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神羅装甲 影継  作者: 桑名 啓之
雌雄決戦
100/117

傷痕 壱

速いのか遅いのかも分からず第百話。サブタイトルを考えるのが非常にしんどいです……

 要は蜥蜴丸から部屋を追い出されたあと、宿の中庭に出て夜風に吹かれていた。やはり心配事のためだろう、顔は俯きがちであり、目を閉じて静かに佇んでいた。

《……主、彼女の件は我の不注意にも原因は……》

「……いや、影継に責任はない。全ては自分が警戒を怠ったために起こした事だ……」

 見るに耐えかねたのか、影継が声をかけたが、反応は芳しくなく、要の表情は堅くなる一方だった。それにはさすがの影継も言葉が無かったのか、黙って様子を見ることしか出来なかった。

「お、こんなところにいたのか。探したぞ」

 そんな沈黙を破るように、一人の男が現れた。

「……龍一か」

 要は振り返らずに誰が来たのかを察した。それを確認しようとする素振りも見せることなく、身じろぐ様子も無かった。

「……取り敢えず、報告だ。救世主の大和拠点が笠井大島でほぼ間違いないことと、薩摩住民の無気力化を佐々木少佐に報告しておいた。それを受けて佐々木少佐及び三尉が潜入捜査を行うことが決定した……結果次第では、明後日にでも行動を起こすかもしれない、と……」

「……そうか……」

「……要。昼間の件について思うところはあるかもしれないが、いい加減にしておけよ?」

 少しばかり締まりのない要の返事に、龍一は僅かに語気を強めた。

「少なくとも今、お前は俺たちのまとめ役だ。なのに、そんな状態でずっといられれば、迷惑以外の何物でもない……それどころか、他の奴ら全員を不安にさせているんだ」

「……分かって……」

「分かっていたらとっくのとうにそんな顔は止めているだろうが。反省するのは構わないが、だからって何時までも引き摺られていると、それが周りに伝播するんだよ。事実、真白なんてリヤが寝込んで、要がそんな調子になってからずっと落ち込んだままだぞ?」

 口数の少なくなっている要に対して、龍一は容赦無く苦言を投げつける。

 しかも、それが全て的を射て、正論であるため要は反論が出来ず、静かにその言葉を受け止めていた。

「……別に、それに囚われ続けても構わないぞ。お前の家族が似たような目にあっても構わない、というのならな」

「…………」

 その言葉で、要はようやく顔を上げた。

 曇りがちの空を見上げ、二つ深呼吸をして。

 そして、龍一の方へと視線をやった。

「……済まない、龍一。一つ頼めるだろうか?」

「諒解……っと、それじゃあ正宗も影継も、これからやることに一切口出しするなよ?」

《諒解だ》

《……? 一応、承知した》

龍一の言葉に、正宗は即答し、影継は訝しげながらも遅れて返答した。二領の返答を確認すると、龍一は数回拳を開け閉めしながら要の目の前に立った。

「それじゃあ……行くぞ!」

 言うと同時に龍一は拳を後ろに大きく引き、一歩踏み込むと、回転の勢いを乗せた全力の一撃を要の腹へと叩き込んだ。

「グッ……!」

 これには要も苦悶の声を上げずにはいられなかったようで、僅かによろめきながら後退し、耐え切れず膝を着いた。

《なっ……獅童殿、何をしている!》

《影継殿、悪いがここは主の言うとおり口を挟まないでいてもらえるか?》

 突然のことに驚きを隠せず、影継は二人の間に割って入ろうとしたが、それを正宗によって止められた。正宗の一角が影継の胴の下に潜り込み、そのまま持ち上げられた状態になったため、影継は後ろ足二本しか地に着いていない状態にさせられた。

