第25話:冒険者たちの危機
四人は、森の奥深くにある洞窟に身を潜めた。
「ここなら、しばらくは見つからないわね」
セリアが入口を確認する。
ガルムが見張りに立つ。
エリシアは洞窟の壁に寄りかかり、静かに目を閉じている。
律は肩の傷を確認した。
浅い。だが、血が止まらない。
「じっとして」
セリアが回復魔法をかける。
緑色の光が傷を包む。
痛みが引いていく。
「……ありがとうございます」
「礼はいいわよ」
セリアは呆れた顔をした。
「あんた、また勝手なことして」
「すみません」
「謝らなくていい。でも」
セリアは律の目を見た。
「また、自分を犠牲にした」
「……」
「昨日、約束したでしょ」
律は黙った。
確かに、約束した。
自分を囮にしないと。
だが――
「でも、エリシアを守らないと」
「わかってるわよ」
セリアはため息をついた。
「ただ、もう少しやり方を考えなさい」
エリシアが目を開けた。
「……あなたは、なぜ私を守ったんですか?」
律は振り返った。
「あなたが必要だからです」
「必要?」
「世界を救うには、魔族の協力が必要です」
律は真剣な顔で言った。
「だから、あなたを失うわけにはいかない」
エリシアは黙って律を見た。
「……計算が、合いません」
「何がですか?」
「あなたの行動原理」
エリシアは首を傾げた。
「自己保存より、他者保護を優先する。合理的ではありません」
「合理的じゃないかもしれません」
律は外を見た。
「でも、それが人間です」
エリシアは考え込んだ。
「……興味深い」
その時。
遠くから、叫び声が聞こえた。
「何!?」
ガルムが洞窟の入口に駆け寄る。
「森の向こうだ。人の声だ」
「行きましょう」
四人は洞窟を出た。
叫び声のした方向へ走る。
木々の間を抜けると、開けた場所に出た。
そこには――
冒険者たちが、モンスターに囲まれていた。
五人の冒険者。
全員、若い。装備は粗末。
そして、彼らを囲むのは、十体以上のゴブリン。
「助けて!」
一人が叫ぶ。
だが、ゴブリンが襲いかかる。
「くそっ!」
冒険者の一人が剣を振るうが、数が多すぎる。
「このままだと――」
セリアが呟いた。
「全滅するわ」
律は状況を分析した。
『敵:Goblin × 12』
『味方:冒険者 × 5(負傷者2名)』
『脅威レベル:高』
冒険者たちは、疲弊している。
装備も不十分。
訓練も足りていない。
「……新人か」
ガルムが呟いた。
「ギルドの登録試験も受けてないレベルだ」
「なんで、こんなところに」
「わからない。だが――」
ガルムは剣を抜いた。
「助けないと死ぬ」
律は頷いた。
「行きましょう」
四人が飛び出した。
ガルムが先頭。
盾でゴブリンを押し返す。
セリアが風魔法で、ゴブリンを吹き飛ばす。
エリシアが、闇魔法でゴブリンの動きを止める。
律は冒険者たちのもとへ駆け寄った。
「大丈夫ですか!」
「あ、あんたは――」
若い男が律を見た。
「相川律……!」
「俺を知ってるんですか?」
「ギルドで、噂を聞いた。ステータスが測定できない男だって」
男は苦笑いした。
「まさか、助けられるとは」
律は男の傷を確認した。
深い。腕から血が流れている。
「セリア!」
「わかってる!」
セリアが治療魔法をかける。
だが、傷は深く、完全には治らない。
「……応急処置しかできないわ」
「街に戻らないと」
ガルムが戻ってきた。
「ゴブリンは倒した」
「負傷者は?」
「二人、重症。三人、軽症」
律は冒険者たちを見た。
みんな、若い。
二十歳前後。
なぜ、こんな危険な場所に?
「……どうして、ここに来たんですか?」
律が聞いた。
男が答えた。
「依頼を、受けた」
「依頼?」
「ゴブリン退治。報酬は銀貨五枚」
律は眉をひそめた。
「五枚? 安すぎます」
「わかってる。でも――」
男は歯を食いしばった。
「金がないんだ。家族を養わないといけない」
男は続けた。
「俺たちは、ギルドに登録できなかった。ステータスが低すぎて」
「……」
「だから、非公式の依頼を受けた」
非公式の依頼。
つまり、ギルドを通さない、違法な依頼。
報酬は安く、危険は高い。
「誰から、依頼を?」
「村の商人だ。名前は……忘れた」
男は苦しそうに息をした。
「騙されたのかもしれない。ゴブリンが、こんなに多いとは聞いてなかった」
律は拳を握った。
また、制度の犠牲者だ。
ギルドに登録できない冒険者。
違法な依頼。
騙す悪徳商人。
すべてが、繋がっている。
「……もう、こんなことはさせない」
律は男を見た。
「あなたたちを、街まで送ります」
「でも、あんたは――」
「いいから」
律は立ち上がった。
「制度が壊れてるなら、直す。それが俺の仕事だ」
セリアが笑った。
「また、そんなこと言って」
「でも、本気です」
ガルムが頷いた。
「俺も手伝う」
「私もよ」
エリシアが静かに言った。
「……計算できません。この行動の合理性が」
「合理的じゃなくていいんです」
律はエリシアを見た。
「人を救う。それだけです」
エリシアは黙って律を見た。
そして、小さく頷いた。
「……理解できませんが、協力します」
五人の冒険者を支えながら、四人は森を抜けた。
街道に出る。
だが、そこには――
何もなかった。
王国の騎士は、いない。
「……おかしいわね」
セリアが周囲を警戒する。
「さっきまで、追ってきてたのに」
「別の場所を探してるのかもしれない」
とにかく、今は冒険者たちを街へ。
一行は街へ向かって歩き出した。
歩きながら、律は考えた。
冒険者制度の問題。
情報共有だけでは、足りない。
登録できない冒険者。
違法な依頼。
搾取する商人。
すべてに、対策が必要だ。
視界の端に、文字が浮かぶ。
『同期開始まで:残り 21日』
21日。
時間がない。
でも、やるしかない。
「……次は、登録制度を変える」
律は呟いた。
「ステータスが低くても、冒険者になれる仕組みを作る」
セリアが聞いた。
「どうやって?」
「まだ、わかりません。でも」
律は前を向いた。
「必ず、方法はある」




