第16話「涙」
あれからどれだけの時間がたったのだろうか。
気がつけば、雨野はベンチに座っていた。
何時間踊っていたのかも分からずに、ただ疲れたから座ったのだ。
踊っている間に誰かに見られていたかもしれない。
笑われたかもしれない。
動画を撮られて、ネットにアップされたかもしれない。
そんなことは一切気にする事は無かった。
ただ今は、目から出てくる雨を、空から降る雨で誤魔化していたかったのだ。
レイが最初にしていたように。
今になってようやく分かった気がする。
出会った時のレイの気持ちが。
確かに、全てがどうでも良くなったような気持ちになれる。
けれども、心の底の苦しみと悲しさは消えない。
自分がレイに教えたことだ。
それを理解していないわけじゃない。
いや、理解していない方が逆に楽だったかもしれないな。
そうすれば、今の自分が悲しいとか、苦しいなんて思わずに済んだのだから。
ふと横を見ると、白いパーカーを着た人が立っていた。
間違いなくレイだ。
彼女は傘をさしている。
傘の下から覗かせるその表情は驚きを隠せない様子だった。
こちらに駆け寄ってきて、自分を傘の下に入れようとする。
そしてこの時、またあの時のレイの気持ちを理解したような気がした。
悲しんで、苦しんでいる時に差し伸べられた手をなぜだか人間という生き物は拒んでしまう生き物らしい。
言葉にはできなくとも、そうしてしまうのだ。
理由をつけるとしたなら、今自分の目から雨が出ていることを知られたくなかったとでも言うべきか。
けれども、目はおそらく赤くなってしまっていて、隠しようがないことぐらい分かっていた。
「いつからここにいるの?」
「朝からずっと…学校を抜け出してきたんだ。」
「なんで、そんなことになったの?」
「僕ね、高2の時に、付き合ってた彼女がいたんだ。でも、喧嘩しちゃって、仲直りしようと思った、でも、第三者が入り込んできて、ほぼ強制的に別れることになったんだ。
それで、今レイといるとこを見られたのかもしれないけど、なぜだかその話が今更周りに蔓延してたんだ。それで僕の居場所は完全になくなってさ。」
「私の隣でも?」
何を言っていたのだろう。
そうだ、居場所がないなんて、そんなことは無かったのだ。
自分は最低だ。
居場所がないのは学校だけだ。
レイの隣は立派な自分の居場所じゃないか。
「レイ…もう1回、僕に傘をさしてくれる?」
「もちろん。」
傘に2人で入った時、顔を近ずけられ、そのままキスをされた。
彼女の手が自分の頬に触れる。
「泣いてたんでしょ?ずっと。」
「これは、雨だよ。」
「違うよ。だって、とっても暖かいもの。私が晴れさせるから。フウちゃんがしてくれたみたいに。」
バカ…
そんな言葉をかけられたらもっと雨が降るじゃないか。
でも、心地いい雨に変わっていた。
「ねぇ、広めた人って誰なの?」
「平野夏乃子って人だよ。知らないと思うよ。」
「うん。知らない。」
彼女の目がなんだか、僕を見る時の目じゃなくなっていた気がする。
僕の方を向くと、その目はいつもの優しい目に戻った。
「明日学校行ける?」
「行きたくないけど、親が心配するから行くよ。今日だって心配してると思うし。」
スマホを見ると、メールが来ていた。
やはり親が心配していたようだ。
『心配かけてごめん。勝手に抜け出してごめん。ちょっと学校に行く気分になれなかった。』
そう返信をしてスマホを閉じた。
家に帰ったら怒られるだろうな。
でも、今日もまた少し帰りは遅くなる。
レイと一緒に帰るから。