《ま、正宗殿……》

《主にも何かしら思惑あっての行動だろう。何、悪い結果にならない事は、俺が保証しておこう》

《……違いない、というのだな?》

 影継の問いに正宗は静かに頷いた。それを信じたのか、宙に浮いていた影継はもがくことを止め、正宗はそれを確認すると静かに黒の鍬形を下ろした。

「……ッ……! また、一撃が重くなったな……」

「そう言いながらも余裕そうだな……で、気は取り直せたか?」

「……あぁ、お陰様で、な」

 要は殴られた場所を摩りながらゆっくりと立ち上がった。相当の衝撃だったのだろうか、最中何度か咳き込み、落ち着くまでは少しばかり時間を必要とした。

「頼むぞ? 俺は、誰よりも人を守れるだろうお前だから命預けているんだ。多分、リヤも俺とほとんど同じ考えだろうから、今回のような少しばかり危険な行動を迷うことなくやったんだろうよ」

「……そうか」

「それじゃああと一つ報告だ。明日は少佐が笠井大島及び周辺諸島の調査を始め、特定できれば明後日にでも攻撃を仕掛けるんだが、その間俺たちには待機命令が出されている」

「……分かっ……」

「で、特に要は英気を養う為に薩摩の観光でもさせてこい、とのことだとさ」

「は?」

 追加の説明に要は思わず間の抜けた返答をしてしまったが、龍一は気にせず続けた。

「確かこの辺は薩摩芋や明太子が有名だが、宿の人に聞いたところ、ぼんたん漬けなんて菓子もあるみたいだぞ」

「いや、何故この時期に観光をしろと……」

 さすがに話をどんどん進められる訳にも行かず、要は龍一の言葉を遮った。

 これから大規模な戦闘が始まるかもしれない。にも関わらず、そのように浮かれた行動をしても良いのかという疑問が、真面目な性格からか浮かんだのだった。

 しかし、龍一はそれも予想していたのか、表情を変えずに答えた。

「そう思うのは仕方ないだろうけど、中将からの命令だ。それに、要は少しばかり真面目過ぎるから、多少の息抜き程度は誰も責めはしないだろ」

「その間になにかすべきことが……」

「非正規の、しかも下級将校である俺たちに出来ることなんて、もうほとんど無いだとさ。後は精々本番で貢献するだけだ、とも言っていたな」

「…………」

 まさにそのとおりだった。

 防人部隊は少々特殊な組織であり、一応階級は付けられているものの、それは本隊と同等のものではなく一段階程度下のものである。つまり要なら本隊では少尉、龍一ならば曹長といった具合だ。

 その程度の階級では戦略関係にあまり口出しできるはずも無く、出来ることは精々緊急事態の対処くらいである。

「……まぁ、これから先は上に任せるとするけど、俺も要に息抜きが必要だということには賛成だからな」

「……どういうことだ?」

「いや、何もかも失敗は自分の所為だ、なんて思うのは追い詰められている証拠だろ? 実際はすぐ要の場所に向かえなかった俺にも落ち度はあるし、リヤだって危険は承知の上で取った最も効率的な手段だ」

 流れるような龍一の言葉に要は静かに耳を傾けた。

「俺ら部下の意見を聞き入れた結果、笠井大島に本拠地があるという最有力情報を得られた。けど、要は対策を怠ったが為に部下に怪我をさせた……これだけ聞くと、要は被害しか出していないように感じる……多分、要はその点でずっと反省していたんだろ?」

 龍一の言葉に反応は無かったが、それが答えであることはすぐに理解された。そして、龍一はそのまま続けた。

「部下の失敗に対して責任を取るのは当然のことだろうけど、上官の失敗は全体で補うことが最善だ。悪いが今の要には周りが見えていないように見えるんだよ。普段の要ならありえない程に、な」

「……そうか」

「だから、明日一日で本調子を取り戻してこいって言っているんだ。それに、要の様子を見て何人か混乱している奴もいるだろうから、出来れば全員安心させてくれ。遥が怖くて仕方ないって言ってくるんだよ……」

「……意外なところで被害が出ていたか……」

「頼むぞ? 明日の遥の安眠は要に賭かっているからな。取り敢えず最初は真白を安心させてこい」

「諒解」

 追い払われるように手を振られたが、要はそれを受けて素直に中庭を後にした。


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