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神羅装甲 影継  作者: 桑名 啓之
雌雄決戦
106/117

激戦 弐

お勧めBGM

・《BLADE ARTS Ⅲ》 ZIZZ STUDIO

・《ENTHUSIASM》 Godspeed

 制作中にずっと聞いていた曲です。雰囲気にはあまり合わせられませんでしたが、どちらも格好良い曲なので是非一聴を。

 行動の開始は神之木の装甲を合図にしていた。

 笠井大島に向かうは山吹の國綱・群青の正宗・漆黒の影継の三騎。

《敵機確認。その数四十! 武人及び神樂の反応は無し》

『良くそれだけの数を廃棄釼甲とはいえ集めたものだな。そこだけは素直に感心させられるな』

『獅童少尉、分かっているとは思うが……』

『諒解している、五十嵐中尉。雑兵は後ろに任せて、俺たちは人様を相手にしなければいけないんだろ?』

 要の叱責に対して龍一は素直に謝った。

 呼び方が変わっているのは、戦闘中であり、上下関係を明確にするためである。

『それじゃあ、遥。少しだけ騎行が荒くなるが我慢してもらえるか?』

《……分かった》

『全員、覚悟はできたな。では獅童少尉、『解』は!?』

『…………【さん】!』

『『《《諒解!》》』』

 龍一の言葉と同時、三騎は散り散りになった。

 普通なら密集して一点突破という手段が定石であろうが、彼らは寄せ集めの木偶人形相手に遅れを取るようなことは微塵もない。

 散らばった三騎を相手に、敵の集団はそれぞれの方向へと銃弾を放った。

 しかし、銃弾はどれも遅れ遅れに軌道を通るだけで、装甲に当たる様子は全くなかった。

《……操っている神樂は素人なのかしら? 弾丸がいくら速かろうとも、後追いで命中する程影継は遅くないわよ》

《銃撃による戦闘……しかも複数騎を相手取る事に慣れていない様子と見た。これなら無駄な熱量消費を抑えて突入できそうだ》

 戦術的には、無人釼甲全機の攻撃対象を一騎に集中し、少しずつ撃墜していけばいいものの、操作している神樂は不慣れの所為か、一度に全て落とすという欲が出たのか分からないが、目標を散乱させてしまった。

 そのため、銃弾の数は確かに多いが、所々に隙間が発生しているため、避けることはそう難しくなく、影継含む三騎は一発も被弾することなく飛び回ることができた。

 目下の問題は、現在地と拠点の入口との間を阻む無人釼甲の群れだけだった。

 しかし、行動がある程度自由な今、この程度ならばいくらでも対処は出来る。

 最初に行動を起こしたのは漆黒だった。

『影継、御影! まずは道を切り開く!』

《諒解!》

 腰に差した鎧通しに手をかけ、無人釼甲の集まっている場所へと構える。

《―磁気収斂―》

 鞘に磁気が帯び、漆黒の纏う気迫が膨れ上がる。

『晴嵐流合戦礼法―“飛燕”が崩しー』

電磁弾刀レールガンはしり―』

 即座の抜刀動作と同時、鞘の仕掛けにより刀身が電磁誘導により加速され、射出される。そして、その速度は以前の『電磁抜刀―轟―』とは比べ物にならない速さで文字通り空を走った。

 投擲された鎧通しは容易く無人釼甲の装甲を貫通し、一直線上の敵を一体、また一体と穿っていった。

《敵、八騎が行動不能》

『よし。御影、鎧通しの回収を!』

《もう始めているわ》

 言われて見れば、敵の群れを通り抜けた鎧通しは地面に向かって投げられたにも関わらず、今は徐々に速度を上げて漆黒の方向へと戻り始めていた。

 柄が手の届く範囲になると同時に要はそれを掴み取り、直ぐ様鞘へと納めた。

《改良に問題はなさそうね。衝撃の緩和も成功しているみたいだから安心したわ》

 ……以前、御影が野太刀を練造した時のことの話だ。

 彼女は影継の兵装を追加するだけでなく、既存兵装の改良も行なったのだった。

 鞘の硬質化。

 そして単純な引力・斥力による刀身の射出する形式から、電磁誘導による押し出しによる射出に改良。これにより、必要演算を少なくすることで発動時の負担を軽減することに成功したのだった。

