今日も生きているから、眠る前のひとときをあなたと過ごす【2000文字】
「おかえり、ソフィア」
寝室に入ると、夫であるレナード様がベッドボードを背に本を読んでいた。
「起きていらしたのですね」
「大切な奥さんを残して寝たりしないよ」
私が隣に行こうとすると、布団をめくって自分の脚の間をポンポンと叩いた。
「私の可愛い人、こっちにおいで」
微笑む夫に誘われるようにベッドに上がり、脚の隙間に入る。
背を預けるようにレナード様の胸に凭れ掛かると、緩く腰を抱かれた。
そのままもう片方の手で、髪を取られてキスが落ちてくる。
「何を読んでいらしたのですか?」
「君が最近読んだと言っていた小説だよ」
私とレナード様の膝の上に置かれた本を覗くと、確かに先週読み終わった小説だった。
「お仕事が忙しいのに、読んでくださったのですか?」
「君の好きなものは知りたいからね。それに、いい息抜きなんだよ」
「無理はなさらないでくださいね」
「それは私のセリフだよ、奥さん」
レナード様は本を閉じて、私の顔を覗き込んだ。
「今日は顔色がいいね」
髪から頬へと触れて、レナード様の手に包まれる。
そして顔が近づいてきて、頬擦りされる。
ホッと息を吐く夫を見て、胸がキュッとなる。
「最近は体調がいいんですよ」
「ああ、そのようだね。ただし無理は禁物だよ」
心配そうに揺れている瞳に見つめられて、私は曖昧に笑った。
結婚して4年、私は2年前に一度命を落としかけた。
寝たきりの日々が続き、女主人としてやらなくてはいけないことは、全部レナード様はサポートしてくれた。
それでもここ半年ほどは、庭で散歩もできているし、調子も戻ってきている。
この2年のことを思っていると、ふにっと頬を摘まれた。
「ふぇ…」
「いけない人だ。私が目の前にいるのに考え事なんて」
「あ、そういうわけじゃ」
「ソフィアが今私の腕の中にいてくれることが、何よりの喜びなんだよ?」
私の考えていることなんて、真心のある夫には全てお見通しなのだ。
ああ、私は本当に幸せ者ね。
この瞳が私を見つめていてくれる限り、私は大丈夫だ。
4年前も、そして2年前も、この人と生きていくと決めたのだから。
「私もレナード様と生きている今が、何よりも大切です」
私はレナード様の手に自分の手を重ねて、自然と笑みが零れていた。
「それならよかった。2人きりの時くらいは私のことだけ見ていてほしいからね。でないと妬けてしまうよ」
「まあ、レナード様ったら」
潤む瞳が近づいてきて、そっと唇が重なった。
何度もしていると息が上がって、思わず大きく空気を吸ったら、レナード様はパッと顔を離した。
「はは、私としたことが。夢中になってソフィアを困らせてしまったね」
「私、今日は元気ですよ」
「ふふふ、奥さんからの熱烈なお誘いは嬉しいものだね」
そう言って微笑むと、最後にもう一度だけ触れるだけのキスをされた。
「紳士は我慢ができるというものだよ」
パチンとウインクされて、思わず笑ってしまった時。
ばんばん!
寝室の扉が叩かれて、外からは大きな泣き声が聞こえた。
「あら」
私が体を起こすと優しく制されて、代わりにレナード様がベッドから降りていく。
扉が開かれると、泣きじゃくる2歳の天使が立っていた。
「うわああん」
「どうしたんだい、私たちの天使は」
愛おしそうに目を細めたレナード様は、ウィルを抱き抱えて頭を撫でた。
「か、かあたま」
ウィルは私を見つけるなり、レナード様の腕をすり抜けて私の胸に顔を埋めた。
「あらあら、どうしたの?」
「まったく、本当に私ソックリだな。すぐにソフィアを独り占めしようとする」
レナード様はくすくす笑うと、私ごとウィルをギュッと抱き締めた。
「…かあたま、いっしょ」
「はい、一緒にいますよ」
「なんだ、父様は入れてくれないのかいウィル」
「…とうたま、いっしょ?」
「なんで不服そうなのかな、我が天使はっ」
「きゃははっ、とうたま、いっしょーっ!」
「そうだろう、家族は3人一緒だよ」
「さ、今日は3人で寝ようか」
レナード様はウィルを真ん中にすると、横になった。
「いっしょ、ねる」
「そうだよ。さあ、もう寝る時間だ。おやすみ」
「おやすみなさい、ウィル」
「おやしゅみたない」
「…やっぱり、この子に弟か妹を作ってあげたいですね」
私はウィルの寝顔を見ながら、ぽそりと呟いた。
「ソフィア」
少し硬い声で呼ばれて、レナード様の方を向いた。
「君があの時、死ぬことなく頑張ってくれたから、私はウィルに会うことが出来たんだ。でも、また君を失いかけることはしたくない」
「レナード様…」
「私の命より大事なのは、ソフィアとウィルだよ」
その瞳に見つめられるから、私には勇気が湧いてくる。
「私もです。だから、もっと元気になります」
「ふふ、それがいい。君もゆっくりおやすみ」
ウィル越しにおでこにキスをされ、レナード様は寝顔のウィルにもキスを落とした。
「愛しているよ、ソフィア。ずっとそばにいてくれ」
大好きな旦那様の囁きと可愛い天使のぬくもりを感じながら、眠りにつくのだった。
了
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