最終章:『再鳴(さいめい)――新しき神話の産声』
鬼ノ城の山頂に、凄まじい「白銀の雷鳴」が轟きました。 神主が引き抜いたのは、吉備津彦がかつて温羅を討った際、その刃にこびりついた「恐怖」と「使命感」だけを凝縮して鍛え直された呪剣――『真・鬼切丸』。
「古き神話に従え。異形は滅び、正義は保たれねばならん。それが、この地を統べる唯一の道理だ!」
神主が剣を振り下ろすと、空間そのものを切り裂くような衝撃波が湊たちを襲います。
「……いいえ。そんな道理、ここで終わりだ」
湊は一歩も退きませんでした。彼の黄金の瞳は、もはや神主を「敵」として見てはいません。剣を振るう神主の背後に、数千年にわたり「鬼を殺さねばならない」という重圧に呪われ続けてきた、歴代の守護者たちの悲痛な顔を視ていたからです。
「凪、力を貸してくれ!」 「……うん!」
凪が湊の背中を支え、自らの光の翼を湊の右腕に纏わせました。 湊が握る「鉄の断片」に、凪の「光の鬼の生命力」が流れ込みます。
父・吉備津彦の瞳(湊)と、母・温羅の命(凪)。 数千年の時を経て、引き裂かれた愛が、二人の少年の手の中でついに一つに融合しました。
錆びていた鉄の断片は、眩いばかりの**『黄金と蒼の双極剣』**へと姿を変えました。
「これで……すべてを還す!」
湊は神主の放つ白銀の雷を真っ向から切り裂き、神主の胸元へ肉薄しました。 神主は驚愕し、死を覚悟して目を閉じました。
しかし、痛みは訪れませんでした。
湊の放った一撃は、肉体を傷つけるためのものではありませんでした。黄金の光は神主を通り抜け、彼が背負っていた「英雄の呪縛」と、地面から湧き上がっていた「数千年の怨念」だけを、優しく、そして力強く霧散させていったのです。
ドォォォォォン……!
鬼ノ城全体を包み込んでいた禍々しい霧が晴れ、透き通った月光が山頂を照らし出しました。 神主の手から呪剣がこぼれ落ち、粉々に砕け散ります。
「……何をした……。なぜ、私を討たなかった……」
崩れ落ちた神主に、湊は剣を収め、静かに手を差し伸べました。
「もう、誰も殺さなくていい。俺たちが欲しかったのは、勝利じゃなくて、ただ『一緒に生きる』ことなんだ」
その瞬間、山全体に漂っていた重苦しい気配が消え、どこからか潮騒のような穏やかな音が聞こえてきました。 吉備の地に眠っていた無数の魂たちが、湊の放った「慈悲」によって、ようやく長い眠りについたのです。




