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第20話:世界は少しずつ壊れている

資料庫から戻った律は、部屋で報告書の内容を整理していた。

机の上に、メモを広げる。

 

【わかったこと】

・世界は周期的に崩壊している

・過去五回、文明が滅んでいる

・次の崩壊まで推定三十年

・王国はこれを知っていて隠蔽している

 

「……なんで、隠すんだろう」

 

セリアが覗き込んできた。

 

「パニックを避けるためでしょ」

「パニック?」

「世界が崩壊するって知ったら、みんな絶望する」

 

セリアは窓の外を見た。

 

「秩序が崩れる。暴動が起きる。統治できなくなる」

「……だから、隠す」

「そういうこと」

 

ガルムが言った。

 

「だが、隠して解決するのか?」

「しないわね」

「なら、なぜ――」

「時間稼ぎよ」

 

セリアは腕を組んだ。

 

「王国は、解決策を探してるんじゃない? 三十年の間に」

 

律は頷いた。

 

「多分、そうです」

「見つかったの?」

「……わかりません。資料は破られてました」

 

その時。

 

窓の外から、悲鳴が聞こえた。

 

「何!?」

 

三人は窓に駆け寄った。

 

中庭で、何かが起きていた。

 

騎士たちが集まっている。

中央に、倒れている人がいる。

 

「行きましょう」

 

三人は部屋を出て、中庭へ向かった。

 

騎士たちが道を開けた。

 

倒れていたのは、若い女性。

宮廷の侍女らしい。

 

だが、様子がおかしい。

 

全身が痙攣している。

口から泡を吹いている。

目が、焦点を失っている。

 

「これは……」

 

律の視界に、情報が表示された。

 

『状態:魔力中毒』

『原因:魔力流動異常による過剰暴露』

『重症度:高』

 

魔力中毒。

 

「医者を!」

誰かが叫んだ。

 

だが、律は理解していた。

 

これは、世界の異常だ。

 

魔力の流れが乱れている。

その影響で、人が中毒症状を起こしている。

 

やがて、医者が駆けつけた。

 

白衣の老人。魔法医らしい。

 

彼は侍女を診察し、顔を曇らせた。

 

「……魔力中毒です」

「治療できるか?」

「時間がかかります。重症です」

 

侍女は担架で運ばれていった。

 

律は空気を観察した。

 

視界に、魔力の流れが見える。

 

いつもより、濃い。

そして、乱れている。

 

「……魔力濃度が上がってる」

「え?」

「空気中の魔力が、増えてます」

 

セリアが周囲を見た。

 

「言われてみれば……息苦しい気がする」

「魔力が濃すぎると、人体に影響が出ます」

 

律は視界のログを見た。

 

『環境魔力濃度:通常の150%』

『警告:人体への影響あり』

 

通常の1.5倍。

 

これは、異常だ。

 

「……世界が、壊れ始めてる」

 

その夜、王城で緊急会議が開かれた。

 

律たちも呼ばれた。

 

大会議室には、王と貴族たち。

そして、数人の学者らしき人物。

 

「報告しろ」

王が命じた。

 

一人の学者が立ち上がった。

 

「魔力濃度が上昇しています。王都全域で、通常の1.4倍から1.6倍」

「原因は?」

「……不明です」

 

学者は困惑した顔をしている。

 

「ただ、過去の記録と照合したところ――」

 

学者は資料を見た。

 

「これと同じ現象が、三十年前にも起きています」

 

周囲がざわついた。

 

「三十年前?」

「はい。その時も、魔力濃度が上昇し、多数の中毒者が出ました」

「で、どうなった?」

「……記録は、そこで途切れています」

 

沈黙。

 

王が言った。

 

「つまり、わからんということか」

「申し訳ございません」

 

王は深く息を吐いた。

 

「対策は?」

「魔力を遮断する結界を張るしかありません」

「それで、どれくらい持つ?」

「……数日、でしょうか」

 

王は黙った。

 

一人の貴族が言った。

 

「陛下、民には?」

「何も言うな」

「ですが――」

「パニックを避ける。それが優先だ」

 

また、隠蔽だ。

 

律は拳を握った。

 

会議が終わり、三人は部屋に戻った。

 

「……ひどいわね」

セリアが呟いた。

 

「民に何も知らせないなんて」

「王国のやり方だ」

ガルムが言った。

 

「秩序を守るためなら、何でもする」

 

律は窓の外を見た。

 

王都の街。

明かりが灯っている。

 

人々は、何も知らない。

 

自分たちが、危険の中にいることを。

 

「……このままじゃ、ダメだ」

 

律は呟いた。

 

「何か、しないと」

「でも、何を?」

 

律は考えた。

 

魔力濃度の上昇。

原因は、システムの負荷。

 

なら、負荷を減らせば――

 

「古代装置を、調整できるかもしれません」

「調整?」

「システムの負荷を減らす。魔力の流れを安定させる」

 

セリアが首を傾げた。

 

「そんなこと、できるの?」

「わかりません。でも、試す価値はあります」

 

ガルムが言った。

 

「どうやって?」

「もう一度、ダンジョンに行きます」

 

律は二人を見た。

 

「古代装置に、直接アクセスする」

 

セリアが立ち上がった。

 

「じゃあ、行きましょう」

「でも、王城を出られるか……」

「抜け出せばいいのよ」

 

セリアは笑った。

 

「私たち、監視されてるけど、牢屋じゃない。出ようと思えば出られるわ」

 

ガルムも頷いた。

 

「俺も同意だ」

 

律は二人を見た。

 

「……ありがとうございます」

「礼はいいわよ」

 

その夜、三人は王城を抜け出した。

 

警備は厳重だったが、セリアの風魔法で音を消し、ガルムが道を切り開き、律が警備の隙を読んで突破した。

 

王都の門も、夜警の交代時を狙って通過。

 

街道を南へ。

 

月明かりだけを頼りに、走った。

 

「……追手は?」

「まだ、気づいてないと思う」

 

三人は森の中へ入った。

 

ダンジョンへ。

再び。

 

歩きながら、律は視界のログを見た。

 

『同期開始まで:残り 22日』

 

22日。

 

時間は減っている。

 

そして、世界は壊れ続けている。

 

『環境魔力濃度:通常の155%』

『システム負荷:88%』

 

負荷が、また上がった。


律は呟いた。

 

「もう、猶予がない」

 

セリアが振り返った。

 

「何?」

「世界が、壊れるのが早まってます」

「どのくらい?」

「……わかりません。でも、三十年よりずっと早い」

 

ガルムが言った。

 

「なら、急ぐしかないな」

「ええ」

 

三人は走った。

 

ダンジョンの入口が見えてきた。

 

古代装置が、待っている。

世界の真実が、待っている。

 

そして――

 

解決策が、あるかもしれない。

 

「行きましょう」

 

三人は、ダンジョンへ飛び込んだ。

 

暗闇の中を、進む。

 

世界を救うために。

 

自分を救うために。

 

視界の端に、文字が浮かぶ。

 

『警告:システム臨界接近』

『推定残存時間:不明』

 

不明。

 

つまり、いつ壊れてもおかしくない。

 

「この世界、少しずつじゃなく、急速に壊れてる」

 


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