第13話:『三獣の牙、兄弟の絆』
夕闇に包まれた鬼ノ城の麓、静寂を切り裂いたのは「犬」の面を被った暗殺者の咆哮でした。
「討ち取れ、温羅の残滓を!」
その叫びを合図に、三匹の影が弾丸のような速さで動き出しました。
まず動いたのは、野獣のような瞬発力を持つ**「犬」**でした。 彼は両手に装着した鉄の爪を路面に叩きつけ、四足歩行に近い姿勢で地を這い、凪の足元を狙います。
「ガアアッ!」 凪は漆黒の影を纏った腕でそれを受け止めますが、そこへ上空から**「雉」**が急降下してきました。彼女の腕に仕込まれた薄く鋭い羽根状の刃が、凪の視界を奪うように舞い踊ります。
「凪、上だ! 十二時方向!」 湊の黄金の瞳が、高速で移動する雉の軌跡を「光の線」として捉えました。 凪はその指示に従い、見ることなく上空へ向けて鋭い爪を振るい、雉を弾き飛ばします。
しかし、最も狡猾なのは**「猿」**でした。 彼は木々を自在に飛び回り、変幻自在の長棍を操ります。凪が犬と雉を捌いている死角から、猿の棍が湊を狙って突き出されました。
「……君が司令塔なら、先に潰させてもらうよ」
「させない!」 湊は「鉄の断片」を盾にしました。凄まじい衝撃が腕を伝わります。視力を失っていた頃には考えられない反応速度。黄金の瞳が、猿の筋肉の収縮から次の「打撃点」を予見していました。
「凪、俺のことは気にするな! 鍵を……あの城門へ繋げ!」
湊は真鍮の鍵を凪に向かって投げました。 凪が跳躍し、空中で鍵を口にくわえます。その瞬間、凪の背中の影がさらに巨大化し、まるで数千年前の鬼神が降臨したかのような威圧感を放ちました。
「逃がすかよ!」 犬が凪の背後に食らいつき、その鋭い牙(短刀)を首元へ突き立てようとします。
「そこだッ!」 湊が指を鳴らしました。 すると、先ほどの戦闘で路面に撒き散らされていた「凪の血」が、湊の意志に呼応して意思を持つ**『深海の鎖』**へと変質。犬の足を絡め取り、地面へと引きずり込みました。
「な……血を媒介に術を!? 貴様、いつの間に……!」
「迷い家で教わったんだ。力は壊すためじゃなく、繋ぎ、鎮めるためにあるって!」
湊の黄金の瞳が、青白く、そして黄金に激しく燃え上がります。 凪はその隙を見逃さず、猿と雉の追撃を振り払いながら、断崖絶壁を垂直に駆け上がっていきました。
「……止めてみろ。これが、俺たちの生きる道だ!」
湊は、猿の長棍を「鉄の断片」で受け流し、そのまま懐に飛び込みました。 切っ先が猿の面の中心――第三の眼のあたりでピタリと止まります。
「殺しはしない。……あんたたちの『正義』も、俺の瞳には視えているから」
湊の放つ圧倒的な「慈悲の波動」に、猿の動きが凍りつきました。 その時、山頂の鬼ノ城の門に、凪が辿り着きました。
口にくわえた真鍮の鍵が、漆黒の城門に触れた瞬間、山全体が歓喜に震えるような地鳴りを上げました。数千年の時を封じ込めた「竜宮の蓋」が、今、静かに、しかし力強く開き始めます。




