第11話「駅の死角で」
列車に乗るのはいつ以来だろうか。
念の為と言われて持たされたSuicaのカードが役に立つ日が来るなんて思わなかった。
最後に乗った時には隣に母がいた。
小さい雨野を角に座らせて、自分はその横に座っていたのだ。
今なら母の優しさを感じられる気がする。
今は自分が守ってやる番。
隣にはレイが座っている。
田舎の駅と駅は5分以上の時間があり、ちょっと長めに感じてしまう。
けれども、今はその時間を大切にしたくて仕方がなかった。
電車の中というのもあって、会話は少ない。
けれども、雨野の手の甲の上に、彼女が手を乗っけてくれた。
何故だろう。自分が包んであげているはずなのに、まるで自分が包まれているような。
雨野の提案を受け入れてくれたレイには感謝している。
少しでも彼女と長くいるための口実に過ぎないが、彼女も実は喜んでくれているのではないのかと思っていた。
手を重ねてくれているのを見ると、本当に喜んでいるように思える。
電車の窓から見える景色が段々と流れていく。
駅に止まる度に、彼女と離れなくてはならないと思うと、悲しくて、自分の膝をギュッとしてしまう。
それを感じ取ったかのように、彼女は雨野の手のひらの下に手を潜らせ、手を繋いできた。
驚いて彼女の方を向いたが、こっちを見てはいない。
雨野がレイの方を見た後に、雨野の方を向いた。
その顔は「大丈夫だよ。」とそう言ってくれているように感じ、心が穏やかになる。
ついに、彼女の最寄り駅に着いた。
電車を降りて改札に向かう。
改札まではホームとホームの間に飛行機に乗るためのような通路がある。
そこにはエレベーターもあり、その部分は凹凸になっており、通る人は真横からでなければ見えない。
いわゆる死角になっていた。
そこで2人は帰る前に少し話す。
「ありがとうね。着いてきてくれて。寂しくなかったよ。」
「こっちこそ、手を握られた時、心でも見られたのかなって思ったよ。」
「駅に着く度に辛そうな顔をしてたからね。」
「そんなにこっちのこと見てたの?」
「見てたよ。気づかれないように。」
「ねぇ、会えた日には一緒に帰ってもいいかな。今日みたいに。」
「いいよ。それに私は毎日会いたいって思ってるよ。予定がある日はもしかしたら会えないかもしれないけど。」
「ねぇ、もう1回、ほっぺ触ってもいい?」
彼女は頷いた。
雨野は手のひらで彼女の頬に触れる。
前彼女の頬には雨が降っていた。
でも、今は晴れている。
そんなことを思っていると、彼女の両手が雨野の腰をギュッと抱きしめようとしてきた。
2人は見つめ合い、暗黙の了解でもしたかのように、目を瞑り、キスをする。
晴れていた彼女の頬に再び雨が降り出す。
その雨は頬をつたり、雨野の唇に到達する。
その味は、少し甘く、前とは違い、しょっぱくない。
彼女の頬は天気雨。
嬉しい感情が爆発した天気雨が降り出したのだ。




