも異変があれば今からでも龍一に……』

《……もう大丈夫。それどころか、あのやかましい神技がなくなってからはむしろ好調よ。それに、ここまで来ておいて置いて行かれる方が不愉快ね》

 彼女の言葉にはいつもの強さが戻っていた。

 一瞬判断に迷った要であったが、その言葉を信じてそれ以上調子について問うことなく、先へと歩みを進めた。

『……それなら、もう少しだけ俺の身勝手に付き合ってもらえるか?』

《何を言っているの? 私は最初からそのつもりよ》

《我も元より》

 所々で落石などの大音の中であるにも関わらず、二つの声は力強く要に響いた。

 


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