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神羅装甲 影継  作者: 桑名 啓之
雌雄決戦
107/117

激戦 参

 龍一が拠点に歩を進めているのと同時刻。

《敵さんのお出ましだ。先頭に無人釼甲隊十四騎、後続に封神釼甲六騎の計二十騎!》

『よくこれだけの数が隠れていたな。素直に感心してしまいそうだ』

 自身の隊の七倍近い数を真正面に据えながらも、永興は普段と変わらない様子で、腕を組んで仁王立ちしていた。

 彼ら後衛部隊が構えている場所は薩摩と笠井大島の間にある島であった。

 神之木の部隊が削った敵を、薩摩に到着する前に撃ち落とす。それを目的として準備していたのだった。

『弥生さんと要君のお義姉さん……でしたか? 打ち合わせ通り、よろしくお願いします』

『諒解です』

《諒解》

 無銘を纏った喜助は、後方に控える若竹色の釼甲を纏った武人にそう言った。久しく見せなかった本来の姿を、蜥蜴丸が見せていたのだった。

 封神しているのは千尋であり、金声で助言でもしているのか、ソフィーは時折頷く様子を見せていた。

『では……始めます!』

 言うと同時に若竹は狙撃銃を構えて、意識を集中し始めた。

 次の瞬間から、その銃口から連続して破裂音が鳴った。

 弾丸は全て先頭を駆けていた無人釼甲の疾駆に命中し、騎行が不可能になったそれらはそのままの勢いで海へと落ちていった。

《……これは驚いたのう。六発連射で全て命中させるとは》

『この距離なら赤子の手を捻る方が難しいですね』

《……その理由は?》

『可哀想だから、です』

 ソフィーが答えると、数秒の無言が続き、弾丸の炸裂音だけがしばらく響いていた。だが、次の瞬間にはそれもかき消すのではないかと思うほどの大笑いが有った。

《かはは! 成程成程、確かに救世主ひとでなしのような浪人集団にかける情けはないからのう!》

『それよりも、狙撃銃で全手動ボルトアクションというのは珍しいですね』

《ん? やはり慣れぬだろうか?》

『いえ、むしろ私としてはありがたい兵装です。全手動ほど手応えを感じられるものはありませんからね』

 話しながらも若竹は手を止めることなく射撃を続ける。

 さすがの武人は回避していくが、無人釼甲は満足に反応することができず、疾駆をもがれては海へと落ちていき、敵が近付いて来たときには無人釼甲も含めて十三騎にまで減っていた。

《……武人の一人くらいは落としておきたいね》

 残った敵を見て、千尋はそんな風に零した。

 単体で七騎落としただけでも充分な功績ではあるが、万が一に備えて少しでも減らしておきたい……そんな気持ちがありありと滲んでいた言葉だった。

《……ソフィーちゃん、あの橙色の左……三メートルくらい離れた場所を狙ってもらえる?》

『? 分かりました』

 千尋の意図が分からないながらも、ソフィーは素早く指定された場所に照準を合せ、すぐさま弾丸を撃ち出した。

 一直線上には一騎たりとも存在せず、弾丸はそのまま空の彼方へと飛んでいく。敵の誰もがそう思った瞬間だった。

 突如弾丸が軌道を変え、橙色の釼甲の疾駆に命中したのだった。

 いきなりの事に彼も対処が出来ず、揚力を失った橙は悲鳴をあげながら海へと落ちていった。

《よし、命中!》

《な、なんじゃ、今のは!?》

『軌道が曲がったように見えましたが……』

《あ、よく見えたね? 気圧を高めて弾丸の左側の空気抵抗を上げただけだけど、ここまでうまく行くとは思わなかったよ》

 口では軽く説明しているが、実際に実現するのは非常に難しいことであることはソフィーにも蜥蜴丸にも理解できた。

 人が投げる程度の速度なら少し知識があれば【大気操作】で弾の軌道をある程度操作することは出来るだろうが、音速の二倍を軽く越える弾丸の軌道を変化させるとなると、どれだけの熱量を費やすか、本人以外では予想がつかなかった。