『……熱量消費も大分少なくなったな。これならあと二発は問題無さそうだ』

 そして、鎧通しの戻ってきた道を見れば、群れに大きな空道が完成していた。無人釼甲は警戒の為か、密集状態から分散状態へと移っていたのだった。

『影継、全速力で一気に駆け抜ける!』

《承知!》

 その瞬間を見逃すことなく漆黒の武人は釼甲の群れの穴へと駆け出した。

 それに間に合わないと思ったのか、無人釼甲たちは意識を残った二騎に向けた。

《まさか、俺の神器を忘れた訳ではないだろうな?》

 語る正宗は既に《龍砲》を構えていた。

 以前、無人釼甲を四騎同時に屠った、広範囲爆撃兵器である。

 気付いて対策を打とうにも既に遅く、龍一はすぐさま砲弾を、爆音と共に打ち出した。相も変わらず遅すぎる砲弾だったが、今回に限って爆発までの時間が異様に短かった。

『遥もいるから、今回の威力は二割八分六厘増しだ。覚悟しておけ!』

 言葉と同時、砲弾の爆炎は二度目の轟音と共に『全て』敵方に吹き出し、いくつもの無人釼甲を焼き払った。範囲内にいた釼甲は全て疾駆を吹き飛ばされ、騎行が不可能になったものは悉く海へと落下していった。

 ……龍砲は本来全方位攻撃であるが、遥の神技を利用することで爆撃範囲を狭め、同時に威力の向上を達成している。

 並みの人間には出来ぬ荒業も、龍一の導出能力あってのものであり、首藤遥の『力量方向操作』の神技あってのものでもある。

 どちらかひとつでも欠けていれば、味方(神之木)にも少なからず被害を出していたことは間違いないのだが、実行した当の本人はさも平然とした様子で黒煙の突破口を見やった。

《撃墜数六! 同時、敵陣に穴が出来たぞ!》

『畜生、要に二つ負けたか!』

《それだけでも……充分すごいよ?》

 國衛軍本隊の下級将校でも、平均同時撃墜吸数は端数繰り上げでも精々三騎である。

 (無人釼甲で実力は格段に落ちているとはいえ)その二倍を優に達しながらも、龍一は心底悔しそうにしていた。

 彼の見据える目標は高い。

『少なくとも要に並びたかったが……仕方無い、それなら総合で勝つまでだ!』

 常に目標を越えようとする気概。

 才に恵まれながらも、驕ることを知らない獅子ほど恐ろしいものはない。

『獅童少尉、悔しがるのは構わないが後にしろ。作戦通り配置に着くように!』

『諒解! 正宗、これより笠井大島への突入を開始する! 地表の武人の探索結果は!?』

《表に出撃しているのはこの無人釼甲のみ。敵軍、篭城の策を取った模様……》

《……っ! 龍君、下……何騎か薩摩に向かってる……!》

 遥の意識を向けた先には、龍一も見覚えのある黄緑の機体と紫の機体が複数の混合色の釼甲を引き連れていた。

《……以前の陣場という武人と釼甲を扱う女か! いつの間にあそこまで……!?》

《は、早く……戻らないと……》

《あぁ、後方は気にしなくても構いませんよ》

 焦る遥に対して女性の声がかけられた。

 戦場でありながらも落ち着きすぎたその声を聞いて、遥が声の出処を探れば、先を行く山吹色の釼甲からであることが分かった。

《失礼、驚かせてしまいました。私は神之木美命みことと言います》

《え……と、首藤……遥……です……じゃ、なくて……あ、あれは気にしなくて……いいの?》

《はい。防衛組に回した鳥羽元大佐と伊賀元中佐ですが、彼ら二人ならば神樂無しでも一個小隊に匹敵する武力を持っています》

《え……?》

 美命の言葉に遥は言葉を失わざるを得なかった。

 一個小隊は封神武人三十〜六十騎を指し、本来ならば二桁に満たない武人の数を相手にするには過剰である。けれども、それを僅か二騎で匹敵してしまう、というのは彼女では想像すら出来ない範囲だったからだ。

