第二章 第22話:城の小さな暴君と穏やかな日々
第二章第22話をご覧いただきありがとうございます。
新しい命が無事に誕生してから数ヶ月。ガルドの城は、かつての冷たい静寂や殺伐とした雰囲気が嘘のように、賑やかで温かな笑い声に包まれていました。最強の鬼人と元・人間の少女が挑む、少しドタバタで愛おしい育児の日々を描く第22話をお楽しみください!
「こら、勝手に魔力を練らないの! お母さんの髪がチリチリになっちゃうでしょ!」
ガルドの城の広間に、由香の少し慌てた叱り声と、ケラケラと無邪気に笑う赤ん坊の楽しげな声が響き渡る。
すくすくと成長した息子――アルドは、両親の強靭な魔力と戦闘血統をしっかりと受け継いでいるらしく、まだハイハイを覚えたばかりだというのに、時折手のひらからパチパチと小さな魔力の火花を散らすような「お騒がせな赤ん坊」だった。
ソファに座る由香の膝の上で、アルドは母親の髪を引っ張りながら、真っ赤な瞳をキラキラと輝かせている。その姿は、冷徹な深層の王であるガルドの幼少期を彷彿とさせるものだったが、どこか由香の勝ち気な面影も混ざっており、城の新しいマスコットとして使用人や下級の鬼人たちからも絶大な人気を集めていた。
「ほう、今日も元気がいいな我が息子は」
執務の合間に広間へ顔を出したガルドが、低い声で微笑みながら近づいてくる。
すっかり「父親の顔」が板についたガルドは、城の統治や改革の合間を見つけてはアルドを高い高いしてあわせるのが日課になっていた。
「ちょっとガルド、甘やかさないでよ! さっきも私の魔力制御を勝手に真似して、執務室のカーテンを焦がしかけたんだからね!」
由香が呆れたようにため息をつくが、その口元には隠しきれない幸福な笑みが浮かんでいる。
ガルドはアルドを軽々と持ち上げ、高い高いをしてやりながら、低く優しい声で息子に語りかけた。
「いいではないか。私の血を引いているなら、それくらい暴れん坊の方が頼もしい。将来は、この深層のすべてを統べる立派な戦士になるだろうさ」
「やめてよ、戦士なんて物騒なこと言わないの! 普通にすくすく育ってくれればそれで十分よ!」
由香がツッコミを入れると、アルドは「ケラケラ!」と声を上げて喜び、ガルドの黒髪を小さな手でグイッと引っ張った。最強の鬼人であるガルドが、息子の力の強さに「おっと」とわずかにバランスを崩す姿を見て、由香は思わず吹き出してしまった。
かつてこの城は、冷酷な孤独と絶対的な恐怖によってのみ支配されていた。
ガルドは一人ですべてを背負い込み、誰も寄せ付けずに生き、由香は現世の絶望から逃れるようにしてこの過酷な地獄の底へと堕ちてきた。お互いを「所有者」と「奴隷」として縛り合っていた歪な出会いが、今やこんなにも温かく、賑やかな家族の日常へと変わっている。
「ねえ、ガルド」
由香は穏やかな笑みを浮かべ、夫と息子を見上げながら呟いた。
「昔の私たちが見たら、きっと頭がおかしくなったって驚くわね。こんな平和で、くだらないことで笑い合ってる毎日なんて、想像もしなかったもの」
ガルドはアルドを優しく抱き抱えたまま、由香の隣に腰を下ろし、その肩をそっと抱き寄せた。
「ああ。だが、私は今のこの日常こそが、私の求めていた唯一の現実だと思っている。……お前がこの城に来てくれて本当によかった、由香」
その真摯で温かな言葉に、由香の胸の奥が熱く満たされる。
外の世界では相変わらず赤黒く燻る荒野が広がっているが、もはや彼らにとってそこは恐ろしい地獄ではなく、愛する家族と共に未来を育むための大切な「故郷」だった。
小さな暴君の無邪気な笑い声が広間に響き渡る中、二人の穏やかでかけがえのない時間は、これからもずっと続いていく。
第二章第22話「城の小さな暴君と穏やかな日々」をお読みいただき、ありがとうございます!
アルドの成長と、すっかりイクメンになったガルド、そして由香の賑やかで愛おしい育児の日々を描きました。シリアスな戦いを経て、彼らが手に入れた温かい日常にほっこりしていただけたら幸いです。
そして次回、第23話では、成長したアルドを連れて、ガルドと由香が初めて城の外の「新しく生まれ変わった深層の街」へと出かけるお出かけエピソードを描きます……!
「アルドくんが可愛すぎるしガルドのイクメンっぷり最高!」「家族みんなで幸せそうで読んでて泣ける」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、いいねをよろしくお願いいたします!
それでは、第23話でお会いしましょう!