 しかも、かなり消費しているにも関わらず、千尋に疲労の色は一切見えず、それどころか命中したことでさらに意気が上がっているようにも感じられた。

『良くやった! あとは本島に向かう奴だけ撃ち落とすように! 行くぞ、伊賀!』

『諒解です』

 言うと同時に、梔子色は飛火を噴かせ、敵の群れへと向かって騎行した。

 対して赤茶は迫り来る敵に向かって構えを取るだけだった。

『“? 何だ、行くと言いながら怖気付いたのか、臆病者チキンどもが?!”』

『“化け物はさっきすれ違った奴らだけか! 今日の夕食はフライドチキンにでも……”』

 言い切るよりも先に、一騎が突如衝撃音と同時に空から姿を消した。

 悲鳴を上げる時間は無かった。

 先程まで武人が居た場所には、赤茶の釼甲から真っ直ぐに伸びる一本の鎖があった。

 先端には両刃の斧が付き、その真下には落下していく武人の姿があった。

『“……な、なんだなんだ!?”』

『……よし、もう一丁!』

 驚く敵を他所に、赤茶は鎖の端を掴んだ腕を大きく振り回し、今度は薙ぎ払うように攻撃を仕掛けた。

 大振りではあるが、速度は異様なほど速く、斧が迫り来るのを見ることができた男は何とか回避する事が出来たが、端に位置取った男はそれを視認することが出来なかった。命中して飛火が壊されて、装甲を両断されて落ちていくが、赤茶はその程度で留まることなく、縦横無尽に鎖斧を振り回した。

 それを何度も避けるが、次第に彼らは自身の動きが鈍り始めていることに気が付いた。

『“……さ、避けろ避けろ! 初動を見切れば何とか避けられる……”』

《失礼しますよ》

 後続に命令をしていた先頭の武人は、突如後方から聞こえた大和語に背筋を凍らせた。

 次の瞬間には刃金が両断される音が聞こえ、機体に衝撃が響き、一気に高度が落ちていった。

《“疾駆ウイング飛火スラスター損傷! 海面激突の覚悟を……”》

『“な、何が起こったか報告しろ!”』

《“敵の鎖斧に意識を奪われているうちに後方に回り込まれた様子。敵は的確に疾駆両翼と飛火だけを破壊した、ということだ!”》

 自身のブレイドアーツの報告を聞いてようやく敵の戦法が理解できた。

 鎖斧を大仰に振り回すことによって意識をそちらに集中させ、その意識の隙を狙って無力化する、ということだった。

 しかし、どちらが牽制というわけではない。

 どちらも本命。

 それが奇妙なほど噛み合ったがために、非常に有効な手段となっているのだった。

 これを突破するためには、無理矢理にでも通り抜けるよりも防衛にあたっている武人三名を屠る方が最適である。

 しかし、それに気付いても墜落している今では既に遅い。

『“……チッ……!”』

 男は身体が真っ逆さまに落ちていく中、斧によって一つ、小刀によってまた一つと味方が落とされる光景を見て、自然と声が、悔しさがこみ上げていた。

《クカカカカ! 見よ、主! 世に害為す羽虫が次々と地に堕ちていくのは絶景だな!》

『どっちが悪者か分からなくなるからもう少し言葉を選びやがれ! そんな事ばっか言ってやがるから妖甲なんて呼ばれるんだ!』

《勝てば勝ち組、負ければ敗軍は世の摂理だろうが!》

『勝てば官軍、負ければ賊軍だ! もうこれ以上は黙ってろ、馬鹿が露見する!』

『“……っち……!”』

 視界の端、漫才のようなやり取りをする武人と釼甲を見て、撃ち落とされた男は悔しさのような物がこみ上げてきた。

『“畜生がぁあぁぁああ!!”』

 そう吼えた瞬間、斧を、小刀を、そして太刀を避けながら攻撃を掻い潜り、薩摩へと向かう釼甲が一騎有った。

(……願いが通じたのか!)

 そう思い、男は一瞬拳を握りそうになったが、その希望も一瞬で打ち砕かれた。

 攻撃の雨を抜けたはずの釼甲の肩に、一本の矢が深々と刺さっていたのだった。

 痛みに悶える武人に対して、更なる追い打ちがかけられる。

 疾駆、飛火と連続して命中し、突破したはずであろう味方は、羽をもがれたトンボのように海へと落ちていった。



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