 さらに続けようとした少将だったが、それを景斎がたしなめた。

『……神之木少将、雑談はそれくらいにしておけ。獅童中尉も、すぐに作戦通りの配置に着くように』

『諒解!』

 話しているうちに二騎は拠点の入口らしき場所に到着した。

 國綱は拠点の奥へと潜入し、正宗は入口に立ち塞がった。

 突撃側の作戦は以下の通りである。

 最初に龍一が敵防衛に対しての【最適解】を導出。予定されていたものは『散り散りになる』と『集中突破』の二種類であり、龍一の合図に応じて行動を変えるというものだった。

 そして要と龍一でそれぞれ一撃ずつ、笠井大島到着までの間に可能な限り敵の数を減らし、防衛部隊である鳥羽達の負担を軽くする。

 そうすることで、防衛に余裕を持たせると同時に攻撃に集中することができるという作戦だった。

 単純ではあるが、単純ゆえに成功すれば非常に有効であった。

 後ろを取られた無人釼甲は、陣場たちの応援と頭の防衛のために戻る部隊の二つに別れたのだった。

『数はおよそ十五といったところか……』

《先程の2.5倍だな》

《中での戦闘が終わるまで……持てば良いんだよね?》

 目の前にいる数を見て、遥は緊張しているようで声を震わせながらも自身を奮い立たせていた。それを察した龍一は、二秒ほど考え込んでから口を開いた。

『……正宗』

《? どうした、主》

『この場を持たせることとこの場を終わらせること、並みの釼甲ならどちらが簡単か?』

《言うまでもなく、持たせることだ。数物とはいえ、数が多ければ一騎だけでは処理に時間がかかる》

《……?》

 突然始めた龍一と正宗の問答の意図を理解できず、遥は疑問に思ったが。それも構わず主従は続けた。

『……では正宗。お前は並みの釼甲と同等で満足か、否か?』

《無論、【否】だ》

 龍一の二つ目の疑問に正宗は即答した。

 これから為そうとしていることを理解してか、彼は声に少しばかり喜色を混じえていた。

 理想の答えを聞き、群青の武人は声を張り上げた。

『なら、行くぞ! 大和に【正宗在り】を知らしめる!』

《委細承知!》

 掛け声と同時、群青は無人釼甲に向かって大きく腕を拡げた。

 突然の行動に一瞬躊躇いのようなものが無人釼甲らに走ったが、何か行動を起こす前に倒してしまうよう判断したのか、さらに加速した。

 それを充分に理解しながらも、群青の動きは緩慢。

 五神器の一つが、放たれる。

《之、世に息づく人外悪鬼を切り裂く!》

『封ぜよ、【白虎牙】(びゃっこが)!』

 唱えると同時、群青の全身から鋭い槍のようなものが飛び出し、無人釼甲を襲った。

 それも数は一つ二つではなく、十を優に超えていた。

 前方全方位に広がる奇襲に逃げ道など存在するわけがなく、無人釼甲は避けることすらままならず腹に、胸に、頭にとそれが突き刺さっていった。

 そして辛うじて避けることが出来ても、その牙はすかさず追撃を放ち、死角からの攻撃を見事に命中させていた。

 武人が存在しないため、しばらくの間は群青にたどり着こうともがくことが出来たが、それも遠方に投げ捨てられると糸が切れた人形のようにぱったりと動かなくなってしまった。

《これで総計撃墜数は十八騎、だな》

《…………》

 静かに報告する正宗に対し、遥は呆気に取られていた。

 仕方のないことだろう。本来ならこの戦闘中はこの場に縛られていてもおかしくない数を、龍一と正宗は相手取り、一瞬で終わらせてしまったのだから。

『任務一つ完了、だな』

 言いながら龍一は反転し、拠点の奥へと歩み始めた。

《……一つ?》

《早急に戻ってきた武人を排除出来た場合、神之木中将、五十嵐殿の援護に回るよう言われているみたいでな。武人も少なからず存在するだろうし、可能な限り中将は今河との戦いに備えて温存させたい、ということだから、だ》

 ……先程、要と龍一が攻撃した際に景斎が攻撃しなかったのはそう言った理由があったからである。余計な消耗を無くし、万全の状態で挑むことが出来る舞台を整える。

 それが、今回の要と龍一に与えられた任務だった。

 だから、一つ任務が終われば次の行動へと移る。

『それじゃあ、四人の応援に行くとするか』


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